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荒唐無稽な夢物語。
リタが言っていた言葉の意味がわかった。
安易に「信じる」と言った自分の頬をつねってやりたいが、同時に、俺は心の底から納得していた。
なぜ、家庭教師についた事がないのに、王子妃として完璧な所作を身につけているのか。
なぜ、ドレスを仕立てた事がないと言いながら、次の流行を押さえたドレスを指示できたのか。
なぜ、俺専属の仕立て屋が双子であると知っていたのか。
なぜ、ダンス教師に匙を投げられる悪癖を持つ俺と、息を合わせて踊る事ができるのか。
なぜ、アカデミーに通った事がないのに、同年代よりも深く広い見識を持っているのか。
なぜ、社交界に出た事がないのに、各家門の所属する派閥を把握しているのか。
なぜ、初めて呼ぶ筈の俺の名を、躊躇せずに口にしてみせたのか。
なぜ、ただ一度名簿を見ただけで、茶会やパーティの出席者全員の顔と名前が一致したのか。
なぜ、パーティの迎えに俺が行けない事を、当然と受け止めていたのか。
なぜ、俺の婚約者である事を受け入れる一方で、俺自身の事を何も問わないのか。
なぜ、フィオナ・レヴィン男爵令嬢と俺が懇意だと思っていたのか。
なぜ、優しく殺して欲しいと願ったのか。
「信じていただく必要はございません」
俺の沈黙に、リタはそう言った。
最近、見せてくれるようになった自然な笑みではなく、なんの感情も見せない微笑みで。
『どうせ、死ぬのだから』。
そんな幻聴が聞こえて、慌てて言葉を返す。
「違う! 君の言葉を疑ったわけではない。その逆だ」
「逆?」
「君は……すべてを知っていたのだな、と深く納得しただけだ」
斬首。転落死。毒殺。
リタが、「優しく殺してください」と初めて願った日に口にした最期。
それらは本当に、リタの経験した人生の終わりだったというのか。
そして、それはすべて、俺との婚約に絡んで起きた出来事だというのか……
「すまない、リタ」
「……今のルシアン様に責任はございません」
「そうじゃない。君の願いを叶えられそうにない」
「わたくしの、願い……」
灰銀の瞳が、絶望に染まった気がした。
『せめて、優しく殺してください』
そんな願いは、決して、叶えられない。
「俺は、君を殺す気も死なせる気もない。老衰以外の死は認めない」
リタが、息を飲む。
「ですが、」
「今の俺の責任ではないと言ってくれるならば、俺の所業を許してくれるならば、一度でいいから、俺に君と未来を歩むチャンスをくれないか」
きっと俺は、リタに対して酷い事を言っている。
けれど、今、この手を離したら、彼女は永遠に俺の元を去ってしまうだろう。
「ですが……!」
リタが、声を荒らげる。
「おわかりでしょう? 過去の三回の人生で、レヴィン男爵令嬢は強大な光属性の魔力を持っていたのに、今回の人生で魔力量が伸び悩んでいるのは、わたくしがアカデミーに入学しなかった事と無関係とは思えません。救済院を訪問する短い間、ともに過ごしただけの方でも、魔力量が増えたのですもの。アカデミーの同じ教室で学んでいた彼女に、より大きな影響を与えたと考えるのは自然な事です」
「そうだろうな」
レヴィン男爵令嬢の魔力量が少ないと聞いて、「どうして」と呟き、己とともに行動した光属性の者の魔力量が増えたと聞いて、「だから」と呟いていたリタ。
彼女自身が、光属性に影響を与える確信を得たのだろう。
だが、俺が冷静に返事をした事に、戸惑ったようだ。
「で、ですから、わたくしがともにいれば、光属性の人々の魔力量は上がるのです」
「あぁ。それで?」
「ですから……わたくしが、レヴィン男爵令嬢とともにいれば、彼女は治癒魔法師になれるだけの魔力量を得られる筈で……」
「なるほどな。それで?」
「……ルシアン様は、レヴィン男爵令嬢をお見初めになったのではないのですか……?」
過去の三回と、今回の俺は違う、と口では言うけれど、リタは過去の俺の行動に引っ張られている。
それは当然の事だ。
同じ顔で、同じ声で、同じように彼女に冷たかったのだろうから。
「今の俺と、君が知る過去の三回の『俺』は、同一人物だが別人だ。だが、別人だが同一人物だ」
「? あの……はい……」
「人間の価値観というものは、余程の出来事がない限り、大きく変化しない。だから、今の俺の価値観で、君の知る過去の『俺』の行動を分析するとな。『俺』はより、『王子妃に相応しくない』相手を婚約者に選び直したのだと思う」
人間というものは、そう簡単に根っこの部分が変わるものではない。
