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1章-その男、生粋のドMにつき-
1-4: ドMはその他の人間的本能を抹消すべきである
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-フルダイブ格闘ゲーム「ダルユムド」-
ドゥエム操る無属性キャラ「クラインハルスト」(通称「三枚目」)と、ルナ操る氷属性キャラ「アイシー」(通称「ロリツン」)が戦っていた。
「ッッックホォァ!!!」
思いっきりの魔法腹パン。これは…クる。
「氷雨!」
ひるんで動けないところに、大きな氷の雨が斜め前から降ってくる。
ステップで右に…
タンッ。左足で地面をけり、かがむ。
「アッツァ! イイ!」
左肩・左腕に当たる。冷たいを通り越して熱い。そして気持ちいい。いや、クチュビーの朝のしごきの方が刺激的だったな…。おっと危ない、戦闘に集中しよう。
オレにダメージが入ったとみて、ルナは様子をうかがっている。
深呼吸だ。フゥゥーハァァー。
全ての刺激に感謝します。ありがとう痛覚。ありがとう神経。ありがとう身体。ありがとう世界。
よし、整った。
「身体強化v2。ムーク設置」
ルナの左右に、少し長めの壁を設置。ルナが抜ける前にオレがつっこみ、壁で立体的に動きながら刺せば余裕だ。
タッ。タッタッタッタンッ…
右壁。
タンッ。
左壁。少しずつ詰める。
ルナは何を考えている。動きがないぞ。氷雨か、近接範囲攻撃の氷爆くらいしか手はないだろう。
「氷爆」
来た。大丈夫、上に逃げれば…
「分かりやすすぎるわねドゥエムは。あなたがバカにした三軍を味わいなさい」
頭上から突然の氷。氷雨か!大丈夫、立て直せ。落下速度は上昇した。このままスラッシュで決める!
「じゃ、また明日」
ガチンコ対決か?ヤバい、また氷爆だ。斬れるか、いや………
「Winner is……ルゥゥナァァ!」
チーーーーン。
§
「はぁ…練習にもならないわ。一段とダメージに喜んでない?」
「そりゃあもう…」
前世では味わえない、と言おうとした口をつぐんだ。
ルナの「全く、いつもどおりね」というような反応を見るに、元のドゥエムも相当なドMだったのでは?
「私の新しい攻撃パターンを見たとき、なんとか避けようとするより笑ってるでしょ」
「ぴえん」
「えっ、古すぎないそれ?ヤバ」
「えっ、知ってんの?!」
たぶん250年前くらいだぞ。いや、何回か流行った可能性もある。
「あ~似たようなの聞いたことがあるだけだったかも」
「だよなぁ」
ロビー。背もたれのない固い椅子に座り、くすんだ茶色い机を挟んで先ほどの試合のフィードバック会を行った。
「お~い四軍~」
レオ先輩の声だ。ガタイがいい金髪眼鏡。年齢不詳だが、おそらく20代中盤。元のドゥエムの記憶をたどると、ドゥエム・ルナ・サムが所属しているクランのリーダー。これまでの言動を総合するに…MBTIでいうとENFJあたりか?「優しいリーダー」って感じだな。
「え、なんでその話を…」
「ルナから試合前に聞いてたんだ。お前がルナを三軍呼ばわりしたってな」
「いやぁ…あはは」
クチュビー、改めてエグイことをやってくれるな。それでこそディムロイドだ。ほめて遣わす。
「あ、サムも来たわね」
ルナの目線の遠くから、サムが俯きながらゆっくりと歩いてくる。
