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登山部殺人事件
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📘 三題噺のお題(第9弾)
靴ひもがほどけた理由
使われなかった切符
火曜日の夕方
🔍解釈のヒント(任意)
靴ひもがほどけた理由
→ 偶然? 故意? 誰かが結んでくれた?転ぶ伏線?別れの前兆?
小さなきっかけから、大きな展開へとつながる可能性。
使われなかった切符
→ 本当に乗り遅れたのか?乗らなかったのか?捨てたのか?
選ばれなかった未来、未遂の旅、保留された決断。
火曜日の夕方
→ 週の中でも特に「なんでもない日」。
でもその“平凡さ”の中に非日常が混ざることで、印象が際立つ構造を作りやすい。
――――――――――――――――――――
【本文】
僕、村瀬と設楽と日村は大学の登山部に所属している。
今日は夏休みの部の登山に向けて、三人でトレーニングに来ていた。事前に地図を見て思っていたが、かなり難易度が低い。これではトレーニングと言うよりも、ハイキングだ。まあ、こういうのも悪くない。今日は天気も良いし。
後方で地図を見ていた設楽が、僕と日村を追いこした。
「あれだ! あそこから富士山が見えるはずだ」
そう言って坂道を登っていく。
僕はそんな設楽を苦笑しながら見ていた。設楽は目的地が見えると、気がせく傾向がある。今日のようなコースなら問題ないが、本格的な山では危ないと思う。
「もう、設楽さん、靴の紐踏んでったよ。解けちゃったよ」
日村が文句を言っている。
日村はブツブツ言いながら、しゃがんで靴紐を直そうとした。僕は日村を追いこし、坂道を登った。
日村の様子を確認する。日村は、靴紐を直そうとしゃがんだまま、動かなくなっていた。
「日村、どうした?」
僕は声をかけたが、明らかに様子がおかしい。僕は日村のところに戻ろうとした。
「村瀬、動くな! ガスだ!」
設楽が僕に向かって叫ぶ。僕は慌てて止まった。
周囲を確認した。意識していなかったが、ここは窪地だ。ガスが溜まる条件が揃っている。日村はしゃがんだとたんに動かなくなった。低い位置にガスが溜まっている。日村を助けに行けば、僕も危ない。
設楽と合流し、どうするかを話し合った。
僕らにできることは無い。スマホがつながったので、警察に連絡した。僕たち二人は、日村を残して下山した。
警察の事情聴取を受け、僕と設楽は帰途についた。僕はショックを受けていた。
駅で電車を待っていた。ふと見ると、設楽が窓口で何かをしている。どうやら、日村の切符を払い戻ししているようだ。
戻ってきた設楽は、僕に見られていたことに明らかに動揺した。
「いや、もったいないだろ?」
そんなことを言う。合理的なのかもしれないが、ずいぶん冷たいな……僕はそう思った。
日村の葬式が終わり、一週間ほど経った火曜日の夕方。僕は設楽を部室に呼び出した。
「何だよ、村瀬」
設楽は自然体だ。
「設楽、お前あの時、わざと日村の靴紐を踏んだんじゃないか?」
僕は遠回りせずに、本題に入った。
設楽は余裕のある表情を見せる。僕には、それが肯定のサインに見えた。
「何言ってるんだよ、村瀬。あの時、俺もあそこにいたんだぜ。もしも、お前が考えているようなことを俺がしたなら、俺自身も危ないじゃないか」
設楽の言っていることはおかしくない。だが、大げさなジェスチャーが僕の確信を強めた。
「あの山。ずいぶん難易度が低かったよね。あれなら、事前に何度も調査できたんじゃないかな? それに、危険があることが予想できたなら、ガスの探知機とかも用意できたんじゃない?」
僕は設楽をにらみつけた。
「村瀬は俺を殺人犯にしたいわけだ。まさか俺の人生で、こんなことを言う日がくるとは思わなかったよ」
設楽が僕の目をまっすぐ見ながら口を開いた。
「動機は何だ?」
僕は一呼吸してから答えを述べた。
