負けない花

さかな

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街灯下の少女

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第1章「街灯下の少女」


武器を持った大人達がなんであの大きな城に町中に響く大きな声を出しながら突っ込んでいくのか当時は分からなかった。
ここヴォルメネット王国は代々バーナード家という偉いお家がこの国を治めていた。だが、バーナード家でいちばん偉い人。つまり、国でいちばん偉い国王が僕たち国民に対してすごい厳しい政策をとっていたようだ。ここは一年通してずっと寒い。国土も狭く食糧もたいした量は取れない。その貴重な食糧の大半を国王さんが国民から回収していたらしい。それに不満を抱くのは自然のことだっただろう。無論、僕の親もそうだった。食卓はいつも見窄らしいものであった。子供の頃の記憶は怒っている母ともっと怒っている父でいっぱいだった。怒っていた理由を知ったのはつい最近のことだ。
そんなこんなで頭に血が上り爆発しそうな感情を国民は当然の如くバーナード家に矛を向けた。バーナード家は訓練された兵がガチゴチのつよーい武器で抵抗。流石に素人軍団。国の駒とされてきた国民では勝てないのではと思った者も少なくなかった。。しかし、皮肉ながらこの国には教育というものが行き渡っていなかった。力技でぶち壊すしか知らないこの国の駒達はバーナード家を破壊した。バーナード家の一族は当然幹部達も殺されたと言う。だが、海の外の国との事情を知らない駒達はそのよくわからない言葉を話す人たちに戦争をふっかけられている。なんでかはよくわからないが。駒達はえいえいおーとふっかけられた戦争に乗ろうとしている。が、流石にこのままでは負けると気づいた駒達。いや、もう我々はバーナード家の駒ではない。自ら動くプレイヤーだ。我々プレイヤーは戦争に勝つための訓練?トレーニング?教育というのをリーダー格的な奴が始めた。
ここで少し遅れたが自己紹介をしよう。僕の名前はルドベキア=マルタン。生まれた時から右目が見えないのだ。あまり記憶にないが周りの人間からは気持ちが悪いと罵られていた。まぁ、この見えない右目のおかげで僕は訓練?トレーニング?はせずに賢くなるためだけの教育を受けていた。その海の外の奴らとの戦争に備え始めてから5年が経った。城に突っ込んだまだ駒達だった国民の中に両親がいてどちらも死んだ。今では死んだ者は英雄扱い。確かにこの国の革命に貢献したと言われるのに理解に苦しむはずもない。だが、実際残された子供はどうなのか。我が子供の未来をより良いものにするために戦った者達。目先の利潤を同機に突っ込んだ者達。僕の両親が前者であったことを祈るしかないが、どうであろうと僕は結局寂しいのだ。
まぁ僕の話はここまでだ。間違えた。ここからは今の僕の話だ。今というかたった今起きていることを説明しよう。僕は今、夜に外灯の火をつける仕事をしている。街を照らすには必要な仕事なのでやりがいはある。ただ話したいのはそれじゃない。ある外灯の下に僕と同じくらいの又はちょっと低いくらいの年齢の女の子が1週間ずっといるのだ。確かに、孤児は少なくはない。だがこの娘は異常だ。普通の孤児ならば飯を求め彷徨い、助けを乞い運が良ければ引き取られる。それなのに彼女は何も食わず雨の水だけを頼りに命を保っていた。話しかけるか?火をつけたので彼女の容姿はよく見える。その少女の顔はそれはそれはとても綺麗な顔立ちで絶世の美少女とはまさにこのことだろう。着ている服は元はそんなに悪くなかったのだろうが、ボロボロのボロ。。ってかほぼ裸だ。年頃の僕にとってはラッキーとも取れる状況だがそんな雑念はほんの少ししか無い。話しかけるか?あ、目があった。これで話しかけないほうが不自然だよな。

