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ファーストステージ
激動
しおりを挟む翌日、近くのカプセルホテルから羽津宮は出社した。昨日遅くまで仕事をしていて終電に間に合わなかったので近くに停まっていたのだ。
朝一番に神崎と打ち合わせをし、ネット担当者達とのミーティングを終えた。
神崎のアドバイスで雑誌やサイトで掲載する前に、女性社員がソーシャルネットワーク等で「出版社の女性社員が選ぶ、こんな本を読んでいる男性カッコいい」と言った話題を頻繁に掲載する事になった。
そんなブログの総ての更新の情報を神崎は自分に連絡するように指示していた。点在するそう言った記事を繋げる事で検索によるヒットの確率を上げるなど、いかにもネット上で話題になっているように思わせるそんなテクニックを神崎は持っていたのだ。
そしてグローバル出版の雑誌やサイトでの掲載の時期は関係者意外の人間がコミュニティーを立ち上げる事と情報交換サイトでログが立ち上がる事をきっかけとする事をアドバイスした。
しかしそれでは出版が間に合わないと言う事も在り来月発売の女性雑誌とサイトのオープンは予定通りに行う事にし、それまでにネットでの盛り上がりを間に合わせると言う事になった。
それから陣とともにブックトップの部長にプレゼンに行ったり、堀越とともに書店へ趣旨の説明に行ったりと忙しく二週間があっという間に過ぎた。
企画はどこに行っても良い手応えで協力を得る事が出来、雑誌の発売と同時に掲載されているモテ本ランキング順に陳列する特設コーナーを設置する等、書店も積極的に企画をバックアップする事を約束してくれた。
そして「モテ本」特集を掲載する女性誌の入稿の閉め切りが近付いていた。
ネットの方も関係者以外の所で「モテ本」の話題が出ていたり、検索サイトで「モテ本」と言うキーワードで引っかかったりと順調な盛り上がりを見せていたが、まだ神崎のアドバイスにあったコミュニティーやログは立ち上がっては居なかった。その事が気になって羽津宮は朝から神崎のマンションへ来ていた。
「どう、神崎君。たちあがった」
「いえ、まだですね。でも良い盛り上がりを見せてますよ。二十代から三十代の働く女性・・特に向上心が強いような女性がブログで話題にしている事が多いです。雑誌の読者層と一致しているので良いんじゃないですか」
「でもまだ雑誌で特集するには早いよね。もうそろそろ入稿期限なんだ。特集を来月にすするかどうか判断しなきゃいけない時期なんだよ」
「そうですね・・僕も盛り上がりの一つの目安としてコミュニティーが立ち上がる頃って言ったのでこれだけ盛り上がっていれば大丈夫だと思いますよ。僕が立ち上げちゃっても問題ないですし」
「そうなんだ、それを聞いて安心したよ」
「心配しなくても僕がしっかりやってますから」
「はっはっは、神崎君言うようになったね。確かにたよりになります」
「どうします。コミュニティーいま立ち上げちゃいますか」
「いや、それはやっぱり予定通り誰かが立ち上げるのを待つよ。今になって『それほど重要な事ではない』なんて言ったらブログ頑張ってくれた女性社員の気持ちもなえちゃうし、ここは少し緊張感を高めて待つとするよ」
「そうですね。それが良いかもしれません」
羽津宮がそう言ったのは単に女性社員に気を使っただけではなくモモさんの法則を実行する良いチャンスだったからだ。
【仕事を完璧にはこなさずミスやハプニングを起こせ】
会社に戻ると女性誌担当の編集長達が椎名編集長の元へ集まっていた。
「ちょうど良い所に帰って来てくれた。どうだコミュニティーは立ち上がったか。今予定通り今月号で企画を掲載するか皆で話していた所だ」
「そうですか。まだ立ち上がっていないです」
「そうか・・だがある程度話題にはなっているようだしこのまま行っても良いかと思うんだがどうかな」
「編集長、自分的には立ち上がらなければ来月号に掲載を見送った方が良いのではと思っています」
「そんな事して、もし他の編集社が先に特集なんかくんだらどうするんだ。水の泡だぞ」
