軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜

タキ マサト

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第二章 虜囚

15話 救出前夜  

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 薄暗く、絶え間なく揺れる空間でリューシャはじっと息を潜めていた。オムカがもぞもぞと動いているのが見える。そのオムカと目が合うと、安心させるようにまばたきを繰り返した。

――今は体力を無闇に使うときではない。こうしてじっとして機会を窺うしかない……

 オムカもまた、猿轡をされ手足に枷が嵌められていた。小人の衣装はそのまま着ている。オムカはリューシャの状況を確認すると動きを止めた。

 そのとき、にわかに壁の外が慌ただしくなる気配がした。リューシャが耳を澄ますと騎馬がこちらに向かって駆けてくるようだった。ほどなくして壁がコツコツと叩かれる。
『導き手殿……騎士団が何やら蠢いてる様子。何か感知はしておりませぬか?』
 壁の向こうから小声で問いかけがあった。
『放っておけ…… 所詮、小部隊。我らの影と猿どもが居れば恐るるに足らん……』
 導き手と呼ばれた影がみじろぎもせずに、そっけなく答えた。
『鉄の車と遭遇した部隊がおります……』
 その声にリューシャの体がビクッと動き、導き手の顔がすっとその方角を向いた。
『……鉄の車の巨人族か…… 新たな依代に…… ちょうど良い……』
 リューシャの方を向いたまま口が歪む。
『もう一つ……依代の子らが逃亡した模様。洞窟から鳩が届いております……』
 その声は、よりいっそう小さくなった。
『進路は手筈通りで良いか確認したく……』
 導き手は盲いた方の目をうっすらと開けた。
『……森からは逃れられぬ…… 手筈通りで構わぬ』
『捜索の必要性は?』
『要らぬ…… ″絶望″の影が動いている……』
 導き手は左の赤い目を開けた。
『……もし見つけたならば、二度と逃げ出せないよう足でも折っておけ』

 導き手は左手を上げた。その甲には紋様が刻まれている。リューシャとオムカに刻まれた紋様を何かを呟きながら見つめるが、その左手の紋様は沈黙したままだった。

『……まだか』

 使い手は低くつぶやいた。



  *



 羽猿の群れが数匹、西に向かって闇の森の上空を飛んでいた。

「ケイ兄ちゃん。すごい……飛んでるよ」
 羽猿の背中の毛並みは飛び立つと逆立ち、冷たい風を防いでくれた。背中にケイの温もりを感じ、お腹に当たる毛並みが心地良い。逞しい広い背中は安心感があった。飛び立った直後は目を閉じ体をこわばらせていた碧だったが、慣れてくると目を輝かせ、眼下に広がる一面の枯れた森の風景を見ていた。
『……アオ ……まさか、羽猿に乗る日が来るなんて…… 思いもしなかった……』
 ケイも目を丸くして、その光景に圧倒されていた。

 しかし、その飛行体験も長くは続かなかった。
 先頭の羽猿が高度を落とすと闇の森に入っていく。それに碧たちの乗った羽猿も続いた。眼下に見えるのは、古い寺院のようだった。
 テラスに続く寺院の内側へと、羽猿は光を避けるように素早く滑り込んでいく。独特な香が漂う薄暗い空間に入ると、二人の乗った羽猿は力尽きたように倒れ込んだ。
「ギャギャ……」
『日の光の下では長くはいられん……』
 盲目の男は、羽猿に向かって手を伸ばす。その手から影が湧き立つと羽猿の体にまとわりついていった。
 苦しむように鳴く羽猿はその影に安心したかのように大人しくなった。寺院の奥から似たような黒いフードを被った人影が現れ、次々と影を羽猿に送っていく。
 羽猿から降りた二人はその光景を呆然として見ていた。
「怖いだけと思ってたけど、こうして見ると可愛く見えてきた……」
 碧がぽつりとつぶやいた。羽猿は黒いフードの人影に頭をこすりつけ甘えるようにして鳴いた。

