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異世界到着

感嘆 (ルル目線)

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(本当にすごかったなぁ……)

 ルルは思い出しながら、感嘆のため息を吐く。


 ビオの大草原。それは決してソロで入るべき場所では無かった。
 タチの悪い強さを持ったモンスターたちが、我が物顔で跋扈している。

 冒険者ギルドも、回復士ヒーラーを含む3人編成スリーマンセル以上を推奨していたし、駆け出しの冒険者が行こうとするものなら、ぶん殴ってでも止められるだろう。
 
 少しばかり火と風の魔法が使えるだけの、魔法使い女の子が、一人で行く様な場所では無いのだ。
 ルルだって、そんな事はとっくに知っている。

 知っているけど……
 

 ルルは孤児だった。
 生まれて間も無い頃に捨てられたのだ。

 冒険者ギルドがあるナーゴの街から、山一つ超えた所にある、ココリ村。
 その村の入り口に、小さな籠に入れて置かれていた。
 不憫に思った老人が引き取り、ルルはそこで育って行く事になる。

 農業や狩りを生業として成り立つ村であり、そこでの暮らしは慎ましくはあれど、笑顔と活気に溢れていた。
 老人(ルルはじぃじと呼んだ)だけで無く、村人たちは、孤児であるルルに対しても、優しく、厳しく、皆が家族の様に接した。

 ルルの魔法の資質が分かった時には、それはもう大騒ぎで、村総出で、お祝いと称した祭りが開かれた程だ。

 ルルは沢山笑い、泣き、幸せな日々を送ってきた。
 
 16歳のある日。育ての親である、じぃじが他界した。寿命であった。

おまえがやりたい事をやりなさい。

息を引き取る直前、泣きじゃくるルルに、じぃじは告げた。

 やりたい事……
考えた事も無かった。
 
 朝起きて、じぃじと散歩に行く事。
 ご飯を作る事。隣の畑の手伝いや、狩猟された鳥や野うさぎを解体する事。 
 魔法の練習をする事。友達と遊ぶ事。

 どれもが当たり前に行って来た事。

 そんな毎日の繰り返しの中で、ルルが大好きだったものがある。

 お風呂から上がり、寝るまでの間、じぃじが冒険者だった頃の話を聞く事。

 その時間が大好きで、ルルは毎日せがんだ。じぃじは同じ話も何度も披露したが、ルルにとっては、それすらも楽しかった。

 冒険者になってみたい……

 心の中に小さく芽生えていた気持ちに、ルルは初めて光を当てた。

 じぃじが居なくなってからも、しばらくの間は、変わらない毎日を過ごした。
 ただ一つ、ルルに訪れた変化。
 日毎に強くなる、冒険者への憧れ。
 
 じぃじみたいに……
 
 バッタバッタとモンスターをやっつけたい。
 困っている人を助けたい。

 仲間と一緒に、火の山に登ったり、凍りの大地を縦断したり、息を呑む様な冒険をしてみたい。

 それに……

 冒険者になって活躍すれば、お金も沢山貰えるらしい。
 孤児である自分の事を、家族として迎えてくれたこの村に、恩返しも出来る。

 妄想はルルの心を躍らせ、昂らせる。

 ルルは村から旅立つ事を決めた。

 村人たちは驚き、止めようと説得したが、ルルは何度も想いを伝え続けた。

 揺らがぬ決意を知った村人たちは最後には折れ、快く送り出してくれた。
 ルルの、未来への期待に輝く表情を見て、送り出す以外無かった、という方が正しいだろう。

 ルルはココリ村を離れ、ナーゴの街へとやって来た。

 そして、膨らませた希望と期待は、あっさりと打ち砕かれた。



(かっこ良かったなぁ……アマタくん)
 
 颯爽と目の前に現れたアマタは、ブレードウルフ(アマタは犬と呼んでいたが)の群れを、たった1人で殲滅したのだ。あろうことか、何の武器も持たずに。

 返り血を浴びながら、淡々とブレードウルフを倒して行く様は、まるで鬼人の様であった。
 ブレードウルフに囲まれたからか、或いはアマタへのものなのか、ルルは恐怖に体を震わせながらも、いつしかその動きに見入っていた。

(それに……私……少し……お漏らししちゃったけど……)

 思い出し、顔を真っ赤に染めるルル。

(気付かないふりしてくれた……)

 あの時、ルルが流した涙は、恐怖からの解放もあったが、何よりも、アマタのさりげない優しさが最後の引き金となっていた。
 
 サッと浄化魔法クリアをかけ、おまけに傷まで治してくれた。

 何事も無かったかの様な振る舞いに、ルルは涙を止められ無かった。ナーゴの街に来て以来、初めて感じた温かさ。

 更にアマタは、ブレードウルフの素材を剥ぎ取りたいと言ったルルを手伝い、一緒に解体作業まで付き合った。

 村で解体をしていたとは言え、野うさぎの何倍もの大きさのブレードウルフ。完全に解体するのは、小柄なルルには骨の折れる作業であった。

 本来であれば、毛皮は防具や装飾品として重宝される。
 筋張った肉も、干物にすれば携帯食になり、トロトロになるまで煮込めば、おかずにもつまみにもなる、人気の一品に。

 しかし、1匹でも、解体するには時間が掛かる。その上、持ち運ぶには、ルルには重すぎた。
 せめて、討伐の証になる、牙だけでも持ち帰れたら。
 
 そんなルルの思いをよそに、興味津々のアマタは、やり方を教わりながら、テキパキと解体を進めて行く。

 浄化魔法クリアで死骸の側を綺麗にすると、解体ナイフを身に添わせ、毛皮を剥いで行く。水魔法ウォーターで血を流しながら、骨から肉を外して行く。

 あっという間に1匹解体し終えると、アマタは同じ要領で、次々と解体を進め、全てをバラし終えた。
 
 パンパンに膨れ上がったルルの素材袋。これは2人では運べない、申し訳無さそうに告げるルルを見ると、アマタは、ニッと笑い、その素材袋を、軽く担いだ。

(はぁー……本当に凄かったなぁ……)

 ルルはもう一度大きく、感嘆のため息を吐いた。
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