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君の欠片を
第34話 似た少女の本
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検索機は一つ一つがパネルでブース状に切り分けられていて、そのパネルに使い方の説明が書かれた紙が貼り付けられていた。
お陰で使い方そのものには困らなかったけど、探している本の題名や作者名がうろ覚えだったので、探し出すのには少しだけ手間取ってしまった。
ようやく大体の場所に検討がついたので、さあ探し出すぞ、と動き出す。動き出してすぐ、動きを止める。
私が使用していたものの二つ前の位置の検索機。そこを利用しているお婆さんから、困窮した感情を感じ取ったのだ。
眼鏡をつけたり外したり、画面に顔を近づけたり離したりしていたので、うまく画面が見えないのだろうと思って声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
「ああ、すみません。私ったら鈍臭くて。すぐにどきますから」
お婆さんは、後がつかえていると勘違いしたようだった。ゆっくりで大丈夫なので、と安心させて、困っているのであれば手伝わせて欲しいと名乗り出たけれど、それでもお婆さんは申し訳無さそうだ。
「大丈夫。任せてください」
笑顔で胸を張って、なるべく力強くそう伝えると、じゃあ、とお婆さんは探している本のことを話し出してくれる。
視力の問題は私がカバーすることですぐに解決した。だけど、お婆さんも探している本の詳細を把握していなかったみたいで、私はまた不鮮明な情報から目的の本を探し出す作業に勤しむことになってしまった。
図書館にはヘルプデスクがあるので、詳細なタイトルや作者名を思い出せないのであればそちらを利用した方が早かっただろうということには、お婆さんと別れてから気がついた。
眼の前のことで頭が一杯になってしまって、こういったことに考えが至らないところはやっぱり私の欠点だと思う。
ヘルプデスクを利用していた方がきっと時間はかからなかったし、次に同じことがあってもお婆さんは困らない。
なのに、お婆さんの心に安心と喜びが満ちて、ありがとう、って笑いかけてくれた、あの顔が忘れられない。
お婆さんのためになるよりも、私の方が嬉しくなってしまうものだから。
やっぱり私の優しさは、どこか独りよがりだ。
---
お婆さんを見送った私は今、ある本棚の前にいる。ティーンズ向けコーナーの棚だ。
検索機でどうにか探し出した目的の本は、この中にあるらしい。
作者名ごとに五十音順で綺麗に並べられているようだったので、検索時に特定した作者名を元に、すぐに探し出すことは出来そうだった。
だけど、そうはしなかった。
ティーンズ向けだからだろうか。本の装丁がなんだか親しみやすい。イラストを用いているものが多く、マンガやアニメ風のキャラクターが描かれているものもあった。
私は、夜空や夕焼けなど、風景の描写が綺麗なイラストが表紙のものに特に気を惹かれた。
私は日頃からよく読書に親しんでいる、というわけではないのだけれど、いや、というわけではないからこそだろうか。他の棚より、見ているだけで楽しい。
一つひとつの本を眺めるのが楽しくて、真っ先に目的の本へは行かず、端からじっくり眺めていった。
後半も半分が過ぎた頃に、その本の表紙が目に入る。人気なのだろうか。背表紙をこちらに向けるような形ではなく、表紙が目に入るように、目立つ形で置かれていた。
あの日、教室で見たのと同じ表紙。夏休みに入る少し前、隣の席の九十九くんに、今日は何を読んでるの、って聞いたら見せてくれた表紙。
夕方と夜の間。一途な思いやりと溢れんばかりの寂寥が同居しているような、繊細な光に包まれた教室で、窓に向かう少女の長い髪がたなびいている。
どんな表情をしているのか、確かめたくて仕方がないのに、声をかけるのをどうしても躊躇ってしまう雰囲気を小さな背中から感じ取れる。
九十九くんに見せてもらった時から、この表紙に強く惹かれていた。だけどそれ以上に、私は裏表紙のあらすじに興味を惹かれた。
他人の心を色で感じ取ることが出来る共感覚を持った少女。そこには、それがこの物語の主人公であると書かれていた。
---
それ以外に、特に強く惹かれる本があるわけではなかったけれど。どうせ暇なので、同じ作者の別の作品と個別で気になったものを、三冊ほど追加で選んで借りてきた。
計四冊で、貸出期間は二週間。夏休みで時間は有り余っているのだ。じっくり読んでも十分読み切れるだろう。
家に帰ると、私は麦茶を入れたカップと借りてきた本を持って自室へ上がっていった。
借りてきた本のうち、三冊は折れ曲がったり、傷んだりしないように日陰のスペースに丁重に保管する。
本命の一冊だけは、カップと一緒に机に置いて、すぐにでも読み始められるよう準備した。
図書館ではなんだかんだ時間を使ってしまったので、もう十七時を回っている。
人と比べたことはないけれど、私は本を読むのは早い方ではないと思う。むしろじっくり時間をかけて読むタイプだと思うので、読み終わる前に一度母に食事と入浴で呼ばれることになるだろう。
今夜、感想文を書く所までいけるかな。そんなことを考えながら、ページを捲った。