「勘解由小路さんだろ?」
設楽の顔が歪む。
勘解由小路さんは、部のアイドルみたいな女の子だ。僕も彼女には好感を持っている。
設楽も日村も勘解由小路さんに好意を寄せ、アプローチしていた。
設楽のほうが容姿は良いが、人間的には日村のほうがずっと優れている。勘解由小路さんもそれがわかっていたのだろう。日村と勘解由小路さんは密かに付き合っていた。二人とも不器用だったから、全然「密かに」じゃなかったけど。
「動機はお前のつまらなくて、みっともなくて、みみっちい嫉妬だよ」
僕は設楽の目を見ながら言った。挑発するように。
設楽の顔が憎しみに歪む。予想通りだ。
設楽が折りたたみナイフを取り出し、僕に突きつけた。まあ、これも予想通り。
僕は、設楽の背後の壁に設置された掛け時計をさり気なく見た。時間通り。
設楽が奇声を上げながら、僕に突進しようとした。
僕は、切り札を切った。
「キャー! 誰か、助けてー!」
僕は誰が聞いても、可愛い女の子にしか聞こえない悲鳴を上げた。
設楽がポカンとした表情で僕を見ている。
直後、柔道部と空手部とラグビー部とボディービルディング部の男子部員達が部室になだれ込んできた。
ナイフを構える設楽は、彼らにボコボコにされた。女の子がいないことを不思議がっていた彼らには、僕が窓から女の子を逃がしたと説明した。
火曜日の夕方のこの時間、僕は柔道部と空手部とラグビー部とボディービルディング部のミーティングが終わることを知っていた。
設楽は逮捕された。マッチョにボコボコにされたことが、トラウマになったのだろう。あっさり自白した。
あれから数年。
僕は今、人気声優としてキャリアを築いている。
――――――――――――――――――――
【感想】
お題を見てからストーリーにするまでは、それほど時間はかかりませんでした。
ミステリーにしようと思ったけど、名探偵も精緻なロジックも作れないから、このような落ちになりました。
割と良いのではないか。そう思っています。
「バナナマン」は好きな芸人です。
靴ひもがほどけた理由
使われなかった切符
火曜日の夕方
🔍解釈のヒント(任意)
靴ひもがほどけた理由
→ 偶然? 故意? 誰かが結んでくれた?転ぶ伏線?別れの前兆?
小さなきっかけから、大きな展開へとつながる可能性。
使われなかった切符
→ 本当に乗り遅れたのか?乗らなかったのか?捨てたのか?
選ばれなかった未来、未遂の旅、保留された決断。
火曜日の夕方
→ 週の中でも特に「なんでもない日」。
でもその“平凡さ”の中に非日常が混ざることで、印象が際立つ構造を作りやすい。
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【本文】
僕、村瀬と設楽と日村は大学の登山部に所属している。
今日は夏休みの部の登山に向けて、三人でトレーニングに来ていた。事前に地図を見て思っていたが、かなり難易度が低い。これではトレーニングと言うよりも、ハイキングだ。まあ、こういうのも悪くない。今日は天気も良いし。
後方で地図を見ていた設楽が、僕と日村を追いこした。
「あれだ! あそこから富士山が見えるはずだ」
そう言って坂道を登っていく。
僕はそんな設楽を苦笑しながら見ていた。設楽は目的地が見えると、気がせく傾向がある。今日のようなコースなら問題ないが、本格的な山では危ないと思う。
「もう、設楽さん、靴の紐踏んでったよ。解けちゃったよ」
日村が文句を言っている。
日村はブツブツ言いながら、しゃがんで靴紐を直そうとした。僕は日村を追いこし、坂道を登った。
日村の様子を確認する。日村は、靴紐を直そうとしゃがんだまま、動かなくなっていた。
「日村、どうした?」
僕は声をかけたが、明らかに様子がおかしい。僕は日村のところに戻ろうとした。
「村瀬、動くな! ガスだ!」
設楽が僕に向かって叫ぶ。僕は慌てて止まった。
