登山部殺人事件 | 三題噺Vol.9

冴月練

文字の大きさ
1 / 1

登山部殺人事件

しおりを挟む
📘 三題噺のお題(第9弾)
靴ひもがほどけた理由
使われなかった切符
火曜日の夕方

🔍解釈のヒント(任意)
靴ひもがほどけた理由
 → 偶然? 故意? 誰かが結んでくれた?転ぶ伏線?別れの前兆?
  小さなきっかけから、大きな展開へとつながる可能性。

使われなかった切符
 → 本当に乗り遅れたのか?乗らなかったのか?捨てたのか?
  選ばれなかった未来、未遂の旅、保留された決断。

火曜日の夕方
 → 週の中でも特に「なんでもない日」。
  でもその“平凡さ”の中に非日常が混ざることで、印象が際立つ構造を作りやすい。

――――――――――――――――――――

【本文】
 僕、村瀬むらせ設楽したら日村ひむらは大学の登山部に所属している。
 今日は夏休みの部の登山に向けて、三人でトレーニングに来ていた。事前に地図を見て思っていたが、かなり難易度が低い。これではトレーニングと言うよりも、ハイキングだ。まあ、こういうのも悪くない。今日は天気も良いし。

 後方で地図を見ていた設楽が、僕と日村を追いこした。
「あれだ! あそこから富士山が見えるはずだ」
 そう言って坂道を登っていく。
 僕はそんな設楽を苦笑しながら見ていた。設楽は目的地が見えると、気がせく傾向がある。今日のようなコースなら問題ないが、本格的な山では危ないと思う。

「もう、設楽さん、靴の紐踏んでったよ。解けちゃったよ」
 日村が文句を言っている。
 日村はブツブツ言いながら、しゃがんで靴紐を直そうとした。僕は日村を追いこし、坂道を登った。

 日村の様子を確認する。日村は、靴紐を直そうとしゃがんだまま、動かなくなっていた。
「日村、どうした?」
 僕は声をかけたが、明らかに様子がおかしい。僕は日村のところに戻ろうとした。

「村瀬、動くな! ガスだ!」
 設楽が僕に向かって叫ぶ。僕は慌てて止まった。
 周囲を確認した。意識していなかったが、ここは窪地だ。ガスが溜まる条件が揃っている。日村はしゃがんだとたんに動かなくなった。低い位置にガスが溜まっている。日村を助けに行けば、僕も危ない。

 設楽と合流し、どうするかを話し合った。
 僕らにできることは無い。スマホがつながったので、警察に連絡した。僕たち二人は、日村を残して下山した。

 警察の事情聴取を受け、僕と設楽は帰途についた。僕はショックを受けていた。
 駅で電車を待っていた。ふと見ると、設楽が窓口で何かをしている。どうやら、日村の切符を払い戻ししているようだ。
 戻ってきた設楽は、僕に見られていたことに明らかに動揺した。
「いや、もったいないだろ?」
 そんなことを言う。合理的なのかもしれないが、ずいぶん冷たいな……僕はそう思った。



 日村の葬式が終わり、一週間ほど経った火曜日の夕方。僕は設楽を部室に呼び出した。
「何だよ、村瀬」
 設楽は自然体だ。

「設楽、お前あの時、わざと日村の靴紐を踏んだんじゃないか?」
 僕は遠回りせずに、本題に入った。
 設楽は余裕のある表情を見せる。僕には、それが肯定のサインに見えた。
「何言ってるんだよ、村瀬。あの時、俺もあそこにいたんだぜ。もしも、お前が考えているようなことを俺がしたなら、俺自身も危ないじゃないか」
 設楽の言っていることはおかしくない。だが、大げさなジェスチャーが僕の確信を強めた。

「あの山。ずいぶん難易度が低かったよね。あれなら、事前に何度も調査できたんじゃないかな? それに、危険があることが予想できたなら、ガスの探知機とかも用意できたんじゃない?」
 僕は設楽をにらみつけた。

「村瀬は俺を殺人犯にしたいわけだ。まさか俺の人生で、こんなことを言う日がくるとは思わなかったよ」
 設楽が僕の目をまっすぐ見ながら口を開いた。
「動機は何だ?」

 僕は一呼吸してから答えを述べた。
勘解由小路かでのこうじさんだろ?」
 設楽の顔が歪む。
 勘解由小路さんは、部のアイドルみたいな女の子だ。僕も彼女には好感を持っている。

 設楽も日村も勘解由小路さんに好意を寄せ、アプローチしていた。
 設楽のほうが容姿は良いが、人間的には日村のほうがずっと優れている。勘解由小路さんもそれがわかっていたのだろう。日村と勘解由小路さんは密かに付き合っていた。二人とも不器用だったから、全然「密かに」じゃなかったけど。

「動機はお前のつまらなくて、みっともなくて、みみっちい嫉妬だよ」
 僕は設楽の目を見ながら言った。挑発するように。
 設楽の顔が憎しみに歪む。予想通りだ。
 設楽が折りたたみナイフを取り出し、僕に突きつけた。まあ、これも予想通り。
 僕は、設楽の背後の壁に設置された掛け時計をさり気なく見た。時間通り。

 設楽が奇声を上げながら、僕に突進しようとした。
 僕は、切り札を切った。
「キャー! 誰か、助けてー!」
 僕は誰が聞いても、可愛い女の子にしか聞こえない悲鳴を上げた。
 設楽がポカンとした表情で僕を見ている。

 直後、柔道部と空手部とラグビー部とボディービルディング部の男子部員達が部室になだれ込んできた。
 ナイフを構える設楽は、彼らにボコボコにされた。女の子がいないことを不思議がっていた彼らには、僕が窓から女の子を逃がしたと説明した。

 火曜日の夕方のこの時間、僕は柔道部と空手部とラグビー部とボディービルディング部のミーティングが終わることを知っていた。
 設楽は逮捕された。マッチョにボコボコにされたことが、トラウマになったのだろう。あっさり自白した。

 あれから数年。
 僕は今、人気声優としてキャリアを築いている。

――――――――――――――――――――

【感想】
 お題を見てからストーリーにするまでは、それほど時間はかかりませんでした。
 ミステリーにしようと思ったけど、名探偵も精緻なロジックも作れないから、このような落ちになりました。
 割と良いのではないか。そう思っています。
「バナナマン」は好きな芸人です。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

讃美歌 ② 葛藤の章               「崩れゆく楼閣」~「膨れ上がる恐怖」

エフ=宝泉薫
青春
少女と少女、心と体、美と病。 通い合う想いと届かない祈りが織りなす終わりの見えない物語。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

処理中です...