「なぁ君。大丈夫かい?ここずっとここにいるようだけど帰る場所がないのかい?あるなら送って行くし無いなら今晩僕の家に来るかい?」

「大丈夫」

彼女の最初の一言は本当に小さかった。まるで人間不信かのような。というか人間不信なのだろう。

「どう見ても大丈夫じゃ無いだろ。怖いかもしれないけど君がこのまま死ぬ姿は見たく無いんだ。頼むからもう少し話してくれないだろうか?」

「大丈夫」

それしか言わない彼女に若干の嫌気と助けてやりたいという善意が僕にはあった。

「決めた。今日は僕の家につれていくことにする。」

彼女は何も言わなかったが軽く頷いてくれた。僕の中でも安堵感はあった。人助けなのかわからんが人の役にたつのはやはり気持ちの良いものなんだなと感じた。

「君の名前はなんて言うんだい?」


彼女は小さな口で小さな声で大丈夫以外の言葉を発した。彼女の名前は、

アルペンローゼ

確かに彼女はそう言った。


僕は彼女を連れ1人で住む小さい家に帰った。言葉をあえて選ばずにいうととても、いや、端的にいうととても汚く悪臭がすごかった。すぐにシャワーを浴びさせて女物の服がなかったので少し大きかったが僕の服を着させて僅かばかりのパンを食べさせた。彼女は名前を言った後何も喋ってくれないがきっと怖いのだろうと思い寝させた。たぶん僕が怖いとかでは無いとは思う。僕は右目に眼帯つけてるけど結構かっこいいし問題無いだろ。そう、都合の良い解釈をして僕も眠りについた。


「おはよう。えーと、アルペンローゼだっけ?」

彼女より先に目を覚ました僕は朝ごはんの準備をしていた。どうやら彼女は目覚めが悪いらしい。四角形の家だが起きて2分以内に3面の壁に激突している。それで目が覚めたのか何も知らないようなあほヅラからキリッとした顔に戻った。どっちでも正直可愛いと思ったがまだ心の奥底に留めておこう。年下の女の子に手を出すのは僕的にはあまり好かんからな。いや、年下なのか?

「アルペンローゼ。きみの年齢はいくつなんだい?」

「15」

あーあ。年下でした。僕16だもん。いや待て!僕の誕生日は5月6日。今日は6月13日。もし彼女の誕生日がそれ以降ならまだチャンスはある!

「今年で15歳かい?」

「今年で16」

来たあぁぁぁああ!同い年きたあ!いやー僕こんな目だからさ~同い年の友達なんてできたことないし面倒見のいいというかむしろうざったい姉貴ズラする知り合いならいるんだけどための友人なんて最高すぎる!

「ごめんまだ僕の名前を名乗っていなかったね!僕の名前はルドベキア!よろしく!あのさ、友達になってくれよ!」

「嫌。」

おい~。さっきのどきどき返せー。こんな可愛い子に断られるとか僕どんだけ終わってんのよ。何がだめだったんだよー。

「そっか。まぁいい。しばらくここにいるかい?っと言っても僕もいうほど裕福じゃないんだ。ほぼ無理やり家に連れといて悪いんだけどもしここに住みたいなら働いて欲しいんだ。」

「いいの?私が生きてても。」

え、重い。僕の質問が悪かったのかな。でもそんなたいしたことでもないしむしろ僕からお願いしてる部分もあるんだけどな。絶対過去に暗い過去とかあるよねこれ。ここで聞き出す?でもなー、嫌なこと思い出させるとか嫌だよなー。とりあえず、格好つくセリフでも吐いておくか。

「生きちゃいけない人間なんてこの世にいないんだよ。」

こんな良さげな言葉をこんな軽い口で言ってしまって歴代の偉人方、読んだことはないがシェイクスピアとかに申し訳ない。特に知らんが。

「ルドベキアは私を誰か知りたいか。」

「え、知りたい」

咄嗟に言ってしまった。だが本当に言っていいものなのか僕にはわからない。わからないんだったらどうする?試験だったら知ったかぶりの解答をするがこれは試験じゃない。だがどうだろう。この記述に間違いがないなら○間違いがあるなら×と。もしわからないなら僕は×を選ぶだろう。だからこの場面の解は×。つまり、言ってはいけないのだ!我ながら賢いな。

