刀剣遊戯

飼育係

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2nd game

P.M. 19:00

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 爆発音を聞きつけた観光客により騒然となったホテル内だが、隆一たちはどうにか脱出することに成功した。
 ホテルマンの格好をしているため途中、客に何度も詰問されたが「上杉という客が危険な爆発物を所持しており、そのせいで同僚が怪我をした。今すぐ病院に連れて行かないといけないからどいてくれ」と頼むとほとんどの客が納得して道を空けてくれた。

 ――世の中まだマだ捨てたものじゃない。
 世間の人情をその身に受けて隆一は内心ほくそ笑む。その恩義をこれから仇で返すのかと思うと下半身の滾りを抑えられない。不感症の彼を絶頂に導くものは今も昔も禁忌と背徳だけだ。


「たぶんこの辺りに落ちタと思うのですが……」


 未だ煙をあげている301号室を遠目で認めると、隆一は上杉の身柄を抑えるべく周辺を捜索する。本来は天漢がやるべき仕事なのだが、本人が虫の息で立つこともままならないので仕方ない。今回だけの特別サービスだ。

 上杉の身体はすぐに見つかった。
 思いの外強く吹き飛んだらしく、301号室からずいぶんと離れた路上で黒こげになって転がっていた。
 どこからどう見ても死んでいるが、もしかしたらまだ心臓が動いている可能性があるかもと思い近づいて確かめてみる。


「あレ?」


 腕を取って脈を確かめ、胸に耳を当ててみたが、上杉はやはり死んでいた。
 そのこと自体は決しておかしいことではない。手榴弾の直撃を受けて生きている人間のほうが稀だ。
 隆一が首を捻ったのは上杉の遺体の状態にある。
 手榴弾の爆発で死んだはずの上杉の遺体の脳天に、一本のバタフライナイフが突き刺さっていたのだ。


「まだギリギリ生きてたから、私が止めを刺しておいたわよ」


 上杉の安否を確認していた隆一の肩を軽くポンと叩いたのは無月だった。
 隆一が驚いた顔で振り向くと無月は花のような笑顔を見せる。


「ナンデあなたがここに居るんですカ」

「なんでも何も、あなたたちの跡をつけたってだけよ」

「これデも尾行されないよう気をつけたつもりナんですが……」

「無駄無駄。私のお父様の職業を忘れてない? 祭りの巡回に来ていた警察ほぼ全員が私の味方なのよ。あなたたちの居場所を突き止めることぐらい刃物屋の店員の死を隠蔽するよりよっぽど簡単よ」


 ――職権乱用ですよォ……。
 隆一は脱力して大げさにうなだれて見せた。


「あなたたちがここにチェックインしたって情報を聞きつけてやってきたら、いきなりホテルの窓がドッカン。私の前に死にかけてた上杉さんが転がり落ちてきたから漁夫の利と言わんばかりに殺っちゃった」

「その人、本当に生きてたんデスか? すでに死んでたところをグサッと殺ったダけでは……」

「仮にすでに死んでいたとしても、最初に刃物を突き立てたのは私よ。何か問題、あるかしら?」

「いいえ、全然まッたく問題ございマせん」


 隆一は渋々といった感じに懐から白い造花を取り出すと、それを無月の胸元に挿す。


「第二のゲーム <狩猟> の勝者は、ゆびきりさんデス」


 隆一は大きなため息と共に力なくゲームの終了を宣言した。


「なんでそんなふてくされてるよ。相変わらず負けず嫌いねえ」

「ふてくされてなんかいまセんよ。悔しくナんてぜんぜんありません。だって負けたのは天漢さんであって私じゃアりませんから。私今回はただのジャッジですカら」

「ホントに子供ね。もっとも、あなたのそんなところも大好きなんだけど」


 無邪気に抱きついてきた無月を面倒くさげに払いのけながら、隆一は無月の護衛兼ジャッジ担当の黒服に事後処理を指示し、自身は発熱を起こして意識が朦朧としている天漢を抱き抱え、最寄りの闇病院へと向かった。


「ハぁ~……今回はトンだ貧乏くじを引かされてしマいましたねェ」


 ――デスが、親友と一緒にヤンチャをするのはやっぱり楽しかったデス。


 楽車天漢。
 それは人間関係を嫌う隆一が、唯一心を許せる親友。
 刀剣遊戯のメンバーの中ではもっとも正常まともな男でもある。
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