それは例え、魔力量が増えても同じ事だ。
魔力量の増大分、優れた人物になれるわけではない。
「俺は、フィオナ・レヴィン男爵令嬢を入学の頃から知っている。光属性は希少だからな。注意を払って、時折、声を掛けていたのは事実だ。そして、その結果の俺の印象は、よくも悪くも普通の貴族令嬢、だ」
「つまり……?」
「つまり、努力はせずに楽してより大きな利益が欲しい、という思考の持ち主という事だ。彼女は、自分が光属性である事を誇っていた。だが、その能力を磨く努力はしていなかった。魔力量がそれほどなくとも、鍛錬に励めばより効率的な使い方ができるものだ。しかし、口先では俺に『もっとお役に立てればいいんですけど』と言いながらも、彼女が熱心に鍛錬に取り組んでいるという話は聞いた事がない。そんな人物が、魔力量が増えただけで、心を入れ替えて真面目に治癒魔法に取り組むだろうか」
リタが、唇に指先を当て、何かを思い出すように視線をさまよわせる。
「……わたくしの知る過去のレヴィン男爵令嬢は、膨大な魔力のお陰で、特段の努力を必要とされてはいないようでしたが……」
「卒業パーティでの彼女の振る舞いを見ただろう。周囲を気遣う事なく、己の欲望だけに忠実だった。そんな令嬢が、王族の婚約者になったからと、王子妃教育をこなせると思うか?」
今回のリタは、王子妃教育を受けていない。
だが、過去の経験から、王子妃教育がどのようなものか知っているだろう。
「……わたくしの口からは、なんとも……」
「断言するが、淑女教育すらまともに身についていない者が、一年や二年で習得できる内容じゃない。レヴィン男爵令嬢が治癒魔法師に匹敵する魔力量を持っていたのであれば、ただその一点で、君の代替として選ばれたんだ。より『王子妃に相応しくない』婚約者として」
『レヴィン男爵令嬢を選ぶために、リタを捨てた』のではない。
より、『状況に適した王子妃に相応しくない婚約者を選んだ』のだ。
――だからといって、過去の己の所業が許されるわけではない。
「今の俺が言っても、すべては言い訳になるが、俺は決して、レヴィン男爵令嬢を見初めて妃に望んだのではない筈だ。彼女は、俺がもっとも苦手とするタイプの令嬢だからな」
「そうなのですか……⁉」
派手やかに着飾り、自己主張するように強い香りを纏い、意中の男性にあからさまな色目を使う令嬢は、一部の男には可愛らしく見えるらしいが、俺には好ましく思えなかった。
魔力量が多ければ婚約者候補に挙がっただろう、と思った事があるのは事実だ。
だが、それは俺にとって都合がいい条件を備えている、という意味であって、彼女自身を好ましいと思った事は一度もない。
過去のリタは、「流行の華やかなドレスをまとい」「人気の香水をつけ」「異性に好まれる話し方」をしていた、と話していた。
それが、俺の婚約者に相応しいと思って。
だが、それは俺のもっとも苦手とする令嬢の姿だ。
リタもレヴィン男爵令嬢も、どちらも同じように苦手だったならば、より合理的に「相応しくない」相手を選んだと思うのは不思議ではない。
何よりも今の話で気になるのが、不審な点がいくつも見つかる事だ。
リタの一回目の人生で、レヴィン男爵令嬢は毒を盛られて倒れ、その犯人とされたリタが処刑されたという。
しかし、過去のレヴィン男爵令嬢は高い治癒魔法の使用者だった筈。
治癒魔法師として評価されていた人物が、毒で倒れる……? ありえない。
水属性の固有魔法である幻影魔法を、俺がソアラン訪問時、常時使用していたように、属性の固有魔法は、自分自身に掛けるのであれば、長時間維持可能だ。
治癒魔法を得意としているレヴィン男爵令嬢が、自身に状態異常を無効化する魔法を掛けていなかったとは思えない。
ましてや、彼女は王族の婚約者になっていたのだから、身の安全を図るためにも、周囲から魔法の使用を勧められていたはずだ。
それなのに毒に倒れたという事は、つまり、レヴィン男爵令嬢は、毒殺を目論んだ首謀者側の人間という事だ。
最初から毒が入っているとわかっていれば、その通りに演技する事は容易い。
そのような事をしたのは……
(リタを、完全に排除するためか)
様々な思惑の下、リタからレヴィン男爵令嬢に乗り換えたのであろう一回目の『俺』。
けれど、きっと、レヴィン男爵令嬢は満足しなかったのだ。
それはおそらく、『俺』が彼女もまた、見ていなかったから。
(……それに、気づいていたか? 『俺』……)
婚約破棄後、リタがどう扱われるかすら考えていなかった俺に、そこまで考えが回ったとは思えない。
(そのうえ、斬首だと……?)
