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六皿目:翼を休める
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潤と賄いを食べていると、加藤さんが来た。
「あ、加藤さん、こんにちは。食べながらですみません」
「ああ、いいんだ。気にせず食べて」
そう言うと、加藤さんは椅子に座った。加藤さんは潤に話しかけるでもなく、何かを考えていた。どうしたのだろう?
「美鶴ちゃん」加藤さんは私が食べ終わるのを見計らったかのように話しかけてきた。
「迷ったんだけど、伝えておいたほうがいいと思って」
そう言うと、加藤さんはスマホを取り出して操作し、それを私に渡した。
画面を見た。仕事中の私が映っていた。「この髪の色も可愛い」と書かれていた。うん、わかる。わかるんだけど――。
なんで考えなかったんだろう?「翼をもがれたエンジェル餃子」がSNS経由でヒットしたんだ。私が映ってる可能性は当然あるじゃないか。
「これまさか、五餃翼の仕業?」潤が加藤さんに聞いた。
「いや、可能性はあるだろうが、俺は違うと思う。あの爺さん、婆さんがSNSとか考えつかないだろ」
「確かに」潤が納得したように言った。
「むしろ餃翼衆が口コミサイトで高評価を大量にしたことで、他県からお客さんが来るようになったことのほうが影響してるんじゃ……」加藤さんが苦々しい表情を浮かべた。
二人の会話をどこか遠くで聞いているような感覚がした。
そういえば、お客さんが「金城美鶴」とか「翼をもがれた天使」とか言う回数が増えていた。
どうなるのだろう?
私は、どうしていたらよかったのだろう?
* * *
「いらっしゃいませー」
お客さんが入ってきたので反射的に言った。もうすっかり身についた対応だ。
なのに最近それが変化しているのを感じていた。馴染みのお客さんだと安心し、初見のお客さんだと緊張した。
店内のお客さんの会話に無意識で耳を澄ませていた。
時々聞こえてくる「金城美鶴」「翼をもがれた天使」という言葉を聞くと、身体が強張った。以前もたまに聞こえてきていたのに。
SNSに晒されていることを知ってから、神経質になっていた。
お昼のピークを過ぎたが、店内はお客さんで溢れていた。潤の「翼をもがれたエンジェル餃子」目当てのお客さんが増えているのは嬉しい。
「あの、ちょっといいでしょうか?」
スーツを着た男性客に声をかけられた。
「なんでしょう?」笑顔で答えた。
「私、こういうもので」そう言って、名刺を渡された。聞いたことのある週刊誌の名前が書かれていた。
「少しお話を聞かせてもらえないでしょうか?」
男の顔を見た――これだ。へりくだっているような表情。だけど、その裏に私を消費する意図が隠れた表情。嫌な記憶が生々しく蘇ってきた。
「あの、仕事中ですので」仕事用の笑顔で答えた。
「少しでいいので」男が食い下がった。
無意識に少し後ずさった。
「どういった経緯でこちらで働き始めたのですか?」
「他のお客様の迷惑になるので」
呼吸が急に浅くなった。
「“翼をもがれたエンジェル餃子”というのは、金城さんのアイデアですか?」
「いえ……」
――苦しい。
「フィギュアスケートにはもう戻らないのですか?」
あれ――呼吸って、どうやるんだっけ?