「だが待って。言いたくないのなら言わなくて大丈夫だ。言いたくなった時に言ってくれ。」

「わかった。働く。だけど、どこで?」

「んーそうだなぁ。」

あ、やっぱり言わないのね。ちょっと気になるけどまぁ彼女がその気になるまで気長に待つか。

「あ、スターチスというしつこいが、優しい女がいる。男1人の家に君のような女の子がいるのはあまりいいことじゃないだろう。彼女に君を紹介する。スターチスは似顔絵屋と言ってな読んで字の如く依頼された人の似顔絵を描く仕事なんだがまぁ一旦はそこに行ってみるか。あいつも断りはしないだろう。」

「ありがとう。」

「礼はいらないよ。」

僕たちはペチュニアという名前で似顔絵屋をやっているスターチスの元に行った。

「おいスターチス。僕だ。いるか?」

「おぉルドベキア。ひさしぶりだな。ごめんな。今スターチスは仕事に行っているんだ。」

出てきたのはスターチスではなくマネッチアというここで働くハンサムだ。

「マネッチアさんお久しぶりです。お身体は大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だ。んで、何の用があってスターチスを?」

「スターチスじゃなくてもいいんだ。マネッチアさんこの子を働かせてほしいんだ。」

「この子?」

アルペンローゼは僕の背中にずっと隠れている。僕に心を多少許してくれているということなのか?

「あぁ、昨日拾ったんだ。帰るところもないそうなんだが僕の家にしばらく住むことになったんだ。そのためにも少しは稼ぎが欲しいんだ。この子の名前はアルペンローゼというんだ。この子と言っているが僕と同い年だ。」

「アルペンローゼちゃんか。」

「どうした?」

「いや、なんでもない。同い年なら16歳かい?」

「いや、厳密に言えばまだ15歳なんだが。」

「今日で16。」

アルペンローゼは今確かにそう言った。正直びっくりしたが少し嬉しかった。

「そうか、今日誕生日なのか。じゃあ何か美味しいものでも食べなきゃな。アルペンローゼちゃん。」

「あらあら、誰この超可愛い子。」

「お帰りなさいスターチスさん。」

あ、スターチスとマネッチアさんだとスターチスの方が年上なんだ。まぁいいか。

「なぁスターチス。この子アルペンローゼというんだが、ここで働かせて欲しいんだ。」

「アルペンローゼと言うのね。いいけどこの子人の顔を描けるのかい?」

「わからないがだからこそスターチスに頼んでいるんだ。」

「まぁ分かったわ。またすぐ次に仕事があるわ。ついておいで。おいでアルペンローゼちゃん。」

「行ってこい。」

ん?あれ?アルペンローゼは僕の背中の服を引っ張り続けて離れない。

「なぁスターチス。僕もついていっていいか?」

「かなわないわよ。けどその子についてちょっと説明してくれない?」

「あぁかなわないよ。」

僕はスターチスに昨晩のことについて話した。ムフフな展開なんてなかったことを必要以上に力説した。何故か一発腹に痛烈なパンチを喰らったが、ほぼ理解してもらったしこの子を働かせることを了承してくれた。

「よかったなアルペンローゼ。」

彼女はコクっと頷いた。

「なぁスターチス。」

「なんだ変態。」

「なんもしてねぇから!ってか僕がスターチスの仕事見たことあったっけ?」

「そう言えばないかもね。」

スターチスは依頼主の家に到着。コンコンコンとドアをスターチスが鳴らしたところで今何故この仕事に需要があるのか説明しよう。あの突っ込み事件から5年。いよいよ戦争が活発化する。それに駆り出されるのは当然この国の国民。またの名はプレイヤーだ。ただ、戦争なんてリーダ格とそれに付きまとう者達が必要不可欠。避けては通れないモノだと信じている。僕含め平和な日常さえあればいい普通の人間。まぁだれが普通の人間なのかはまだ断言できないのだが、ここではいったんそうしておこう。僕たち普通の人間は戦争なんてしたくない。だが、駆り出されるのは不可避。戦場に生存なんて絶対はない。だから、命があるうちに大切な人の顔を思い出としては無く形として残しておきたい。それを叶えるのが似顔絵屋だ。説明はここまで。

