軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜

タキ マサト

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第二章 虜囚

14話 邂逅

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14話 邂逅


 二人が洞窟を飛び出した先、そこは枯れた闇の森だった。
 ケイが振り返ると、背後の岩山の斜面に洞窟が口を開けていた。

――見通しが良すぎる……

 そのとき、碧がリュックを下ろした。
「ケイ兄ちゃん! これ取って!」
 鳴り続けるブザーを碧は取ろうとしているが、網に紐が引っかかって取れずにいた。ケイはすかさずナイフで網を裂く。
「ケイ兄ちゃん! 投げて」
 ブザーを投げる動作をして、ケイに渡す。
「あっち!」
 ケイはうなずいてブザーを洞窟の入り口に向かって投げつけた。
 ほどなくして猿たちの絶叫が洞窟から響いた。
 ケイは碧の手を取り、森の奥に走り出す。
 ブザーの音がだんだん遠ざかっていく。

 ケイは山の斜面をどんどん下っていく。碧はつまずきながら遅れがちになっていった。
「ケイ兄ちゃん、待って……」
 そのとき、上空に羽ばたきの音が聞こえた。
 ケイの顔に緊張が走る。碧のもとに駆け戻ると、斜面の窪みに身を潜めた。

「ケイ兄ちゃん……怖い……」
 背後から複数の狗猿の唸り声が近づいてきた。上空の羽猿は数を増していく。ケイは手に持つ小刀を握りしめ、碧はケイの服をぎゅっとつかんだ。
『碧、大丈夫だ……』
 息を潜め斜面に体を押し付ける。心臓の鼓動が速くなる。

チリン……

 鈴の音が響いた。
 碧が青ざめ、ケイは唾を飲み込む。

――見つかった……

 上空から羽猿が二人に向かい鋭い鉤爪を剥き出しにして急降下する。背後の狗猿の唸り声がさらに近くなった。

「きゃあ!」
 碧は目を閉じ、しゃがみ込んだ。ケイは小刀をその影に向けた。
 鉤爪と小刀が火花を散らすが、もう片方の脚がケイの左腕に突き立った。二匹目の羽猿がケイの背中に襲いかかる。ケイは身をよじるが爪が肩を掠め、血が跳ねた。
「ケイ……兄ちゃん! きゃあああ!!」
 三匹目の羽猿が碧の前に降り立つ。次々と羽猿は降りてきていた。そのうちの一匹が碧に鉤爪を振り下ろそうとした寸前――

 森の奥から疾走してきた黒い大きな影が羽猿に飛びかかった。勢いのまま羽猿を突き飛ばし、首筋に牙を立てる。猿の顔と黒い斑点を持つ豹だった。
 二匹目の豹猿が羽猿を地面に押さえつける。躍り出た三匹目の豹猿が威嚇で吠えると、羽猿は一斉に飛び立った。
 上空では新たに来た羽猿が、地面から飛び立った羽猿に襲いかかっている。
 
 上空から一匹、羽猿が降りてくる。ケイは小刀を構えた。

 その羽猿には人影が乗っていた。不気味な黒いフードで全身が覆われている。
 そしてその人影はゆっくりと降り立った。
 フードから覗く顔は赤黒く焼け爛れていた。鼻も耳も失われている。
 閉じられた両の目が開く。その瞳は色を失い、白く濁っていた。

「ひっ……!」
 碧が息を呑み、ケイの背中にしがみつく。

『里の防人の子と…… 異界の子よ……』
 その口が静かに開いた。恐怖のあまり碧がその場でへたり込んだ。
 ケイがはっと息を飲んだ。

――チョーローが森の奥から救った…… 闇の民……

『我らは盲目の僧侶の過ちを正すもの……』
 その声は苦しげに掠れていた。
『我らは小人の王、法王と契りを結んだ…… 月の民の企みは阻止しなければならぬ……』
 盲目の男は力なくうつむいた。
『乗れ…… 我らの力は弱い…… 使い手の影が来る前に…… 早く……』
「……ケイ?」
 碧はケイと盲目の男を交互に見る。
『アオ……大丈夫だ……』
 ケイは小刀を鞘に納めて、傷に顔をしかめながら碧に手を差しのべた。
「ケイ……? この人……いいもん?」
 碧は震える手をケイに伸ばす。その手を掴むと立ち上がらせる。
『急がないと……また、捕まる……』
 降りてきた羽猿は碧より少し高いくらいの大きさだった。黒い毛で覆われた背中は筋肉で盛り上がっている。翼の付け根にちょうど掴むのに程よい骨が出っ張っていた。
 ケイはその飛び出た骨を掴むと同時に、羽猿が身を沈めた。足を胴体に挟み込むようにまたがると羽猿は立ち上がる。そのまま翼を広げると羽ばたき始め、ケイは慌てた。
『ちょっと待って! 碧がまだ!』
 飛び降りるとケイは碧の手を取る。
『ここに掴まるんだ』
 碧はこわごわと手を伸ばす。ごわごわとした毛並みにさっと手を引っ込めた。
「怖いよ……ケイ兄ちゃん……」
 怯えた顔を向ける碧にケイは骨に触らせ、自分はその上から手を被せた。ケイは碧の顔を見て、安心させるように笑顔を見せる。もう片方の手も骨に当てると羽猿は身を屈めた。
「きゃっ!」
 突然、羽猿が身を低くし、碧の顔が毛並みに触れる。そのまま覆いかぶさるようにケイが足を羽猿の胴体に回すと羽猿は羽ばたき始めた。
「きゃー! 怖いよ!」
 碧はぎゅっと足を羽猿の胴体に回してしがみつく。その瞬間、羽猿は力強く羽ばたくと浮き上がり急上昇した。
「きゃー!!」
 羽猿はぐんぐんと高度を上げていく。