「出てけ!!」
怒鳴り声が背後から聞こえてきて、少し我に返った。
見ると、潤がずかずかと歩いてきた。見たことのない怖い顔。
男の腕をつかむと、無理やり立たせようとした。
「ちょっと、店主さん。私、客ですよ」男がにやけ顔で言った。
「お前なんか客じゃねえ!」
潤の怒声を聞いたのまでは覚えていたが、その後のことがわからなくなった。
気づくと店の奥に横たわっていた。
知らない女性が私の様子を見て、近くにいた潤に何か言った。
後で知ったのだが、その女性はたまたま店内にいた看護師さんだった。
* * *
目を開けた。あの後、また眠ってしまったようだ。
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「無茶しやがって。相手、マスコミだろ? 変なこと書かれたり、暴力振るわれたとかで裁判になったりすんじぇねえのか?」ゲンさんの声だ。
「それならそれで仕方ないよ」潤の声。
「以外と平気かもよ」加藤さんの声。
「なんで?」ゲンさんが聞いた。
「店にお客さんが多かったんだろ? もうSNSには美鶴ちゃんへの取材のやり方を非難する投稿が拡散されてる」加藤さんが答えた。
「ふーん。美鶴ちゃんをやっかいごとに巻き込んだものが、助けになるとはね」ゲンさんが皮肉っぽく言った。
「潤、何かあったら俺に言えよ。従兄弟の弁護士に相談してやる」ゲンさんが続けた。
「ああ。その時はよろしく頼むよ」潤が言った。
三人の会話を聞いていたら、涙が出てきた。
申し訳ないからか、嬉しいからか、よくわからなかった。
* * *
ゲンさんと加藤さんが帰って少ししてから起き上がった。
「潤さん」椅子に座っている潤に声をかけた。
「美鶴ちゃん、もう起きて大丈夫なの?」
心配そうな声。優しい声。それを聞いたらまた泣きそうになったが、堪えた。
「大丈夫です」
潤の近くの椅子に座った。
「家は近くだから、もう少ししたら帰りますよ」
「お家の方に来てもらわなくて大丈夫?」
「大丈夫です。すぐ近くだから」潤を安心させるために笑顔で答えた。
「そう。お茶でも入れるね」
そう言って、潤は立ち上がった。
潤が温かいお茶を持ってきて、自分と私の前に置いた。
「ありがとうございます」
お茶を一口飲んだ。しばらくお互い黙っていた。
「潤さんは何で餃子が好きなんですか?」気になっていたことを尋ねた。
潤はお茶を一口飲んでから口を開いた。
「両親の影響で、子供の頃から料理は好きだったんだ。いろいろな料理を作れる両親をすごいと思ってた」
潤の両親、田川のおじちゃんとおばちゃんを思い出した。田川食堂の料理はどれも美味しかった。
「でもね、今はもう無いんだけど、おじいさんが経営していた餃子屋が近くにあったんだ。そこは焼き餃子しか売ってなかった」
潤は何かを思い出すような目をしていた。
「不思議だった。毎日毎日同じものを作っていて飽きないのかと。だからある日おじいさんに聞いたんだ。そしたら、同じじゃない、って言われた」
潤が私を見て少し笑った。
「一個一個違うって。最初は意味がわからなかった。でも、おじいさんが暇な時に、その頃の僕にはまったく同じに作ったように見える餃子を食べ比べさせてくれた。そしたら全然違った。驚く僕を、おじいさんは笑って見てた」
潤はお茶で口を潤した。
「自分で作るようになって、おじいさんが言ってた意味がわかった。材料も気温も湿度も同じじゃない。同じように見えて全部違う。両親のようにいろいろな料理を作れるのもすごいけど、一つのものを突き詰めてみたいと思った」
潤が私を見た。料理人の目だった。
「たぶん、一生かかっても完成しない。そんなものに取り組んでみたいと」
潤が口元を少し歪めた。それはどこか狂気じみていて、現役時代の私に少し似ていた。
潤の話が終わり、また沈黙が流れた。
「潤さん」
「なに、美鶴ちゃん?」
