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第四章 暴走
31話 暴走
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森が揺れていた。
地面が波打ち、空気が震える。
重低音が響き、巨大な質量を持った何かが押し寄せてくる圧迫感に碧とケイは襲われた。
碧が一歩、後ずさる。
「ケイ兄ちゃん……? 羽ピー? 何か、来るよ……」
踵が石にあたりバランスを崩し、碧は尻餅をついた。
『逃げないと……』
ケイは碧の腕を取り、立ち上がらせる。
『助けるだ! 暴走じゃ! 猿がこっちくるべな! もしぃ!!』
木の枝に引っかかっている飼育係が叫んだ。
ケイが見上げると、その木は周辺の木よりもっとも太く、大きく、高かった。
森の奥の木々の間から土煙が上がる。
獣の唸り声とともに木々が揺れ、それは津波のように碧とケイの方向に押し寄せてきた。
『ハネピー! 歩けるか? 急げ!』
ケイはハネピーの背中に手を回し、木に向かって押し出すと、羽ピーはぴょんと跳ねた。
『ハネピー! アオを乗せて! あの木に登れるか?』
『ギャギャッ!』
ケイは碧を羽ピーの背中に乗せると跳ねながらその大木に向かった。
羽ピーは左の翼についた鉤爪と両足の爪を木に引っ掛けて器用に登っていく。
猿たちの唸り声は近づいていた。
『よし! いいぞ! アオ、がんばれ!』
「ケイ兄ちゃん、怖いよ!」
碧は必死に羽ピーにしがみついている。
ケイも木の幹に手をかけると軽快に登っていく。
『絶対、落ちるな!』
ケイが叫んだ時、木が揺れた。
轟音とともに猿の群れが土石流のように地表を埋め尽くした。
木が倒され、土煙が上がり視界が霞む。
『わあああ、もしい!!』
そのとき、飼育係が引っかかっていた枝が折れた。
飼育係が獣の群れに飲み込まれるかと絶望したとき、ケイの腕が伸びて飼育係の足を掴んだ。黒いフードが裏返り、細く白い体が晒け出される。
ケイがほっと息をついたとき、獣の一団は通り抜けていった。
『助かっただな、もし』
「行っちゃった……」
風景は様変わりしていた。
細い木は根本から折れ、あるいは倒されてそこから空がのぞいている。
下を見ると地面は抉られ、踏み潰された猿の死骸がそこここに転がっていた。
地面に降り立ったとき、碧は羽ピーにしがみついたまま震える足を抑えるように深く息を吸った。ケイは飼育係に話しかけている。
『ここは、どこ?』
ケイは周りを見回した。植生が闇の森とは違うようだった。
『ここは、魔の森の南じゃな、もし』
飼育係は地面にへたり込み、息も絶え絶えに答える。
『魔の森? 小人すら、入らないという、あの……』
ケイはチョーローから聞いた、闇の森の北方に広がる魔の森の言い伝えを思い出していた。
闇の森ほど、木は枯れていない。
しかし禍々しい”影”の不気味な雰囲気があった。
ケイは身をすくませて周りを見回した。
生命力を奪われる、そんな錯覚に陥った。
『……生きて出られる?』
ケイは飼育係を見つめた。
『……この森は人の生命力を影にしていくじゃな、もし。道に迷ったら影になってまうわな、もし』
飼育係は、森の影の大気を取り入れるように深く息を吸った。
『巌窟寺院まで歩けば二日くらいでつけるじゃろな、もし』
その言葉にケイは顔を曇らせた。
『方向が分からない…… 案内は頼めるだろうか?』
『仕方あんめ……、もともと巌窟寺院まで行くつもりじゃったからの、もし』
ケイはほっと胸をなで下ろした。
『そうだ、竜猿…… 竜猿は、こっちに来てない? 何故?』
『おめの”絶望”の影をみんなに喰わせたから、それに反応してるだな、もし』
そのとき、碧の言葉が響いた。
「羽ピーを早く治してよ! あなたがぶつかってきて怪我したんだから!」
碧が飼育係のもとに羽ピーを引っ張っていく。
右の翼は羽が抜け、関節が折れているようだった。
『ギャギャッ!』
「早く治して!」
飼育係に意味が伝わったらしい。
『……わしは治療係じゃないぞな、もし』
