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<1/グロリアーナ>
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「これは夢これは夢これは夢…!」
寝室付きのバスルームの中で、グロリアーナは小さな声でぶつぶつと繰り返していた。
顔色は真っ青で、痛むこめかみを押さえるように当てた両掌は、ぶるぶると震えている。
フローニカ王国の中でも、建国時から国を支えて来た自負のあるラウリントン公爵家の長子として生まれたグロリアーナは、幼い頃から、人一倍努力家だった。
貴族として、その中でも、王家の第一の臣であり、数多の貴族家を率いる立場である公爵家の令嬢として生まれた意味をよく理解し、他の模範となるべく、常に努めて来た。
その立場と年齢、そして彼女の資質から、十歳の時にフローニカ王国第一王子マクシミリアンの婚約者に選ばれて、八年。
弛まぬ努力を続けて来た。
驕る事なく、媚びる事なく、凜と背筋を伸ばして立つ。
言葉は、多過ぎても少な過ぎてもよくないからこそ、己の生き様で示して来たつもりだ。
自分では少々重苦しく感じる藍色の髪は、丁寧に手入れしないと奔放に広がって手がつけられなくなる為、毎日、時間を掛けて侍女に巻いて貰っている。
きっちりと一筋の乱れもなく巻いた髪こそが、他者に揺るがされない事を示す彼女の矜持でもあった。
サファイアのようだ、と賛辞を受ける濃い青の瞳は、猫のように少し目尻が上がっており、髪色とも相俟ってきつい性格に見えてしまう事が悩みの一つではあったが、持って生まれたものはいかんともしがたい。
無表情だと途端に冷たく見えてしまう面立ちを和らげる為、常に僅かに口角を上げるようにしている。
だが、その微笑みすらも「何かを企んでいるように見える」と言われてしまう。
所謂、昨今、巷で流行っている『悪役令嬢顔』なのだ。
グロリアーナは、第一王子の婚約者。
このまま、何事もなければ学園卒業と同時に王太子となる男性の、婚約者だ。
王族とは、民の、貴族の命を背負うが故に孤独であり、その配偶者はかの人の孤独に寄り添い、分かち合わなければならない、と教わって来た。
幼い頃から、側近候補である貴族令息達と過ごしているマクシミリアンだが、彼等は友であると同時に臣だ。
その関係性は、決して対等なものとは言えないだろう。
だからこそ、グロリアーナはマクシミリアンの心に少しでも近づけるように、社交はこなしても親しい友人は作らずに来た。
これまで、心許せる友の一人もいない自分の生活を辛いと思った事はないけれど、今日ばかりは、身も世もなく誰かにみっともなくも縋りついてしまいたかった。
それ程に、グロリアーナは、あり得ない出来事に動転していた。
今朝の起床時刻は、学校があるいつもの平日と同じ五時半。
普段ならば、それから二十分、朝のストレッチと軽い筋力トレーニングを行う。
公爵令嬢として、そして王子の婚約者として相応しいプロポーション作りは、日々の努力の賜物だ。
お陰で、グロリアーナはほっそりと引き締まったウェストと、張りのある美胸の持ち主である。
トレーニングの後、侍女に香油を入れた湯で清拭して貰い、制服に着替えてから、一時間掛けて、お肌の手入れと化粧、髪結いをする。
グロリアーナは現在、王立学園の最上級生である五年生に在籍している。
学生のうちは、成人年齢の十八歳を過ぎても準成人扱いだ。
だが、グロリアーナは学園入学当初から、王族の婚約者として、人前で素顔を晒す事はなかった。
何しろ、マクシミリアンは女性であるグロリアーナから見ても美しい男性なのだから、彼と不釣り合いだと周囲に思われてはならない。
貴族の縁談は、条件がある程度似通っていれば、最終的には外見の美しさが決定打となる。
結果として高位貴族には美しい者が多いから、グロリアーナも自分の外見はそれなりだと思っている。
けれど、マクシミリアンが彼女の外見を褒めた事はないから――夜会でいかにも社交辞令的な「綺麗ですね」は言ってくれるけれど――彼にとっては十分ではないのだろう。
彼自身が美しい人であるだけに、グロリアーナは今一つ、自分の容姿に自信を持ちきれずにいた。
その為、通学時も隙を見せないように、公の行事よりも控えめながらきちんと化粧を施し、腰まである癖毛を綺麗に巻いているのだが、どれだけ手慣れた侍女でも一時間は掛かってしまう。
けれど、頑丈な鎧を纏わねば、「王子の婚約者」として胸を張るのは難しい。
彼女の足を掬おうとする人物は、表立ってこそいないものの、皆無ではないのだから。
身支度を終えると、その後は、朝食に二十分。
体形維持の為にも、必要な栄養素を取れる最低限度の量の食事を、しっかりと咀嚼して食べる事を心掛けている。
登校の為に自宅を出発する七時四十五分まで、軽く予習をしたり、新聞を読んだりして過ごす。
だが。
今朝のグロリアーナは、起床の時点で躓いた。
昨日は、心待ちにしていた小説の新刊の発売日だった。
日の曜日のうちに読み終えられると思っていたけれど、衝撃の伏線回収に驚いて、何度か行きつ戻りつしながら読み進めた結果、普段よりも就寝時刻が遅かったのは認める。
体が覚えているからか、普段通り、五時半に目が覚めたのはいいものの、まだ寝惚け眼のまま、目を擦りつつ用足しに行って…声にならない悲鳴を上げた。
下着を下ろし、便座に腰を下ろすまでは、特に気にも留めなかったのだ。
いざ、用を足そうとして、股の間の違和感に、寝惚けたままの目を向けた。
そして、己の股座に合ってはならないものを発見した瞬間、眠気が吹き飛んだ。
(何これ…!って、何かは判るけど、何これ…!)