「どちらさまでしょうか?」

「依頼された似顔絵屋ペチュニアのスターチスです。」

「あぁ、きてくださりありがとうございます。そちらは?」

「あぁ、すみません。彼らは見習いみたいなものです。お気になさらずお願いします。」

「いえいえ、大丈夫ですよ。さぁこちらに。」

スターチスは用意された席に座ると先ほど僕たちを案内してくれた奥さんとリビングで待っていた夫の顔を描き始めた。スターチスは昔から人の顔を描くのが好きでそれを仕事にした。前例のない職業だったが幼馴染だったマネッチアさんと協力してペチュニアを創設した。そんなことを思い出しているうちに葉書サイズの紙に夫婦2人が笑っている絵を2枚描いた。

「こちらです。これでよろしいでしょうか。」

「はい。ありがとうございます。」

この夫婦は2人揃ってそう言った。これから戦場に向かう男はこれで少しでも寂しくなくなり、心強いものになるのだ。残された女は無事帰還をこの絵を見ながら祈るのだ。少しでも心の隙間を埋めることができるのがこの仕事なのだと思う。

「私も描きたい」

ずっと静かだったアルペンローゼはそう言った。スターチスは言う。

「アルペンローゼちゃん。似顔絵を描きたいなら練習しないとね。」

微笑んだ旦那さんはこう言った。

「僕が帰ってきたら君に描いてもらおうかな。」

だが、この戦争。生きて帰って来れるかは分からない。確率を求めるようなことじゃない。何もかも未知数。だからこそアルペンローゼというこの女の子は似顔絵を描きたいと思ったのだろう。

「ご武運を。」

スターチスはそう言いこの夫妻の家を出た。

「なぁアルペンローゼ。いや、ちょっと呼びづらいな。なんで呼べばいい?」

「ローゼがいい。」

ちょっとしたこの会話でもすごく嬉しかった。昨日僕が、いや、1週間前に僕が見かけた彼女とは少し違った。彼女はこうやって変わり続けるのだろう。正しくは元に戻っていくのだろう。僕が拾う前君はどんな子だったのか少し楽しみに感じる。

