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 微妙な空気が流れ始めた……そんな時だった――

『何やら騒がしいと思えバ……人間どもメ……!』

 森の奥の方から、そんな声が聞こえてきた。

 それに続き、ズシン……! ズシン……ッ! と地面がわずかに揺れる。

「ま、まさか……〝ゴブリンキング〟だとッ!?」

 振動とともに近づいてくる、二メートルはあろう巨大なシルエットを見て、スミレが目を見開く。

 金色の肌、その肌を同じく金色の鎧で包み込んだ一体の異形――ゴブリンの最上位種、Aランクモンスターのゴブリンキングが現れたのだ。

「な、なんだ……あの数は……!」

 ゴブリンキングの背後を見てグラッドが驚愕に目を剥く。

 現れたゴブリンキングの背後――そこに百体を超えると見られるゴブリン種の群れが……。

「マズイです! 広範囲に展開し始めたのです!」

 叫ぶナタリー。

 ゴブリン種どもが横に広がり始めたのだ。

 このままでは包囲されてしまう。
 しかし、下手に動けばゴブリンキングの格好の餌食になってしまう。

 この森で何か異変が起きていることはわかっていた。
 しかし、まさかキングが誕生していたとは……。

 ゴブリンキングとは、ゴブリンの群れの中から百年~数百年に一度誕生すると言われている、その名の通りゴブリンたちの王だ。

 その戦闘力は凄まじく、都市を一つ滅ぼしたこともあるほどだ。

 そして、何よりも厄介なのがその統率力だ。

 通常のゴブリン種は仲間を統率できても二十~三十体程度だ。
 しかし、ゴブリンキングは数百体の配下を統率できると言われており、その練度も通常のゴブリン種とは比較にならない。

(ふむ、普通に戦っては被害が出るな……)

 皆がゴブリンキングの登場に震える中、クロノはそんなことを考えていた。

 今のクロノが持つ戦力で普通に戦っていては、一体ずつ倒すしかない。
 しかし、そんなことをしていては、仲間に被害が出てしまうのは必至だ。

 だからこそ――

「皆、吾輩の後ろに退がれ。一歩たりとも前に出るな」

 ――そう言って、ダンッ! と前に踏み出す。

「な、何をしようというのだ、クロノちゃん!」

「そうですわ! いくらクロノ様でも……」

 スミレとシェリルがクロノを止めようとする。

 そんな中――

「みなさん、大丈夫です。ご主人様がこう言ったからには、絶対に勝てます」

 ――ただ一人、アリアフィーネは微笑を浮かべ、クロノを見つめる。

 それにクロノは背中越しに頷いてみせた。

『グギャギャギャ! まさか人間の小僧に舐められるとハ! 死をもって贖うがイイッッ!』

 鬼の形相で叫ぶゴブリンキング。

 そして横一列に展開したゴブリンどもが、木々の間から一斉にクロノ目掛けて駆けてくる。

「いくぞ……《覇獣撃破》――ッ!」

 転生する際に引き継いだ制御不能の近接戦闘用のスキル。

 それをクロノは発動した。

 轟――――ッッッッ!

 という凄まじい音とともに、辺りを埋め尽くす激しい閃光と爆風。

 あまりの光と風の勢いに、皆は目を閉じて顔を庇う。

 光と風は一瞬で止んだ。

「な……こ、これは……!」

 最初に目を開けたスミレが声を漏らす。

 それに続いて目を開いた一同の目の中に、とんでもない光景が飛び込んでくる。

 襲いかかってきたゴブリン――否、それどころか、生い茂っていた木々までもが数十メートル先まで消し飛んでいるではないか。

『馬……鹿ナ……ッ、貴様、本……当に、人間カ……?』

「ほう、吾輩の攻撃に耐えたか。やはりこの体になったことで出力が下がっておるのか?」

 全身ズタボロになりながら、唯一生き残っていたゴブリンキングに、クロノはそんなことを言いながら近づいていく。

「だが、これで終わりだ」

『待っ――――』

 待ってくれ! とでも言いたかったのだろうか。

 そんな言葉を最後に、ゴブリンキングの眉間が、クロノの《覇魔銃》によって、ドパンッ! と撃ち抜かれるのだった――
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