軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜

タキ マサト

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第四章 暴走

28話 咆哮 

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 街道上のヴォルノ隊は、鉄騎軍が敗走したのちホーガイと合流し出発を急がせた。

 イリナ法王の巌窟寺院到着まで早ければあと二日とチョーロー経由の連絡が入っていた。満月までになんとしてでも、聖戒の封印と錫杖を巌窟寺院まで届ける。

 巌窟寺院の濃い闇で、封印の影を祓う必要がある。

 ヴォルノは拳を強く握り締めた。

『ホーガイ様。護衛百騎。替えの馬も用意いたした。一刻も早く巌窟寺院までお急ぎください!』
 ヴォルノは、鉄騎軍三千騎が追いつくのは、遅くとも日暮れになると見積もっていた。

 それまでにホーガイ一行を闇の森、巌窟寺院の分岐点まで移動させておきたかった。
 そこまで行けば小人たちが何とかしてくれる。

『ヴォルノ隊長? 貴殿はどうなさるおつもりだ』
『この先の峡谷で敵を食い止めまする』
『バ、バカな…… たった三百騎で何が出来る……!』
『マオルカ殿…… お頼み申す』
 法王付きだった小人マオルカをホーガイの馬車に乗せた。

『小人まで…… 逃すというのか……!』
『ホーガイ団長。今は一刻も早く離脱すべきだね』
 マオルカは亡くなった法王のためにも非情な決断を迫られていた。

『結界は峡谷の向こうに張っておくよ。ヴォルノ団長…… 死なないで』
 ヴォルノは豪快に笑った。
『なあに、満月まで、ただ敵を食い止めておけば、いいだけの話だ』
 ドン、と胸を叩く。

『さあ、峡谷までご一緒しますぞ』
 ヴォルノが言ったとき、衝撃波が一行を襲った。

『なんだ、何事だ!』
 砂塵と石礫が舞い上がり、その直後、竜猿の咆哮が響いた。

『今の咆哮…… 昨日チョーローの影伝えで言っていた”目覚め”とは、このことか……!』
 ホーガイ付きの小人メガネが、メガネを上げて言った。
『それどころじゃ、なかったからの……』

 ホーガイ一行はヴォルノ隊とともに砂塵の中、西に向かった。

『ヴォルノ殿……』
 やがて峡谷が見えてくる。

『ホーガイ様。ここでお別れです!』
 ヴォルノは剣を抜いた。その背中は、死地に向かう男のそれだった。

『ここで、やつらを食い止める! 一歩たりとも敵をここから通しませぬ!』




   *



 
 その少し前、地下の広場。
 碧とケイはババ様の許しを得たあと、飼育係に連れられて再び広場に戻ってきていた。

「リュック、置いてきちゃった……」
 古い寺院から羽ピーに乗って脱出する際、背負う暇がなかったのだ。

「スマホ…… せっかく撮った写真、もう見られない……」
 うつむいて座り込む碧に、ケイはそっと寄り添った。

『トオサン…… きっと巌窟寺院に来る』
「トオサン? パパとママ探しにきてくれるの?」
 碧が顔を上げた。ケイは、碧の父のことを言っているようだった。

 ケイは懐から手帳を取り出し、単語帳を開いた。そこには現地の文字と異界の言葉が並んでいる。青白く光る苔のそばで単語を探し、ケイの顔が明るくなった。

『……巌窟寺院 ……あった』
 碧にその文字を指差す。
「なんとかじいん…… えっ? この漢字、難しい。ちょっと見せて!

 巌窟寺院と書かれた文字の下に小さな文字で何かが記されていた。

「……漢字は読めないけど、この寺院に行けば、影で出来る霧で日本に帰れるらしい……って書いてある……」

 それは田崎が十二年前に書き足した一文だった。

 その先はかすれて読めない。碧は手帳を最初のページからめくった。

 そこには、田崎の父がこの世界に来たときの記録が残されていた。

「字がかすれて、うまく読めないけど、これ、おじいちゃんの……?」

 田崎の字とは違う達筆な筆跡だったが、確かにこの世界で暮らしていた。

「じゃあ、なんとか寺院に行ったら、パパたちも来るってこと……?」
『巌窟寺院ね。慌てなくてもババ様が連れて行ってくれるよ、アオ』
 碧は立ちあがった。言葉は通じない。それでも、早く会いたいという気持ちが、衝動となって溢れ出す。