あり得ない。
どうして。
どうして、令嬢として生まれた自分の股間に、男性のシンボルが鎮座ましましているのか。
二つ年下の弟ジャレッドが生まれたばかりの頃、おしめを交換する時に見たものと、形状は異なるけれど、用途は同じだろう。
男性器は、成長と共に形状変化するものだ、と言う知識はある。
夢ではないか、と突いてみようとしたものの、触れるのも恐ろしくて手を出しあぐねていると、その手にも違和感を覚えた。
大きい。
明らかに、見慣れたサイズではない手は、筋張っていて指も長く、血管が僅かに浮いて見える。
(…ちょっと、待って…)
俯き加減に動揺している視界で揺れるのは、見慣れた藍色の癖毛ではなく、艶やかで真っ直ぐな深い紅毛。
「嘘、でしょ…」
震える手で、誤ってそれに触れてしまわないように恐る恐る下着を上げて、バスルームを見回し、鏡を発見する。
躊躇いながらも恐々と覗いてみると…そこには、予想通り、と言うか、切実にそうでなければよかった、と思う人の顔が映っていた。
マクシミリアン・グレアム・フローニカ。
フローニカ王国の第一王子にして、グロリアーナの同い年の婚約者である彼が、鏡の向こうから、不安そうに青褪めた顔でグロリアーナを見つめ返している。
エメラルドの翠瞳。
肩先まで伸びたルビーのように艶やかな深紅の髪は、寝癖なのか、毛先が僅かに跳ねている。
幼い頃は少女に見紛うばかりに透き通る顔立ちだった彼だが、十八になった今は、誰もが認める美丈夫に成長していた。
他国の姫君達が恍惚と目を奪われ、彼の隣に並ぶグロリアーナは、どれだけ睨みつけられた事か覚えてもいない。
家族以外で、最も見慣れた男性の顔だ。
何しろ、婚約者となってから既に八年。
グロリアーナは王子妃教育を受ける為に王宮に通っていたし、その際に、婚約者の交流としてお茶会の時間が取られていた。
五年前に学園に入学してからは同じ特待クラスの級長と副級長として、上級生になってからは生徒会の会長と副会長として、社交界デビューしてからは王宮で開かれる公式行事のパートナーとして、長い時間を過ごした仲だ。
彼の顔を、見間違える筈もない。
それでもまだ信じられなくて、ぺた、と右手で頬に触れると、鏡の中のマクシミリアンも、ぺた、と頬に触れた。
ちくり。
掌に刺すような痛みを感じて、じっと鏡を覗くと、細い髭がまばらに生えている事に気づく。
(…おひげ…)
考えてみれば当たり前の事だけれど、マクシミリアンはもう、髭の生える成人男性だった。
一筋の乱れも許さず、完璧に身の回りを整えている彼しか知らないから、グロリアーナは、マクシミリアンにも髭が生えるのだと言う発想がなかった。
不敬かもしれない、と思いつつ、そのまま、頬をつねってみると、マクシミリアンも同じ動作をする。
痛い。
じん、と広がる痛みに、筋力も男性のものなのだ、とグロリアーナは乾いた笑いを浮かべた。
あり得ない。
夢ならば、早く覚めて欲しい。
「これは夢これは夢これは夢…!」
十回程繰り返してみたけれど、何一つ変化は起きず、グロリアーナは震えながら、ずきずきと痛み始めたこめかみを、両手で押さえる。
「一体…何が、どうなって…」
もしや、精神的な負荷がかかり過ぎて、己の姿がマクシミリアンの姿に見える病気に罹ってしまったのだろうか。
見た事もないのにやけにリアルな男性器から目を逸らして、用足しを済ませる。
どれだけ焦っていても、生理的欲求に変化はないらしく、いい加減、我慢の限界だった。
もぞもぞと落ち着かなかった股座が収まって、漸く人心地つく。
人間、慌てたまま思考すると、碌な事にならない事は、十分に理解している。
一回だけでは足りず、三回深呼吸すると、グロリアーナは改めて、バスルームを見回した。
…見覚えがない。
少なくとも、ラウリントン公爵邸の私室のバスルームでは、ない。
そろ…っと寝室に戻ってみたものの、やはり、見覚えがなかった。
マクシミリアンの私室だろうか、と考えてみたが、八年の婚約期間のうち、互いの私室を訪れた事は皆無だ。
貴族階級において、未婚の男女の交際は、潔白を求められる。
密室で二人きりになるような事があってはならないし、親愛以上の接触も禁止だ。
ましてや、それが王子と公爵令嬢ならば、一層の事。
万が一の間違いが合ってはならない。
互いに侍従、侍女が常に付き従い、面会場所も私室は厳禁だ。
とは言え、「親愛以上の接触」、「万が一の間違い」と言う言葉が何を指しているのか、実は、グロリアーナにはいまいち判っていない。
勿論、王子妃教育の一環として子作りについて学んではいるが、あれは結婚後の話であり、初夜の話だ。
その前段階の話、と言われても、具体的にどう言う事なのか、何を指しているのか、ピンと来ない。
常に無表情の王子妃教育担当ベリンダ夫人が、少し頬を染めて咳払いをしながら、
「グロリアーナ様も様々、お耳になさっている事でしょうが…」
と言っていたが、同世代の貴族令嬢達は、友人同士の語らいの中で異性との恋愛話に興じる事もあるようだけれど、グロリアーナには、そのような話をする相手もいない。
ただ一つ、グロリアーナが理解しているのは、彼女が男性と二人きりになる事など到底不可能だ、と言う事だけだ。
公爵令嬢であるグロリアーナには、常に侍女か護衛が付き従っているし、学園内部では「生徒は皆平等」との建前の下、従者は付き添わない代わりに、王子の婚約者として、全校生徒の視線が常にグロリアーナを追っている。
王立学園に通うのは、貴族の子女と裕福な平民。
彼等は、自分達が戴く王族が、真に忠誠を捧げるに相応しいか、厳しい目で審査している。
将来の王族となるマクシミリアンの婚約者グロリアーナに対しても同じ事で、彼女に僅かにでも瑕疵があれば、引きずり下ろし、成り代わろうとする令嬢は一人や二人ではない。
条件で選ばれただけのグロリアーナは、条件を満たせなくなった時、もしくはより良い条件を備えた令嬢が現れた時に、その地位を追われる。
現状、『婚約者』とは言え、マクシミリアンとグロリアーナは、全くの他人ではない、と言う関係でしかないのだ。
そして、婚約者である以上、グロリアーナは己の出来る全力で役目を全うする他ない。
一度、固く目を瞑ると、記憶にない落ち着いた木製の家具と、臙脂色にクリームと金で細かな模様が描かれた壁紙を眺めながら、グロリアーナは、