斬首は、「平民が貴族相手に重大犯罪を行った時」に執行される極刑だ。
つまり、フレマイア侯爵家は、リタを籍から外していたという事。
おそらくは、俺と彼女の婚約が破棄され、フレマイア家にとってリタの利用価値がなくなったからだ。
貴族が貴族相手に行った犯罪は、王宮の法務が証拠を精査して判決を下すが、平民が貴族相手に行った犯罪は、貴族の言い分だけを聞く可能性が高い。
ましてや、『被害者』が王族の婚約者ならば、証拠の確認どころか申し開きすらさせてもらえなかっただろう。
二回目、野盗に襲われた原因は、フレマイア侯爵にあると見て間違いない。
わざとらしく豪華な馬車を用意し、最低限の護衛すらつけていないのは、リタが「どうなってもいい」、むしろ、「何か起きて欲しい」という意図しか感じられない。
御者も共謀者だったのではないか、というのも穿った見方ではない筈だ。
一番気になるのが、三回目だ。
フレマイア侯爵が婚姻に同意したのは、最初からレヴィン男爵令嬢を側妃とする事が決定していて、リタがお飾りとして冷遇されるとわかっていたからか。
一見して、レヴィン男爵令嬢は、自ら側妃の座を望み、正妃はリタに勧めるなど、殊勝なようにも見える。
だが、実務はリタに押しつけ、目立つ場所には自分が立つというのは、面倒で地味な作業はせず、美味しいところだけを奪っていく典型的な俗物思考だろう。
そのうえで、腹の子を狙ったと責を問うたのか。
……本当に、その腹の子は『俺』の子だったのだろうか?
そもそも、俺は自分の子を持つ気がなかった。
リーストーム公爵家の血を引く子供が生まれたら、祖父と母が何を仕出かすかわからないからだ。
リタの話によれば、彼女は正妃の座にいたという。
妃、という事は、『俺』は臣籍降下していなかったという事だ。
兄上に後継者となる男児が生まれたら臣籍降下しようと考えているから、その時点で、兄上夫婦の間に、少なくとも男児は生まれていない。
だとしたら、兄上に後継者がいない状況で、先に子を持つような事をするとは思えない。
間違いなく、後継者争いが再燃する。
そんな事も知らないレヴィン男爵令嬢が不義の子を妊娠し、追及から逃れるために、茶番を仕組んだのでは……?
もちろん、すべては想像に過ぎない。
自分にとって都合のいい妄想かもしれない。
与えられた材料は、リタの言葉のみ。
だが、俺は彼女を疑わない。疑えない。
これまでの疑問がすべて、リタが繰り返し同じ時間を過ごしたと聞いた事で、氷塊したのだから。
十歳のある日から亡くなるまでの十年ほどの人生を四回も生きて来たという荒唐無稽な話は、リタの謎を誰よりも知りたかった俺にとって、信憑性があった。
時間の巻き戻しなのか、生まれ変わりなのか、それとも長くやけに現実的な夢なのか、理由はわからない。
けれど、こんな凄絶な経験をしてきたというのに、リタがすれていないのは確かだった。
心が摩耗し、すべてを諦めているのに、リタは決して、周囲の人間を傷つけない。
他人を傷つけるよりも、自分が傷つく事を選ぶ彼女は、俺がこれまでに見た誰よりも優しい。
「リタ」
「はい」
「好きだ」
ぽろり、と言葉が零れ落ちた。
過去の『俺』が、いかにリタに対して辛く当たってきたのかを聞いたばかりだというのに。
優しい彼女に、どうしても伝えたかった。
誰にも愛されなかった、と言うけれど、今の俺は、こんなにも君を求めてる。
「さっきの言葉は、嘘じゃない。君は、今回の人生で俺に好かれるための努力をしてこなかった、と話していたけれど……してくれたじゃないか」
「え?」
「四回目も、俺に出会ってくれた。想いに気づかせてくれた。君に償う機会をくれた。何も知らない俺を、本当なら君は詰り、罵っていいんだ。その権利がある。なのに、君は、過去の『俺』は今の俺じゃないから、責任はない、と言ってくれた」
「それは……本当に、今のルシアン様のなさった事ではありませんから……」
「頭で理解する事と、感情で納得する事は違う」
戸惑った顔をしているリタは、いつもよりも幼く見える。
想定外の展開だったのか、まだ気持ちが追いついていないようだ。
リタは婚約するまで、貴族令嬢としての教育をまったく受けていない。
この優しさは、それゆえなのだろうか。
「人に好かれようと取った行動を、好きになるわけじゃない。俺だって、気づいたら君の事が目に留まって、気になって、笑って欲しくて、傍にいたくなったんだ。好きになるのに、理由なんてないだろう」
リタが、ハッとしたように口を閉じる。
「……リタ。俺が、憎い? それとも、怖い?」
もしも、リタが、俺が傍にいるのもイヤだ、と言ったなら。
……俺は、どうすればいいのか。
彼女の幸せを、遠く離れた場所から望む?
