軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜

タキ マサト

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第四章 暴走

27話 前途多難

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 ホーガイ調査団は今日中に、小人の里と巌窟寺院への分岐点まで到達する予定だった。

 街道上を調査団の馬車四台がゆっくり進んでいる。
 その最後尾に六頭立ての馬車が黒い布で覆われた巨大な荷台を引いていた。

『急がねば……満月まで、あとたった三日じゃ』
 ホーガイは首を振った。
『もうすぐ、ヴォルノ聖戒騎士団団長の部隊がこっちに追いつくよ』
 ホーガイの隣で小人がメガネを押さえる。聖都が陥落してから丸一日が経っていた。ホーガイはそれを聞くと、さらに深いしわを眉間に刻ませた。

『法王猊下……  デルグラ団長……』
 十二年前、盲目の僧侶に騙されたとはいえ、聖戒の封印を持ち出した大罪人だった。それを生き残った高僧の弾劾から、庇い立ててくれたのがデルグラだった。
 そもそも法王猊下は情状酌量の余地ありとして、聖戒国の復興を手助けするならば無罪にする腹づもりであったと、あとでグリファス団長から聞かされた。

 ホーガイに異論はなかった。小人の里に住居を定め、私財を全て投げ打ち復興に身を捧げていた。

 街道上の聖都方面から落ちてきたヴォルノ隊と合流したのは、その日の昼だった。

『……ホーガイ殿、法王猊下より、最後の勅です……』
 馬車から降りたホーガイに、ヴォルノは一通の書簡を開いた。
 ホーガイ一行は馬車から降り、書簡を持つヴォルノの前にひざまずく。

『聖戒国復興並びに祭壇復旧調査団団長ホーガイ、その任を解く』
『……はっ!』
 ホーガイは頭を深く下げた。そしてヴォルノは続ける。
『新たに法王イリナ。法王筆頭補佐官の任を命ず』
 そして聖戒の封印の箱と白銀の錫杖をホーガイに手渡した。
『はー!!』
 ホーガイは両手で受け取り、片膝をつき頭を下げた。
『このホーガイ、必ずや新法王猊下並びに聖戒国国民のため、身を粉にして働く所存にございます!』
『ホーガイ様。このヴォルノ隊が必ずやホーガイ様をイリナ法王猊下のもとまで護衛いたす』

 小休止のあと、ヴォルノは軍馬での荷物の曳行に切り替えた。
 馬車の移動速度が上がる。枯れた草原の中、街道を西に進んでいく。

 しかし、ほどなくして斥候からの連絡が入った。
『鉄騎軍の追撃、五百騎! その後方におよそ三千騎、控えている模様!』
 ヴォルノ隊に緊張が走った。

『ホーガイ様は、一時、結界に』
 メガネの小人が結界を張るべく詠唱を始めた。ヴォルノ隊が離れるとホーガイ一行は結界の中に消えた。

『我らは、途中の岩陰で敵を撃退する。マオルカ殿、そこで結界を張っていただけるか』
 ヴォルノは、法王付きだった小人に声をかけた。結界の中に入ると外のことは小人にしか分からない。結界から出るタイミングが問題だった。

『メガネは結界を張れる時間が短い。ヴォルノ団長、あまり時間はかけられない』
 マオルカはそう言って結界を張る。結界の中でじりじりした時間が流れた。

『まだか……』
 ヴォルノ隊四百騎弱は、槍を構えた騎士を先頭に、隊列を整えて待つ。
『今だ!』
 マオルカが叫んだ。
『突撃!』
 ヴォルノは長剣を振り下ろした。先頭を駆けるヴォルノが結界を抜ける感覚があった後、目の前を駆け抜けようとする鉄騎軍の隊列の側面が見えた。
『うおおおお!! 好機!! 駆け抜けろ!!』
 ヴォルノ隊は鉄騎軍を側面から串刺しにするように突撃した。
 怒号と悲鳴が飛び交う。虚を突かれた鉄騎軍は槍の餌食となった。馬が倒れ、騎士が崩れ落ち、隊列が崩れた。
 ヴォルノ隊は中央を食い破ると、馬首を巡らし、後方から鉄騎軍に襲いかかった。

『馬を狙え!!』
 鉄騎軍の指揮系統が乱れ、その場に踏みとどまり剣を抜くもの、逃げ惑うもので混乱状態になった。ヴォルノ隊は混乱の中、後方から一気に敵先頭まで駆け抜けながら、馬に槍を突き刺し、剣で切り付け敵部隊を切り崩して行った。

 落馬した騎士には容赦なく止めの槍が突き刺さる。

 十二年前の戦いをきっかけに小人との協定を結んでから結界を用いた伏兵戦は、猿との戦いで絶大な戦果を上げた戦法だった。
 やがて、およそ半数の鉄騎軍が死体となって地面に転がった。

