6 / 32
異世界到着
感嘆 (ルル目線)
しおりを挟む
(本当にすごかったなぁ……)
ルルは思い出しながら、感嘆のため息を吐く。
ビオの大草原。それは決してソロで入るべき場所では無かった。
タチの悪い強さを持ったモンスターたちが、我が物顔で跋扈している。
冒険者ギルドも、回復士を含む3人編成以上を推奨していたし、駆け出しの冒険者が行こうとするものなら、ぶん殴ってでも止められるだろう。
少しばかり火と風の魔法が使えるだけの、魔法使い女の子が、一人で行く様な場所では無いのだ。
ルルだって、そんな事はとっくに知っている。
知っているけど……
ルルは孤児だった。
生まれて間も無い頃に捨てられたのだ。
冒険者ギルドがあるナーゴの街から、山一つ超えた所にある、ココリ村。
その村の入り口に、小さな籠に入れて置かれていた。
不憫に思った老人が引き取り、ルルはそこで育って行く事になる。
農業や狩りを生業として成り立つ村であり、そこでの暮らしは慎ましくはあれど、笑顔と活気に溢れていた。
老人(ルルはじぃじと呼んだ)だけで無く、村人たちは、孤児であるルルに対しても、優しく、厳しく、皆が家族の様に接した。
ルルの魔法の資質が分かった時には、それはもう大騒ぎで、村総出で、お祝いと称した祭りが開かれた程だ。
ルルは沢山笑い、泣き、幸せな日々を送ってきた。
16歳のある日。育ての親である、じぃじが他界した。寿命であった。
おまえがやりたい事をやりなさい。
息を引き取る直前、泣きじゃくるルルに、じぃじは告げた。
やりたい事……
考えた事も無かった。
朝起きて、じぃじと散歩に行く事。
ご飯を作る事。隣の畑の手伝いや、狩猟された鳥や野うさぎを解体する事。
魔法の練習をする事。友達と遊ぶ事。
どれもが当たり前に行って来た事。
そんな毎日の繰り返しの中で、ルルが大好きだったものがある。
お風呂から上がり、寝るまでの間、じぃじが冒険者だった頃の話を聞く事。
その時間が大好きで、ルルは毎日せがんだ。じぃじは同じ話も何度も披露したが、ルルにとっては、それすらも楽しかった。
冒険者になってみたい……
心の中に小さく芽生えていた気持ちに、ルルは初めて光を当てた。
じぃじが居なくなってからも、しばらくの間は、変わらない毎日を過ごした。
ただ一つ、ルルに訪れた変化。
日毎に強くなる、冒険者への憧れ。
じぃじみたいに……
バッタバッタとモンスターをやっつけたい。
困っている人を助けたい。
仲間と一緒に、火の山に登ったり、凍りの大地を縦断したり、息を呑む様な冒険をしてみたい。
それに……
冒険者になって活躍すれば、お金も沢山貰えるらしい。
孤児である自分の事を、家族として迎えてくれたこの村に、恩返しも出来る。
妄想はルルの心を躍らせ、昂らせる。
ルルは村から旅立つ事を決めた。
村人たちは驚き、止めようと説得したが、ルルは何度も想いを伝え続けた。
揺らがぬ決意を知った村人たちは最後には折れ、快く送り出してくれた。
ルルの、未来への期待に輝く表情を見て、送り出す以外無かった、という方が正しいだろう。
ルルはココリ村を離れ、ナーゴの街へとやって来た。
そして、膨らませた希望と期待は、あっさりと打ち砕かれた。
(かっこ良かったなぁ……アマタくん)
颯爽と目の前に現れたアマタは、ブレードウルフ(アマタは犬と呼んでいたが)の群れを、たった1人で殲滅したのだ。あろうことか、何の武器も持たずに。
返り血を浴びながら、淡々とブレードウルフを倒して行く様は、まるで鬼人の様であった。
ブレードウルフに囲まれたからか、或いはアマタへのものなのか、ルルは恐怖に体を震わせながらも、いつしかその動きに見入っていた。