(……俺の事を、嫌っているのならば、無理は言えない……)
誰かを愛おしいと思う気持ちを知った今、彼女の姿が見えない事に、耐えられそうにない。
けれど、憎いか、怖いかは問えても、嫌いかどうかは、尋ねられなかった。
その返事を聞く勇気がなくて。
「…………いいえ」
しばらく沈黙した後、リタは小さな声でそう答えた。
「だが、過去の三回、君を不幸な目に遭わせたのは、俺なんだろう?」
「いいえ、それは違います。確かに、ルシアン様の婚約者に選ばれた事がきっかけでした。他に選択肢がない事を、恐ろしいと感じた事もあります。ですが、ルシアン様との婚約が、わたくしをここまで生かし続けたのもまた、事実なのです。ルシアン様との婚約がなければ、わたくしはダナイドに放置され、既に亡くなっていたでしょう。過去の死はいずれも苦しいものでしたが、衰弱死もまた、苦しかったと思います。それに……わたくしを直接害した方は、ルシアン様ではありません。わたくしの最期に、過去のルシアン様が関心を持っておられたとは思えません。今のルシアン様とは、違います」
……どれほど、『俺』はリタに興味がなかったというのだろう。
だが、リタが過去の『俺』と今の俺は違うと言ってくれるのならば。
「なら……俺は、これからも、君を想っていていいか?」
リタが、躊躇うように口を開いては閉じる。
その白い頬が、うっすらと赤く染まっていた。
彼女は、誰かに好意を告げられる事に慣れていない。
「現実的な話をすれば、リタが危惧していた通り、俺の婚約者であるからこそ、フレマイア侯爵は今の君を放置しているのだと思う」
こくり、とリタが頷く。
「フレマイア侯爵は、君が魔導器官の移植手術について知っていると、気づいているのか?」
「今の父は、わたくしが学も教養もない無知な娘だと思っておりますから、何をされたのか理解していないと思っているのではないでしょうか……」
家から一歩も出ず、家庭教師につくわけでも、アカデミーに通うわけでもない娘が、すべてを把握し、理解しているなどと、想像できる筈がない。
「ならば、早急に君を王城に呼び寄せよう。レキサンド伯爵令嬢がすでに王城入りしているから、目立つ事もない。君はアカデミーに通っていないし、生活上の問題もない」
婚姻年齢は十八歳以上だけれど、婚儀の準備、王子妃になるための教育、いくらでも名目はつけられる。
レキサンド伯爵令嬢の話し相手、という理由でもいいだろう。
「え」
「大切なのは、第一にリタの身の安全の確保だ。続いて、兄上の立太子と婚儀」
「……クリフォード殿下の立太子が、最優先では……」
「兄上の立太子が重要なのは否定しない。けれど、俺が思っていた以上に、君は危険な状況にいるようだ。……君の命には、他の何も代えられない」
「!」
リタ。
君が望むなら、王族の身分を捨てて、魔力が重視されない国に行ったっていい。
君が生きやすい場所で、君が笑顔でいられる場所で、俺とこの先、生きていってくれないか。
「君は、俺が初めて心を寄せた女性だ。俺は……生涯、誰も愛する事はないだろうと思っていた」
「なぜ……」
「俺の話を、聞いてくれるか?」
リタが言っていた言葉の意味がわかった。
安易に「信じる」と言った自分の頬をつねってやりたいが、同時に、俺は心の底から納得していた。
なぜ、家庭教師についた事がないのに、王子妃として完璧な所作を身につけているのか。
なぜ、ドレスを仕立てた事がないと言いながら、次の流行を押さえたドレスを指示できたのか。
なぜ、俺専属の仕立て屋が双子であると知っていたのか。
なぜ、ダンス教師に匙を投げられる悪癖を持つ俺と、息を合わせて踊る事ができるのか。
なぜ、アカデミーに通った事がないのに、同年代よりも深く広い見識を持っているのか。
なぜ、社交界に出た事がないのに、各家門の所属する派閥を把握しているのか。
なぜ、初めて呼ぶ筈の俺の名を、躊躇せずに口にしてみせたのか。
なぜ、ただ一度名簿を見ただけで、茶会やパーティの出席者全員の顔と名前が一致したのか。