「お願いですから、餃子フェスティバルに出てください。潤さんの“翼をもがれたエンジェル餃子”なら勝てます」潤の目を見て言った。
「うん……」
やはり潤の返事は煮え切らなかった。何をためらっているのかがわからない。
「なぜためらうんですか?」少し身を乗り出して尋ねた。
潤が私を見た。その目が少し泳いだ。
「どうして!」感情的になり、問い詰めるように聞いた。
「美鶴ちゃんが傷つけられないかが怖いんだ」
潤は下を向いて、ぽつりと言った。
* * *
「五餃翼を気にしてるんですか?」潤に尋ねた。
「それもある」
潤はそう答えると、お茶を一口飲んだ。
「もっと気になってるのは、今日みたいなマスコミだよ」
「それは……」
何も言えなくなってしまった。私もそれを恐れているのは事実だから。
「ああいうのがもっと現れて、美鶴ちゃんが傷つくのが嫌なんだ」
潤が苦しそうな表情を浮かべた。それを見たら胸が苦しくなった。
「僕だって似たようなものだけどね」潤が言った。
「なにがです?」首を傾げた。
「美鶴ちゃんが辛い過去を語ってくれたのに、それを商品名に使ったりして」
「あ、ちゃんとわかってたんですね」ちょっと意外だった。
「気づいたのはずっと後だけどね」潤が自嘲した。
「最初はアイデアを思いついて、浮かれてただけだよ」潤が私を見た。
「近くに――行っていいですか?」
「いいけど……平気なの?」潤が少し首を傾げた。
「なんでそんなこと聞くんですか?」意味がわからず尋ねた。
「気持ち悪いって言ってたし」
「あれ? 聞こえてました?」潤を見た。
「じゃあ、何でなにも言わなかったんですか?」
「自覚してるし」潤は苦笑した。
「だったら直しましょうよ」
「でも、これが僕だし」
それを聞いて笑ってしまった。
「最初の頃は、キノコが似合いそう、とかも思ってましたよ」
それを聞いた潤も笑った。
「確かに似合いそうだ」
潤のそばに移動した。
「私、自分勝手なんです。潤さんのこと馬鹿にして、弱ってる時だけ甘えて。こんな女のために無茶しないでください」
「美鶴ちゃんが毒舌なのも、自意識過剰なのも、強くないのも、自分勝手なのも知ってる」
「いろいろ言われちゃってるなあ」苦笑いを浮かべた。
ぽすんと潤の胸に頭をあずけた。
「気持ち悪いんじゃないの?」
「自分勝手なので」少し笑いながら言った。
「自分勝手なのはお互い様だよ」
潤が私の背中を優しく撫でた。
――落ち着く。私の中の氷が溶けていく。
弱さもダメさも隠さない潤。取り繕ってばかりの私。どちらが強いのだろうか?
見せたい――この人に、私を――
「あ、加藤さん、こんにちは。食べながらですみません」
「ああ、いいんだ。気にせず食べて」
そう言うと、加藤さんは椅子に座った。加藤さんは潤に話しかけるでもなく、何かを考えていた。どうしたのだろう?
「美鶴ちゃん」加藤さんは私が食べ終わるのを見計らったかのように話しかけてきた。
「迷ったんだけど、伝えておいたほうがいいと思って」
そう言うと、加藤さんはスマホを取り出して操作し、それを私に渡した。
画面を見た。仕事中の私が映っていた。「この髪の色も可愛い」と書かれていた。うん、わかる。わかるんだけど――。
なんで考えなかったんだろう?「翼をもがれたエンジェル餃子」がSNS経由でヒットしたんだ。私が映ってる可能性は当然あるじゃないか。
「これまさか、五餃翼の仕業?」潤が加藤さんに聞いた。
「いや、可能性はあるだろうが、俺は違うと思う。あの爺さん、婆さんがSNSとか考えつかないだろ」
「確かに」潤が納得したように言った。
「むしろ餃翼衆が口コミサイトで高評価を大量にしたことで、他県からお客さんが来るようになったことのほうが影響してるんじゃ……」加藤さんが苦々しい表情を浮かべた。
二人の会話をどこか遠くで聞いているような感覚がした。
そういえば、お客さんが「金城美鶴」とか「翼をもがれた天使」とか言う回数が増えていた。
どうなるのだろう?
私は、どうしていたらよかったのだろう?