(ラウリントン邸ではない、事は判ったわ…)
と頷く。
何もかもが判らない中、一つでも多くの情報が欲しい。
動いていないと、恐怖に圧し潰されてしまいそうで、不安な気持ちから少しでも目を逸らす為に、今、自分に出来る最善を探す。
ベッドサイドのチェストの引き出しを、心中でマクシミリアンに詫びながら、幾つか開けてみる。
メモ帳とペン、女神の聖句が掛かれた聖書、そして、
「え…」
幼いグロリアーナの姿絵。
確か、婚約者に内定する前に描かれたものだった筈だ。
今よりも頬の線はふっくらとしているが、自分で見てもきつい顔立ちに見える少女が、こちらを見ている。
何故、こんなものが。
動揺しながらも、引き出しの中に元の通りに仕舞い込み、続いて、別の場所を探す。
夜着のまま、寝室に隣接する広いウォークインクローゼットに足を踏み入れると、装飾は控えめながらも品と質のいい服がずらりと並ぶ中に、学園の制服が三着掛かっていた。
学園に通う生徒は皆、同じデザインの制服を身に纏っているけれど、王族であるマクシミリアンの制服は、同一デザインだが使われている生地が違う。
触れた布地の手触りに殆ど答えを理解しながらも、グロリアーナはそっと、上着の内側を確認した。
いずれも、『マクシミリアン・グレアム・フローニカ』の名が刺繍されていると言う事は…。
「…やっぱり、殿下のお部屋…」
聞き慣れたマクシミリアンの声と少し違って聞こえるのは、体内を伝わって聞こえる音もあるからだろう。
一体、何がどうしてこんな事態に陥ったのか理解はできない。
できないけれど現実として、グロリアーナは何故か、マクシミリアンの体の中にいる。
はぁ、と落とした溜息は、グロリアーナが思った以上に大きく重い音を室内に落とした。
この所、思うに任せない現状に苛立っていたのは事実だ。
マクシミリアンとの関係も、ギクシャクしたものになりつつあったのは否めない。
元々、婚約者とは言え、恋愛感情で結ばれたわけではない。
幼い頃から知る仲だし、この国をより発展させていこう、と言う志を同じくしているから、何とかやって来られただけの事。
マクシミリアンにとって、自分は精々、『戦友』程度の間柄だろう、とグロリアーナは理解していた。
学園でも、社交界でも。
マクシミリアンに向けられる女性達の視線には、熱が籠っている。
美しい人に焦がれる熱、優秀な人に憧れる熱、強い人に惹かれる熱。
ただでさえ、人間的魅力に溢れる彼に、フローニカ王国第一王子の身分までついているのだ。
女性達が熱を上げるのも当然だ、と思う。
ただ、熱を上げ恋焦がれる視線を送りつつも、不躾に彼に近づく女性がいないのは、他でもない、グロリアーナと言う婚約者がいるからだ。
長い歴史を誇るラウリントン公爵家の息女にして、常に学年上位五位までに収まる優秀な成績を修める完璧な貴族令嬢。
多少、冷たそうな印象を与えるとしても、グロリアーナを醜いと言う者はあるまい。
王族に次いで高い地位を持ち、優秀な能力を誇る彼女以上に、王子妃に相応しい条件を満たす同年代の令嬢はいない。
内心でどう思っていようと、国の認めた婚約者を押し退ける危険を、誰が冒すものか。
冷静に分析できる程度には、グロリアーナは客観的に二人の関係性を見られている。
だが。
いたのだ、その危険を冒そうと言う者が。
彼女の存在が、精神的負荷になっていた自覚はある。
未知の反応を返す彼女に戸惑い、手をこまねいていたのも事実だ。
けれど、まさか。
(女神の悪戯…?)
フローニカ王国は、国教として大地の女神フロリーナを崇める国だ。
フロリーナは大地の女神だけあって、自然のように懐が深く、同時に気紛れな神。
建国の時代から、フロリーナは時折、人間に悪戯を仕掛ける、との神話は、知識として学んでいるが、しかし。
(でも…現実として、この体は殿下の体だし…)
大きくて、剣ダコなのかペンダコなのか少しデコボコしている手を、じっと見る。
人の精神と肉体を入れ替えたと言う話は知らないけれど、フロリーナは神だ。
神であれば、このような荒唐無稽な事もできるのではないか、と思ってしまう。
(…そもそも、私の体は今、どうなっているのかしら…)
不安からか、胸の奥がそわそわする。
現状、グロリアーナ一人の意志で、何かに阻害される事もなく、マクシミリアンの肉体を自由に動かす事ができる。
ならば、マクシミリアンの精神は、今、ここにない筈だ。
では、マクシミリアンが、入れ替わりにグロリアーナの体の中にいるのだろうか。
この所、順風満帆な関係と言えなくなっているのは事実だけれど、彼ならば、グロリアーナの体に無体な事も辱める事もしないだろう、と信頼はしている。
品行方正、謹厳実直、絵に描いたような王子様。
それが、マクシミリアンだ。
けれど、それとこれとは別の話だ。
起き抜けの爆発した頭であるとか、寝相が余り良くなくて寝乱れた夜着とか、見られたら羞恥でどうなるか判らない。
一刻も早く登校して、『グロリアーナ』の様子を確認しなくては。
その時だった。
こんこん、とノックの音と共に、顔馴染みの侍従の声が掛けられ、グロリアーナはびくりと肩を竦めた。
「殿下、おはようございます。本日は随分と早いお目覚めですね」
グロリアーナが時計を見ると、時刻は七時。
起床から一時間半。
普段ならば、朝食の時間だ。
だが、これで早い、とは、マクシミリアンは普段、何時に起きているのか。
マクシミリアンは、優秀な人だ。
もっと規則正しい生活を送っているものだと、勝手に思い込んでいた。
「…あぁ、おはよう」
バクバクとうるさい心臓の音を聞きながら、マクシミリアンと彼の侍従ケビンの普段の会話を思い返しながら返答すると、ケビンが朝食を載せたワゴンと共に入室して来る。
「一体、どんな風の吹き回しです?私がお起こしする前にお目覚めになっているなんて。いつも、『あと五分』『あと五分』と往生際が悪いのに」
随分な言われようだ。
完璧な王子と呼ばれているマクシミリアンも、朝には弱いのか。
意外に思いながらも、何処か親近感を覚える。
「殿下。ご登校されるまでに、昨夜の残務に目を通してくださいませ」
渡されたのは、書類の束。
書類を確認しながら食べられるようになのか、朝食は直接、手で抓めるものばかりだった。
どうやら、夜着のままで朝食を取るらしい。
「あぁ…」
生返事をしながら、微かに震える手で書面を受け取る。