なぜ、パーティの迎えに俺が行けない事を、当然と受け止めていたのか。
なぜ、俺の婚約者である事を受け入れる一方で、俺自身の事を何も問わないのか。
なぜ、フィオナ・レヴィン男爵令嬢と俺が懇意だと思っていたのか。
なぜ、優しく殺して欲しいと願ったのか。
「信じていただく必要はございません」
俺の沈黙に、リタはそう言った。
最近、見せてくれるようになった自然な笑みではなく、なんの感情も見せない微笑みで。
『どうせ、死ぬのだから』。
そんな幻聴が聞こえて、慌てて言葉を返す。
「違う! 君の言葉を疑ったわけではない。その逆だ」
「逆?」
「君は……すべてを知っていたのだな、と深く納得しただけだ」
斬首。転落死。毒殺。
リタが、「優しく殺してください」と初めて願った日に口にした最期。
それらは本当に、リタの経験した人生の終わりだったというのか。
そして、それはすべて、俺との婚約に絡んで起きた出来事だというのか……
「すまない、リタ」
「……今のルシアン様に責任はございません」
「そうじゃない。君の願いを叶えられそうにない」
「わたくしの、願い……」
灰銀の瞳が、絶望に染まった気がした。
『せめて、優しく殺してください』
そんな願いは、決して、叶えられない。
「俺は、君を殺す気も死なせる気もない。老衰以外の死は認めない」
リタが、息を飲む。
「ですが、」
「今の俺の責任ではないと言ってくれるならば、俺の所業を許してくれるならば、一度でいいから、俺に君と未来を歩むチャンスをくれないか」
きっと俺は、リタに対して酷い事を言っている。
けれど、今、この手を離したら、彼女は永遠に俺の元を去ってしまうだろう。
「ですが……!」
リタが、声を荒らげる。
「おわかりでしょう? 過去の三回の人生で、レヴィン男爵令嬢は強大な光属性の魔力を持っていたのに、今回の人生で魔力量が伸び悩んでいるのは、わたくしがアカデミーに入学しなかった事と無関係とは思えません。救済院を訪問する短い間、ともに過ごしただけの方でも、魔力量が増えたのですもの。アカデミーの同じ教室で学んでいた彼女に、より大きな影響を与えたと考えるのは自然な事です」
「そうだろうな」
レヴィン男爵令嬢の魔力量が少ないと聞いて、「どうして」と呟き、己とともに行動した光属性の者の魔力量が増えたと聞いて、「だから」と呟いていたリタ。
彼女自身が、光属性に影響を与える確信を得たのだろう。
だが、俺が冷静に返事をした事に、戸惑ったようだ。
「で、ですから、わたくしがともにいれば、光属性の人々の魔力量は上がるのです」
「あぁ。それで?」
「ですから……わたくしが、レヴィン男爵令嬢とともにいれば、彼女は治癒魔法師になれるだけの魔力量を得られる筈で……」
「なるほどな。それで?」
「……ルシアン様は、レヴィン男爵令嬢をお見初めになったのではないのですか……?」
過去の三回と、今回の俺は違う、と口では言うけれど、リタは過去の俺の行動に引っ張られている。
それは当然の事だ。
同じ顔で、同じ声で、同じように彼女に冷たかったのだろうから。
「今の俺と、君が知る過去の三回の『俺』は、同一人物だが別人だ。だが、別人だが同一人物だ」
「? あの……はい……」
「人間の価値観というものは、余程の出来事がない限り、大きく変化しない。だから、今の俺の価値観で、君の知る過去の『俺』の行動を分析するとな。『俺』はより、『王子妃に相応しくない』相手を婚約者に選び直したのだと思う」
人間というものは、そう簡単に根っこの部分が変わるものではない。
それは例え、魔力量が増えても同じ事だ。
魔力量の増大分、優れた人物になれるわけではない。
「俺は、フィオナ・レヴィン男爵令嬢を入学の頃から知っている。光属性は希少だからな。注意を払って、時折、声を掛けていたのは事実だ。そして、その結果の俺の印象は、よくも悪くも普通の貴族令嬢、だ」
「つまり……?」
