ステルスセンス 

竜の字

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ファーストステージ

静寂

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「まず登場人物を説明するよ」

「おう頼む」

「まず編集部部長、花谷(ハナヤ)小柄で青梅部長の後輩らしいんだ。尊敬してるって言ってた。なんだか気が弱そうと言うか優しいのか部下にも敬語まじりに丁寧に話すよ。
正直、ライバル心の渦巻く編集部でなぜ部長になれたのか不思議なくらい」

「なるほど、そのへんは探る必要がありそうだな」

「うん、で次が。僕が付いた編集長の椎名(シイナ)、背も高く高学歴のエリートって感じ。スーツなんかも高そうなの着てるから見栄っ張りで人に良く見られたいって気持ちが強いね、人を見下すような感じも在るし。結構やり辛いタイプなんだ」

「なんでぇ、自分と似てるからか」

「うっ…うん」
すぐに見抜かれてしまう。

「で、椎名編集長の下に3つあるチームの1つでチーフを務める金子(カネコ)彼は椎名編集長に脅えてる感じがしたよ。なんせ椎名編集長は自分にも他人にも厳しい雰囲気だったから、相当強く当たられてるんじゃ無いかな。その反面部下には凄く偉そうなんだ」

「まぁわからなくもねぇな」

「で、当分僕に仕事を教えてくれるタケル君。入社は僕の1期後輩になるんだけど。色黒でいかにも遊んでますって感じの子なんだけど、なんか愛嬌の在る感じで、変な話し方するけど良い奴って感じ。色々教えてくれるし、裏表は無さそうだよ。そんなもんかな・・・」

「よしよし・・・まぁ登場人物のこたぁ何となくわかった。後は各々の関係性と、派閥争いの事情がもう少し解ればな」

「派閥の事はまだわからないや・・・」

「そうか、まぁ焦るこたぁない。仕事はどうなんだ」

「タケル君が小説家志望の人が送って来た作品の中からヒットするような作品でも見つけられたら、下っ端は脱出だって言ってたよ。でも中々売れそうな作品にも出会わないし、企画書で落とされるんだって」

「そうか、まぁ企画書にしても何にしてもコツみたいなのも在るが、まずは作品がねぇとな」

「そうなんだよね、箱に山積みされた、作品を片っ端から読むしかないよね」

「まぁそっからだが。アーティストや作家を発掘するような職場で、どんな作家がが採用されるかわかるか」

「やっぱり良い作品を作るか・・・じゃないかな」

「そうじゃねぇ。商品化するかしないは、良い作品をいくつか比べてするもんだろ。良い作品ってだけでは他の作品と並んでるだけだ、抜きに出るにはそれ以外の要素が大事なんだぞ」

「良い作品ってだけじゃダメなんだね」

「ああ、まぁ、新人に限ってだがな。作者本人の知名度が上がりゃあ地味でも良い作品ってのが世に出せる。何ごとも最初の壁を突破するには集中した力がいるもんだ」

「そうだよね」

「まぁそんな作品探しと言うか、商品開発と言うか、上司へプレゼンする時の法則を教えといてやるから読みながら意識してみろよ、そうすりゃあ売れる作品が分かりやすいかもしれねぇぜ」

「うんお願い」

そう言うとモモさんはノートを開き法則を説明し出した。

【説得力は作品の善し悪しより企画性が持っている】

「いいか。良い作品ってのは人によって感じ方が違う、まして他人から『凄く面白い』と言われて読むと、たいてい『そうでもない』と感じるもんだ。
 
 だからな、作品事体の評価は出版に値する作品か、値しないか、それだけで良い。

 後はその作品にどんな企画性が在るかだ。それは色々派手なキャッチコピーが付いて店頭に並んでいる様が想像出来るかどうかだな。

 例えば『高校生作家が実体験を元に書いた壮絶な物語』とか『元警視が書いた推理小説』店頭に並んでいてこんなキャッチコピーが在れば引かれるだろ。そう言う物が見える作品かどうかが重要なんだ。

 逆にそれがなくて本当に良い作品に出会ったなら、その企画性をお前が作ってやれば良い、それがお前の仕事だぞ。

 作者の人間性を深く知り、生い立ちや、人生の中から興味を引かれるキーワードを探し出すんだ」


【作った本人の作品に対する自信】

「それと後1つ、もしだな、お前がお金を出すとして、誰かが『この作品を出版してくれ』と言って来たらどうする。

 そいつのその作品に対する気持ちを確かめたくならないか。『これがダメなら次』という作品なのか。『絶対売れる』と思える作品なのか。

 オレならこう聞くな『君が本当に心から売れると思っているなら借金してでも自分で出版すれば良いじゃないか』この質問の答えに自分の気持ちが納得しないなら、身銭はオレは斬れない。

 それは会社でもそうだ。マーケティングとか数字も大切かもしれねぇが、最後の所で人は人の覚悟を見て信用するんだ」

 二つの法則を伝え終わるとさっとノートを閉じる。

「そんなとこだな、無闇に作品を押すなよ、数うちゃ当たるだとプレゼンされる方もダレるからな。ここ一発の勝負だと思え」

「うん、しばらくはそんな立場じゃないだろうけど」

「確かにな、ただ作品は探しておけよ。プロフィールから面白そうな奴をピックアップして読むのも良いだろう。これはという作品があったらプロフィールもオレんとこ持って来いよ」

「うんわかった、後は派閥だよねどんな勢力図なんだろう、聞き辛くてさ」

「まぁ、そんな事は嫌でも耳に入って来るさ」

「そうだね」

「ここからはこれまで以上に慎重にやれよ、報告もマメに来い、いいな」

「うん。ほんと緊張しちゃうよ」

「取り合えず、半年程は仕事を覚えねぇといけねぇし、おとなしくこれまで通りやっていろよ。何度も言うがあんまり頭の良さは出すんじゃねぇぞ。これまでやって来たようにやりつづけるんだぞ」

「わかってるよ、バカなフリね」

「それとその椎名編集長には絶対ビビるんじゃねぇぞ、怒られても何してもその後普通に話し掛けろ。遠慮がちになったり煙たがったりしちまったらお前の負けだ、そこから先はねぇぞ」

「わかってるって。まずは金子チーフ越えでしょ」

「あぁ、わかって来たじゃねぇか。半年後から一気に勝負かけるからな、それまでに確り布石をうっておけよ。お前に対するイメージが大切なんだからな」

「了解、ちょくちょく来るよ」

「おう、気を抜くなよ」

 いつものように公園の街灯が半分消えて暗くなるまで話し、モモさんと別れた。
 桜がもう咲きそうな公園を歩き停めてある自転車に向かう。

 羽津宮は今年の桜を待ち遠しく感じていた。
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