飼育係はため息をついて立ち上がる。
しかし、おもむろにその手から影を出すと、羽ピーの折れた翼にあてがっていった。
『……明日には少し飛べるようにはなるべな、もし。完全に治るまで二日はかかるぞな、もし』
『シイクガカリさん、好き』
碧が飼育係にお礼を言うと、飼育係は顔を真っ赤にした。ケイが苦笑する。
『好きって、おめ…… そんな困るだ……、もし』
ケイは、碧が『ありがとう』と『好き』を間違えて覚えていることを冷静に飼育係に伝えたあと、顔を曇らせた。
『……ババ様たちは、大丈夫だろうか?』
『ババ様は無敵じゃ…… じじもついとる、案ずるな、もし』
ケイは竜猿が飛び去った方向を心配そうに見上げた。
竜猿の叫び声は今も断続的に続いていた。
そのころ、ババ様は眼下に湖を捉えていた。
竜猿が背後から迫っていた。
その赤い目は完全に狂気に染まっている。羽猿を食い殺し、影を貪る。
羽猿の一団はその数を半数にまで減らしていた。
『飛び込めえ! もしい!!』
ババ様たちは息を胸いっぱいに吸い込んだ。
羽猿の群れは次々と急降下し、水面に飛び込んでいく。
その延長線上には深いケーブが狭い口を開いていた。
ババ様を先頭にケーブの入口に到達したとき、竜猿も湖面に突っ込んだ。
湖面に巨大な水柱が上がる。
津波のような水流の壁が後ろから押し寄せた。
『乗れ! ボコボコ……、このビッグウェーブにぃ! ボコボコ、もしい!!』
ババ様が思わず叫んだときに、狭いケーブに水流が猛烈な勢いで押し寄せた。
ババ様たちは細い水路をなす術もなく押し流されていく。
『く、苦しいぞな、もし…… ぼこぼこ……』
呼吸の限界を迎えるかと思った時、ケーブの出口から飛び出した。
そこは地底湖のある広い空間だった。
水路の出口から滝のように水が噴き出している。
ババ様たちは地底湖の湖面に勢いよく不時着していく。
水柱がそこここで上がった。
『ぶはああ……!!』
『……ここまでは、あの竜猿も追っては来れんべな、もし』
『えらい目にあったぞな、もし……』
ババ様に覆い被さった黒い塊が体を震わせて水を飛ばした。
『じじ、作戦変更だな、もし』
ババ様は黒い塊に声をかけた。
『火山作戦は諦める。巌窟寺院で”絶望”の影を使ってあの竜猿を縛り上げるぞな、もし』
地上では、湖面から顔を出した竜猿が再び絶叫を放った。
それは大気を震わせ森全体に響き渡る。
怒りと憎悪がこもった不穏な空気が森全体に広がっていく。
そしてそれはさらなる恐慌を森の獣たちにもたらした。
怯えて走り回っていた猿たちの目が再び赤く光った。
竜猿の剥き出しの敵意と殺意が奔流となって森に伝播していく。
魔の森の南部でも、その咆哮は届いていた。
飼育係がはっとしたように頭を上げる。
『く、くるぞな…… また…… 猿どもが……』
飼育係の声が裏返った。
『さっきのとは、比べ物にならんぞな、もし……』
飼育係が後ずさりして、崩れ落ちるようにへたり込んだ。
森が、波打ち始める。大気そのものの質が変わった。
息苦しい圧迫感が碧たちに襲う。
大地そのものが怒っているような、激しく、深く、容赦のない揺れで碧は座り込んだ。
無数の獣の唸り声、木々が倒れる音、土が抉られる音。
刻一刻と近づいてきている。
『また木に登ろう!! 早く立って!!』
「羽ピー! 乗せて! 飛んで!! お願い!!」
碧とケイは必死に叫ぶが、羽ピーも飼育係も諦めたように動かない。
『おしまいじゃな、もし』
飼育係は目を閉じた。
『そやつは飛べんぞな、木は倒されるぞな、踏み潰されて助からんぞな、もし』
揺れは立っていられないほど激しくなっていた。木が激しく揺れた。
やがて土煙の壁が迫ってくるのが見えた。
「ケイ兄ちゃん!!」
『アオ!!』
立てないほどの揺れの中、碧はケイにしがみつき、ケイは碧を守るように抱きしめた。
獣の殺気立つ目と涎を垂らした息遣いがケイの目前に見える。
碧は目を閉じて叫んだ。
「パパ!! ママ!!」
そのとき、森の反対側から光が溢れ出た。辺り一帯を照らしていく。
それはイリナがスタンピードに向けて放った光の名残だった。