「つまり、努力はせずに楽してより大きな利益が欲しい、という思考の持ち主という事だ。彼女は、自分が光属性である事を誇っていた。だが、その能力を磨く努力はしていなかった。魔力量がそれほどなくとも、鍛錬に励めばより効率的な使い方ができるものだ。しかし、口先では俺に『もっとお役に立てればいいんですけど』と言いながらも、彼女が熱心に鍛錬に取り組んでいるという話は聞いた事がない。そんな人物が、魔力量が増えただけで、心を入れ替えて真面目に治癒魔法に取り組むだろうか」
リタが、唇に指先を当て、何かを思い出すように視線をさまよわせる。
「……わたくしの知る過去のレヴィン男爵令嬢は、膨大な魔力のお陰で、特段の努力を必要とされてはいないようでしたが……」
「卒業パーティでの彼女の振る舞いを見ただろう。周囲を気遣う事なく、己の欲望だけに忠実だった。そんな令嬢が、王族の婚約者になったからと、王子妃教育をこなせると思うか?」
今回のリタは、王子妃教育を受けていない。
だが、過去の経験から、王子妃教育がどのようなものか知っているだろう。
「……わたくしの口からは、なんとも……」
「断言するが、淑女教育すらまともに身についていない者が、一年や二年で習得できる内容じゃない。レヴィン男爵令嬢が治癒魔法師に匹敵する魔力量を持っていたのであれば、ただその一点で、君の代替として選ばれたんだ。より『王子妃に相応しくない』婚約者として」
『レヴィン男爵令嬢を選ぶために、リタを捨てた』のではない。
より、『状況に適した王子妃に相応しくない婚約者を選んだ』のだ。
――だからといって、過去の己の所業が許されるわけではない。
「今の俺が言っても、すべては言い訳になるが、俺は決して、レヴィン男爵令嬢を見初めて妃に望んだのではない筈だ。彼女は、俺がもっとも苦手とするタイプの令嬢だからな」
「そうなのですか……⁉」
派手やかに着飾り、自己主張するように強い香りを纏い、意中の男性にあからさまな色目を使う令嬢は、一部の男には可愛らしく見えるらしいが、俺には好ましく思えなかった。
魔力量が多ければ婚約者候補に挙がっただろう、と思った事があるのは事実だ。
だが、それは俺にとって都合がいい条件を備えている、という意味であって、彼女自身を好ましいと思った事は一度もない。
過去のリタは、「流行の華やかなドレスをまとい」「人気の香水をつけ」「異性に好まれる話し方」をしていた、と話していた。
それが、俺の婚約者に相応しいと思って。
だが、それは俺のもっとも苦手とする令嬢の姿だ。
リタもレヴィン男爵令嬢も、どちらも同じように苦手だったならば、より合理的に「相応しくない」相手を選んだと思うのは不思議ではない。
何よりも今の話で気になるのが、不審な点がいくつも見つかる事だ。
リタの一回目の人生で、レヴィン男爵令嬢は毒を盛られて倒れ、その犯人とされたリタが処刑されたという。
しかし、過去のレヴィン男爵令嬢は高い治癒魔法の使用者だった筈。
治癒魔法師として評価されていた人物が、毒で倒れる……? ありえない。
水属性の固有魔法である幻影魔法を、俺がソアラン訪問時、常時使用していたように、属性の固有魔法は、自分自身に掛けるのであれば、長時間維持可能だ。
治癒魔法を得意としているレヴィン男爵令嬢が、自身に状態異常を無効化する魔法を掛けていなかったとは思えない。
ましてや、彼女は王族の婚約者になっていたのだから、身の安全を図るためにも、周囲から魔法の使用を勧められていたはずだ。
それなのに毒に倒れたという事は、つまり、レヴィン男爵令嬢は、毒殺を目論んだ首謀者側の人間という事だ。
最初から毒が入っているとわかっていれば、その通りに演技する事は容易い。
そのような事をしたのは……
(リタを、完全に排除するためか)
様々な思惑の下、リタからレヴィン男爵令嬢に乗り換えたのであろう一回目の『俺』。
けれど、きっと、レヴィン男爵令嬢は満足しなかったのだ。
それはおそらく、『俺』が彼女もまた、見ていなかったから。
(……それに、気づいていたか? 『俺』……)
婚約破棄後、リタがどう扱われるかすら考えていなかった俺に、そこまで考えが回ったとは思えない。
(そのうえ、斬首だと……?)