(それに……私……少し……お漏らししちゃったけど……)
思い出し、顔を真っ赤に染めるルル。
(気付かないふりしてくれた……)
あの時、ルルが流した涙は、恐怖からの解放もあったが、何よりも、アマタのさりげない優しさが最後の引き金となっていた。
サッと浄化魔法をかけ、おまけに傷まで治してくれた。
何事も無かったかの様な振る舞いに、ルルは涙を止められ無かった。ナーゴの街に来て以来、初めて感じた温かさ。
更にアマタは、ブレードウルフの素材を剥ぎ取りたいと言ったルルを手伝い、一緒に解体作業まで付き合った。
村で解体をしていたとは言え、野うさぎの何倍もの大きさのブレードウルフ。完全に解体するのは、小柄なルルには骨の折れる作業であった。
本来であれば、毛皮は防具や装飾品として重宝される。
筋張った肉も、干物にすれば携帯食になり、トロトロになるまで煮込めば、おかずにもつまみにもなる、人気の一品に。
しかし、1匹でも、解体するには時間が掛かる。その上、持ち運ぶには、ルルには重すぎた。
せめて、討伐の証になる、牙だけでも持ち帰れたら。
そんなルルの思いをよそに、興味津々のアマタは、やり方を教わりながら、テキパキと解体を進めて行く。
浄化魔法で死骸の側を綺麗にすると、解体ナイフを身に添わせ、毛皮を剥いで行く。水魔法で血を流しながら、骨から肉を外して行く。
あっという間に1匹解体し終えると、アマタは同じ要領で、次々と解体を進め、全てをバラし終えた。
パンパンに膨れ上がったルルの素材袋。これは2人では運べない、申し訳無さそうに告げるルルを見ると、アマタは、ニッと笑い、その素材袋を、軽く担いだ。
(はぁー……本当に凄かったなぁ……)
ルルはもう一度大きく、感嘆のため息を吐いた。
ルルは思い出しながら、感嘆のため息を吐く。
ビオの大草原。それは決してソロで入るべき場所では無かった。
タチの悪い強さを持ったモンスターたちが、我が物顔で跋扈している。
冒険者ギルドも、回復士を含む3人編成以上を推奨していたし、駆け出しの冒険者が行こうとするものなら、ぶん殴ってでも止められるだろう。
少しばかり火と風の魔法が使えるだけの、魔法使い女の子が、一人で行く様な場所では無いのだ。
ルルだって、そんな事はとっくに知っている。
知っているけど……
ルルは孤児だった。
生まれて間も無い頃に捨てられたのだ。
冒険者ギルドがあるナーゴの街から、山一つ超えた所にある、ココリ村。
その村の入り口に、小さな籠に入れて置かれていた。
不憫に思った老人が引き取り、ルルはそこで育って行く事になる。
農業や狩りを生業として成り立つ村であり、そこでの暮らしは慎ましくはあれど、笑顔と活気に溢れていた。
老人(ルルはじぃじと呼んだ)だけで無く、村人たちは、孤児であるルルに対しても、優しく、厳しく、皆が家族の様に接した。
ルルの魔法の資質が分かった時には、それはもう大騒ぎで、村総出で、お祝いと称した祭りが開かれた程だ。
ルルは沢山笑い、泣き、幸せな日々を送ってきた。
16歳のある日。育ての親である、じぃじが他界した。寿命であった。
おまえがやりたい事をやりなさい。
息を引き取る直前、泣きじゃくるルルに、じぃじは告げた。
やりたい事……
考えた事も無かった。
朝起きて、じぃじと散歩に行く事。
ご飯を作る事。隣の畑の手伝いや、狩猟された鳥や野うさぎを解体する事。
魔法の練習をする事。友達と遊ぶ事。
どれもが当たり前に行って来た事。
そんな毎日の繰り返しの中で、ルルが大好きだったものがある。
お風呂から上がり、寝るまでの間、じぃじが冒険者だった頃の話を聞く事。