そしてその光は碧の紋様と反応し、碧の体が光に包まれた。
光は同心円状に広がり、その光に触れた猿は気絶してつんのめった。
ばたばたと連鎖するように猿が倒れていく。
光が届かなかった猿も、気絶して倒れた猿に触れると正気を取り戻したかのように立ち止まった。その落ち着きは森全体に広がっていく。
瞬く間に森は、再び静寂を取り戻していった。
『これは、イリナ姉さんの光……!』
ケイの目に自然と涙が溢れ出た。
『……イリナ姉さんが、この森のどこかにいる!』
「な、なに? この光?」
ケイは碧を見た。碧の暖かな光に包まれる。
『アオ、トオサンと母さんが…… 探しに来てくれてる!』
「……トオサン? パパ! ママ! 近くにいるの?!」
碧の目が驚きに見開かれた。
『でも、まだ遠い……』
ケイは首を振った。
『……おお、その光は眩しすぎるぞな、もし……。目が潰れる……』
飼育係がフードで顔を覆ったとき、光が止まった。
『ギャギャギャ!!』
羽ピーが碧の光に焼かれたように、苦しそうにもがいた。
「羽ピー! ごめんね」
『助かったんだか、助かってないんだか、分からんぞな、もし……』
飼育係は息も絶え絶えに両手から影を出すと自分と羽猿を覆っていく。
『もう、限界じゃ、もし……』
飼育係は崩れるように倒れた。
『ギャギャ』
羽ピーは影をもらって落ち着いたようだった。
「ケイ兄ちゃん……?」
『アオ! イリナ姉さんが近くにいるはず!』
「イリナ……さん? じゃあ、早く行こうよ!」
碧は羽ピーを振り返る。
『アオ! ハネピーに飼育係さんも乗せよう』
ケイは飼育係をかついで羽ピーの背中に掴まらせた。
『飼育係さん? どっちの方向?』
飼育係は震える指で指し示した。
ケイと碧と飼育係を乗せた羽ピーは南の方角に歩き始めた。
午後の太陽が森を照らしている。
「もうすぐだ、もうすぐパパとママに会える」
碧は小さくつぶやいた。
『必ず、会えるよ』
ケイは碧の肩を優しく叩いた。
地面が波打ち、空気が震える。
重低音が響き、巨大な質量を持った何かが押し寄せてくる圧迫感に碧とケイは襲われた。
碧が一歩、後ずさる。
「ケイ兄ちゃん……? 羽ピー? 何か、来るよ……」
踵が石にあたりバランスを崩し、碧は尻餅をついた。
『逃げないと……』
ケイは碧の腕を取り、立ち上がらせる。
『助けるだ! 暴走じゃ! 猿がこっちくるべな! もしぃ!!』
木の枝に引っかかっている飼育係が叫んだ。
ケイが見上げると、その木は周辺の木よりもっとも太く、大きく、高かった。
森の奥の木々の間から土煙が上がる。
獣の唸り声とともに木々が揺れ、それは津波のように碧とケイの方向に押し寄せてきた。
『ハネピー! 歩けるか? 急げ!』
ケイはハネピーの背中に手を回し、木に向かって押し出すと、羽ピーはぴょんと跳ねた。
『ハネピー! アオを乗せて! あの木に登れるか?』
『ギャギャッ!』
ケイは碧を羽ピーの背中に乗せると跳ねながらその大木に向かった。
羽ピーは左の翼についた鉤爪と両足の爪を木に引っ掛けて器用に登っていく。
猿たちの唸り声は近づいていた。
『よし! いいぞ! アオ、がんばれ!』
「ケイ兄ちゃん、怖いよ!」
碧は必死に羽ピーにしがみついている。
ケイも木の幹に手をかけると軽快に登っていく。
『絶対、落ちるな!』
ケイが叫んだ時、木が揺れた。
轟音とともに猿の群れが土石流のように地表を埋め尽くした。
木が倒され、土煙が上がり視界が霞む。
『わあああ、もしい!!』
そのとき、飼育係が引っかかっていた枝が折れた。
飼育係が獣の群れに飲み込まれるかと絶望したとき、ケイの腕が伸びて飼育係の足を掴んだ。黒いフードが裏返り、細く白い体が晒け出される。
ケイがほっと息をついたとき、獣の一団は通り抜けていった。
『助かっただな、もし』
「行っちゃった……」
風景は様変わりしていた。
細い木は根本から折れ、あるいは倒されてそこから空がのぞいている。
下を見ると地面は抉られ、踏み潰された猿の死骸がそこここに転がっていた。