「おはようみんな。さっき着いたんだけど、どっちが勝った?」
「当然、わたしよ」
「だろうね」
ドゥエム・ルナ・サムは、半年前にVR格闘ゲーム『ダルムユド』プロプレイヤーになった同期。レオ先輩は1年前に入った先輩で、他3人はレオ先輩からクランに誘われて入ったようだ。
ドゥエムとルナとの対戦成績は、データを見ると120勝142敗。最近は特に負け越している。
「ストリーマーもやってるのになんでプロも強いんだよ…」
「ストリーマーの収入のおかげで、他のアルバイトをする必要がなくなったのよ。おかげでダルムユドに集中できてるわ」
「顔がイイからそりゃ人気になるよなぁ…」
「それはそうね。それだけじゃないけど!」
ルナが少し腹をたてたのをよそに、レオ先輩が踵を返した。
「あれ、帰るんすか先輩」
「今日は……サグレちゃんの生誕祭ライブだ…!!きっかり30分前から待機して、チャット欄をしっかり温めておかなければ!」
「う、うっす」
「家畜は家畜なりに幸せに生きるんだよ。アルゴリズムの海に浸るんだ」
「は、はぁ…」
「んじゃ!また明日!」
レオ先輩、なかなか思想強いな。積極的に家畜になりにいくのは、ドMとして学ぶべきところがあるかもしれない。
レオ先輩が帰ったのち、ドゥエム・ルナ・サムの三人は高ランクプレイヤーの戦闘を見て研究会をしたり、各々練習をしたりして家に帰った。
§
家に着いたドゥエム。クチュビーはまだ家にいる。ドゥエムがスキルを使わないとクチュビーは戻れないようだ。
「おかえりなさいませドゥエム様!」
「おぉ、ただいまクチュビー」
執事か?まぁありがたい。
雑談がてら、クチュビーにアドバイスを求めてみるドゥエム。
「なぁクチュビー、なんでオレはルナに勝てないんだと思う」
「承知にゃむ!そのために、ドゥエム様のダルユムドアカウントのアクセス権限をいただきたいにゃむ!」
きゅるんきゅるんした目でドゥエムを見つめるクチュビー。
詳しいな。ダルユムドアカウントに戦闘データがクラウド保存されていることを知っているとは。勉強したのか?いやそれよりもなんだこの目は。次はこのアカウントから悪さするんじゃないだろうな。
「オッケ~。ブラウザからHPにはアクセスできる?IDとパスワードは今からPCで見せるけど」
「もちろんにゃむ!」
「すげぇな…。あと、ダルユムドアカウントであんまり悪さはしないでくれよ?一応収入源の一つだから」
「『収入源の一つ』だからこそいじくりまわされるのがドMでは無いにゃむか?」
「あ~、確かに」
そうか、クチュビーには人間的本能がない。俺が「最高のドMを味わわせてくれ」と頼めば、本当にその通りに動いてくれる。素晴らしい。
「さすがクチュビー!よし、明日から自由に触ってくれ」
「にゃむ!」
そう会話する間にドゥエムはクチュビーにログインIDとパスワードを見せ、無事クチュビーはログインできた。
「では解析するにゃむ」
「何分くらい?」
「データ量によるにゃむが、概ね1時間分なら5秒ほどにゃむ」
「早っ!じゃあとりあえず直近20試合で頼むわ」
「にゃむ!」
待っている間に内省を始める。スキル面は、おそらく互角なはずだ。積極的に勝ちに行こうとしていないことか?なぜ勝ちにいかない?刺激が気持ちいからか。それで幸せなら、もうこのままの人生でもいいか。悪くない。レオ先輩みたいに、そこそこの収入で人生を楽しむみたいな?
「考察結果にゃむ!優先度の高い課題を3つ挙げるにゃむ。
まずリスク管理が甘すぎるにゃむ。おそらく「自分がこのコンボを決めてみたい」という気持ちが先行して、相手の戦略・戦術への解像度が低いにゃむ。
2つ目が身体動作。通常攻撃の命中率に差があるにゃむが、ドゥエム様の命中率が低いというより被弾率が高すぎるにゃむ。
3つ目がスキル使用。端的にいうと戦術的優位を取るうえであまり効果的でないのが多いにゃむ」
「ぬお~ん。ありがとう。素晴らしい。思い当たることしかない。なんかあれだな、『勝つ』より『楽しむ』が先行しちゃってるな。それでいいと思ってしまう自分もいる。ありがとう。なんかお礼欲しかったりする?」
「光栄にゃむ!ドゥエム様に貢献できるだけで十分にゃむが、強いていうならドゥエム様のgoogleアカウントのアクセス権限を…」
大丈夫?なんかドSになってない?束縛強め系執事?googleアカウントは、もう俺のほぼすべてよ?いやしかし、ここは執事に報いつつ、さらなる刺激を得られる一石二鳥の解。ドMたるもの、ドM以外の本能には積極的に抗おう。
「素晴らしい向上心だ。よし、ちょっと待てよIDとパスワードどこだったっけな…」
と探しつつ、ドゥエムはすんなり腑に落ちない。なんか違うんだよなぁ。その根底にあるような何か…
「どうしたドゥエム、落ち込んでいるじゃないか。なにか記事になりそうなことがあったか?」
右後ろから声。ヴァーラか。コイツは記事しか考えてないな。
「いやー、そうなんだよね。なんで勝てないんだろうって。でもドMだからさ、ダメージを受けて負けるのも気持ちいいし、もうこのままでもいいのかなって。うーん」
ホログラムで少年に扮したヴァーラが少し考える。オレは待つ。ヴァーラは思考が深い。
「最近のお前は、ドMのレベルが低い」
ヴァーラの一言目はいつも端的だ。無駄を嫌う彼なりの話し方。転生前の俺の世界だったら優秀なビジネスパーソンになっていただろうな。
「レベルが低い……とは?」
「そもそも『マゾ』とはなんだ?」
「えっ、えーと、まぁ、快楽的なのも不愉快なのも含めて、あらゆる刺激を楽しむもの?」
「人間心理学的な定義とは乖離があるが、まぁいい。その軸でいこう」
また少しヴァーラが考える。
「お前は同じレベルの刺激に満足してしまっている。例えば『ダルムユド』トッププレイヤーの立ち回りは一流で、ルナよりも素晴らしい刺激…というかダメージを受けることができるだろう。しかしお前はそうしない。今の刺激に満足しているんだ」
「そんなことは…いや確かに」
「クチュビーからの朝刺激では、より強い刺激を求めているのに、こと『ダルムユド』ではその意識が薄い」
グサァッ。これは、気持ちよさより納得と悔しさが勝つ。
「いや、だってクチュビーにやってもらうのは楽で、ダルユムドで上にいくにはかなり練習しないといけないしさ」
「『練習がめんどくさい』に、お前のマゾ的快楽は無いぞ。それは現状維持を望む単なる怠惰だ」
「確かに…」
「一つ言っておく。全ては変数だ。多層的で連関的な変数だ。私にもお前にも、どうしようもない定数なんかない。物理法則だって変数だ。記事のネタがあればいつでも呼んでくれ。もうちょっと絶望した姿が見たい」
そういってヴァーラのホログラムは姿を消した。抽象的なんだよなぁ。どう解釈すればいいのやら…
ピコン。ん?SNSの『ダルユムド』公式アカウントの投稿…。
【~ゲリラ開催~ 1週間後、ランク無制限自由ランクマッチ「Scrap & Scrap」を開催!!】
おお、スクスクだと…!確か、ランクポイントに反映される公式大会。3ヶ月ぶりか。前の時は、ランク20位くらいの人とやらせてもらって、1ダメージも与えられずにボコされたな。
しかもダルユムドは、トップ5が特別。トップ5に勝つと、ランクポイントに関わらずその座を奪える。だからこそトップ5には異次元の強者が鎮座する。
ヴァーラの指摘が響いたドゥエム。まだ見ぬ刺激のため、ランク1位に挑むことを決意した。
でもフルボッコはなんかヤだな。ちょっと耐えるくらいのほうが、たくさん刺激もらえるよな。でもさすがにルナにも負ける4軍レベルじゃ無理か…。
いや、次元干渉スキルでなんとかできないか?できる。できるだろ。変数だ。そうだヴァーラのいった変数だ。
「ヴァーラ。良い記事のネタができそうだわ。1週間後に大会があるんだけど、そこまでに今のランク1位に勝つ練習法ない?」
ドMはけっこう他力本願である。
ドゥエム操る無属性キャラ「クラインハルスト」(通称「三枚目」)と、ルナ操る氷属性キャラ「アイシー」(通称「ロリツン」)が戦っていた。
「ッッックホォァ!!!」
思いっきりの魔法腹パン。これは…クる。
「氷雨!」
ひるんで動けないところに、大きな氷の雨が斜め前から降ってくる。
ステップで右に…
タンッ。左足で地面をけり、かがむ。
「アッツァ! イイ!」
左肩・左腕に当たる。冷たいを通り越して熱い。そして気持ちいい。いや、クチュビーの朝のしごきの方が刺激的だったな…。おっと危ない、戦闘に集中しよう。
オレにダメージが入ったとみて、ルナは様子をうかがっている。
深呼吸だ。フゥゥーハァァー。
全ての刺激に感謝します。ありがとう痛覚。ありがとう神経。ありがとう身体。ありがとう世界。
よし、整った。
「身体強化v2。ムーク設置」
ルナの左右に、少し長めの壁を設置。ルナが抜ける前にオレがつっこみ、壁で立体的に動きながら刺せば余裕だ。
タッ。タッタッタッタンッ…
右壁。
タンッ。
左壁。少しずつ詰める。
ルナは何を考えている。動きがないぞ。氷雨か、近接範囲攻撃の氷爆くらいしか手はないだろう。
「氷爆」
来た。大丈夫、上に逃げれば…
「分かりやすすぎるわねドゥエムは。あなたがバカにした三軍を味わいなさい」
頭上から突然の氷。氷雨か!大丈夫、立て直せ。落下速度は上昇した。このままスラッシュで決める!
「じゃ、また明日」
ガチンコ対決か?ヤバい、また氷爆だ。斬れるか、いや………
「Winner is……ルゥゥナァァ!」
チーーーーン。
§
「はぁ…練習にもならないわ。一段とダメージに喜んでない?」
「そりゃあもう…」
前世では味わえない、と言おうとした口をつぐんだ。
ルナの「全く、いつもどおりね」というような反応を見るに、元のドゥエムも相当なドMだったのでは?
「私の新しい攻撃パターンを見たとき、なんとか避けようとするより笑ってるでしょ」
「ぴえん」
「えっ、古すぎないそれ?ヤバ」
「えっ、知ってんの?!」
たぶん250年前くらいだぞ。いや、何回か流行った可能性もある。
「あ~似たようなの聞いたことがあるだけだったかも」
「だよなぁ」
ロビー。背もたれのない固い椅子に座り、くすんだ茶色い机を挟んで先ほどの試合のフィードバック会を行った。
「お~い四軍~」
レオ先輩の声だ。ガタイがいい金髪眼鏡。年齢不詳だが、おそらく20代中盤。元のドゥエムの記憶をたどると、ドゥエム・ルナ・サムが所属しているクランのリーダー。これまでの言動を総合するに…MBTIでいうとENFJあたりか?「優しいリーダー」って感じだな。
「え、なんでその話を…」
「ルナから試合前に聞いてたんだ。お前がルナを三軍呼ばわりしたってな」
「いやぁ…あはは」
クチュビー、改めてエグイことをやってくれるな。それでこそディムロイドだ。ほめて遣わす。
「あ、サムも来たわね」
ルナの目線の遠くから、サムが俯きながらゆっくりと歩いてくる。
「おはようみんな。さっき着いたんだけど、どっちが勝った?」
「当然、わたしよ」
「だろうね」
ドゥエム・ルナ・サムは、半年前にVR格闘ゲーム『ダルムユド』プロプレイヤーになった同期。レオ先輩は1年前に入った先輩で、他3人はレオ先輩からクランに誘われて入ったようだ。
ドゥエムとルナとの対戦成績は、データを見ると120勝142敗。最近は特に負け越している。
「ストリーマーもやってるのになんでプロも強いんだよ…」
「ストリーマーの収入のおかげで、他のアルバイトをする必要がなくなったのよ。おかげでダルムユドに集中できてるわ」
「顔がイイからそりゃ人気になるよなぁ…」
「それはそうね。それだけじゃないけど!」
ルナが少し腹をたてたのをよそに、レオ先輩が踵を返した。
「あれ、帰るんすか先輩」
「今日は……サグレちゃんの生誕祭ライブだ…!!きっかり30分前から待機して、チャット欄をしっかり温めておかなければ!」
「う、うっす」
「家畜は家畜なりに幸せに生きるんだよ。アルゴリズムの海に浸るんだ」
「は、はぁ…」
「んじゃ!また明日!」
レオ先輩、なかなか思想強いな。積極的に家畜になりにいくのは、ドMとして学ぶべきところがあるかもしれない。
レオ先輩が帰ったのち、ドゥエム・ルナ・サムの三人は高ランクプレイヤーの戦闘を見て研究会をしたり、各々練習をしたりして家に帰った。
§
家に着いたドゥエム。クチュビーはまだ家にいる。ドゥエムがスキルを使わないとクチュビーは戻れないようだ。
「おかえりなさいませドゥエム様!」
「おぉ、ただいまクチュビー」
執事か?まぁありがたい。
雑談がてら、クチュビーにアドバイスを求めてみるドゥエム。
「なぁクチュビー、なんでオレはルナに勝てないんだと思う」
「承知にゃむ!そのために、ドゥエム様のダルユムドアカウントのアクセス権限をいただきたいにゃむ!」
きゅるんきゅるんした目でドゥエムを見つめるクチュビー。
詳しいな。ダルユムドアカウントに戦闘データがクラウド保存されていることを知っているとは。勉強したのか?いやそれよりもなんだこの目は。次はこのアカウントから悪さするんじゃないだろうな。
「オッケ~。ブラウザからHPにはアクセスできる?IDとパスワードは今からPCで見せるけど」
「もちろんにゃむ!」
「すげぇな…。あと、ダルユムドアカウントであんまり悪さはしないでくれよ?一応収入源の一つだから」
「『収入源の一つ』だからこそいじくりまわされるのがドMでは無いにゃむか?」
「あ~、確かに」
そうか、クチュビーには人間的本能がない。俺が「最高のドMを味わわせてくれ」と頼めば、本当にその通りに動いてくれる。素晴らしい。
「さすがクチュビー!よし、明日から自由に触ってくれ」
「にゃむ!」
そう会話する間にドゥエムはクチュビーにログインIDとパスワードを見せ、無事クチュビーはログインできた。
「では解析するにゃむ」
「何分くらい?」
「データ量によるにゃむが、概ね1時間分なら5秒ほどにゃむ」
「早っ!じゃあとりあえず直近20試合で頼むわ」
「にゃむ!」
待っている間に内省を始める。スキル面は、おそらく互角なはずだ。積極的に勝ちに行こうとしていないことか?なぜ勝ちにいかない?刺激が気持ちいからか。それで幸せなら、もうこのままの人生でもいいか。悪くない。レオ先輩みたいに、そこそこの収入で人生を楽しむみたいな?
「考察結果にゃむ!優先度の高い課題を3つ挙げるにゃむ。
まずリスク管理が甘すぎるにゃむ。おそらく「自分がこのコンボを決めてみたい」という気持ちが先行して、相手の戦略・戦術への解像度が低いにゃむ。
2つ目が身体動作。通常攻撃の命中率に差があるにゃむが、ドゥエム様の命中率が低いというより被弾率が高すぎるにゃむ。
3つ目がスキル使用。端的にいうと戦術的優位を取るうえであまり効果的でないのが多いにゃむ」
「ぬお~ん。ありがとう。素晴らしい。思い当たることしかない。なんかあれだな、『勝つ』より『楽しむ』が先行しちゃってるな。それでいいと思ってしまう自分もいる。ありがとう。なんかお礼欲しかったりする?」
「光栄にゃむ!ドゥエム様に貢献できるだけで十分にゃむが、強いていうならドゥエム様のgoogleアカウントのアクセス権限を…」
大丈夫?なんかドSになってない?束縛強め系執事?googleアカウントは、もう俺のほぼすべてよ?いやしかし、ここは執事に報いつつ、さらなる刺激を得られる一石二鳥の解。ドMたるもの、ドM以外の本能には積極的に抗おう。
「素晴らしい向上心だ。よし、ちょっと待てよIDとパスワードどこだったっけな…」
と探しつつ、ドゥエムはすんなり腑に落ちない。なんか違うんだよなぁ。その根底にあるような何か…
「どうしたドゥエム、落ち込んでいるじゃないか。なにか記事になりそうなことがあったか?」
右後ろから声。ヴァーラか。コイツは記事しか考えてないな。
「いやー、そうなんだよね。なんで勝てないんだろうって。でもドMだからさ、ダメージを受けて負けるのも気持ちいいし、もうこのままでもいいのかなって。うーん」
ホログラムで少年に扮したヴァーラが少し考える。オレは待つ。ヴァーラは思考が深い。
「最近のお前は、ドMのレベルが低い」
ヴァーラの一言目はいつも端的だ。無駄を嫌う彼なりの話し方。転生前の俺の世界だったら優秀なビジネスパーソンになっていただろうな。
「レベルが低い……とは?」
「そもそも『マゾ』とはなんだ?」
「えっ、えーと、まぁ、快楽的なのも不愉快なのも含めて、あらゆる刺激を楽しむもの?」
「人間心理学的な定義とは乖離があるが、まぁいい。その軸でいこう」
また少しヴァーラが考える。
「お前は同じレベルの刺激に満足してしまっている。例えば『ダルムユド』トッププレイヤーの立ち回りは一流で、ルナよりも素晴らしい刺激…というかダメージを受けることができるだろう。しかしお前はそうしない。今の刺激に満足しているんだ」
「そんなことは…いや確かに」
「クチュビーからの朝刺激では、より強い刺激を求めているのに、こと『ダルムユド』ではその意識が薄い」
グサァッ。これは、気持ちよさより納得と悔しさが勝つ。
「いや、だってクチュビーにやってもらうのは楽で、ダルユムドで上にいくにはかなり練習しないといけないしさ」
「『練習がめんどくさい』に、お前のマゾ的快楽は無いぞ。それは現状維持を望む単なる怠惰だ」
「確かに…」
「一つ言っておく。全ては変数だ。多層的で連関的な変数だ。私にもお前にも、どうしようもない定数なんかない。物理法則だって変数だ。記事のネタがあればいつでも呼んでくれ。もうちょっと絶望した姿が見たい」
そういってヴァーラのホログラムは姿を消した。抽象的なんだよなぁ。どう解釈すればいいのやら…
ピコン。ん?SNSの『ダルユムド』公式アカウントの投稿…。
【~ゲリラ開催~ 1週間後、ランク無制限自由ランクマッチ「Scrap & Scrap」を開催!!】
おお、スクスクだと…!確か、ランクポイントに反映される公式大会。3ヶ月ぶりか。前の時は、ランク20位くらいの人とやらせてもらって、1ダメージも与えられずにボコされたな。
しかもダルユムドは、トップ5が特別。トップ5に勝つと、ランクポイントに関わらずその座を奪える。だからこそトップ5には異次元の強者が鎮座する。
ヴァーラの指摘が響いたドゥエム。まだ見ぬ刺激のため、ランク1位に挑むことを決意した。
でもフルボッコはなんかヤだな。ちょっと耐えるくらいのほうが、たくさん刺激もらえるよな。でもさすがにルナにも負ける4軍レベルじゃ無理か…。
いや、次元干渉スキルでなんとかできないか?できる。できるだろ。変数だ。そうだヴァーラのいった変数だ。
「ヴァーラ。良い記事のネタができそうだわ。1週間後に大会があるんだけど、そこまでに今のランク1位に勝つ練習法ない?」
ドMはけっこう他力本願である。
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