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似てない兄弟(3)
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彼が僅かに身体を引いて、驚いたように吊り気味の眼を見開く。
「お前の姉の頭の中は、一体どうなっているんだ。まるで、地図を見ながら話しているようじゃないか。それに、俺の意図も正確に読んでいる」
彼の言葉で、レナエルはようやく、二人が自分を介して探り合っていたことに気づいた。
その上で、あのジュールが、姉の能力に驚嘆していることに、得意な気分になる。
「だって、ジジはセナンクール男爵の右腕って呼ばれてるほどなのよ? 仕事柄、リヴィエ王国と周辺諸国の地図は頭に入ってるし、王都を中心にした各地方までの道や、所要時間も把握してるわ。それに、くせ者ばかりを相手にしてるから、腹の探り合いも得意よ」
「ふん。双子の姉妹なのに、ずいぶん違うものだな。姉の方は、かなりの頭脳派だ。確かに、セナンクール男爵の右腕と呼ばれるだけのことはある。それに比べて……」
まるで自分のことのように姉を自慢するレナエルに、ジュールがたっぷりと嫌みを含んだ眼を向けた。
「何が言いたいのよ。あたしは、ジジのように頭は良くないけど、騎士馬に乗れるし、剣だって扱えるわ!」
「それは、女としてどうなんだ?」
「……う」
「そんなことができても、逆に危険なだけだ」
女であっても大型馬を操れて、剣も扱え、喧嘩なら並の男には負けない自信はある。
オーシェルでは、誰もが一目置いてくれていたこの能力を、この男は認めようとしない。
それは、自分自身を丸ごと否定することと同じだ。
昨晩、出会ったときからずっとそうだ。
「そんなことないっ!」
強く否定したものの、この男に比べたら、自分の力なんて子どものようなものだ。
それを嫌というほど思い知らされているから、レナエルはそれ以上何も言えずに、唇を噛み、拳を握りしめて俯く。
『レナ? どうしたの?』
会話が途切れたままになっていることを訝しんだ姉が、心配そうに声をかけてきた。
『くやしいぃぃぃっ! この男、腹が立ってしょうがない』
『腹が立つって……ジュール・クライトマンが?』
『そうよ! 殴ってやりたいほどむかつくけど、それができるような相手じゃないのが、余計に悔しいっ』
目の前の男に直接言えない分、姉に怒りをぶつけていると、ジュールが立ち上がる気配がした。
高い位置から低い声が降ってくる。
「おい、もういい。おおかた、姉に俺の文句を言っているだけだろう。明日は夜明けとともに発つから、もう休め」
レナエルが恨めしげな表情で顔を上げたが、彼はこちらを見ることなく、さっさと入り口の扉に向かって歩いていった。
これでやっと一人になれると、ほっとしていると、彼はそのまま廊下に出るのかと思いきや、長剣を肩に持たせかけ、扉を塞ぐように腰を下ろした。
「おまえはそのまま、そのベッドを使え。窓際はダメだ」
「え? なんで、そんな場所に座るの? 早く出て行ってよ」
彼の思いがけない行動に、口を尖らせて抗議する。
同じ部屋にいられたのでは、着替えることすらできない。
「同じ部屋にいなければ、護衛などできない。一晩ぐらいなら、外で寝ずの番をしてやってもいいが、何日も続けては無理だ。いいから早く寝ろ!」
彼は、眼を閉じて、いかにもうるさそうに答える。
「だって、男と一緒の部屋に寝ろって言うの?」
「俺とお前は兄弟っていうことになっている。何の問題もない」
「大ありよ!」
「ふん。何を心配しているか知らんが、俺はガキには興味はない。とっとと寝ろ!」
そう言い捨てた後は、いくら文句を言っても、彼は完全に沈黙を貫いた。
この男が朝から晩までべったり一緒にいる日々が、あと四日も続くっていうの?
