【完結】黒隼の騎士のお荷物〜実は息ぴったりのバディ……んなわけあるか!

平田加津実

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ジネットの自称婚約者(1)

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 オーシェルを発って三日目。
 レナエルに追っ手がかかる様子はなく、二人は順調に王都へと馬を走らせていた。

 道の両側の柵の向こうには、青々と茂ったライ麦畑が広がっている。
 田舎道を駆け抜ける二頭の見事な騎士馬の姿に、畑作業をする人々驚いて手を止めた。

 前を走るジュールの馬が、急に速度を落とした。
 さっき、お昼の休憩を取ったばかりだから、休憩するにはかなり早いし、馬を休ませられるような場所でもない。
 不思議に思いながら、レナエルも愛馬の速度を落とす。

「どうしたの?」

 ジュールの馬に自分の馬を並べると、遠くを見つめる彼に声をかけた。

「あれは……?」

 彼の視線を追うと、一本道の向こうから駆けてくる馬の姿が見えた。
 陽の光の中では輝く銀にも見える明るい芦毛の馬だ。
 遠目からでもはっきりと見て取れる巨体の力強さに、レナエルの胸は高鳴った。

「あれって、騎士馬だよね? もしかして、知ってる人?」
「おそらく」

 力強くも優美な馬に乗った男は、二人から少し離れた場所で馬を止めた。
 銀色の髪をゆったりと後ろに束ねた、恐ろしく整った顔立ちの男が、琥珀色の瞳で真っすぐこっちを見ている。

「ギュス……」

 ジュールは名を呟くと、ひらりと馬から降りた。
 銀の髪の男も優雅に馬を降り、互いに近づいていく。

 二人はやはり知り合いだったらしい。

 対照的な毛色の騎士馬を引く二人の男は、上背があるという点以外は、まるで正反対に見えた。
 ジュールが無骨な黒隼の騎士と呼ばれているのなら、もう一人は優雅な銀の騎士といったところだろうか。

「やはり、ジュールだったか。なぜ、こんな場所に?」
「クライトマンの家に行った帰りだ」
「ああ、そういえば、休暇中だと聞いたな。それで、そちらの彼は? 彼……いや、違う。まさか……」

 無駄に美しい銀色の男が、レナエルに視線を向け、驚いたように目を見開いた。

「貴女は……レナエル・クエリー嬢ではありませんか?」
「え……?」

 女だってバレてる。
 ……てか、この人、あたしを知ってる?

 レナエルはぎょっとして、思わず後ずさった。

 分かりやすい動揺に、男は確信したらしい。
 手にしていた手綱を無理やりジュールに手渡すと、足早に近づいてきた。

「やはり、そうなのですね。……失礼」

 男は確認するように顔を覗き込むと、レナエルの帽子をさっと取り去った。

 レナエルは慌てて帽子を手で押さえようとしたが、間に合わない。
 一つに束ねた明るい色の髪が、大きくうねって背中に落ちた。

「ああ、こうやってみると、やはりよく似ている」
「ち、ちょっと待ってよ。あんた、誰?」

 慌てふためいていると、男は優雅に片膝をつき、ごく自然に、両手でそっとレナエルの右手をとった。
 彼の美貌とは釣り合いが取れない、ジュールとよく似た、大きく無骨な騎士の手だ。

「申し遅れました。私はギュスターヴ・ルコントと申す者です。どうぞギュスとお呼び下さい」

 そう言って、手の甲に唇を落とそうとするものだから、レナエルは変な悲鳴を上げて、彼の手の中から右手を引っこ抜いた。

「な、な、な、なにするのっ!」
「おや、新鮮な反応ですね。こういった挨拶は、お気に召しませんか?」

 右手をかばうように背中に回し後ずさる娘を跪いたまま見上げて、男は面白がるような笑顔を見せた。

「ギュス。知り合いなのか?」

 少し離れた場所から、二人のやり取りを観察するように見ていたジュールが口を挟んだ。
 その声に、男はようやく立ち上がる。

「ああ。彼女は近々、私の義理の妹になる予定なんだ」
「あーっ!」

 そうだ、思い出した!

 ギュスターヴ・ルコントという名。
 ジネットが説明してくれた通りの、すらりとした長身、月光のような銀の髪、琥珀の瞳、整った顔立ち、甘い声。
 彼がリヴィエ王国位一の女ったらしとも噂される、姉への求婚者だ。

 ……なるほど、間違いない。
 だけど……。

「ジジはまだ、返事してないはずよ」

 レナエルがきっぱりと否定すると、彼は突然、苦しげに眉をひそめた。
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