「なぁローゼ。」

「なに?」

「なんでもない。」

こうして外灯下にいた少女アルペンローゼはペチュニアという似顔絵屋で働くこととなった。あ、

「なぁローゼ」

「なんでもない」

「なんで君が言うんだ。しかもちゃんと聞きたいことがある。さっきはすまん。」

「なに?」

「ローゼは僕の家に住むのかい?」

前方を歩いていた鬼がこれを聞き逃さなかった。

「おいお前。年頃の男子の家に年頃の女の子が住んでいいわけないだろう。」

鬼ではなくスターチスと言い直そうとしたが蹴りを喰らったのでこれは鬼だ。鬼というより、いや、スターチスの方が怖い。

「おい、ルドベキア聞こえてるぞ」

しまった。

「ルドベキアの家に住みたい。」

『え?』

スターチスとハモってしまったのはしょうがないことだった。

「あの狭い家で住んでみたい。必要最低限のものしか、いや、必要最低限揃っているあの家で住みたい。そして、ルドベキアのいる家に住みたい。」

前半はものすごくディスられているようにしか思わなかった。しかしなんだ後半のムムフな展開を思わせるような怒涛な追い上げ。

「いいのか?」

「ルドベキアが良ければ」

「聞いたかスターチス!」

「分かったわよ。けど手を出したら本当に蹴るわよ」

もう蹴ってるだろと思いつつスターチスと別れローゼと共に家に帰った。だが、こんなに綺麗な同い年の女の子と屋根一つの部屋で住むなんて。

「ルドベキア。」

「お、おうどうしたローゼ」

「私は同い年の殿方と話をするのはルドベキアが初めてなんだ。だから、スターチスさんがなんであんなに慌てふためいているのか正直分からないの。私は世間知らずなの。」

「なぁ、アルペンローゼ。」

「何?」

「ローゼはまだ僕が怖いか?」

「怖くないよ。命の恩人だもの。」

「じゃあ話してくれるか。過去に何があったのか。君アルペンローゼは何者なのか。」

ものすごい疑問だった。あの突っ込み事件から5年。当時彼女は11歳か10歳。普通の子供ならどこかに頼る家があるはずだ。しかし5年間彼女はあの道に1人過ごしてきた。頼る家がないのは何故なんだ。

「ルドベキア。家に帰ってから話すわ。ただ一つ約束して欲しいことがあるの。」

「なんだ。そんなに改まって。」


「私と結婚して欲しいの。」


正直意味がわからなかった。確かに16だ。結婚できる年齢であるが何故?僕は一旦彼女と家に帰り僕は家に彼女を置いて急いで外灯に火をつけて太陽が沈む速度で帰った。少し盛ったがそのくらい急いだ。