今、此処で、自分がマクシミリアンではなくグロリアーナだと告白したら、どうなるか。
幾ら、マクシミリアンの側に仕えており、グロリアーナとの付き合いも長いケビンとは言え、
「あぁ、やっぱり、ラウリントン公爵令嬢でしたか!だと思いました!」
とはならないだろう。
何しろ、外見はマクシミリアンでしかないのだから。
マクシミリアンの気が触れた、と大騒ぎになる事は、必定だ。
一体誰が、入れ替わりを証明出来ると言うのか。
状況がもう少し判明しない限り、黙っている方がいい、と判断したグロリアーナは、沈黙を選択して受け取った書面に目を走らせた。
王子妃教育で得た知識でも何とかなりそうで、内心、ホッとしながら、マクシミリアンはいつも、こんな一日のスタートを切っているのか、と驚く。
学園に通う学生と言えども、今年、十八歳になったマクシミリアンは、立派な成人王族の一員だ。
婚約者として公務に伴われる事もあるから、彼が王家の執務に携わっている事は知っていたけれど、登校前の慌ただしい時間ですら書類に忙殺されているとは、全く知らなかった。
昨夜の残務、と言う事は、彼は休日も書類確認をしていると言う事だ。
「これと…これは、このまま進めていい。こちらは、予算の見直しを。開催時期を考えると、料金の変動が想定される品が複数ある」
「畏まりました。本日のご予定ですが、授業終了後にお迎えに上がります馬車で、大神殿を訪問。女神像発光現象について、大神官様から直接、殿下にご説明をとの事です」
昨日、王都にあるフロリーナ大神殿の女神像が、建物全体が輝く程に強烈な光を放ったとの報告が寄せられた。
女神像が光る、と言う事象は数十年に一度の頻度で発生していると言うが、建物全体が光る程、と言うのは、随分と規模が大きい。
「また、調査の為にエアリンド帝国に送った第三陣は、近日帰還予定との連絡が入っております」
「…そうか」
エアリンド帝国は、フローニカ王国に国境を接する大国だ。
かの国の版図にフローニカが飲み込まれていないのは、女神フロリーナの加護によるものだ、とグロリアーナは教わっている。
『加護』は具体的に目に見えるものではないが、フローニカ王国が小国ながらも豊かな大地を持ち、温暖で住みやすい国なのは、女神の加護によるのだと言う。
その豊かな土地を、エアリンド帝国が狙わない筈もない。
しかし、建国以来、フローニカが他国の侵略を受けた事はないのだ。
それこそが、女神フロリーナがフローニカに加護を与えている証左なのだ、とグロリアーナは聞いた。
「殿下、くれぐれも、大神殿に向かう件を例のご令嬢に察知されないよう、お気をつけください。以前も、かのご令嬢は、どうやって知ったものか、殿下の訪問先に先回りしておりましたゆえ」
「…判っている」
かのご令嬢に心当たりがあって、知らず、グロリアーナの眉が顰められる。
彼女の出現で、それまで、熱く燃え上がるような関係ではなくとも、穏やかな関係性を築いていたマクシミリアンとグロリアーナの間が、ギスギスと軋んだものになった。
とてもではないが、良い感情を抱ける相手ではない。
だが、ケビンにとっても彼女が良い印象ではないようで、内心、首を傾げた。
学園で、彼女は着実に自分の居場所を築いている。
彼女を受け入れている全員が必ずしも純粋な好意を抱いているわけではなく、そこには打算もあるのだろうけれど、少なくとも表立って批判する者は一部だ。
中でも、マクシミリアン自身が受け入れ側の筆頭だと思っているグロリアーナにとって、ケビンの反応は意外なものだった。
グロリアーナが書類に目を通しながら、無作法と思いつつも疑われないようマクシミリアンの振りをして朝食を取る背後で、ケビンは慣れた手つきで深紅の髪を梳き、うなじで一つに結わえた。
食事しながら身支度とは、どれだけ時間が足りないと言うのか。
「殿下、本日も、藍色の髪紐でよろしいでしょうか」
「…あぁ」
藍色、と聞いて、咄嗟に自分の髪色を思い出したものの、思い返せばマクシミリアンは大体いつも、藍色の組紐で髪を結んでいる。
恋人の瞳や髪の色を身に着ける、と言うエピソードを小説で読んだ事はあるけれど、グロリアーナとマクシミリアンの関係は、そのような甘やかなものではないから、偶然だろう。
恐らく、マクシミリアンの深紅の髪に合う色、と言う事で選ばれているのだ。
「そう言えば、殿下。そろそろ、ラウリントン公爵令嬢に髪紐の件について、それとなくお話されましたか?」
(…ん?)
マクシミリアンの髪紐が藍色である事には気づいていたが、彼がその件について触れた記憶はない。
「いや…」
「殿下…」
何故か、ケビンは溜息を吐くと、大仰に首を横に振った。
「よろしいですか。ただでさえ、例のご令嬢の件でラウリントン公爵令嬢との関係に隙間風が吹きつつあるのです。お相手のお色を身に着ける、お相手の姿絵を寝る前に眺める。形からで構いませんから、あの方を婚約者として尊重していると、積極的にアピールしてください。くれぐれも、ご本人にきちんと伝わるように、ですよ。その上で、殿下ご自身もラウリントン公爵令嬢を心から愛する努力をなさらなくては」
サイドチェストに収められていた姿絵は、そんな目的で置かれていたのか。
だが、努力をせねば愛せない程に、マクシミリアンの心は遠いのか、と自分の事を差し置いて、グロリアーナは落ち込んだ。
そもそも、努力を要する気持ちなど、喜んで受け入れられる筈もない。
「殿下もそうですが、ラウリントン公爵令嬢も、色恋沙汰には疎くていらっしゃいますからね…お二人とも、仕事熱心なのはよろしいのですが、情緒方面の発達がちょっと…幼いうちに婚約者をお決めになった弊害でしょうかねぇ…」
首を横に振るケビンに、随分とマクシミリアンに対して厳しい事を言うのだな、とグロリアーナは意外に思った。
グロリアーナが面会する時のケビンは、いかにも忠実なマクシミリアンの従者、と言う佇まいだからだ。
確か、ケビンはマクシミリアンよりも七つばかり年上だった筈。
主であると同時に、目の離せない弟のような存在なのかもしれない。
同時にグロリアーナ自身の事も貶されているのだが、色恋に疎いのは事実なので、特に腹は立たない。
寧ろ、グロリアーナも助言が欲しい位だ。
「お二人のご結婚は、王家と公爵家の約束事。フローニカの民の為にも、睦まじくいて頂かなくては。その為にも、例のご令嬢の件を、早く片付けたいのですが…」