* * *
「いらっしゃいませー」
お客さんが入ってきたので反射的に言った。もうすっかり身についた対応だ。
なのに最近それが変化しているのを感じていた。馴染みのお客さんだと安心し、初見のお客さんだと緊張した。
店内のお客さんの会話に無意識で耳を澄ませていた。
時々聞こえてくる「金城美鶴」「翼をもがれた天使」という言葉を聞くと、身体が強張った。以前もたまに聞こえてきていたのに。
SNSに晒されていることを知ってから、神経質になっていた。
お昼のピークを過ぎたが、店内はお客さんで溢れていた。潤の「翼をもがれたエンジェル餃子」目当てのお客さんが増えているのは嬉しい。
「あの、ちょっといいでしょうか?」
スーツを着た男性客に声をかけられた。
「なんでしょう?」笑顔で答えた。
「私、こういうもので」そう言って、名刺を渡された。聞いたことのある週刊誌の名前が書かれていた。
「少しお話を聞かせてもらえないでしょうか?」
男の顔を見た――これだ。へりくだっているような表情。だけど、その裏に私を消費する意図が隠れた表情。嫌な記憶が生々しく蘇ってきた。
「あの、仕事中ですので」仕事用の笑顔で答えた。
「少しでいいので」男が食い下がった。
無意識に少し後ずさった。
「どういった経緯でこちらで働き始めたのですか?」
「他のお客様の迷惑になるので」
呼吸が急に浅くなった。
「“翼をもがれたエンジェル餃子”というのは、金城さんのアイデアですか?」
「いえ……」
――苦しい。
「フィギュアスケートにはもう戻らないのですか?」
あれ――呼吸って、どうやるんだっけ?
「出てけ!!」
怒鳴り声が背後から聞こえてきて、少し我に返った。
見ると、潤がずかずかと歩いてきた。見たことのない怖い顔。
男の腕をつかむと、無理やり立たせようとした。
「ちょっと、店主さん。私、客ですよ」男がにやけ顔で言った。
「お前なんか客じゃねえ!」
潤の怒声を聞いたのまでは覚えていたが、その後のことがわからなくなった。
気づくと店の奥に横たわっていた。
知らない女性が私の様子を見て、近くにいた潤に何か言った。
後で知ったのだが、その女性はたまたま店内にいた看護師さんだった。
* * *
目を開けた。あの後、また眠ってしまったようだ。
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「無茶しやがって。相手、マスコミだろ? 変なこと書かれたり、暴力振るわれたとかで裁判になったりすんじぇねえのか?」ゲンさんの声だ。
「それならそれで仕方ないよ」潤の声。
「以外と平気かもよ」加藤さんの声。
「なんで?」ゲンさんが聞いた。
「店にお客さんが多かったんだろ? もうSNSには美鶴ちゃんへの取材のやり方を非難する投稿が拡散されてる」加藤さんが答えた。
「ふーん。美鶴ちゃんをやっかいごとに巻き込んだものが、助けになるとはね」ゲンさんが皮肉っぽく言った。
「潤、何かあったら俺に言えよ。従兄弟の弁護士に相談してやる」ゲンさんが続けた。
「ああ。その時はよろしく頼むよ」潤が言った。
三人の会話を聞いていたら、涙が出てきた。
申し訳ないからか、嬉しいからか、よくわからなかった。
* * *
ゲンさんと加藤さんが帰って少ししてから起き上がった。
「潤さん」椅子に座っている潤に声をかけた。
「美鶴ちゃん、もう起きて大丈夫なの?」
心配そうな声。優しい声。それを聞いたらまた泣きそうになったが、堪えた。
「大丈夫です」
潤の近くの椅子に座った。
「家は近くだから、もう少ししたら帰りますよ」
「お家の方に来てもらわなくて大丈夫?」
「大丈夫です。すぐ近くだから」潤を安心させるために笑顔で答えた。
「そう。お茶でも入れるね」
そう言って、潤は立ち上がった。
潤が温かいお茶を持ってきて、自分と私の前に置いた。
「ありがとうございます」
お茶を一口飲んだ。しばらくお互い黙っていた。
「潤さんは何で餃子が好きなんですか?」気になっていたことを尋ねた。
潤はお茶を一口飲んでから口を開いた。