斬首は、「平民が貴族相手に重大犯罪を行った時」に執行される極刑だ。
つまり、フレマイア侯爵家は、リタを籍から外していたという事。
おそらくは、俺と彼女の婚約が破棄され、フレマイア家にとってリタの利用価値がなくなったからだ。
貴族が貴族相手に行った犯罪は、王宮の法務が証拠を精査して判決を下すが、平民が貴族相手に行った犯罪は、貴族の言い分だけを聞く可能性が高い。
ましてや、『被害者』が王族の婚約者ならば、証拠の確認どころか申し開きすらさせてもらえなかっただろう。
二回目、野盗に襲われた原因は、フレマイア侯爵にあると見て間違いない。
わざとらしく豪華な馬車を用意し、最低限の護衛すらつけていないのは、リタが「どうなってもいい」、むしろ、「何か起きて欲しい」という意図しか感じられない。
御者も共謀者だったのではないか、というのも穿った見方ではない筈だ。
一番気になるのが、三回目だ。
フレマイア侯爵が婚姻に同意したのは、最初からレヴィン男爵令嬢を側妃とする事が決定していて、リタがお飾りとして冷遇されるとわかっていたからか。
一見して、レヴィン男爵令嬢は、自ら側妃の座を望み、正妃はリタに勧めるなど、殊勝なようにも見える。
だが、実務はリタに押しつけ、目立つ場所には自分が立つというのは、面倒で地味な作業はせず、美味しいところだけを奪っていく典型的な俗物思考だろう。
そのうえで、腹の子を狙ったと責を問うたのか。
……本当に、その腹の子は『俺』の子だったのだろうか?
そもそも、俺は自分の子を持つ気がなかった。
リーストーム公爵家の血を引く子供が生まれたら、祖父と母が何を仕出かすかわからないからだ。
リタの話によれば、彼女は正妃の座にいたという。
妃、という事は、『俺』は臣籍降下していなかったという事だ。
兄上に後継者となる男児が生まれたら臣籍降下しようと考えているから、その時点で、兄上夫婦の間に、少なくとも男児は生まれていない。
だとしたら、兄上に後継者がいない状況で、先に子を持つような事をするとは思えない。
間違いなく、後継者争いが再燃する。
そんな事も知らないレヴィン男爵令嬢が不義の子を妊娠し、追及から逃れるために、茶番を仕組んだのでは……?
もちろん、すべては想像に過ぎない。
自分にとって都合のいい妄想かもしれない。
与えられた材料は、リタの言葉のみ。
だが、俺は彼女を疑わない。疑えない。
これまでの疑問がすべて、リタが繰り返し同じ時間を過ごしたと聞いた事で、氷塊したのだから。
十歳のある日から亡くなるまでの十年ほどの人生を四回も生きて来たという荒唐無稽な話は、リタの謎を誰よりも知りたかった俺にとって、信憑性があった。
時間の巻き戻しなのか、生まれ変わりなのか、それとも長くやけに現実的な夢なのか、理由はわからない。
けれど、こんな凄絶な経験をしてきたというのに、リタがすれていないのは確かだった。
心が摩耗し、すべてを諦めているのに、リタは決して、周囲の人間を傷つけない。
他人を傷つけるよりも、自分が傷つく事を選ぶ彼女は、俺がこれまでに見た誰よりも優しい。
「リタ」
「はい」
「好きだ」
ぽろり、と言葉が零れ落ちた。
過去の『俺』が、いかにリタに対して辛く当たってきたのかを聞いたばかりだというのに。
優しい彼女に、どうしても伝えたかった。
誰にも愛されなかった、と言うけれど、今の俺は、こんなにも君を求めてる。
「さっきの言葉は、嘘じゃない。君は、今回の人生で俺に好かれるための努力をしてこなかった、と話していたけれど……してくれたじゃないか」
「え?」
「四回目も、俺に出会ってくれた。想いに気づかせてくれた。君に償う機会をくれた。何も知らない俺を、本当なら君は詰り、罵っていいんだ。その権利がある。なのに、君は、過去の『俺』は今の俺じゃないから、責任はない、と言ってくれた」
「それは……本当に、今のルシアン様のなさった事ではありませんから……」
「頭で理解する事と、感情で納得する事は違う」
戸惑った顔をしているリタは、いつもよりも幼く見える。
想定外の展開だったのか、まだ気持ちが追いついていないようだ。
リタは婚約するまで、貴族令嬢としての教育をまったく受けていない。
この優しさは、それゆえなのだろうか。
「人に好かれようと取った行動を、好きになるわけじゃない。俺だって、気づいたら君の事が目に留まって、気になって、笑って欲しくて、傍にいたくなったんだ。好きになるのに、理由なんてないだろう」
リタが、ハッとしたように口を閉じる。
「……リタ。俺が、憎い? それとも、怖い?」
もしも、リタが、俺が傍にいるのもイヤだ、と言ったなら。
……俺は、どうすればいいのか。
彼女の幸せを、遠く離れた場所から望む?