やはり、ケビンはかのご令嬢を、問題だと思っているようだ。
自分の目に見えていたものが、どうやら形通りのものではないらしい、とグロリアーナは心に留める。
その後、『マクシミリアンとして』グロリアーナは、次から次に書類の処理に追われた。
漸く髭をあたって着替え、登校の為の馬車に乗ったのは、八時半の事。
普段のグロリアーナであれば、とうに学校に到着している時間だ。
学校は九時に始業するから、八時四十五分を過ぎると馬車寄せが大渋滞する。
それが嫌で早くに登校するグロリアーナは、始業時間ぎりぎりに登校するマクシミリアンに内心眉を顰めていたのだが、朝からこれ程の執務を担っているのであれば、仕方がないかもしれない。
「では、行ってくる」
学園に到着し、御者に声を掛けて馬車を降りたグロリアーナを、何処か緊張した表情の『グロリアーナ』が待っていた。
寝室付きのバスルームの中で、グロリアーナは小さな声でぶつぶつと繰り返していた。
顔色は真っ青で、痛むこめかみを押さえるように当てた両掌は、ぶるぶると震えている。
フローニカ王国の中でも、建国時から国を支えて来た自負のあるラウリントン公爵家の長子として生まれたグロリアーナは、幼い頃から、人一倍努力家だった。
貴族として、その中でも、王家の第一の臣であり、数多の貴族家を率いる立場である公爵家の令嬢として生まれた意味をよく理解し、他の模範となるべく、常に努めて来た。
その立場と年齢、そして彼女の資質から、十歳の時にフローニカ王国第一王子マクシミリアンの婚約者に選ばれて、八年。
弛まぬ努力を続けて来た。
驕る事なく、媚びる事なく、凜と背筋を伸ばして立つ。
言葉は、多過ぎても少な過ぎてもよくないからこそ、己の生き様で示して来たつもりだ。
自分では少々重苦しく感じる藍色の髪は、丁寧に手入れしないと奔放に広がって手がつけられなくなる為、毎日、時間を掛けて侍女に巻いて貰っている。
きっちりと一筋の乱れもなく巻いた髪こそが、他者に揺るがされない事を示す彼女の矜持でもあった。
サファイアのようだ、と賛辞を受ける濃い青の瞳は、猫のように少し目尻が上がっており、髪色とも相俟ってきつい性格に見えてしまう事が悩みの一つではあったが、持って生まれたものはいかんともしがたい。
無表情だと途端に冷たく見えてしまう面立ちを和らげる為、常に僅かに口角を上げるようにしている。
だが、その微笑みすらも「何かを企んでいるように見える」と言われてしまう。
所謂、昨今、巷で流行っている『悪役令嬢顔』なのだ。
グロリアーナは、第一王子の婚約者。
このまま、何事もなければ学園卒業と同時に王太子となる男性の、婚約者だ。
王族とは、民の、貴族の命を背負うが故に孤独であり、その配偶者はかの人の孤独に寄り添い、分かち合わなければならない、と教わって来た。
幼い頃から、側近候補である貴族令息達と過ごしているマクシミリアンだが、彼等は友であると同時に臣だ。
その関係性は、決して対等なものとは言えないだろう。
だからこそ、グロリアーナはマクシミリアンの心に少しでも近づけるように、社交はこなしても親しい友人は作らずに来た。
これまで、心許せる友の一人もいない自分の生活を辛いと思った事はないけれど、今日ばかりは、身も世もなく誰かにみっともなくも縋りついてしまいたかった。
それ程に、グロリアーナは、あり得ない出来事に動転していた。
今朝の起床時刻は、学校があるいつもの平日と同じ五時半。
普段ならば、それから二十分、朝のストレッチと軽い筋力トレーニングを行う。
公爵令嬢として、そして王子の婚約者として相応しいプロポーション作りは、日々の努力の賜物だ。
お陰で、グロリアーナはほっそりと引き締まったウェストと、張りのある美胸の持ち主である。
トレーニングの後、侍女に香油を入れた湯で清拭して貰い、制服に着替えてから、一時間掛けて、お肌の手入れと化粧、髪結いをする。
グロリアーナは現在、王立学園の最上級生である五年生に在籍している。
学生のうちは、成人年齢の十八歳を過ぎても準成人扱いだ。
だが、グロリアーナは学園入学当初から、王族の婚約者として、人前で素顔を晒す事はなかった。
何しろ、マクシミリアンは女性であるグロリアーナから見ても美しい男性なのだから、彼と不釣り合いだと周囲に思われてはならない。
貴族の縁談は、条件がある程度似通っていれば、最終的には外見の美しさが決定打となる。
結果として高位貴族には美しい者が多いから、グロリアーナも自分の外見はそれなりだと思っている。
けれど、マクシミリアンが彼女の外見を褒めた事はないから――夜会でいかにも社交辞令的な「綺麗ですね」は言ってくれるけれど――彼にとっては十分ではないのだろう。
彼自身が美しい人であるだけに、グロリアーナは今一つ、自分の容姿に自信を持ちきれずにいた。
その為、通学時も隙を見せないように、公の行事よりも控えめながらきちんと化粧を施し、腰まである癖毛を綺麗に巻いているのだが、どれだけ手慣れた侍女でも一時間は掛かってしまう。
けれど、頑丈な鎧を纏わねば、「王子の婚約者」として胸を張るのは難しい。
彼女の足を掬おうとする人物は、表立ってこそいないものの、皆無ではないのだから。
身支度を終えると、その後は、朝食に二十分。
体形維持の為にも、必要な栄養素を取れる最低限度の量の食事を、しっかりと咀嚼して食べる事を心掛けている。
登校の為に自宅を出発する七時四十五分まで、軽く予習をしたり、新聞を読んだりして過ごす。
だが。
今朝のグロリアーナは、起床の時点で躓いた。
昨日は、心待ちにしていた小説の新刊の発売日だった。
日の曜日のうちに読み終えられると思っていたけれど、衝撃の伏線回収に驚いて、何度か行きつ戻りつしながら読み進めた結果、普段よりも就寝時刻が遅かったのは認める。
体が覚えているからか、普段通り、五時半に目が覚めたのはいいものの、まだ寝惚け眼のまま、目を擦りつつ用足しに行って…声にならない悲鳴を上げた。
下着を下ろし、便座に腰を下ろすまでは、特に気にも留めなかったのだ。
いざ、用を足そうとして、股の間の違和感に、寝惚けたままの目を向けた。
そして、己の股座に合ってはならないものを発見した瞬間、眠気が吹き飛んだ。
(何これ…!って、何かは判るけど、何これ…!)