地面に降り立ったとき、碧は羽ピーにしがみついたまま震える足を抑えるように深く息を吸った。ケイは飼育係に話しかけている。
『ここは、どこ?』
ケイは周りを見回した。植生が闇の森とは違うようだった。
『ここは、魔の森の南じゃな、もし』
飼育係は地面にへたり込み、息も絶え絶えに答える。
『魔の森? 小人すら、入らないという、あの……』
ケイはチョーローから聞いた、闇の森の北方に広がる魔の森の言い伝えを思い出していた。
闇の森ほど、木は枯れていない。
しかし禍々しい”影”の不気味な雰囲気があった。
ケイは身をすくませて周りを見回した。
生命力を奪われる、そんな錯覚に陥った。
『……生きて出られる?』
ケイは飼育係を見つめた。
『……この森は人の生命力を影にしていくじゃな、もし。道に迷ったら影になってまうわな、もし』
飼育係は、森の影の大気を取り入れるように深く息を吸った。
『巌窟寺院まで歩けば二日くらいでつけるじゃろな、もし』
その言葉にケイは顔を曇らせた。
『方向が分からない…… 案内は頼めるだろうか?』
『仕方あんめ……、もともと巌窟寺院まで行くつもりじゃったからの、もし』
ケイはほっと胸をなで下ろした。
『そうだ、竜猿…… 竜猿は、こっちに来てない? 何故?』
『おめの”絶望”の影をみんなに喰わせたから、それに反応してるだな、もし』
そのとき、碧の言葉が響いた。
「羽ピーを早く治してよ! あなたがぶつかってきて怪我したんだから!」
碧が飼育係のもとに羽ピーを引っ張っていく。
右の翼は羽が抜け、関節が折れているようだった。
『ギャギャッ!』
「早く治して!」
飼育係に意味が伝わったらしい。
『……わしは治療係じゃないぞな、もし』
飼育係はため息をついて立ち上がる。
しかし、おもむろにその手から影を出すと、羽ピーの折れた翼にあてがっていった。
『……明日には少し飛べるようにはなるべな、もし。完全に治るまで二日はかかるぞな、もし』
『シイクガカリさん、好き』
碧が飼育係にお礼を言うと、飼育係は顔を真っ赤にした。ケイが苦笑する。
『好きって、おめ…… そんな困るだ……、もし』
ケイは、碧が『ありがとう』と『好き』を間違えて覚えていることを冷静に飼育係に伝えたあと、顔を曇らせた。
『……ババ様たちは、大丈夫だろうか?』
『ババ様は無敵じゃ…… じじもついとる、案ずるな、もし』
ケイは竜猿が飛び去った方向を心配そうに見上げた。
竜猿の叫び声は今も断続的に続いていた。
そのころ、ババ様は眼下に湖を捉えていた。
竜猿が背後から迫っていた。
その赤い目は完全に狂気に染まっている。羽猿を食い殺し、影を貪る。
羽猿の一団はその数を半数にまで減らしていた。
『飛び込めえ! もしい!!』
ババ様たちは息を胸いっぱいに吸い込んだ。
羽猿の群れは次々と急降下し、水面に飛び込んでいく。
その延長線上には深いケーブが狭い口を開いていた。
ババ様を先頭にケーブの入口に到達したとき、竜猿も湖面に突っ込んだ。
湖面に巨大な水柱が上がる。
津波のような水流の壁が後ろから押し寄せた。
『乗れ! ボコボコ……、このビッグウェーブにぃ! ボコボコ、もしい!!』
ババ様が思わず叫んだときに、狭いケーブに水流が猛烈な勢いで押し寄せた。
ババ様たちは細い水路をなす術もなく押し流されていく。
『く、苦しいぞな、もし…… ぼこぼこ……』
呼吸の限界を迎えるかと思った時、ケーブの出口から飛び出した。
そこは地底湖のある広い空間だった。
水路の出口から滝のように水が噴き出している。
ババ様たちは地底湖の湖面に勢いよく不時着していく。
水柱がそこここで上がった。
『ぶはああ……!!』
『……ここまでは、あの竜猿も追っては来れんべな、もし』
『えらい目にあったぞな、もし……』
ババ様に覆い被さった黒い塊が体を震わせて水を飛ばした。
『じじ、作戦変更だな、もし』
ババ様は黒い塊に声をかけた。
『火山作戦は諦める。巌窟寺院で”絶望”の影を使ってあの竜猿を縛り上げるぞな、もし』
地上では、湖面から顔を出した竜猿が再び絶叫を放った。
それは大気を震わせ森全体に響き渡る。
怒りと憎悪がこもった不穏な空気が森全体に広がっていく。
