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第1章 異世界 出会い編
第2話 森とフェンリル
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花畑をあとにして森へ足を踏み入れた私は、少し緊張しながらそれでも前へ進んでいた。森の空気はひんやりしていて木々に覆われているせいか昼でも薄暗い。
「鑑定」
試しに足元の草を調べてみると、淡い光のウィンドウが浮かび上がった。
> 名称:魔粒子草
説明:空気中の魔力粒子を大量に取り込んだ薬草。魔粒子草を使い調合すると回復薬が出来る。
(薬草…これ使えるかも)
さらに森全体を鑑定してみた。
> 名称:魔粒の森
説明:魔力粒子が発生する湖があり濃度が高い森。魔力粒子の影響により、突然変異した魔物やSSSランク級魔物が多く生息している。魔粒子草など珍しい薬草が採れる。
「危険な森ってことだよね……」
そう呟きながらも引き返すわけにはいかず、魔粒子草を数枚採取してアイテムボックスに入れながら森の奥へ進んだ。そのとき風に混じって鉄のような匂いが鼻をかすめた。
「……血の匂い?」
嫌な予感がする。けれど放ってはおけず、匂いのする方へ進んでいく。木漏れ日の差す小さな空間に出たとき、私は息をのんだ。
一頭の大きな銀色の狼が倒れていた。赤いたてがみと赤い瞳を持ち、体中を血に染めている。その隣には小さな同じ姿の子狼が震えるように寄り添っていた。私は咄嗟に鑑定を唱えた。
> 名称:レッドシルバーフェンリル(幼体)
説明:魔粒の森に生息する高位魔獣の幼体。銀色の体に赤い縦髪と赤い瞳を持つ。
「レッドシルバーフェンリル……これがこの森の魔物なんだ」
子フェンリルはこちらを睨み、牙をむいて唸ってくる。けれどその小さな身体も傷ついている。私はゆっくりと近づき、優しく手を伸ばした。
「大丈夫。私は味方だよ……治してあげるから」
「回復の癒し」
淡い光が私の手から子フェンリルに流れ込む。数秒後、傷が塞がっていき、子は驚いたような目で私を見る。次に親フェンリルの元へ歩み寄り、大きな体に手を触れた。
「回復の癒し!」
光が強く溢れ出し、何本もの深い傷を閉じていく。私は魔力の消耗で目の前が暗くなり、そのまま意識を失った。
---
「……っ、ん……」
目を開けると、空は夕焼け色に染まっていた。私は地面に寝かされていて、そばには完全に回復したフェンリル親子が見守るように座っていた。
「良かった……生きててくれて…」
親フェンリルがゆっくりとした動作で頭を下げた。子フェンリルも私の足元にそっと身を寄せている。
> 「人の少女よ、命を救っていただき感謝する」
頭の中に直接声が響いた。私は驚きながらも、言葉が理解できていることに気づく。
> 「我らは森の奥の魔獣と戦い、深い傷を負った。魔粒の森は魔力が濃く、魔獣たちの心を狂わせる。非常に危険な場所だ」
「やっぱりそんなに危険な森だったの……」
> 「礼として、我らをテイムすることを許そう。汝が名を与えるなら、従属契約を結ぶ」
テイムの手順が頭の中に浮かぶ。額に触れ、名前を与えることで契約が成立するらしい。
私は親フェンリルの額にそっと手を当てた。
「……それじゃ、あなたは『雪(せつ)』」
子フェンリルにも手を添える。
「あなたは『雪風(ゆきかぜ)』」
その瞬間、私の手の甲と二匹の額に紋章が浮かび上がり、白い光が二匹の身体を包み込んだ。
「えっ!?」
光がおさまると、二匹の体は赤い縦髪が消え、白銀色に輝く毛並みへと変化していた。私はもう一度鑑定を唱える。
> 名称:シルバーフェンリル
説明:高位魔獣フェンリルが進化した姿。浄化され白銀の毛並みとなる。
> 「テイムされた魔物は進化することがある。魔粒子に染まっていた姿から本来の姿へ戻れたのだ」
雪の声がまた頭の中に届いた。雪風も嬉しそうに尻尾を振り、ぴったりと私の側に座っていた。私はそれを見て笑みを浮かべる。
---
夜になると、私はフェンリル親子と落ち着ける場所に腰を下ろした。お腹も空いてきて、試しにアイテムボックスを使ってみることに。
「菓子パン……」
そう思いながら手を入れると、袋入りの菓子パンが現れた。
「やった……!」
私はパンを分け合い、二匹にも与えてみる。雪風は嬉しそうに食べ、雪もゆっくりと受け取ってくれる。その様子がどこか微笑ましく、私は自分が異世界にいることを少しだけ忘れそうになった。
---
翌朝。森の隙間から差し込む陽の光に照らされながら、私はゆっくりと立ち上がった。
「雪、雪風。この森から出よう。危ない場所だから」
二匹はしっかり頷くようにして私の横に立った。私は胸いっぱい息を吸い込み、空を見上げて笑う。
「じゃあ……これから一緒に旅に出よう」
白銀のフェンリル親子と共に、私は魔粒の森を抜ける道へと歩き出した。