「ただいま!」

「おかえり。あなた。」

「まだ早いわ!早いというか理由を説明しろ!早く!」

「わかった。話すわ。だけどこの話を聞いたルドベキアは私との結婚は絶対だよ。」

急に真剣だ。そして、彼女は自身の壮絶な過去について赤裸々に語った。


ーー5年前ーー

ヴォルメネット王国。シャウラ城内。

「ねぇ貴方。本当にいいの?」

「なんだ、エーデルワイスか。なにか不安でも?」

「不安も何も、また国外の国と無茶な公約を結んだの?」

「仕方ないだろ!この国は弱い。他の国に従うしか無いんだ。今は我慢の時期。国民には申し訳ないがすこし辛抱しなければならない。」

「失礼します。アスチルベ陛下。テーデルワイス王妃。」

「どうした?」

「姫がどうしても会いたいと。」

「分かったわ私がいくわ。ずいぶん寂しい思いをさせてしまったのね。」

「いや、エーデルワイス。私も行こう。きっとその方が喜ぶだろう。」


「あ!父さん!母さん!」

「うふふ。久しぶりね。ごめんねずっと会えなくて最近ずっと忙しくって。もう少ししたらこの国も良くなって私たちも貴方と過ごせる時間も長くなるわ。」

「悪いな。もう少しなんだ。国民にも申し訳ないが愛娘にも辛い思いをさせてしまっている。私は王としてだけではなく父親としても失格だな。」

「そんなこと言わないでお父さん。お父さんの作ろうとしてるこの国の未来はきっと幸せよ。そしたら、父さんと母さんで楽しく平和にお話ししましょう。」

「そうね。」

「そうだな。もっと父さんも頑張らなきゃな」

「父さんはもう頑張ってるよ。」

「陛下!大変です!」

「どうした!」

「民衆が!反乱を起こして今武器を持ってシャウラ城に向かってきています!」

「なに!」

「父さんと母さんどうするの!」

「私は国王として果たさなければいけない義務がある。皆!兵を準備しろ!」

「貴方!私もいくわ!」

「エーデル。君はいい。君はあの娘とここから出なさい。」

「嫌よ!私はあなたがいないと。いや、あなたのいない世界では生きていけないわ!だったら私は幸せに生きていけないわ!」

「エーデル。」

「父さん!母さん!私もいく!私も父さんと母さんのいない世界では生きていけないわ!」

「お前はダメだ。」

「どうして。母さんは良くてなんで私はダメなの。」

「父さんと母さんはねあなたに幸せになって欲しいの。」

「嫌だよ!父さんと母さんがいないと幸せなんかになれない!」

「そんな事はない。君の父さんは国民に苦しい思いをさせてしまったダメな人間だ。無論、君にも苦しい思いをさせてしまった。君にはもっといい人がいる。」

「そうよ。私はそんな父さんの妻なの。私はこんなことを覚悟して結婚したの。あなたにそれを背負わせたくはないの。だからお願いあなたは生きるのよ。」

「父さん、母さん。」

「まぁまだ死ぬと決まったわけではない。お前は父さんと母さんを信じて後ろを見ずにこの城の裏の門から逃げなさい」

「分かったよ。行くね父さん。母さん。」


「幸せになるのよ。アルペンローゼ。」
「幸せになるんだ。アルペンローゼ。」
「私たちの可愛い娘。アルペンローゼ。」


父さんと母さんは兵の先頭に立ち立ち向かってくる国民を説得しようとした。しかし、怒りに狂った国民は聞く耳を持たなかった。そして、誰よりも国民の幸せを願い尽力してきた両親は国民に殺された。

「父さんはね悪名高いらしいけど一途な優しくて明るい人だった。母さんは優しくて強い人だった。そんな2人の間に生まれたのが私なの。」

「じゃあ君の名前は、」


「アルペンローゼ=バーナード。バーナード家の唯一の生き残りよ。」


とんでもないな。信じられるような話じゃなかった。バーナードの人間はみんな殺されたと思っていた。みんなそうだと思っていた。そもそも、娘がいるなんて知らなかった。それもローゼの親が見越して?というより彼女の話が本当だというのなら、

「君は殺されてしまうのではないか。」

「そう。だから、この話を聞いたルドベキアは私を殺すか結婚してバーナードと言う姓を消すかのどちらかだ。」

この国では男性側の苗字にするか女性側の苗字にするかそれとも別々の苗字のまま籍を入れるのかの3択だ。主流は3つ目だ。不自然とも思われるかもしれないが仕方のないことだろう。

「わかった。じゃあ僕の姓で籍を入れよう。」

「よかったぁ」

彼女は泣き崩れ僕に抱きついてきた。それも子供のように。

「父さんと母さんは悪い人なんかじゃないしその血を継いだ君を僕は悪く思ったりしない。」

「ほんどうに?」

「本当さ」

「わだしぃ。いゔのとでもごわかったぁ。ひとりでいぎでいぐのも、とでもづらがったぁ。」

「何言ってるか正直わからないけど。けれど君が生きていてよかった。君の両親もきっと喜ぶよ。」

彼女は僕の胸元で泣きじゃくった。無理もない。僕が聞いていたバーナード家は冷酷。国民を人と思わず道具として扱う人の血が通っていない化け物の一族と。きっと彼女もあの道に5年もいれば聞いたこともあるだろう。きっと自分の身元がわかれば殺されるのは必然のこと。彼女が誰にも頼らなかったことにも頷ける。だが、1つ疑問に思うこともある。

「なぁひとついいか?僕みたいに手を差し伸べてくれた人たちはいなかったのか?」

「いたよ。けど、断った。」

「じゃあ何故僕にはついてきた?」

「ルドベキアがほぼ強制的に連れて行ったから。」

「え!でも、」

「嘘だ。半ば強制的と言ってもあれは私の意思だ。理由はひとつ。もうじき戦争が始まる。だが、この国は国の力を培ってきたが必ず負ける。」

「そんな。」

だが実際ローザの父が厳しい公約を結び国民に厳しい納税義務を課したのはこの国が弱いからだ。しかもそれに悩まされていた国王を間近に見ていたローゼが1番実感しているはずだ。

「ならこの戦争を止めなきゃ!」

「無理なんだ。もうこの戦争は止められないんだ。」

「なんで!今日の人だってまだ出兵していなかったじゃないか!」

「もう戦争は始まっている。」

「え?」

「この戦争を始めたのはこの国じゃない。外国からふっかけられた戦争だ。バーナード家が滅んだ時点で免れない戦争だ。」

「じゃあなぜローゼは僕についてきたんだ。」

「バーナードの人間としてすこしでもこの国に貢献したかった。正直この国の者はすごく怖い。このバーナードという名を出しただけで振り向かれるこの国で真っ当にいきるのは勇気がいる。それに5年かかっただけの話だ。」