「両親の影響で、子供の頃から料理は好きだったんだ。いろいろな料理を作れる両親をすごいと思ってた」
潤の両親、田川のおじちゃんとおばちゃんを思い出した。田川食堂の料理はどれも美味しかった。
「でもね、今はもう無いんだけど、おじいさんが経営していた餃子屋が近くにあったんだ。そこは焼き餃子しか売ってなかった」
潤は何かを思い出すような目をしていた。
「不思議だった。毎日毎日同じものを作っていて飽きないのかと。だからある日おじいさんに聞いたんだ。そしたら、同じじゃない、って言われた」
潤が私を見て少し笑った。
「一個一個違うって。最初は意味がわからなかった。でも、おじいさんが暇な時に、その頃の僕にはまったく同じに作ったように見える餃子を食べ比べさせてくれた。そしたら全然違った。驚く僕を、おじいさんは笑って見てた」
潤はお茶で口を潤した。
「自分で作るようになって、おじいさんが言ってた意味がわかった。材料も気温も湿度も同じじゃない。同じように見えて全部違う。両親のようにいろいろな料理を作れるのもすごいけど、一つのものを突き詰めてみたいと思った」
潤が私を見た。料理人の目だった。
「たぶん、一生かかっても完成しない。そんなものに取り組んでみたいと」
潤が口元を少し歪めた。それはどこか狂気じみていて、現役時代の私に少し似ていた。
潤の話が終わり、また沈黙が流れた。
「潤さん」
「なに、美鶴ちゃん?」
「お願いですから、餃子フェスティバルに出てください。潤さんの“翼をもがれたエンジェル餃子”なら勝てます」潤の目を見て言った。
「うん……」
やはり潤の返事は煮え切らなかった。何をためらっているのかがわからない。
「なぜためらうんですか?」少し身を乗り出して尋ねた。
潤が私を見た。その目が少し泳いだ。
「どうして!」感情的になり、問い詰めるように聞いた。
「美鶴ちゃんが傷つけられないかが怖いんだ」
潤は下を向いて、ぽつりと言った。
* * *
「五餃翼を気にしてるんですか?」潤に尋ねた。
「それもある」
潤はそう答えると、お茶を一口飲んだ。
「もっと気になってるのは、今日みたいなマスコミだよ」
「それは……」
何も言えなくなってしまった。私もそれを恐れているのは事実だから。
「ああいうのがもっと現れて、美鶴ちゃんが傷つくのが嫌なんだ」
潤が苦しそうな表情を浮かべた。それを見たら胸が苦しくなった。
「僕だって似たようなものだけどね」潤が言った。
「なにがです?」首を傾げた。
「美鶴ちゃんが辛い過去を語ってくれたのに、それを商品名に使ったりして」
「あ、ちゃんとわかってたんですね」ちょっと意外だった。
「気づいたのはずっと後だけどね」潤が自嘲した。
「最初はアイデアを思いついて、浮かれてただけだよ」潤が私を見た。
「近くに――行っていいですか?」
「いいけど……平気なの?」潤が少し首を傾げた。
「なんでそんなこと聞くんですか?」意味がわからず尋ねた。
「気持ち悪いって言ってたし」
「あれ? 聞こえてました?」潤を見た。
「じゃあ、何でなにも言わなかったんですか?」
「自覚してるし」潤は苦笑した。
「だったら直しましょうよ」
「でも、これが僕だし」
それを聞いて笑ってしまった。
「最初の頃は、キノコが似合いそう、とかも思ってましたよ」
それを聞いた潤も笑った。
「確かに似合いそうだ」
潤のそばに移動した。
「私、自分勝手なんです。潤さんのこと馬鹿にして、弱ってる時だけ甘えて。こんな女のために無茶しないでください」
「美鶴ちゃんが毒舌なのも、自意識過剰なのも、強くないのも、自分勝手なのも知ってる」
「いろいろ言われちゃってるなあ」苦笑いを浮かべた。
ぽすんと潤の胸に頭をあずけた。
「気持ち悪いんじゃないの?」
「自分勝手なので」少し笑いながら言った。
「自分勝手なのはお互い様だよ」
潤が私の背中を優しく撫でた。
――落ち着く。私の中の氷が溶けていく。
弱さもダメさも隠さない潤。取り繕ってばかりの私。どちらが強いのだろうか?
見せたい――この人に、私を――
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