お陰で使い方そのものには困らなかったけど、探している本の題名や作者名がうろ覚えだったので、探し出すのには少しだけ手間取ってしまった。
ようやく大体の場所に検討がついたので、さあ探し出すぞ、と動き出す。動き出してすぐ、動きを止める。
私が使用していたものの二つ前の位置の検索機。そこを利用しているお婆さんから、困窮した感情を感じ取ったのだ。
眼鏡をつけたり外したり、画面に顔を近づけたり離したりしていたので、うまく画面が見えないのだろうと思って声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
「ああ、すみません。私ったら鈍臭くて。すぐにどきますから」
お婆さんは、後がつかえていると勘違いしたようだった。ゆっくりで大丈夫なので、と安心させて、困っているのであれば手伝わせて欲しいと名乗り出たけれど、それでもお婆さんは申し訳無さそうだ。
「大丈夫。任せてください」
笑顔で胸を張って、なるべく力強くそう伝えると、じゃあ、とお婆さんは探している本のことを話し出してくれる。
視力の問題は私がカバーすることですぐに解決した。だけど、お婆さんも探している本の詳細を把握していなかったみたいで、私はまた不鮮明な情報から目的の本を探し出す作業に勤しむことになってしまった。
図書館にはヘルプデスクがあるので、詳細なタイトルや作者名を思い出せないのであればそちらを利用した方が早かっただろうということには、お婆さんと別れてから気がついた。
眼の前のことで頭が一杯になってしまって、こういったことに考えが至らないところはやっぱり私の欠点だと思う。
ヘルプデスクを利用していた方がきっと時間はかからなかったし、次に同じことがあってもお婆さんは困らない。
なのに、お婆さんの心に安心と喜びが満ちて、ありがとう、って笑いかけてくれた、あの顔が忘れられない。
お婆さんのためになるよりも、私の方が嬉しくなってしまうものだから。
やっぱり私の優しさは、どこか独りよがりだ。
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お婆さんを見送った私は今、ある本棚の前にいる。ティーンズ向けコーナーの棚だ。
検索機でどうにか探し出した目的の本は、この中にあるらしい。
作者名ごとに五十音順で綺麗に並べられているようだったので、検索時に特定した作者名を元に、すぐに探し出すことは出来そうだった。
だけど、そうはしなかった。
ティーンズ向けだからだろうか。本の装丁がなんだか親しみやすい。イラストを用いているものが多く、マンガやアニメ風のキャラクターが描かれているものもあった。
私は、夜空や夕焼けなど、風景の描写が綺麗なイラストが表紙のものに特に気を惹かれた。
私は日頃からよく読書に親しんでいる、というわけではないのだけれど、いや、というわけではないからこそだろうか。他の棚より、見ているだけで楽しい。
一つひとつの本を眺めるのが楽しくて、真っ先に目的の本へは行かず、端からじっくり眺めていった。
後半も半分が過ぎた頃に、その本の表紙が目に入る。人気なのだろうか。背表紙をこちらに向けるような形ではなく、表紙が目に入るように、目立つ形で置かれていた。
あの日、教室で見たのと同じ表紙。夏休みに入る少し前、隣の席の九十九くんに、今日は何を読んでるの、って聞いたら見せてくれた表紙。
夕方と夜の間。一途な思いやりと溢れんばかりの寂寥が同居しているような、繊細な光に包まれた教室で、窓に向かう少女の長い髪がたなびいている。
どんな表情をしているのか、確かめたくて仕方がないのに、声をかけるのをどうしても躊躇ってしまう雰囲気を小さな背中から感じ取れる。
九十九くんに見せてもらった時から、この表紙に強く惹かれていた。だけどそれ以上に、私は裏表紙のあらすじに興味を惹かれた。
他人の心を色で感じ取ることが出来る共感覚を持った少女。そこには、それがこの物語の主人公であると書かれていた。
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それ以外に、特に強く惹かれる本があるわけではなかったけれど。どうせ暇なので、同じ作者の別の作品と個別で気になったものを、三冊ほど追加で選んで借りてきた。
計四冊で、貸出期間は二週間。夏休みで時間は有り余っているのだ。じっくり読んでも十分読み切れるだろう。
家に帰ると、私は麦茶を入れたカップと借りてきた本を持って自室へ上がっていった。
借りてきた本のうち、三冊は折れ曲がったり、傷んだりしないように日陰のスペースに丁重に保管する。
本命の一冊だけは、カップと一緒に机に置いて、すぐにでも読み始められるよう準備した。
図書館ではなんだかんだ時間を使ってしまったので、もう十七時を回っている。
人と比べたことはないけれど、私は本を読むのは早い方ではないと思う。むしろじっくり時間をかけて読むタイプだと思うので、読み終わる前に一度母に食事と入浴で呼ばれることになるだろう。
今夜、感想文を書く所までいけるかな。そんなことを考えながら、ページを捲った。
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