あり得ない。
どうして。
どうして、令嬢として生まれた自分の股間に、男性のシンボルが鎮座ましましているのか。
二つ年下の弟ジャレッドが生まれたばかりの頃、おしめを交換する時に見たものと、形状は異なるけれど、用途は同じだろう。
男性器は、成長と共に形状変化するものだ、と言う知識はある。
夢ではないか、と突いてみようとしたものの、触れるのも恐ろしくて手を出しあぐねていると、その手にも違和感を覚えた。
大きい。
明らかに、見慣れたサイズではない手は、筋張っていて指も長く、血管が僅かに浮いて見える。
(…ちょっと、待って…)
俯き加減に動揺している視界で揺れるのは、見慣れた藍色の癖毛ではなく、艶やかで真っ直ぐな深い紅毛。
「嘘、でしょ…」
震える手で、誤ってそれに触れてしまわないように恐る恐る下着を上げて、バスルームを見回し、鏡を発見する。
躊躇いながらも恐々と覗いてみると…そこには、予想通り、と言うか、切実にそうでなければよかった、と思う人の顔が映っていた。
マクシミリアン・グレアム・フローニカ。
フローニカ王国の第一王子にして、グロリアーナの同い年の婚約者である彼が、鏡の向こうから、不安そうに青褪めた顔でグロリアーナを見つめ返している。
エメラルドの翠瞳。
肩先まで伸びたルビーのように艶やかな深紅の髪は、寝癖なのか、毛先が僅かに跳ねている。
幼い頃は少女に見紛うばかりに透き通る顔立ちだった彼だが、十八になった今は、誰もが認める美丈夫に成長していた。
他国の姫君達が恍惚と目を奪われ、彼の隣に並ぶグロリアーナは、どれだけ睨みつけられた事か覚えてもいない。
家族以外で、最も見慣れた男性の顔だ。
何しろ、婚約者となってから既に八年。
グロリアーナは王子妃教育を受ける為に王宮に通っていたし、その際に、婚約者の交流としてお茶会の時間が取られていた。
五年前に学園に入学してからは同じ特待クラスの級長と副級長として、上級生になってからは生徒会の会長と副会長として、社交界デビューしてからは王宮で開かれる公式行事のパートナーとして、長い時間を過ごした仲だ。
彼の顔を、見間違える筈もない。
それでもまだ信じられなくて、ぺた、と右手で頬に触れると、鏡の中のマクシミリアンも、ぺた、と頬に触れた。
ちくり。
掌に刺すような痛みを感じて、じっと鏡を覗くと、細い髭がまばらに生えている事に気づく。
(…おひげ…)
考えてみれば当たり前の事だけれど、マクシミリアンはもう、髭の生える成人男性だった。
一筋の乱れも許さず、完璧に身の回りを整えている彼しか知らないから、グロリアーナは、マクシミリアンにも髭が生えるのだと言う発想がなかった。
不敬かもしれない、と思いつつ、そのまま、頬をつねってみると、マクシミリアンも同じ動作をする。
痛い。
じん、と広がる痛みに、筋力も男性のものなのだ、とグロリアーナは乾いた笑いを浮かべた。
あり得ない。
夢ならば、早く覚めて欲しい。
「これは夢これは夢これは夢…!」
十回程繰り返してみたけれど、何一つ変化は起きず、グロリアーナは震えながら、ずきずきと痛み始めたこめかみを、両手で押さえる。
「一体…何が、どうなって…」
もしや、精神的な負荷がかかり過ぎて、己の姿がマクシミリアンの姿に見える病気に罹ってしまったのだろうか。
見た事もないのにやけにリアルな男性器から目を逸らして、用足しを済ませる。
どれだけ焦っていても、生理的欲求に変化はないらしく、いい加減、我慢の限界だった。
もぞもぞと落ち着かなかった股座が収まって、漸く人心地つく。
人間、慌てたまま思考すると、碌な事にならない事は、十分に理解している。
一回だけでは足りず、三回深呼吸すると、グロリアーナは改めて、バスルームを見回した。
…見覚えがない。
少なくとも、ラウリントン公爵邸の私室のバスルームでは、ない。
そろ…っと寝室に戻ってみたものの、やはり、見覚えがなかった。
マクシミリアンの私室だろうか、と考えてみたが、八年の婚約期間のうち、互いの私室を訪れた事は皆無だ。
貴族階級において、未婚の男女の交際は、潔白を求められる。
密室で二人きりになるような事があってはならないし、親愛以上の接触も禁止だ。
ましてや、それが王子と公爵令嬢ならば、一層の事。
万が一の間違いが合ってはならない。
互いに侍従、侍女が常に付き従い、面会場所も私室は厳禁だ。
とは言え、「親愛以上の接触」、「万が一の間違い」と言う言葉が何を指しているのか、実は、グロリアーナにはいまいち判っていない。
勿論、王子妃教育の一環として子作りについて学んではいるが、あれは結婚後の話であり、初夜の話だ。
その前段階の話、と言われても、具体的にどう言う事なのか、何を指しているのか、ピンと来ない。
常に無表情の王子妃教育担当ベリンダ夫人が、少し頬を染めて咳払いをしながら、
「グロリアーナ様も様々、お耳になさっている事でしょうが…」
と言っていたが、同世代の貴族令嬢達は、友人同士の語らいの中で異性との恋愛話に興じる事もあるようだけれど、グロリアーナには、そのような話をする相手もいない。
ただ一つ、グロリアーナが理解しているのは、彼女が男性と二人きりになる事など到底不可能だ、と言う事だけだ。
公爵令嬢であるグロリアーナには、常に侍女か護衛が付き従っているし、学園内部では「生徒は皆平等」との建前の下、従者は付き添わない代わりに、王子の婚約者として、全校生徒の視線が常にグロリアーナを追っている。
王立学園に通うのは、貴族の子女と裕福な平民。
彼等は、自分達が戴く王族が、真に忠誠を捧げるに相応しいか、厳しい目で審査している。
将来の王族となるマクシミリアンの婚約者グロリアーナに対しても同じ事で、彼女に僅かにでも瑕疵があれば、引きずり下ろし、成り代わろうとする令嬢は一人や二人ではない。
条件で選ばれただけのグロリアーナは、条件を満たせなくなった時、もしくはより良い条件を備えた令嬢が現れた時に、その地位を追われる。
現状、『婚約者』とは言え、マクシミリアンとグロリアーナは、全くの他人ではない、と言う関係でしかないのだ。
そして、婚約者である以上、グロリアーナは己の出来る全力で役目を全うする他ない。
一度、固く目を瞑ると、記憶にない落ち着いた木製の家具と、臙脂色にクリームと金で細かな模様が描かれた壁紙を眺めながら、グロリアーナは、
(ラウリントン邸ではない、事は判ったわ…)
と頷く。
何もかもが判らない中、一つでも多くの情報が欲しい。
動いていないと、恐怖に圧し潰されてしまいそうで、不安な気持ちから少しでも目を逸らす為に、今、自分に出来る最善を探す。
ベッドサイドのチェストの引き出しを、心中でマクシミリアンに詫びながら、幾つか開けてみる。
