34 / 49
第四章 暴走
32話 薄氷
しおりを挟む
闇の森東部、グラン隊副長は絶体絶命の戦いを強いられていた。
闇の森の入り口から少し入ったところ、罠を潜り抜けた鉄騎軍と囮部隊五十騎の交戦が始まっていた。囮部隊は包囲しつつある鉄騎軍に徐々に押されていた。
その鉄騎軍の側面を突くグラン隊副長は静かにナヴィの合図を待っていた。
『今だ! 結界を開く!』
ナヴィの声に合わせるように副長が叫んだ。
『突撃!! 囮部隊を助けろ!!』
副長は槍を構え、結界を抜ける。そこは乱戦だった。
囮部隊は鉄騎軍に追い詰められていた。
そこに側面から切り掛かる。
しかし、それは鉄騎軍の後方部隊にとっては隙だらけだった。
あっという間に闇の森の小径は、敵味方の人馬の死体で埋め尽くされた。
『撤退!! 森に入れ!! 南西に逃げろ!!』
副長が戦場で血に塗れた剣を振り上げ、叫んで回った。
その背中に鉄騎軍の剣が迫る。
そのときだった。
地面が揺れ始めた。
『な、なんだ……?』
鉄騎軍の騎士が馬上で動揺する。地鳴りが近づいてきていた。
『スタンピードがくるぞ!!』
ナヴィが副長の鞍上で叫んだ。
『スタンピードだ!! 全軍、逃げろ!!』
副長は声を限りに叫んだ。振り返りざま鉄騎軍に槍を振り下ろす。
『全力で逃げろ!! バラバラに逃げろ!! 作戦三段階目だ!!』
その声に混乱の中で浮き足立った囮部隊は、森に駆け込むことに成功した。
本隊二百騎が割って入り、鉄騎軍と応戦しながら退却を始める。
その後はハンク隊と合流する予定だった。
森の中でのゲリラ戦を想定していたため、突然の事態に素早く対応できたのだった。
『全員逃げろ!! 早く!!』
副長も馬首を翻し、南西に駆け出す。
そして猿が津波のように押し寄せた。
『グルルルルッ!!!』
赤い狂乱の目を光らせた猿の群れが、グラン隊と鉄騎軍に襲いかかる。
『うわあああ!!』
鉄騎軍の後続部隊が猿の群れに飲まれる。
グラン隊も無傷というわけにはいかなかった。
東側の部隊も同じく猿の群れに踏み潰されていく。
猿の群れは馬を押し倒し、騎士に飛びかかり地面に押し倒す。
それは次から次へと戦場に現れ、倒れた人馬を地面に沈ませていった。
阿鼻叫喚の地獄絵図が広がる。
『敵に構うな!! 馬を走らせろ!!』
グラン隊は一目散に逃げ出していく。
スタンピードの情報がなかった鉄騎軍は恐慌状態に陥っていた。
グラン隊を追いかける部隊、逃げ帰る部隊、直進する部隊。
それぞれが時間差で現れた猿の群れに蹂躙された。
鉄騎軍千騎は、ほぼ壊滅した。
しかしグラン隊の被害も甚大だった。
その日の午後、ハンク隊と合流できた騎士は百騎に満たなかった。
*
同じ頃、街道上の峡谷。
ヴォルノ隊はグリファス元団長の援軍によって鉄騎軍を退けることに成功した。
グリファスは峡谷の狭隘部に防衛線を新たに引いた。
『グリファス団長……』
ヴォルノは涙をこらえた。
病を得たグリファスの顔は痩せ衰えていた。
かつての豪快な笑顔は影を潜め、頬は痩せこけ、目の下には隈ができている。
それでも、その瞳には強い光があった。
『なあに……』
グリファスは咳き込んだ。
『守備隊にも優秀な指揮官はおる』
また咳き込み、痰を吐く。血が混じっているようだった。
『老骨に鞭打って……馬に乗って来た、だけよ』
『団長……!』
グリファスは南部守備隊の騎兵八百騎を率いていた。
聖都への進軍中にヴォルノ隊の避難誘導部隊の先遣部隊と出会い、封印と錫杖を守るため草原を駆け抜けてきたのだった。