「早く行こうよ! その、なんとかじいん!」
 そのとき、飼育係が壺を抱えて二人の元に戻ってきた。

「羽ピー!! 乗せて!!」
 碧が叫び、羽猿を呼んだ。

『ギャッ?』

 群れの中の一匹が振り返った。

『ハネピー!! こっち来い!!』
 ケイが手招きする。

『羽猿に名前つけだか、もし。名前つけても意味ないぞな……』
 飼育係がそう言った瞬間、羽ピーがこちらに向かってきた。

「羽ピー! なんとか寺院まで連れていって!」

『……もし?』
 飼育係の口が大きく開いた。

『ハネピー!』
 羽ピーは二人にすり寄る。飼育係が壺を落とし、乾いた音を立てて割れた。

「羽ピー! 乗せて!」
 羽ピーは翼を広げ、身を低くする。

『ババ様ー!! 大変じゃあああ!!! もしぃ!!!』
 飼育係が目と口を見開いて絶叫した。

『なんちゅうこと……!! 猿が…… 鈴なしで…… 懐いた…… もし』
 頭を抱え、震えてうずくまる。

『猿に…… 名前を授けたら…… 不吉なことが…… 起こるべな…… もし……』

 そのときだった。

 竜猿の咆哮が地下空間を埋め尽くした。
 直下型地震のような激しい揺れが広場を襲い、碧が尻餅をつく。

「ケイ兄ちゃん! 羽ピー! 地震?」
『グアアア……!!! ワアアアアア……!!!』
 竜猿の咆哮が反響し、広場の岩にヒビが走る。石のカケラが降り注ぎ、羽猿たちが叫びながら一斉に飛び立った。

 揺れは断続的に続く。

『これ!! 飼育係!! 竜猿がこっちの壁さ、ぶっ壊して来てるだ!! もしッ!!』
 黒い塊に乗ったババ様が現れた。
 よく見ると、その塊から細い手足が伸び、四つ這いで歩いている。

『ほれ見い……  言わんこっちゃないぞな、もし』
 小さくつぶやく黒い塊を、ババ様が杖で激しく叩いた。

『くそじじい!! うるさいだあ!! 早く! 逃げんかああ!! もしぃ!!!』
 
 

  *



 その少し後、闇の森。

 一瞬の静寂の後、前方から地響きと土煙が上がった。
 猿の群れが黒い津波となって押し寄せる。

 猿の怒号が風に乗って響いた。

 グラン隊先発部隊は、逃げ戻ってきた斥候からの報告を受け、浮き足立っていた。

『急げ! 本隊に戻れ!! 小人が結界を張ってくれるはず!!』
 先発部隊長が叫び、馬を翻した。

『間に合いません! 近辺の猿どもが一斉にこちらに押し寄せて来ています!!』
 騎士団はスタンピードの恐ろしさを身を持って知っていた。

 土石流のような猿の奔流は、命尽きるまで止まらない。この十二年で、いくつもの集落が飲まれてきた。

 月の民でさえ、祭壇が破壊されてからは制御が難しくなっていた。

『……来た!』
 先発部隊長は呆然と振り返った。
 木々が倒れる轟音。闇の奥から、無数の赤い目が光る。

 そのとき、停車したジムニーではイリナの詠唱が終わりを迎えていた。

 杖の先に蓄えられた光が、一点に凝縮する。

『イリナ! 今、光の術を使ったら、使い手に居場所がバレる! ケイと碧も追えなくなる! 結界の中でやり過ごそう!!』

 モーイの叫びに、イリナが目を開いた。

『それでは…… 先発部隊が全滅してしまいます……』
 杖を前方へ向ける。

『イリナ……!』
 リューシャが息を飲んだ。

 次の瞬間、杖の先から光の奔流が解き放たれ、前方へと迸った。

 一瞬にしてグラン本隊が光に包まれ、さらに先へ伸びていく。

『……終わりだ』
 先頭の豹猿の集団がよだれを垂らして飛びかかってくる。

 先発部隊長がつぶやいて目を閉じた時、後方からの光があたり一面を覆った。

 さらに光は前方を駆け抜けていく。

『……ッ?!』
 部隊長の体にぶつかった豹猿は、力なく崩れ落ちる。
 泡を吹き、地面に沈んだ。

『これは、イリナ様の光の術……』
 部隊長は馬の首に魂が抜けたように力なくもたれて、深く息を吐いた。

『助かった……』
 猿たちは次々につんのめり、倒れ伏していた。

 血を流した斥候が、傷だらけの馬で駆けてくる。
 それに気づいた猿たちが左右に力なく逃げるように散っていく。

『斥候は……  全滅です……』
 部隊長の前で馬の脚が折れ、騎士は崩れ落ちた。
 部隊長が馬を降りたときには、すでに人馬ともに絶命していた。

 光は消え、辺りは静寂に包まれた。

「……どうした? 何が起きた?」
 田崎がモーイに小声でささやいた。

「イリナが光の術で猿たちを追い払ったけど……」
 モーイは気を失ったイリナを見た。リューシャの腕の中に崩れ落ちていた。

「これだけの力を使ったら、二日は起きないね」
 モーイは青ざめた顔をしていた。

「……それに、これで使い手に居場所が完全にバレた」

 そのころ、後方の闇の森の入り口ではグラン隊本隊が鉄騎軍の襲撃を受けていた。

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