刀剣遊戯

飼育係

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1st game

Interlude

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 それは、隆二が小学生の頃に起きた小さな悲劇。

 家庭科の調理実習の時の出来事だった。
 先生の話をろくに聞かずに勝手に包丁を扱った隆二は、野菜と一緒に指を切ってしまったのだ。
 他人から見れば取るに足りない怪我であったが、切った本人にとっては己が人生を根本から揺るがすほどの一大事だった。人差し指の第一関節辺りからドボドボと溢れ出るドス黒い血液を目の当たりにした隆二は戦慄と共に絶叫した。

 傷の痛みに恐怖した――のではない。生命の危機に恐怖したのでもない。
 自分の中にこれほどおぞましいものが詰まっているということに、刃物が人からそれを取り出すもっとも効果的な凶器であるということに。そして――それがこんなにも身近な場所にあるという事実に恐れおののいたのだ。
 有らん限りの力で傷口をタオルで抑えながら彼は思った。

 ――隠さなくてはならない。

 人という美しい生き物に、このような醜いものが詰まっているという現実を、もう二度と見たくない。
 隠さなくては。おぞましき記憶を。
 隠さなくては。危険な刃物を。

 結局、隆二はそのまま近隣の病院に運ばれ、数針を縫う手術を行うことになった。
 医者はそこまで深刻な怪我ではないと笑い飛ばし、実際後遺症等も特になかったのだが、隆二はその後も必要以上に刃物を恐れ、刃物に一切近づかなかった。
 家庭科の時間は欠席し、自宅でも台所には決して入らない。デパートや飲食店等、刃物が置いてある可能性のある場所は極力避けた。万が一にもそれが目に映った時は、まるで発狂したかのような奇声をあげてその場から逃げ出した。それは彼が中学を卒業するまで続いた。
 そんな隆二の刃物恐怖症も、高校を卒業する頃にはずいぶんとマシになり、今ではこうして刃物の祭りに参加できるまでに回復していた。彼自身、あれは忌まわしき過去として風化しつつあることを実感していた。


 しかし彼を取り巻く運命はそれを許さない。
 死神の道化師がそれを許さない。
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