そしてそれはさらなる恐慌を森の獣たちにもたらした。
怯えて走り回っていた猿たちの目が再び赤く光った。
竜猿の剥き出しの敵意と殺意が奔流となって森に伝播していく。
魔の森の南部でも、その咆哮は届いていた。
飼育係がはっとしたように頭を上げる。
『く、くるぞな…… また…… 猿どもが……』
飼育係の声が裏返った。
『さっきのとは、比べ物にならんぞな、もし……』
飼育係が後ずさりして、崩れ落ちるようにへたり込んだ。
森が、波打ち始める。大気そのものの質が変わった。
息苦しい圧迫感が碧たちに襲う。
大地そのものが怒っているような、激しく、深く、容赦のない揺れで碧は座り込んだ。
無数の獣の唸り声、木々が倒れる音、土が抉られる音。
刻一刻と近づいてきている。
『また木に登ろう!! 早く立って!!』
「羽ピー! 乗せて! 飛んで!! お願い!!」
碧とケイは必死に叫ぶが、羽ピーも飼育係も諦めたように動かない。
『おしまいじゃな、もし』
飼育係は目を閉じた。
『そやつは飛べんぞな、木は倒されるぞな、踏み潰されて助からんぞな、もし』
揺れは立っていられないほど激しくなっていた。木が激しく揺れた。
やがて土煙の壁が迫ってくるのが見えた。
「ケイ兄ちゃん!!」
『アオ!!』
立てないほどの揺れの中、碧はケイにしがみつき、ケイは碧を守るように抱きしめた。
獣の殺気立つ目と涎を垂らした息遣いがケイの目前に見える。
碧は目を閉じて叫んだ。
「パパ!! ママ!!」
そのとき、森の反対側から光が溢れ出た。辺り一帯を照らしていく。
それはイリナがスタンピードに向けて放った光の名残だった。
そしてその光は碧の紋様と反応し、碧の体が光に包まれた。
光は同心円状に広がり、その光に触れた猿は気絶してつんのめった。
ばたばたと連鎖するように猿が倒れていく。
光が届かなかった猿も、気絶して倒れた猿に触れると正気を取り戻したかのように立ち止まった。その落ち着きは森全体に広がっていく。
瞬く間に森は、再び静寂を取り戻していった。
『これは、イリナ姉さんの光……!』
ケイの目に自然と涙が溢れ出た。
『……イリナ姉さんが、この森のどこかにいる!』
「な、なに? この光?」
ケイは碧を見た。碧の暖かな光に包まれる。
『アオ、トオサンと母さんが…… 探しに来てくれてる!』
「……トオサン? パパ! ママ! 近くにいるの?!」
碧の目が驚きに見開かれた。
『でも、まだ遠い……』
ケイは首を振った。
『……おお、その光は眩しすぎるぞな、もし……。目が潰れる……』
飼育係がフードで顔を覆ったとき、光が止まった。
『ギャギャギャ!!』
羽ピーが碧の光に焼かれたように、苦しそうにもがいた。
「羽ピー! ごめんね」
『助かったんだか、助かってないんだか、分からんぞな、もし……』
飼育係は息も絶え絶えに両手から影を出すと自分と羽猿を覆っていく。
『もう、限界じゃ、もし……』
飼育係は崩れるように倒れた。
『ギャギャ』
羽ピーは影をもらって落ち着いたようだった。
「ケイ兄ちゃん……?」
『アオ! イリナ姉さんが近くにいるはず!』
「イリナ……さん? じゃあ、早く行こうよ!」
碧は羽ピーを振り返る。
『アオ! ハネピーに飼育係さんも乗せよう』
ケイは飼育係をかついで羽ピーの背中に掴まらせた。
『飼育係さん? どっちの方向?』
飼育係は震える指で指し示した。
ケイと碧と飼育係を乗せた羽ピーは南の方角に歩き始めた。
午後の太陽が森を照らしている。
「もうすぐだ、もうすぐパパとママに会える」
碧は小さくつぶやいた。
『必ず、会えるよ』
ケイは碧の肩を優しく叩いた。
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夏休みが終わるまでに、四つの勾玉を集めて家に帰る!
——でも、神様じゃないとバレたら即、処刑……?
これは、三人の少女が神を利用して家に帰るまでの物語である。
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