ステルスセンス 

竜の字

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ファーストステージ

後輩

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 そんな毎日で一ヶ月があっという間に過ぎた。

新入社員も仕事を少し覚え、朝夕の書類作りのような仕事も羽津宮が付きっきりで行う事もなくなったが、解らない事などがあればその面倒は相変わらず羽津宮が見る事になっており、それは青梅部長の指示では無かったが自然とそうなっていた。

 羽津宮自身も仕事帰りに度々モモさんを訪ねてはアドバイスを受け、法則に従った行動を表現する事に慣れて来ていた。

 その効果は確実に実感する事が出来た。それは周りの人間からの評判が、明らかに自分自身の考えで行動している時とでは全く違う物だったからだ。とは言ってもまだ仕事上で評価をされると言った事では無く、あくまでいつも接する同僚達の個人的な羽津宮に対するイメージでの話だ。

「こんにちは」

 不意に背中を叩かれ少し驚き肩が上がったが、その声が誰であるかすぐにわかった。同期の堀越だ。

「なんだか最近ゆっくり話せないね、仕事が終わるとなんだかすぐ帰っちゃうし・・・も・・し・・か・・彼女出来た?」

 そう言ってまた胸を叩く。

「痛たっ、まさか、出来る訳ないよ、毎日くたくただもん。そっちこそどうなんだよ」

「私も全然だめ。まるっきしです、ふっふぅ」

 恋愛感情では無いが、お互いが変わっていない事が二人とも何となく嬉しかった。

「陣君元気?」

「うん相変わらずだよ。あの調子。ちっともポップのコツとか教えてくれないし俄然ライバルだわ」

 そう言ってファイティングポーズをとり、歯を食いしばる。堀越の相変わらずなその姿に羽津宮もモモさんの法則で武装した心が丸裸にされ、心のそこからホッと出来のを感じる。

「羽津宮君も大変そだね、後輩に教えるのって・・・私ダメだわ・・・訳わかんなくなってこっちが緊張しちゃうもん」

「ふっふ幼稚園の先生ならむいてそうだけどね」

「あああああ、またバカにして」

「してないよ、ほめてるの」

「嘘だ。でも羽津宮君はさすがだよね。超厳しいって皆言ってるよ、ちょっと意外だったけど。羽津宮君って自分にも厳しいし仕事も真面目だし後輩君はそう感じちゃうのかもね」

 気を使ってるのか何も考えて無いのか解らないいつもの口調で羽津宮に対する後輩のの評判があまり良く無い事を告げた、そしてさり気なく「皆が誤解しているんだよ」と言ったニュアンスを最後に付け加える。

「うん、なんだかさ、将来僕のせいで出世出来なかった見たいになっちゃ悪いからと思うとつい力が入っちゃって・・・教え方が下手だから厳しく感じちゃうんだろうな」
「ふふ、羽津宮君らしいね」

「そうかな」

「うん、あっじゃあね。また芋粥屋行こうね」

 そう言うと堀越は部長の目を気にしてほったらかしていた仕事に戻った。

 堀越の言うように新入社員の間で羽津宮は「厳しい」と評判だった。自分自身の考えで同じように後輩の指導を任されていたとしたらおそらく「優しい」と言われていただろう。羽津宮はスポーツ系のクラブなどに所属した事も無く、いわゆる体育界系の上下間系の厳しさなどの経験が無いからかも知れないが、少しの歳の差で偉ぶる事が苦手で、どちらかと言えば謙遜しながら「僕もまだまだだけど」等と言いながら対等の立場のように教えて行くタイプだった。

 慣れない他人からの評判に多少の居心地の悪さをまだ感じては居たが、それと同時に計画通りだと言う安心感も感じていた。布石とも言えるその厳しさは確実に後輩の心にまかれ浸透している。

 そう確信した羽津宮は次のステップに進むべく、仕事が終わるとすぐモモさんの所へ向かった。行き掛けに途中のコンビニで弁当を二つとお茶を二つ買って自転車を走らせる。

「こんばんは、どう元気」

 モモさんはテント近くの水道で頭を洗っていた。

「あっああ、元気だ、腹はへってるがな」

「ちょうどいいや、今買って来たんだお弁当」

「そうか、わりいないつもよ。金は大丈夫なのかよ」

「平気平気、得意先の人と付き合いで居酒屋行くより全然安いし、それに楽しいしね」

「そうか、わりいな。気を使うなよ。オレはオレで何とかなるんだから」

 普段は偉そうに話すモモさんだがこういう事にはとても遠慮深く、申し訳なさそうにする。親しき中にも礼儀ありと言う言葉が適切かどうか解らないが頭を過る。だからこそ「何かしてあげたい」と言う気持ちに羽津宮はさせられた。

 二人並んで買って来た弁当を食べながらゆっくりと話は始まる。

「どうだ、その後、変化は出て来たか」

「うん、もう後輩からは厳しいって言われてるよ。同僚にも言われたしね」

「そうか。じゃあそろそろ次の法則を頭に入れといた方が良さそうだな」

「おねがい、そろそろこういう時はどうしようって瞬間がチラホラあってさ」

「そうか・・わかった」

 そう言うとモモさんはいつものようにテントからステルスセンスのノートを取り出し法則を語りだした。

 一通りの説明が終わると世間話のように話し始める。

「ところでその新しい部長・・・・なんてったっ・・・あああ・・・っそう青梅か。どんなやつだ」

「んっ、うううん、そうだね。部下には厳しいよ、得に仕事の基本とか、あと、仕事の取り組み方とか、そう・・なんだか結果と言うより取り組み方に厳しいよ。でもさ、だからってバリバリやるって感じでも無いんだよね」

「部長補佐が指定席の男っつたっけな。なんでそうなったか解りゃな、やりやすいんだがな」

「うん・・・あんまり知ってる人いないからな。そのへんのところ」

「まぁ、何にしてもその男を超えて行かなきゃなんねんだ。しっかり意識して近付くんだぞ」

「わかった」

「じゃあ上司に対しての法則も言っといてやるか」

そう言うとまたモモさんはステルスセンスを開きいくつかの法則を更に僕にプログラミングした。

「こんだけの法則を実際行動に移して、結果が出る間ではまぁ半年はかかるだろうな、まぁ焦んなや、ゆっくり行こうぜ」

「そうだよね、ゆっくりだね」

「とりあえずその青梅の情報は常に報告に来いよ。そいつに合わせて、見せるべき事、隠すべき事、そのバランスの見極めをせんとな。1つめの上司越えだからな」

 羽津宮はその言葉に改めてハッとした。内心「やっぱり上司を超えて行くんだ」と、これまでやって来た事の目的を再確認させられたのだ。

「そうだね、がんばるよ」

 羽津宮は半分程残っていたペットボトルのお茶を飲み干した。
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