『小人の里までは、到底……辿り着けん……』
 盲目の男はケイに話しかけた。焼け爛れた顔の表情は読み解けないが、疲労が濃く滲んでいた。杖にすがるように立っている。
『ここの方が…… まだ…… 安全だ……』
 息も絶え絶えに呻くように話す。別の黒いフードの人影が駆け寄り、支えるように椅子に座らせた。
『ここには…… まだ影が少し残っている…… 使い手の目から、まだ少しは逃れられる……』
「ケイ兄ちゃん……? なんて言ってるの?」
 碧は不安な顔をしてケイを見た。
「パパは? ママは? ここに来てくれるの?」
 ケイは何も言えず、碧の手を握った。
『アオ……トオサンは必ず来てくれる……カアサンも』
「トオサン? うん。パパもママも絶対助けに来てくれる」
 言葉が通じない二人だが、お互いの手の温もりにかすかな希望を感じているようだった。



  *



 日は西の山並みに沈みかけていた。

 グラン隊は荒野を離れ山を降りて行く。その後ろからジムニーがゆっくりと続いた。悪路続きだったが、ようやく穏やかな徐行運転になり、イリナはほっとした顔でリーの頭を撫でた。ハンドルは田崎が握った。
「流石に疲れたわ」
 未来が隣で伸びをする。道は森の中に入っていく。この辺りはまだ緑が残っていた。暗くなる前にグラン隊が設置した野営場所に着く。沢が流れ夕刻の冷えきった空気が流れていた。すぐそばの広場にはすでに陣が張ってあった。
 
 ジムニーがその陣地に入るとき、田崎はその場の空間が歪んだ気がした。
「グランとこの小人の結界だね。あとでイリナが補強すると思うよ」
 
 夕食に、未来がクーラーボックスの食材を使い、手早く簡単な料理を作った。夕食を取っているとグランが数人を連れてジムニーのそばに歩み寄ってきた。
『食べながら、聞いてくれ』
 グランの顔は珍しく浮かない。
『タサキ、娘とケイのことは聞いている。救出に我が隊も全力を尽くす…… しかし、娘たちは…… まだ合流していない可能性が高い……』
 モーイが通訳を始めると、未来の顔が険しくなった。
『しかし、娘たちを連れ去った張本人がここにはいる。そいつをとっつかまえるか、カケラを奪い返すかすれば、カケラの共鳴で居場所が分かるかもしれん……』
 グラン付きの小人、ナヴィがうなずいた。
『使い手の居場所は、だいたい特定できた。本隊の中央に黒い台車を引いた一隊がいる』
 グランが後を引き継ぐ。
『捕えた鉄騎軍の指揮官を少し可愛がってやったら口を割った。耳長の巨大な女がそこに押し込まれるのを見たそうだ……』
「リューシャ……」
 田崎がつぶやき、未来がそれを聞いて険しい視線を向けた。
『警備は厳重だ…… 獣の護衛もいる。危険だが、鉄の車の足があれば……』
 イリナが口を開いた。
『私の光の術を使えば、短い時間だったら影の力を完全に無効に出来ます』
「それは、どのくらい?」
 田崎が思わず口を挟んだ。
『百、数える間……そして、そのあとは全く動けなくなります……』
 一同は黙り込んだ。
『黒い台車にカケラの反応がある。あとオムカの影も微弱だが感じる……もしかしたら依代になっている可能性もある…… 依代になっていればリューシャたちを救出することで娘たちの居場所が突き止められる…… 使い手の影の力を無効化できれば勝機はある』
 ナヴィが考えながら話す。随分真面目な小人もいるものだと田崎は感心した。
 そのとき、結界に一部隊が入ってきた。部隊を率いていた副官がグランの姿を見つけると馬を降りて駆け寄ってくる。

 そしてグランにそっと耳打ちをした。
 その報告を聞いてグランがニヤリと笑う。

『嫌がらせがうまくいきそうだぞ……』
 グランが広げた地図を指差す。一行も地図を覗き込んだ。
『ここを……この場所で……』
 グランが作戦を話し始める。副官を呼び寄せ次々と指示を出していく。
「ジムニーは…… ここから……」
 次第に熱が入り作戦の詳細が固められていく。
 焚き火の炎がパチリと爆ぜる。
 山岳地帯の夜はどんどん冷えていった。

『作戦は、明朝未明……健闘を祈る』
 グランが最後を締める。

――上手くいくだろうか……?

 田崎は未来を見る。不安な顔をしていたのだろう。
 未来が田崎の胸を小突いた。

「やるしかないでしょ」
「……そうだな。休む前にジムニーの点検と給油をしておこうか……」
 二人はライトを手にジムニーの点検と整備を始める。

 月が山岳地帯の夜を照らしていた。


 満月まで、あと五日――

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