(……俺の事を、嫌っているのならば、無理は言えない……)
誰かを愛おしいと思う気持ちを知った今、彼女の姿が見えない事に、耐えられそうにない。
けれど、憎いか、怖いかは問えても、嫌いかどうかは、尋ねられなかった。
その返事を聞く勇気がなくて。
「…………いいえ」
しばらく沈黙した後、リタは小さな声でそう答えた。
「だが、過去の三回、君を不幸な目に遭わせたのは、俺なんだろう?」
「いいえ、それは違います。確かに、ルシアン様の婚約者に選ばれた事がきっかけでした。他に選択肢がない事を、恐ろしいと感じた事もあります。ですが、ルシアン様との婚約が、わたくしをここまで生かし続けたのもまた、事実なのです。ルシアン様との婚約がなければ、わたくしはダナイドに放置され、既に亡くなっていたでしょう。過去の死はいずれも苦しいものでしたが、衰弱死もまた、苦しかったと思います。それに……わたくしを直接害した方は、ルシアン様ではありません。わたくしの最期に、過去のルシアン様が関心を持っておられたとは思えません。今のルシアン様とは、違います」
……どれほど、『俺』はリタに興味がなかったというのだろう。
だが、リタが過去の『俺』と今の俺は違うと言ってくれるのならば。
「なら……俺は、これからも、君を想っていていいか?」
リタが、躊躇うように口を開いては閉じる。
その白い頬が、うっすらと赤く染まっていた。
彼女は、誰かに好意を告げられる事に慣れていない。
「現実的な話をすれば、リタが危惧していた通り、俺の婚約者であるからこそ、フレマイア侯爵は今の君を放置しているのだと思う」
こくり、とリタが頷く。
「フレマイア侯爵は、君が魔導器官の移植手術について知っていると、気づいているのか?」
「今の父は、わたくしが学も教養もない無知な娘だと思っておりますから、何をされたのか理解していないと思っているのではないでしょうか……」
家から一歩も出ず、家庭教師につくわけでも、アカデミーに通うわけでもない娘が、すべてを把握し、理解しているなどと、想像できる筈がない。
「ならば、早急に君を王城に呼び寄せよう。レキサンド伯爵令嬢がすでに王城入りしているから、目立つ事もない。君はアカデミーに通っていないし、生活上の問題もない」
婚姻年齢は十八歳以上だけれど、婚儀の準備、王子妃になるための教育、いくらでも名目はつけられる。
レキサンド伯爵令嬢の話し相手、という理由でもいいだろう。
「え」
「大切なのは、第一にリタの身の安全の確保だ。続いて、兄上の立太子と婚儀」
「……クリフォード殿下の立太子が、最優先では……」
「兄上の立太子が重要なのは否定しない。けれど、俺が思っていた以上に、君は危険な状況にいるようだ。……君の命には、他の何も代えられない」
「!」
リタ。
君が望むなら、王族の身分を捨てて、魔力が重視されない国に行ったっていい。
君が生きやすい場所で、君が笑顔でいられる場所で、俺とこの先、生きていってくれないか。
「君は、俺が初めて心を寄せた女性だ。俺は……生涯、誰も愛する事はないだろうと思っていた」
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