周囲を確認した。意識していなかったが、ここは窪地だ。ガスが溜まる条件が揃っている。日村はしゃがんだとたんに動かなくなった。低い位置にガスが溜まっている。日村を助けに行けば、僕も危ない。
設楽と合流し、どうするかを話し合った。
僕らにできることは無い。スマホがつながったので、警察に連絡した。僕たち二人は、日村を残して下山した。
警察の事情聴取を受け、僕と設楽は帰途についた。僕はショックを受けていた。
駅で電車を待っていた。ふと見ると、設楽が窓口で何かをしている。どうやら、日村の切符を払い戻ししているようだ。
戻ってきた設楽は、僕に見られていたことに明らかに動揺した。
「いや、もったいないだろ?」
そんなことを言う。合理的なのかもしれないが、ずいぶん冷たいな……僕はそう思った。
日村の葬式が終わり、一週間ほど経った火曜日の夕方。僕は設楽を部室に呼び出した。
「何だよ、村瀬」
設楽は自然体だ。
「設楽、お前あの時、わざと日村の靴紐を踏んだんじゃないか?」
僕は遠回りせずに、本題に入った。
設楽は余裕のある表情を見せる。僕には、それが肯定のサインに見えた。
「何言ってるんだよ、村瀬。あの時、俺もあそこにいたんだぜ。もしも、お前が考えているようなことを俺がしたなら、俺自身も危ないじゃないか」
設楽の言っていることはおかしくない。だが、大げさなジェスチャーが僕の確信を強めた。
「あの山。ずいぶん難易度が低かったよね。あれなら、事前に何度も調査できたんじゃないかな? それに、危険があることが予想できたなら、ガスの探知機とかも用意できたんじゃない?」
僕は設楽をにらみつけた。
「村瀬は俺を殺人犯にしたいわけだ。まさか俺の人生で、こんなことを言う日がくるとは思わなかったよ」
設楽が僕の目をまっすぐ見ながら口を開いた。
「動機は何だ?」
僕は一呼吸してから答えを述べた。
「勘解由小路さんだろ?」
設楽の顔が歪む。
勘解由小路さんは、部のアイドルみたいな女の子だ。僕も彼女には好感を持っている。
設楽も日村も勘解由小路さんに好意を寄せ、アプローチしていた。
設楽のほうが容姿は良いが、人間的には日村のほうがずっと優れている。勘解由小路さんもそれがわかっていたのだろう。日村と勘解由小路さんは密かに付き合っていた。二人とも不器用だったから、全然「密かに」じゃなかったけど。
「動機はお前のつまらなくて、みっともなくて、みみっちい嫉妬だよ」
僕は設楽の目を見ながら言った。挑発するように。
設楽の顔が憎しみに歪む。予想通りだ。
設楽が折りたたみナイフを取り出し、僕に突きつけた。まあ、これも予想通り。
僕は、設楽の背後の壁に設置された掛け時計をさり気なく見た。時間通り。
設楽が奇声を上げながら、僕に突進しようとした。
僕は、切り札を切った。
「キャー! 誰か、助けてー!」
僕は誰が聞いても、可愛い女の子にしか聞こえない悲鳴を上げた。
設楽がポカンとした表情で僕を見ている。
直後、柔道部と空手部とラグビー部とボディービルディング部の男子部員達が部室になだれ込んできた。
ナイフを構える設楽は、彼らにボコボコにされた。女の子がいないことを不思議がっていた彼らには、僕が窓から女の子を逃がしたと説明した。
火曜日の夕方のこの時間、僕は柔道部と空手部とラグビー部とボディービルディング部のミーティングが終わることを知っていた。
設楽は逮捕された。マッチョにボコボコにされたことが、トラウマになったのだろう。あっさり自白した。
あれから数年。
僕は今、人気声優としてキャリアを築いている。
――――――――――――――――――――
【感想】
お題を見てからストーリーにするまでは、それほど時間はかかりませんでした。
ミステリーにしようと思ったけど、名探偵も精緻なロジックも作れないから、このような落ちになりました。
割と良いのではないか。そう思っています。
「バナナマン」は好きな芸人です。
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