「はい、わかっています。勿論黙って見送るつもりは在りません、締め切りまでにコミュニティーが立ち上がるまで盛り上がるように今も神崎君と色々やっているので決断は締め切りギリギリまで待ってもらえませんか」
「椎名編集長、私も彼の意見に賛成だよ。確かに気持ちは焦るが見切り発車で身内盛り上がりで終わっては何の意味もない事だ。私は無駄になる事を願いながら差し替えの記事を用意して彼の報告を待つとするよ。羽津宮君、最終は四日後だ。良い報告を待っているよ」
一人の編集長のその意見に他の編集長も賛同する形で皆椎名編集長の元を去って行った。
「羽津宮・・・さすがの私も気が気じゃないよ」
「珍しいですね。いつも冷静な椎名編集長が」
「言ってくれるな・・・会社の方向性を左右する企画だぞ、それも私たちの企画だ、失敗したら辞職もんだよ」
「そっそうですね。何だか恐くなって来ました」
「おいおいおい、頼むぞ」
「わかってます、まだ時間はありますから必ず盛り上げてみせます」
「君に私の人生がかかるとは思いもしなかったよ」
「あっ編集長。例の『モテ本』特集用にブックカバーを新しいデザインにすると言うのはどうなったんですか」
「あぁ、順調だ。女性社員がブログでそれとなくリサーチした情報を元に二十タイトル程新しいデザインで発行しているよ。同じ時期にデザインが変わると企画がわざとらしく思われるかと思ってな、早い時期に差し替えたよ。もう書店には並んでいるぞ」
「そうですか。緊張しますね」
「そうだな、他の事は良いからネットの方を頼むぞ」
「はい、では会社での仕事を片付けたらもう一度神崎君の所へ行って来ます」
「あぁそうしてくれ。締め切りまではそれに集中してくれたまえ。そして良い報告を一刻も早く聞かせてくれ」
「はい、わかりました」
それから締め切りの当日まで羽津宮は会社と神崎の家を行ったり来たりしながら、ネットで「モテ本」の話題が広がるように手を尽くしていた。
事細かく神崎が女性社員に指示を出しブログの更新を繰り返したり、アクセス数の多いブログにコメントを残してトラックバックを書く等して情報を繋げて行った。
そしてその成果は一気に広がり始めていた。芸能人や著名人など新しい情報を発信する事を心がけているブロガー達が一斉に「モテ本」を話題にし始めたのだ。
状況的には十分と思えたが、まだコミュニティー等は立ち上がっていなかった。羽津宮はあえてコミュニティーにこだわりモモさんの法則を実行していた。その効果もあり社内でも盛り上がりをまして編集部や編集部でも羽津宮からの情報を今か今かと待つ程緊張が高まっていた。
神崎はその日の朝のうちに高アクセスのブロガー達のブログヘコミュニティーの立ち上げを促すコメントを残していたので、その反応を眺めていた。
ネットの動向を確認しながら神崎と手を尽くしている羽津宮の元へ椎名編集長からしきりに電話が入る。
「どうだ、もう締め切りは今日だぞ。そろそろ決断しなければならないが」
「すみません、まだです。もう少し待ってください。今、最後の手を打ったので」
「わかった、すぐに連絡するんだぞ」
「はい」
電話を切って羽津宮自身も少し焦りを感じていた。今日中に立ち上がらなかった時の事を初めて考えたと言っていい。
今日中に立ち上がらなければ来月へ持ち越すとまで言った事を少し後悔した。そんな不安を何の心配もしていなかったような声で神崎が打ち消した。
「羽津宮さん来ましたよ。一つ目です。ソーシャルネットワークで「モテ本を語る」と言うコミュニティーが立ち上がりましたよ」
「ほんとに。良かった・・今正直言って今日中に立ち上がらなかった時の事を考えてたよ」
「ふっふ本当ですか。大丈夫心配しないでくださいって言ったじゃないですか。多分今日中にまだまだ広がりますよ。いったん話題になると爆発的にカウントが上がりますから」
「や、本当ホッとしたよ」
「あっほら。今度はブログランキングサイトでも立ち上がりました」
「わぁ本当に、なんだか興奮しちゃうね、良かったぁ。そうだ、部長に連絡して来るよ。部長も思いっきり焦ってるから早く安心させてあげないとね」