たまたま僕だったんだ。たまたまその決意ができた時に手を差し伸べたのが僕だったから君はついてきたのか。だけど、この話を聞いて僕は君のことが好きになったよ。今日だって死ぬかもしれない兵士の似顔絵を描く仕事の現場に行ってその仕事をしたいと君は言った。優しいんだな。自分の親を殺したかもしれない国民の恐怖心をすこしでも和らいであげようとするバーナードの人間としての覚悟。そして優しさ。

「アルペンローゼ。僕は君に相応しい人間かは分からない。ただこれだけは覚えておいて欲しい。僕は君の味方だ。命だってかける。図々しいかもしれないが君の両親の願いを僕は叶えてあげたい。僕は君を愛している。僕と結婚してくれ。」

「ルドベキア。もし昨日別の人が私を救ってくれていたら私はその人についていきこの話をしたかもしれない。貴方のように受け止めてくれる人だったかもしれない。その人と結婚を迫ったかもしれない。けど、貴方が私を拾ってくれてよかった。この国の人はまだ怖い。正直貴方も怖かった。本当に怖かった。けど、ルドベキア。私はあなたが好きよ。助けてくれてありがとう。私の好きな人が貴方でよかった。結婚しましょう。」

よって彼女の名前はアルペンローゼ=マルタンになり、この世からバーナードという名は消えた。だが、国民を思う優しい一族の血はまだ絶えていない。

「ところでルドベキア。」

「なんだ?」

「貴方の右目はなんなの?」

「あぁこれか。これは生まれつきだな。」

「見えないの?」

「見えないんだ。」

「生まれつきから傷とかは無いはずよね。なんで眼帯を?」

「あぁ、まぁ君には話す。」

僕は冒頭生まれつきと言ったが嘘だ。元々は見えていた。何故嘘をついたかというとトラウマだからだ。だが、あんなに赤裸々に辛そうに自身の過去について語った彼女の前では嘘をつけなかった。

「父親にやられた。4歳くらいの時かな。ナイフで切りつけられた。」

僕は普通じゃない。というより狂っている。親が突っ込み事件で死んだ時嬉しいと感じてしまったのだ。父からの虐待。母は父に逆らえず傍観するだけ。強いていうなら狂っていたのは僕ではなく僕の家庭だろう。彼女の素晴らしい家庭愛を語られた後にこの話をするのは正直気持ちの良いものではない。だからこそ言えることがある。君が現れてくれたのは僕にとっても救いだった。何故なら僕は生まれた時から寂しかったから。親に残された寂しさなんて感じていない。このどうしようもない狭い世界にポツンと放り出され、父からの虐待に耐えるという日常は辛かったというより寂しかった。こんな惨めな人生寂しすぎるだろうと。それは両親がいなくなってもだ。母は可哀想だったなと今は思う。彼女の人生は幸せだったのかと問われればNoだと思う。僕の母は父に無理やり孕まされそれで生まれたのが僕だ。僕が生まれるまでは母が暴力を振るわれていた。僕を産んでからも僕を置いて逃げる道徳心のない行動をできず、僕を連れて逃げる勇気もなかった。そして、突っ込み事件の時は父について行き死んでいった。

「僕は幸せじゃないまま人生を終わらせた人を知っている。だからこそ僕は幸せになりたいし君を幸せにしたい。すまない。この目の話からは脱線してしまった。」

「大丈夫。辛い話をさせてしまってごめんね。」

「気にしないでお互い様だよ。もうこんなに暗くなってしまった。もう今日は寝よう。」

「そうだね。おやすみ。最高の誕生日になったわ。マイダーリン。」

そうだ。今日は彼女の誕生日だった。だがしかし、急にそういうことを言うようになるとは心を開いてくれた証拠でもあるな。素直に嬉しい。めちゃくちゃ嬉しい。

「おやすみ。ローゼ。」
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