『碧! 大丈夫! ボクがついてる!』

 盲目の男を乗せた羽猿を先頭に、碧とケイを乗せた羽猿が続く。羽猿は闇の森の上空を飛び、太陽を背に西へと小さくなっていった。
 


  *



 ジムニーは午後の日差しを浴びて荒野を走っていた。
 乗員の顔には疲労の色が濃い。イリナが力なく、ぐったりとしている。リーも揺れる車内で落ち着かなげにイリナに寄り添っている。
 未来は血走った目でハンドルを握っていた。
 碧を思う母の執念が、その表情に宿っている。
 田崎が時折痛む頭を押さえていたとき、前方に上がる狼煙に気がついた。

 赤い狼煙、それに続いて黄色い狼煙が上がった。

「モーイあれは、騎士団の狼煙じゃないか?」
 モーイは座布団の上に胡座をかいて車の揺れに合わせて飛び跳ねている。
「グラン隊のだね」
「気になってたけど、グランって、あのグランだよな?」
「あのグランだよ」

――騎士団に入ったのか。
 あの無骨な髭面の顔を思い出す。火炎瓶に随分喜んでいたっけ……

「また、あなたの知り合い? 本当にここで何してたの?」
「だから、飲んだときに言ってたやつだよ」
 ほどなくして、馬の蹄と轍の跡が見え始めた。
「もうすぐだね」
 モーイが杖で前方を指したとき、さらに狼煙が上がった。青い狼煙が上がったかと思うと緑色、次に黄色、その数は増していった。
「モーイ、なんであんなに狼煙が上がってるんだ?」
「見当もつかないね」
 モーイは首を振った。

 ジムニーは轍と馬の足跡を追ってゴツゴツとした山岳地帯に入っていく。低速四駆でエンジンを唸らせながら岩を乗り越え、急登を駆け上がりパワフルに前に進む。
「未来? ガソリンあとどのくらい?」
「あと半分くらい……」
「ガソリン携行缶は二十リットル缶が二つある。なんとかなりそうかな?」
「サスも底つきしてるね。これ以上無理はできないかも……」
 ジムニーの狭い荷台にはガソリン携行缶が底に二つ並び、旅行バッグが三つ、除雪スコップ、長剣と弓が隙間に押し込まれている。それらが車が揺れるたびに跳ねた。
 豪快な運転で燃料を費やしていく未来に、田崎は不安を覚えた。

 ジムニーの時計表示は午後三時を示していた。前方の下りに続く荒野に、騎馬の一団が目に飛び込んできた。土煙が上がり、怒号と馬のいななきが風に乗ってかすかに響いている。

「なに? あれ? 戦争してるの?」
 未来が動揺した声を上げ、思わずブレーキをかけた。
「小競り合いだね。おそらく鉄騎軍の先遣部隊とかちあったんじゃないかな?」
 モーイが冷静に分析してみせた。
「……どうしたら良い?」
「このまま突っ込んで欲しいって影伝えが来てる。ほら、グラン隊が押し込んでる」
 剣戟の音が響く。白い騎馬と黒い騎馬が激しく揉み合っていた。
「このまま突っ込んだら相手は逃げると思うよ。ミクの超絶テクだったら余裕でしょ?」
 モーイが未来をけしかけるように言った。
 なだらかな下りが荒野の平地まで続いている。見たところ大きな岩などは無さそうだった。未来はギアを二駆に入れ替えると、クラッチを繋ぎアクセルを踏み込んだ。
「分かった! 行くよ!」
 ジムニーは飛ぶように坂を駆け降りた。加速に合わせて滑らかにシフトアップしていく。土煙を上げて平地の荒野に降り立つと、前方の一団めがけてさらにスピードを上げた。
「うわあッ! 無理できないんじゃなかったの!! もっとやさしく運転してー!!」
「文句があるなら降りなさい! 碧が待っているのよ!」
 田崎が助手席で手すりをぎゅっと握りしめる。リーは踏ん張り、イリナは諦めたように目を閉じた。
 モーイが杖を向ける方向にジムニーは翔ける。
『なんだあれは!! 鉄の竜か?! 小人の幻術か?!』
 ぶおおおおッ!! 
 爆音と土煙を上げるジムニーに前方の黒い一団から驚愕の声が上がる。

『今だッ!! 突撃ィィ!!』
 白い騎馬の一団が長槍を構え黒い騎馬の一団を切り裂くと、浮き足立った黒い一団は次々と馬首を翻し逃げていく。
「ほらね」
 モーイが得意げに未来と田崎を見上げる。
 未来は大きな息を吐いてジムニーを止めた。

『深追い無用!! 隊列を整えよ!! 生存者は殺すな!! 捕虜にせよ!!』
 次々と指示を出す一騎がジムニーに近づいてくる。白い鎧は血と土で汚れている。
 兜から覗く髭面の顔の下半分が笑顔になった。
 槍を掲げ叫んでいる。

『タサキ!! タサキ!!』
 その声に田崎の胸は熱くなる。
 ドアを開け、飛び降りた。グランが馬を降り、駆け寄ってくる。

「グラン!!」
 腕を広げた田崎にグランは抱きついた。
『よく来てくれた!! 待っていたぞ!!』
 グランは言いつつも、不思議そうに運転席を見る。

『操っているのは、もしかしてあのご婦人か?』
 グランと未来の気の強そうな目が合った。
 グランは田崎を見上げて意味ありげに笑う。

『タサキ。おまえも変わんねえな』
 グランは田崎の腰を叩いた。

『さあ、歓迎するぞ。我が聖戒騎士団特別遊撃隊にようこそ!』
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