メモ帳とペン、女神の聖句が掛かれた聖書、そして、
「え…」
幼いグロリアーナの姿絵。
確か、婚約者に内定する前に描かれたものだった筈だ。
今よりも頬の線はふっくらとしているが、自分で見てもきつい顔立ちに見える少女が、こちらを見ている。
何故、こんなものが。
動揺しながらも、引き出しの中に元の通りに仕舞い込み、続いて、別の場所を探す。
夜着のまま、寝室に隣接する広いウォークインクローゼットに足を踏み入れると、装飾は控えめながらも品と質のいい服がずらりと並ぶ中に、学園の制服が三着掛かっていた。
学園に通う生徒は皆、同じデザインの制服を身に纏っているけれど、王族であるマクシミリアンの制服は、同一デザインだが使われている生地が違う。
触れた布地の手触りに殆ど答えを理解しながらも、グロリアーナはそっと、上着の内側を確認した。
いずれも、『マクシミリアン・グレアム・フローニカ』の名が刺繍されていると言う事は…。
「…やっぱり、殿下のお部屋…」
聞き慣れたマクシミリアンの声と少し違って聞こえるのは、体内を伝わって聞こえる音もあるからだろう。
一体、何がどうしてこんな事態に陥ったのか理解はできない。
できないけれど現実として、グロリアーナは何故か、マクシミリアンの体の中にいる。
はぁ、と落とした溜息は、グロリアーナが思った以上に大きく重い音を室内に落とした。
この所、思うに任せない現状に苛立っていたのは事実だ。
マクシミリアンとの関係も、ギクシャクしたものになりつつあったのは否めない。
元々、婚約者とは言え、恋愛感情で結ばれたわけではない。
幼い頃から知る仲だし、この国をより発展させていこう、と言う志を同じくしているから、何とかやって来られただけの事。
マクシミリアンにとって、自分は精々、『戦友』程度の間柄だろう、とグロリアーナは理解していた。
学園でも、社交界でも。
マクシミリアンに向けられる女性達の視線には、熱が籠っている。
美しい人に焦がれる熱、優秀な人に憧れる熱、強い人に惹かれる熱。
ただでさえ、人間的魅力に溢れる彼に、フローニカ王国第一王子の身分までついているのだ。
女性達が熱を上げるのも当然だ、と思う。
ただ、熱を上げ恋焦がれる視線を送りつつも、不躾に彼に近づく女性がいないのは、他でもない、グロリアーナと言う婚約者がいるからだ。
長い歴史を誇るラウリントン公爵家の息女にして、常に学年上位五位までに収まる優秀な成績を修める完璧な貴族令嬢。
多少、冷たそうな印象を与えるとしても、グロリアーナを醜いと言う者はあるまい。
王族に次いで高い地位を持ち、優秀な能力を誇る彼女以上に、王子妃に相応しい条件を満たす同年代の令嬢はいない。
内心でどう思っていようと、国の認めた婚約者を押し退ける危険を、誰が冒すものか。
冷静に分析できる程度には、グロリアーナは客観的に二人の関係性を見られている。
だが。
いたのだ、その危険を冒そうと言う者が。
彼女の存在が、精神的負荷になっていた自覚はある。
未知の反応を返す彼女に戸惑い、手をこまねいていたのも事実だ。
けれど、まさか。
(女神の悪戯…?)
フローニカ王国は、国教として大地の女神フロリーナを崇める国だ。
フロリーナは大地の女神だけあって、自然のように懐が深く、同時に気紛れな神。
建国の時代から、フロリーナは時折、人間に悪戯を仕掛ける、との神話は、知識として学んでいるが、しかし。
(でも…現実として、この体は殿下の体だし…)
大きくて、剣ダコなのかペンダコなのか少しデコボコしている手を、じっと見る。
人の精神と肉体を入れ替えたと言う話は知らないけれど、フロリーナは神だ。
神であれば、このような荒唐無稽な事もできるのではないか、と思ってしまう。
(…そもそも、私の体は今、どうなっているのかしら…)
不安からか、胸の奥がそわそわする。
現状、グロリアーナ一人の意志で、何かに阻害される事もなく、マクシミリアンの肉体を自由に動かす事ができる。
ならば、マクシミリアンの精神は、今、ここにない筈だ。
では、マクシミリアンが、入れ替わりにグロリアーナの体の中にいるのだろうか。
この所、順風満帆な関係と言えなくなっているのは事実だけれど、彼ならば、グロリアーナの体に無体な事も辱める事もしないだろう、と信頼はしている。
品行方正、謹厳実直、絵に描いたような王子様。
それが、マクシミリアンだ。
けれど、それとこれとは別の話だ。
起き抜けの爆発した頭であるとか、寝相が余り良くなくて寝乱れた夜着とか、見られたら羞恥でどうなるか判らない。
一刻も早く登校して、『グロリアーナ』の様子を確認しなくては。
その時だった。
こんこん、とノックの音と共に、顔馴染みの侍従の声が掛けられ、グロリアーナはびくりと肩を竦めた。
「殿下、おはようございます。本日は随分と早いお目覚めですね」
グロリアーナが時計を見ると、時刻は七時。
起床から一時間半。
普段ならば、朝食の時間だ。
だが、これで早い、とは、マクシミリアンは普段、何時に起きているのか。
マクシミリアンは、優秀な人だ。
もっと規則正しい生活を送っているものだと、勝手に思い込んでいた。
「…あぁ、おはよう」
バクバクとうるさい心臓の音を聞きながら、マクシミリアンと彼の侍従ケビンの普段の会話を思い返しながら返答すると、ケビンが朝食を載せたワゴンと共に入室して来る。
「一体、どんな風の吹き回しです?私がお起こしする前にお目覚めになっているなんて。いつも、『あと五分』『あと五分』と往生際が悪いのに」
随分な言われようだ。
完璧な王子と呼ばれているマクシミリアンも、朝には弱いのか。
意外に思いながらも、何処か親近感を覚える。
「殿下。ご登校されるまでに、昨夜の残務に目を通してくださいませ」
渡されたのは、書類の束。
書類を確認しながら食べられるようになのか、朝食は直接、手で抓めるものばかりだった。
どうやら、夜着のままで朝食を取るらしい。
「あぁ…」
生返事をしながら、微かに震える手で書面を受け取る。
今、此処で、自分がマクシミリアンではなくグロリアーナだと告白したら、どうなるか。
幾ら、マクシミリアンの側に仕えており、グロリアーナとの付き合いも長いケビンとは言え、
「あぁ、やっぱり、ラウリントン公爵令嬢でしたか!だと思いました!」
とはならないだろう。
何しろ、外見はマクシミリアンでしかないのだから。
マクシミリアンの気が触れた、と大騒ぎになる事は、必定だ。
一体誰が、入れ替わりを証明出来ると言うのか。
状況がもう少し判明しない限り、黙っている方がいい、と判断したグロリアーナは、沈黙を選択して受け取った書面に目を走らせた。