「はい」
羽津宮は興奮で少し手が震えていた。
「もしもし、部長」
「羽津宮か、どうだ」
「来ました、今さっき一つ目がたちあがって、それからすぐ二つ目が」
神崎が電話の後ろで気にせず叫んだ。
「情報サイトでも立ち上がりましたよ。あと個人のネットオークションでも『話題のモテ本』なんて言葉を使い始めてますよ」
「部長今もまたたちあがったそうです」
「あぁ聞こえていたよ。色々聞きたいがいったん切るよ。他の編集長にも早く報告せんとな。予定どおり今月号で掲載でお願いしますと言っておくよ。羽津宮もきりがついたら簡単に報告書にまとめて会社に戻ってくれ」
「はいわかりました」
電話を切って振り返ると神崎が軽く手を挙げた。
「やりましたね」
羽津宮は神崎の手に手をパチンと合わせると腰が抜けるようにその場に座り込んだ。
「どっどうしたんですか」
「やぁ本当に心から安心すると気が抜けちゃって」
「何言ってるんですか、まだ下準備が上手く行っただけですよ」
「そうだよね、ここからなんだよね。そうだった」
「そうですよ。本が売れないと意味ないですよ。後は僕に任せて会社に戻ってください」
「うん、本当にありがとうね」
それから一週間程で「モテ本」の特集を組んだ雑誌が発売された。陣のおかげで全国チェーンの大型書店ブックトップでも一斉に特設コーナーが設けられ、紹介された小説がランキング順に陳列されていた。
その一つ一つに堀越が書いたお勧めのポップがはられ、この企画が女性目線で盛り上がっている事がアピールされていた。
さらにQRコードを掲載し、携帯ですぐに投票出来るようにしたり。グローバル出版のホームページでも小説のオープニングだけを掲載してネットで立ち読みしているような雰囲気が味わえるようにしていたりと細かな所でも企画を後押ししつつ、女性誌のサイトでは人気アイドル二人の「モテ本」をテーマにした対談を掲載したりと、男性が読むであろう事を想定して記事を作っていた。
編集部でもいち早くブログ等で「モテ本」を紹介していた著名人へインタビューの依頼を出し、彼らを火付け役として紹介する事で更なる宣伝効果を狙っていた。
勿論本人達も流行の先頭に居るような気文になれるので断るものもおらず、さらに自らのブログ等で紹介を続けてくれその効果は絶大だった。
羽津宮は発売されてから堀越や越野らとともに書店を回ってイベントの応援等をして居た。
「どうも、店長。ご無沙汰してます」
「おう羽津宮君。何言ってんだい。編集部行っても休みの度にしょっちゅう来るじゃないか。物好きだね」
「はっは、お邪魔してすみません。今回もこんなにスペース頂いて」
「羽津宮君の頼みじゃ聞かないわけにはいかないからな。それに・・・感謝してるよ。今時書店の事まで考えて企画なんかどこの出版社もやってくれねぇよ。皆我が身ばかりでネット通販やネット小説ばかりに力入れてよ」
「出版業界は書店あってですから」
「嬉しい事言ってくれるね。あっだけど気をつけなよ。この盛り上がりに他の出版社も便乗する姿勢を見せてるぜ」
【プロジェクトの大きな成功を目指すならせこさを出すな】
「それは良いじゃないですか他の出版社でも盛り上がれば書店は更に売り上げが上がりますよ」
「まぁそらぁうちは助かるけど・・・ここまで必死でやって来たのは羽津宮君の所だろ。良いのかい」
「ええ、全体が盛り上がった方がいいですよ」
「そうかい。まぁオレはグローバル出版一押しで行くがね」
「はい。ありがとうございます」
どこの書店でも同じようなことを言ってもらう事が多かった。雑誌が発売されてから半月程で他の出版社も便乗したような企画を打ち出して来たが、書店の後押しや、椎名編集長が事前にジャケットをオシャレなものに変えたりしていた事で売り上げ的にはグローバル出版が他の出版社の追随を許す事はなかった。
注文が殺到し販促部も販売部も近年にない忙しさでまるでお祭り騒ぎのように沸き立っている。
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