「もおっ! こんなの、信じられないっ!」
レナエルは毛布をひっつかんで頭からかぶると、扉に背を向けてベッドに丸くなった。
着替えなんかどうでも良くなった。
ただただ、そこにいる男に腹が立つ。
『ねぇ、聞いてよジジ! ジュールったら……』
その後は、姉を相手に怒りをぶちまけているうちに、前日からの疲れもあって眠りに落ちた。
「お前の姉の頭の中は、一体どうなっているんだ。まるで、地図を見ながら話しているようじゃないか。それに、俺の意図も正確に読んでいる」
彼の言葉で、レナエルはようやく、二人が自分を介して探り合っていたことに気づいた。
その上で、あのジュールが、姉の能力に驚嘆していることに、得意な気分になる。
「だって、ジジはセナンクール男爵の右腕って呼ばれてるほどなのよ? 仕事柄、リヴィエ王国と周辺諸国の地図は頭に入ってるし、王都を中心にした各地方までの道や、所要時間も把握してるわ。それに、くせ者ばかりを相手にしてるから、腹の探り合いも得意よ」
「ふん。双子の姉妹なのに、ずいぶん違うものだな。姉の方は、かなりの頭脳派だ。確かに、セナンクール男爵の右腕と呼ばれるだけのことはある。それに比べて……」
まるで自分のことのように姉を自慢するレナエルに、ジュールがたっぷりと嫌みを含んだ眼を向けた。
「何が言いたいのよ。あたしは、ジジのように頭は良くないけど、騎士馬に乗れるし、剣だって扱えるわ!」
「それは、女としてどうなんだ?」
「……う」
「そんなことができても、逆に危険なだけだ」
女であっても大型馬を操れて、剣も扱え、喧嘩なら並の男には負けない自信はある。
オーシェルでは、誰もが一目置いてくれていたこの能力を、この男は認めようとしない。
それは、自分自身を丸ごと否定することと同じだ。
昨晩、出会ったときからずっとそうだ。
「そんなことないっ!」
強く否定したものの、この男に比べたら、自分の力なんて子どものようなものだ。
それを嫌というほど思い知らされているから、レナエルはそれ以上何も言えずに、唇を噛み、拳を握りしめて俯く。
『レナ? どうしたの?』
会話が途切れたままになっていることを訝しんだ姉が、心配そうに声をかけてきた。
『くやしいぃぃぃっ! この男、腹が立ってしょうがない』
『腹が立つって……ジュール・クライトマンが?』
『そうよ! 殴ってやりたいほどむかつくけど、それができるような相手じゃないのが、余計に悔しいっ』
目の前の男に直接言えない分、姉に怒りをぶつけていると、ジュールが立ち上がる気配がした。
高い位置から低い声が降ってくる。
「おい、もういい。おおかた、姉に俺の文句を言っているだけだろう。明日は夜明けとともに発つから、もう休め」
レナエルが恨めしげな表情で顔を上げたが、彼はこちらを見ることなく、さっさと入り口の扉に向かって歩いていった。
これでやっと一人になれると、ほっとしていると、彼はそのまま廊下に出るのかと思いきや、長剣を肩に持たせかけ、扉を塞ぐように腰を下ろした。
「おまえはそのまま、そのベッドを使え。窓際はダメだ」
「え? なんで、そんな場所に座るの? 早く出て行ってよ」
彼の思いがけない行動に、口を尖らせて抗議する。
同じ部屋にいられたのでは、着替えることすらできない。
「同じ部屋にいなければ、護衛などできない。一晩ぐらいなら、外で寝ずの番をしてやってもいいが、何日も続けては無理だ。いいから早く寝ろ!」
彼は、眼を閉じて、いかにもうるさそうに答える。
「だって、男と一緒の部屋に寝ろって言うの?」
「俺とお前は兄弟っていうことになっている。何の問題もない」
「大ありよ!」
「ふん。何を心配しているか知らんが、俺はガキには興味はない。とっとと寝ろ!」
そう言い捨てた後は、いくら文句を言っても、彼は完全に沈黙を貫いた。
この男が朝から晩までべったり一緒にいる日々が、あと四日も続くっていうの?
「もおっ! こんなの、信じられないっ!」
レナエルは毛布をひっつかんで頭からかぶると、扉に背を向けてベッドに丸くなった。
着替えなんかどうでも良くなった。
ただただ、そこにいる男に腹が立つ。
『ねぇ、聞いてよジジ! ジュールったら……』
その後は、姉を相手に怒りをぶちまけているうちに、前日からの疲れもあって眠りに落ちた。
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