王子妃教育で得た知識でも何とかなりそうで、内心、ホッとしながら、マクシミリアンはいつも、こんな一日のスタートを切っているのか、と驚く。
学園に通う学生と言えども、今年、十八歳になったマクシミリアンは、立派な成人王族の一員だ。
婚約者として公務に伴われる事もあるから、彼が王家の執務に携わっている事は知っていたけれど、登校前の慌ただしい時間ですら書類に忙殺されているとは、全く知らなかった。
昨夜の残務、と言う事は、彼は休日も書類確認をしていると言う事だ。
「これと…これは、このまま進めていい。こちらは、予算の見直しを。開催時期を考えると、料金の変動が想定される品が複数ある」
「畏まりました。本日のご予定ですが、授業終了後にお迎えに上がります馬車で、大神殿を訪問。女神像発光現象について、大神官様から直接、殿下にご説明をとの事です」
昨日、王都にあるフロリーナ大神殿の女神像が、建物全体が輝く程に強烈な光を放ったとの報告が寄せられた。
女神像が光る、と言う事象は数十年に一度の頻度で発生していると言うが、建物全体が光る程、と言うのは、随分と規模が大きい。
「また、調査の為にエアリンド帝国に送った第三陣は、近日帰還予定との連絡が入っております」
「…そうか」
エアリンド帝国は、フローニカ王国に国境を接する大国だ。
かの国の版図にフローニカが飲み込まれていないのは、女神フロリーナの加護によるものだ、とグロリアーナは教わっている。
『加護』は具体的に目に見えるものではないが、フローニカ王国が小国ながらも豊かな大地を持ち、温暖で住みやすい国なのは、女神の加護によるのだと言う。
その豊かな土地を、エアリンド帝国が狙わない筈もない。
しかし、建国以来、フローニカが他国の侵略を受けた事はないのだ。
それこそが、女神フロリーナがフローニカに加護を与えている証左なのだ、とグロリアーナは聞いた。
「殿下、くれぐれも、大神殿に向かう件を例のご令嬢に察知されないよう、お気をつけください。以前も、かのご令嬢は、どうやって知ったものか、殿下の訪問先に先回りしておりましたゆえ」
「…判っている」
かのご令嬢に心当たりがあって、知らず、グロリアーナの眉が顰められる。
彼女の出現で、それまで、熱く燃え上がるような関係ではなくとも、穏やかな関係性を築いていたマクシミリアンとグロリアーナの間が、ギスギスと軋んだものになった。
とてもではないが、良い感情を抱ける相手ではない。
だが、ケビンにとっても彼女が良い印象ではないようで、内心、首を傾げた。
学園で、彼女は着実に自分の居場所を築いている。
彼女を受け入れている全員が必ずしも純粋な好意を抱いているわけではなく、そこには打算もあるのだろうけれど、少なくとも表立って批判する者は一部だ。
中でも、マクシミリアン自身が受け入れ側の筆頭だと思っているグロリアーナにとって、ケビンの反応は意外なものだった。
グロリアーナが書類に目を通しながら、無作法と思いつつも疑われないようマクシミリアンの振りをして朝食を取る背後で、ケビンは慣れた手つきで深紅の髪を梳き、うなじで一つに結わえた。
食事しながら身支度とは、どれだけ時間が足りないと言うのか。
「殿下、本日も、藍色の髪紐でよろしいでしょうか」
「…あぁ」
藍色、と聞いて、咄嗟に自分の髪色を思い出したものの、思い返せばマクシミリアンは大体いつも、藍色の組紐で髪を結んでいる。
恋人の瞳や髪の色を身に着ける、と言うエピソードを小説で読んだ事はあるけれど、グロリアーナとマクシミリアンの関係は、そのような甘やかなものではないから、偶然だろう。
恐らく、マクシミリアンの深紅の髪に合う色、と言う事で選ばれているのだ。
「そう言えば、殿下。そろそろ、ラウリントン公爵令嬢に髪紐の件について、それとなくお話されましたか?」
(…ん?)
マクシミリアンの髪紐が藍色である事には気づいていたが、彼がその件について触れた記憶はない。
「いや…」
「殿下…」
何故か、ケビンは溜息を吐くと、大仰に首を横に振った。
「よろしいですか。ただでさえ、例のご令嬢の件でラウリントン公爵令嬢との関係に隙間風が吹きつつあるのです。お相手のお色を身に着ける、お相手の姿絵を寝る前に眺める。形からで構いませんから、あの方を婚約者として尊重していると、積極的にアピールしてください。くれぐれも、ご本人にきちんと伝わるように、ですよ。その上で、殿下ご自身もラウリントン公爵令嬢を心から愛する努力をなさらなくては」
サイドチェストに収められていた姿絵は、そんな目的で置かれていたのか。
だが、努力をせねば愛せない程に、マクシミリアンの心は遠いのか、と自分の事を差し置いて、グロリアーナは落ち込んだ。
そもそも、努力を要する気持ちなど、喜んで受け入れられる筈もない。
「殿下もそうですが、ラウリントン公爵令嬢も、色恋沙汰には疎くていらっしゃいますからね…お二人とも、仕事熱心なのはよろしいのですが、情緒方面の発達がちょっと…幼いうちに婚約者をお決めになった弊害でしょうかねぇ…」
首を横に振るケビンに、随分とマクシミリアンに対して厳しい事を言うのだな、とグロリアーナは意外に思った。
グロリアーナが面会する時のケビンは、いかにも忠実なマクシミリアンの従者、と言う佇まいだからだ。
確か、ケビンはマクシミリアンよりも七つばかり年上だった筈。
主であると同時に、目の離せない弟のような存在なのかもしれない。
同時にグロリアーナ自身の事も貶されているのだが、色恋に疎いのは事実なので、特に腹は立たない。
寧ろ、グロリアーナも助言が欲しい位だ。
「お二人のご結婚は、王家と公爵家の約束事。フローニカの民の為にも、睦まじくいて頂かなくては。その為にも、例のご令嬢の件を、早く片付けたいのですが…」
やはり、ケビンはかのご令嬢を、問題だと思っているようだ。
自分の目に見えていたものが、どうやら形通りのものではないらしい、とグロリアーナは心に留める。
その後、『マクシミリアンとして』グロリアーナは、次から次に書類の処理に追われた。
漸く髭をあたって着替え、登校の為の馬車に乗ったのは、八時半の事。
普段のグロリアーナであれば、とうに学校に到着している時間だ。
学校は九時に始業するから、八時四十五分を過ぎると馬車寄せが大渋滞する。
それが嫌で早くに登校するグロリアーナは、始業時間ぎりぎりに登校するマクシミリアンに内心眉を顰めていたのだが、朝からこれ程の執務を担っているのであれば、仕方がないかもしれない。
「では、行ってくる」
学園に到着し、御者に声を掛けて馬車を降りたグロリアーナを、何処か緊張した表情の『グロリアーナ』が待っていた。
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