---
「鑑定」
試しに足元の草を調べてみると、淡い光のウィンドウが浮かび上がった。
> 名称:魔粒子草
説明:空気中の魔力粒子を大量に取り込んだ薬草。魔粒子草を使い調合すると回復薬が出来る。
(薬草…これ使えるかも)
さらに森全体を鑑定してみた。
> 名称:魔粒の森
説明:魔力粒子が発生する湖があり濃度が高い森。魔力粒子の影響により、突然変異した魔物やSSSランク級魔物が多く生息している。魔粒子草など珍しい薬草が採れる。
「危険な森ってことだよね……」
そう呟きながらも引き返すわけにはいかず、魔粒子草を数枚採取してアイテムボックスに入れながら森の奥へ進んだ。そのとき風に混じって鉄のような匂いが鼻をかすめた。
「……血の匂い?」
嫌な予感がする。けれど放ってはおけず、匂いのする方へ進んでいく。木漏れ日の差す小さな空間に出たとき、私は息をのんだ。
一頭の大きな銀色の狼が倒れていた。赤いたてがみと赤い瞳を持ち、体中を血に染めている。その隣には小さな同じ姿の子狼が震えるように寄り添っていた。私は咄嗟に鑑定を唱えた。
> 名称:レッドシルバーフェンリル(幼体)
説明:魔粒の森に生息する高位魔獣の幼体。銀色の体に赤い縦髪と赤い瞳を持つ。
「レッドシルバーフェンリル……これがこの森の魔物なんだ」
子フェンリルはこちらを睨み、牙をむいて唸ってくる。けれどその小さな身体も傷ついている。私はゆっくりと近づき、優しく手を伸ばした。
「大丈夫。私は味方だよ……治してあげるから」
「回復の癒し」
淡い光が私の手から子フェンリルに流れ込む。数秒後、傷が塞がっていき、子は驚いたような目で私を見る。次に親フェンリルの元へ歩み寄り、大きな体に手を触れた。
「回復の癒し!」
光が強く溢れ出し、何本もの深い傷を閉じていく。私は魔力の消耗で目の前が暗くなり、そのまま意識を失った。
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「……っ、ん……」
目を開けると、空は夕焼け色に染まっていた。私は地面に寝かされていて、そばには完全に回復したフェンリル親子が見守るように座っていた。
「良かった……生きててくれて…」
親フェンリルがゆっくりとした動作で頭を下げた。子フェンリルも私の足元にそっと身を寄せている。
> 「人の少女よ、命を救っていただき感謝する」
頭の中に直接声が響いた。私は驚きながらも、言葉が理解できていることに気づく。
> 「我らは森の奥の魔獣と戦い、深い傷を負った。魔粒の森は魔力が濃く、魔獣たちの心を狂わせる。非常に危険な場所だ」
「やっぱりそんなに危険な森だったの……」
> 「礼として、我らをテイムすることを許そう。汝が名を与えるなら、従属契約を結ぶ」
テイムの手順が頭の中に浮かぶ。額に触れ、名前を与えることで契約が成立するらしい。
私は親フェンリルの額にそっと手を当てた。
「……それじゃ、あなたは『雪(せつ)』」
子フェンリルにも手を添える。
「あなたは『雪風(ゆきかぜ)』」
その瞬間、私の手の甲と二匹の額に紋章が浮かび上がり、白い光が二匹の身体を包み込んだ。
「えっ!?」
光がおさまると、二匹の体は赤い縦髪が消え、白銀色に輝く毛並みへと変化していた。私はもう一度鑑定を唱える。
> 名称:シルバーフェンリル
説明:高位魔獣フェンリルが進化した姿。浄化され白銀の毛並みとなる。
> 「テイムされた魔物は進化することがある。魔粒子に染まっていた姿から本来の姿へ戻れたのだ」
雪の声がまた頭の中に届いた。雪風も嬉しそうに尻尾を振り、ぴったりと私の側に座っていた。私はそれを見て笑みを浮かべる。
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夜になると、私はフェンリル親子と落ち着ける場所に腰を下ろした。お腹も空いてきて、試しにアイテムボックスを使ってみることに。
「菓子パン……」
そう思いながら手を入れると、袋入りの菓子パンが現れた。
「やった……!」
私はパンを分け合い、二匹にも与えてみる。雪風は嬉しそうに食べ、雪もゆっくりと受け取ってくれる。その様子がどこか微笑ましく、私は自分が異世界にいることを少しだけ忘れそうになった。
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翌朝。森の隙間から差し込む陽の光に照らされながら、私はゆっくりと立ち上がった。
「雪、雪風。この森から出よう。危ない場所だから」
二匹はしっかり頷くようにして私の横に立った。私は胸いっぱい息を吸い込み、空を見上げて笑う。
「じゃあ……これから一緒に旅に出よう」
白銀のフェンリル親子と共に、私は魔粒の森を抜ける道へと歩き出した。
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