 鉄騎軍は恐慌状態に陥り、散り散りに逃げ出していった。

『深追い無用!! 使える馬、武器を徴用せよ!!』
 ヴォルノ隊はほぼ無傷で敵を退けた。
 しかし、まだ後方に三千騎の部隊が控えている。

『いつまで、この戦法が通用するか……』
『次は小出しじゃないね……』
『数で潰されたら、終わるな』
 



  *



 ジムニーは闇の森の小径に入っていた。それは巌窟寺院へと続く獣道だった。
 いつ猿に遭遇してもおかしくはなかった。

 グラン隊は先行部隊四十騎、ジムニーの前後に三十騎ずつ配置された。

 ジムニーの前方ではグランが指揮を取り、後方はハンクが率いていた。

『猿の気配はありません!』
 斥候がグランに報告していく。そのつど、グランについたオムカは、モーイに影伝えで報告していた。

 ジムニーは木と木の間をぎりぎり通っていく。倒木は先行部隊によって除去されていた。それでも、大きな岩が行く手を阻む。

 田崎はジムニーを何度も切り返すが岩を乗り越えられず、しばしば工兵が岩を割って取り除かなければならなかった。

 ジムニーの車内は重苦しい空気が流れていた。

「……こんな道じゃ、ランエボテクは使えないわね」
 未来は助手席で自分が運転できない苛立ちを抑えるように言った。 

「軽四駆じゃないと、通り抜けられもしない……」
 ジムニーが進むたびに枝を折り、大木の幹がジムニーのボディをキーキーと傷つけていく。その不快な音が神経を逆なでする。
「いつ、猿が出てくるかわからないのに、これじゃ逃げられない……」
 田崎の声も苛立つ。

 後部座席のリューシャは剣の柄に手をかけていた。時折、足元の工具箱が足にぶつかり顔をしかめる。リーは落ち着かなげに唸っては、車窓をみつめている。イリナは身じろぎもせず目を閉じたままだった。

「この先は、しばらく道が広がってるってさ」
 モーイが言った通り木々がまばらになって道が広がった。見通しが良くなりジムニーの前を行く騎馬隊が駆け足になった。ジムニーもそれに合わせて速度を上げる。

 とはいえ十五キロ程度だった。
 車内にようやくほっとした空気が流れる。

 一時間も走ると小休止になった。また小径が暗い森の中に入っていくその手前だった。

 時刻はすでに昼に差しかかっている。

 田崎一行は外に出て、体をほぐした。リューシャが何かを言いたげに田崎を見ている。
「未来……、ここからはリューシャに前へ来てもらおう」
「そうね、後ろからじゃ、何もできないわね……」
 小休止で小人の里から持ってきたナッツを頬張ると、またジムニーを走らせる。

 闇の森はますます深く、木々が密集してきている。
 低速四駆での低速走行を余儀なくされ、ジムニーに再び重苦しい空気が流れた。

「このままじゃ、水温が上がっちまう……」
「こんなノロノロ運転じゃ、風が当たらなくてラジエーターは冷えないね……」
 まだ水温計の警告灯は沈黙しているが、オーバーヒートという時限爆弾を抱えたジムニーに二人の顔に緊張が走る。

 さらに不安を募らせたように、未来が口を開いた。
「……なんか、変じゃない?」
「なにが……?」
 田崎の返答もそっけなくなっている。

「……静かすぎる。これだけ木々が密集していたら、エンジン音はもっと響くはず」
 未来が後席から車窓を見回した。
「……確かに」
 田崎はため息をついた。

「そうね、なんか空気が変なの…… 音の響きとか、匂いとか気持ち悪い……」
 未来が眉間にしわを寄せたとき、空気が震えた。

 ドォン! という衝撃音とともに、風圧の壁がジムニーを突き抜けた。
 ジムニーが揺れ、小石や枝がジムニーのボディを叩いた。

 遅れて遠くから、鼓膜を震わす重低音の咆哮が響いた。
 リューシャが息を飲んだ。
『竜猿……』
 イリナが目を見開いた。

「ドラゴンモンキーだよ ……未来」
 田崎が未来にささやいた。その声は震えている。
「……」
 リーが何かを察知して唸り声を上げる。

「まずい! スタンピードが来るって……」
 モーイが叫び、何かを察知したイリナが詠唱を始めた。
「スタンピード……って何?」
 未来が疑問の声を上げる。

 前方のグラン隊がにわかに慌ただしくなった。

「知らないの?!」
 モーイの声が緊張を帯びた。
『先発部隊と大至急合流しろ! 急げ!!』

『オムカ! 結界の準備!!』
 叫び声が響いてくる。

「魔物の暴走だよ!! 竜猿に怯えた猿たちが一斉に逃げてくるぞ!!」

 一瞬の静寂のあと、森が不気味にざわざわと揺れ始めた。

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