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『月明かり』VS……

イアンとアマタ

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 宙に浮かんだ無数の石礫が、アマタに向かって飛んでいく。

粘性水魔法マディ

 高速度で発射された弾丸土魔法バレットは、アマタの体の前に現れた大きな水の球体に吸い込まれるように突き刺さり、その中で速度を失い静止する。

「ルル! クロ! お前たちはゴウムたちを安全な場所へ!」

 ルルは頷き、クロは1声小さく鳴くと、倒れてるゴウムたちの元へと駆け寄る。

「ゴウムさん! 大丈夫??」
「お、おぉ。すまねぇ。」

 ルルはゴウムに肩を貸し、アマタとイアンから離れた場所へ連れて行く。

 クロは倒れている者の服を咥えると、首の力だけで、ポンポンと放り投げて行く。

「ひぃぃ……」
 
 悲鳴を上げながら、宙に舞う冒険者とイアンの部下たちは、器用に仕分けられて行く。

巨石魔法ロック

 そんな1箇所にまとめられた部下に向かって、イアンは魔法を発動する。

「い、イアンさん??」

 部下たちは、頭上に現れた大岩を見て、顔色を変える。

「おい。仲間じゃないのか??」
「役立たずは必要無い。」

 アマタの言葉に、表情を一切変えず、淡々とイアンは吐き捨てる。

 イアンが更に魔力を込めると、大岩は部下たちへと落下していく。

 カッ、とクロが口を開ける。
 クロの口から発射された黒い球体が、大岩に直撃し、落下速度が緩まる。

「時空魔法か。猫風情が面白い魔法を使う。」

断裁風魔法シュレッド

 イアンが呟くと同時に、ルルは魔法を発現する。

 ブワッ、と吹き荒れる強風は大岩を包み込む。大岩は細かい砂となり、黒尽くめの男たちに降り注ぐ。

「赤杖の魔法使いか。」

 イアンはルルをじっと見つめる。

「邪魔だな。消えろ。」
「お前の相手は……」

 ルルに魔法を放とうとするイアン。
 アマタは駆け出し、地面を蹴り上げ宙に舞う。

「俺だろうが!!」

 思い切り繰り出したアマタの右蹴りが、イアンの横面にめり込む。
 そのまま吹き飛ばされたイアンは、街を守る外壁に叩きつけられ、地面に落下した。

 イアンの体の上に、ガラガラと崩れ落ちる外壁。

「アマタくん!」
「まだだ!」

 駆け寄ろうとしたルルを、アマタは手で制する。

 崩れ落ちた外壁が上げる土煙の中、イアンがゆっくりと立ち上がる。

「う、うそ??」

 大型モンスターを一撃でなぎ倒すアマタの蹴りをくらい、立ち上がるイアンを見て、ルルは驚きの声を上げる。

 イアンは体の土埃を払い、口元に付いた血を手で拭う。

「ふんっ。」

 手の甲に付いた血を見て、少しだけ不機嫌そうに口を歪めた浮かべたイアンは、ペッ、と口の中の血を吐き出す。
 地面に吐かれた血の中には、折れた奥歯が混じっている。

「お前、名前は??」

 血溜まりごと、折れた歯を踏み付けるイアン。

「アマタだ。」

 イアンに向け、拳を握り締め、構えるアマタ。

「『月明かり』、のアマタ。覚えておこう。」
「覚える必要はねえよ。」

 アマタがイアンに飛びかかろうとしたその時。

 アマタの後方で、バァァァン! と大きな爆発音が響き、ほぼ同時に、幾重にも重なる悲鳴が巻き起こる。

「!!」

 弾け飛ぶ黒尽くめの男たちが、振り向いたアマタの視界に飛び込んでくる。
 
「キャァっ!」

 飛び散る肉片。
 凄惨な光景に思わず目を覆うルル。

「ニャァァァ!」

 クロが鳴き声を上げ、ルルとクロを、ドーム状の光が包み込む。

 反発魔法バウンス
 クロが発現させた魔法は、爆風によって飛ばされた肉片や地面の欠片を、その方向を変え、跳ね返していく。

「ほう。見事なものだ。」

 感心したかのように呟くイアン。

 ルルとクロの無事を確かめると、アマタは再びイアンに体を向ける。

「てめぇっ! どう言うつもりだ!!」

 アマタの表情が、獰猛な色を浮かべ、ピシッ、と空気が張り詰める。

「言ったろう? 役立たずは必要無い、と。」
 
 カッ、と目を見開いたアマタは、前方へと大きく踏み込み、イアンとの距離を詰める。
 
「何をそんなに怒っているのだ?」

 繰り出されるアマタの拳を躱しながら、イアンは無表情のまま、アマタに問う。

「お前には関係の無い人間だろう?」
「うるせえっっ!!」

 空振りした拳の勢いのまま、アマタは、くるりと体を回転させ、もう一方の拳の甲を、イアンに叩き付ける。
 
 裏拳をこめかみに受け、少し仰反るイアン。ダメージがあるようには見えない。

(ノーダメージかよ。)

 攻撃を続けようとするアマタに向けて、イアンは、口を開く。

「解せんな。何故他人のために怒る?」

 イアンの言葉に、アマタはピタリと足を止める。

「まあな。俺にとっては他人だよ。でもな……」
 
 アマタの中で、自分でも理解出来ない感情が込み上げてくる。

「お前にとっては仲間だろう?……仲間は大切じゃないのか??」
 
 仲間とは無縁だったアマタは、この世界に来て、初めて仲間と呼べる存在に出会った。

 かつては見向きもしなかった、人との繋がりに、アマタの心は満たされた。

 今まで知らなかった温かさは、照れ臭く、そしてむず痒くもあったが、何とも心地良かった。

 誰かを必要とし、誰かに必要とされる事。

 それはアマタにとって、この世界で生きる上で、十分すぎる理由になっていた。

 だからこそ、苛立った。

 仲間を仲間とも思わないイアンに、過去の自分を重ね、それがまた、苛立ちを助長させた。

「ふん。何を言うかと思えば……くだらん。」

 一切表情を変えぬまま、右手に魔法を発動するイアン。

「もっと楽しめるかと思ったが……『月明かり』、のアマタ。お前もつまらぬ男だな。」

 発動した魔法は、拳大の石礫を作り出し、それをイアンは握り締める。

「せいぜい次に会うまでに、その甘さは捨てておく事だな。甘さは足を掬う。」
「次があるなんて思うか? 今ここでお前は終わりだよ。」

 その瞬間、イアンが握り締めていた石礫が、光を放つ。

 構えるアマタ。

 イアンは石礫を、下から、空中に向かい、ポーンと放り投げる。
 
 石礫は一閃し、そして弾け飛んだ。

 アマタは咄嗟に粘性水魔法マディを広げ、広範囲に飛び散る破片を受け止める。

「ルルっ!!」
「こっちは大丈夫だよ!!」

 チラッと目をやると、ルルはゴウムたち冒険者の前に立ち、その周りを、クロの反発魔法バウンスが包み込んでいる。

 ホッ、と胸を撫で下ろしたアマタは、イアンに目線を戻す。

 だが、すでにそこにイアンの姿は無かった。
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