その時間が大好きで、ルルは毎日せがんだ。じぃじは同じ話も何度も披露したが、ルルにとっては、それすらも楽しかった。
冒険者になってみたい……
心の中に小さく芽生えていた気持ちに、ルルは初めて光を当てた。
じぃじが居なくなってからも、しばらくの間は、変わらない毎日を過ごした。
ただ一つ、ルルに訪れた変化。
日毎に強くなる、冒険者への憧れ。
じぃじみたいに……
バッタバッタとモンスターをやっつけたい。
困っている人を助けたい。
仲間と一緒に、火の山に登ったり、凍りの大地を縦断したり、息を呑む様な冒険をしてみたい。
それに……
冒険者になって活躍すれば、お金も沢山貰えるらしい。
孤児である自分の事を、家族として迎えてくれたこの村に、恩返しも出来る。
妄想はルルの心を躍らせ、昂らせる。
ルルは村から旅立つ事を決めた。
村人たちは驚き、止めようと説得したが、ルルは何度も想いを伝え続けた。
揺らがぬ決意を知った村人たちは最後には折れ、快く送り出してくれた。
ルルの、未来への期待に輝く表情を見て、送り出す以外無かった、という方が正しいだろう。
ルルはココリ村を離れ、ナーゴの街へとやって来た。
そして、膨らませた希望と期待は、あっさりと打ち砕かれた。
(かっこ良かったなぁ……アマタくん)
颯爽と目の前に現れたアマタは、ブレードウルフ(アマタは犬と呼んでいたが)の群れを、たった1人で殲滅したのだ。あろうことか、何の武器も持たずに。
返り血を浴びながら、淡々とブレードウルフを倒して行く様は、まるで鬼人の様であった。
ブレードウルフに囲まれたからか、或いはアマタへのものなのか、ルルは恐怖に体を震わせながらも、いつしかその動きに見入っていた。
(それに……私……少し……お漏らししちゃったけど……)
思い出し、顔を真っ赤に染めるルル。
(気付かないふりしてくれた……)
あの時、ルルが流した涙は、恐怖からの解放もあったが、何よりも、アマタのさりげない優しさが最後の引き金となっていた。
サッと浄化魔法をかけ、おまけに傷まで治してくれた。
何事も無かったかの様な振る舞いに、ルルは涙を止められ無かった。ナーゴの街に来て以来、初めて感じた温かさ。
更にアマタは、ブレードウルフの素材を剥ぎ取りたいと言ったルルを手伝い、一緒に解体作業まで付き合った。
村で解体をしていたとは言え、野うさぎの何倍もの大きさのブレードウルフ。完全に解体するのは、小柄なルルには骨の折れる作業であった。
本来であれば、毛皮は防具や装飾品として重宝される。
筋張った肉も、干物にすれば携帯食になり、トロトロになるまで煮込めば、おかずにもつまみにもなる、人気の一品に。
しかし、1匹でも、解体するには時間が掛かる。その上、持ち運ぶには、ルルには重すぎた。
せめて、討伐の証になる、牙だけでも持ち帰れたら。
そんなルルの思いをよそに、興味津々のアマタは、やり方を教わりながら、テキパキと解体を進めて行く。
浄化魔法で死骸の側を綺麗にすると、解体ナイフを身に添わせ、毛皮を剥いで行く。水魔法で血を流しながら、骨から肉を外して行く。
あっという間に1匹解体し終えると、アマタは同じ要領で、次々と解体を進め、全てをバラし終えた。
パンパンに膨れ上がったルルの素材袋。これは2人では運べない、申し訳無さそうに告げるルルを見ると、アマタは、ニッと笑い、その素材袋を、軽く担いだ。
(はぁー……本当に凄かったなぁ……)
ルルはもう一度大きく、感嘆のため息を吐いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
165
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる