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プロローグ
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小人の里を見下ろす丘に、その少年は立っていた。
緑色のチュニックに革の胸当てに茶色のズボン、皮のブーツ。使い込まれた小弓を腰に下げ矢筒と背嚢を背負った姿は、幼さの残る顔立ちとは対照的に戦士のそれだった。
『ケイ……本当に行くの?』
正面に立つ小柄な若い女性が不安げに問いかけた。
『イリナ姉さん、小人の里を頼みます』
少年の肩ほどしかない女性が目を伏せる。
風が小柄な女性のスカートの裾を揺らした。
『父さんが……父さんのいる世界に”カケラ”がある』
まだ見ぬ父親のことは母から繰り返し聞かされていた。
——会ってみたい……そして、母さんと会わせてあげたい。
「トオサン……」
チョーローから習った、父親を意味する異界の言葉。
母の語る父は誰よりも勇敢で優しく、鉄の車を操り、あの怖ろしい竜猿すら退けたという。その逞しい父の姿を、何度も想像し夢見ていた。
『そのカケラを回収すれば、母さんの望みが叶う……』
少年は視線を逸らした。母の望みだけではない。
『ぼくが、行かないと……カケラを取り戻して祭壇を復旧し、元の世界に戻す……』
その視線の先には、一本の色褪せた登山スティックと、盛り上がった土塚があった。
かつて里を襲った獣と戦って命を落とした異界人の墓、父さんの父さんの墓。
『リューシャさんからの連絡も途絶えて、もう一月……』
明るい栗色の長い髪が風にそよぐ。
『あなたまでいなくなってしまったら……』
その視線は、土塚の前に供えられた花に向けられる。
『心配いらない、僕も母さんも、無事に返ってくる』
そのとき、土塚の前に座していた小人が立ち上がった。
『イリナよ……案ずるな。わしがついておる』
少年が体を向けると、小人が頷いた。
『”使い手”の気配はあるか?』
小人がイリナに問う。
『今のところは……でも、いつ現れるか分からないわ』
イリナの視線が落ち着かずに泳いだ。
『だが、行かないわけにはゆかぬ……』
少年が小人を見つめる。
『チョーロー、準備はできてる』
その言葉を聞くと、チョーローがゆっくりと詠唱を始めた。
——十二年かけて集めた貴重な『影』じゃ……
帰りの分まで持つかどうかは賭けになる……
だが、あのカケラが見つかれば……
詠唱の声が大きくなるにつれ、小人の小さな手のひらから黒い霧のような影が湧き立った。
その影は、小人の小さな体と少年の体を覆うように広がっていく。
やがて音もなく影が消えたとき、二人の姿はなかった。
イリナは、一人残された土塚の前に跪き、祈るように手を組んだ。
——不吉な予感が、胸のざわめきを静めてくれない……
どうか、二人を……無事に帰して……
緑色のチュニックに革の胸当てに茶色のズボン、皮のブーツ。使い込まれた小弓を腰に下げ矢筒と背嚢を背負った姿は、幼さの残る顔立ちとは対照的に戦士のそれだった。
『ケイ……本当に行くの?』
正面に立つ小柄な若い女性が不安げに問いかけた。
『イリナ姉さん、小人の里を頼みます』
少年の肩ほどしかない女性が目を伏せる。
風が小柄な女性のスカートの裾を揺らした。
『父さんが……父さんのいる世界に”カケラ”がある』
まだ見ぬ父親のことは母から繰り返し聞かされていた。
——会ってみたい……そして、母さんと会わせてあげたい。
「トオサン……」
チョーローから習った、父親を意味する異界の言葉。
母の語る父は誰よりも勇敢で優しく、鉄の車を操り、あの怖ろしい竜猿すら退けたという。その逞しい父の姿を、何度も想像し夢見ていた。
『そのカケラを回収すれば、母さんの望みが叶う……』
少年は視線を逸らした。母の望みだけではない。
『ぼくが、行かないと……カケラを取り戻して祭壇を復旧し、元の世界に戻す……』
その視線の先には、一本の色褪せた登山スティックと、盛り上がった土塚があった。
かつて里を襲った獣と戦って命を落とした異界人の墓、父さんの父さんの墓。
『リューシャさんからの連絡も途絶えて、もう一月……』
明るい栗色の長い髪が風にそよぐ。
『あなたまでいなくなってしまったら……』
その視線は、土塚の前に供えられた花に向けられる。
『心配いらない、僕も母さんも、無事に返ってくる』
そのとき、土塚の前に座していた小人が立ち上がった。
『イリナよ……案ずるな。わしがついておる』
少年が体を向けると、小人が頷いた。
『”使い手”の気配はあるか?』
小人がイリナに問う。
『今のところは……でも、いつ現れるか分からないわ』
イリナの視線が落ち着かずに泳いだ。
『だが、行かないわけにはゆかぬ……』
少年が小人を見つめる。
『チョーロー、準備はできてる』
その言葉を聞くと、チョーローがゆっくりと詠唱を始めた。
——十二年かけて集めた貴重な『影』じゃ……
帰りの分まで持つかどうかは賭けになる……
だが、あのカケラが見つかれば……
詠唱の声が大きくなるにつれ、小人の小さな手のひらから黒い霧のような影が湧き立った。
その影は、小人の小さな体と少年の体を覆うように広がっていく。
やがて音もなく影が消えたとき、二人の姿はなかった。
イリナは、一人残された土塚の前に跪き、祈るように手を組んだ。
——不吉な予感が、胸のざわめきを静めてくれない……
どうか、二人を……無事に帰して……
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