『歩兵、弓兵合わせて五百もこちらに向かっておる』
グリファスはヴォルノの肩に手を置いた。
ヴォルノは満身創痍の体を起こす。
手当てが終わったところだった。
『ヴォルノ団長、よく生きていてくれた……』
ヴォルノの目から涙がこぼれ落ちた。
『ここは南部守備隊が守り抜く』
ヴォルノ隊には無傷の騎士はいなかった。
馬に乗ることのできた騎士は、百五十騎に満たない。
『新しい法王猊下を……』
グリファスは空を見上げた。
『お前の力と騎士たちで必ず守れ……』
『はッ! 必ずや!』
ヴォルノは敬礼で返し、グリファスは苦笑した。
『団長は、お前だ。さあ手当が終わったら、行け。ホーガイ殿とともに小人の結界まで出れば治療ができる』
『グリファス元団長…… 必ず、必ず生きてまたお会いしましょう……』
ヴォルノは再び鎧をつけ、馬上の人となる。
『ヴォルノ隊! 整列!!』
ヴォルノは声を張り上げた。グリファスに向き直る。
『ここはグリファス元団長にお願い致す! 我が隊はホーガイ様の護衛に向かう!』
ヴォルノは手負いの部隊を率い、陽が沈みかかる街道上を西に向かった。
*
陽が西に傾くと闇の森は薄闇に閉ざされていく。
二つの目を光らせ、ジムニーは森を西に向かっていた。
小径は張り出した木の根や岩を乗り越えるために、何度も切り返し、乗り越えなければならなかった。
その度にエンジンをふかし、排気ガスを吐き出す。
「モーイ? その闇の民との合流場所はまだ遠いの?」
未来の声は焦りと苛立ちにまみれていた。
「碧、待ってて……」
未来は歯を食いしばった。
「もう少しなんだけどね……」
「さっきから、そればっかりじゃない!」
また猿の群れがいつ現れるかわからない。
リューシャは助手席で緊張した面持ちで小弓を構え、耳を澄ましていた。
ジムニーは変わらず低速四輪駆動での走行を余儀なくされている。
ハンドルを握る未来は一瞬、水温計の警告表示が出たことに気づいた。
「やば…… 圭一? これ以上、走ると……」
未来はブレーキを踏んで、エンジンを切った。
静寂が車内を包み込む。
「オーバーヒートか……」
止まった車内で重苦しい沈黙が漂った。
そのとき、モーイが顔を上げた。
「オムカから…… 連絡が来た…… 猿が来る……」
その顔が緊張に包まれた。
「……またスタンピードか?」
田崎の顔が青ざめる。イリナはまだ目を覚さない。
「グラン隊と交戦中。暴走じゃない…… 使い手が呼び寄せた猿…… こっちに来る」
「どうするのよ?!」
「逃げないと……」
「だから、これ以上走るとオーバーヒートで車、壊れるの!!」
「オーバーヒートって何?」
未来は頭を掻きむしった。
「エンジンを冷やすための冷却水が熱で沸騰して、エンジンが焼き付くの!!」
「じゃあ、冷やせばいいだけね」
「簡単に言わないで!!」
未来が叫んだ後、何かに気づいたようにモーイに尋ねた。
「もしかして、何か魔法があるの? 天才小人さん?」
「影で覆ったらキンキンに冷やせるよ、日本の夏は暑いからね…… 東京にいたころは……」
「早く言ってよッ!! それッ!!」
未来が遮って怒声を上げた時、リューシャの耳がぴくりと動いた。
『シッ! ミク殿、来る……』
リューシャが鋭く警告を促す。
イリナに寄り添うリーが唸り声を上げた。
「早く! 冷やしなさい!!」
未来はエンジンキーをひねった。
暖房をマックスに上げ、窓を全開にする。
ジムニーのエンジンが震え、うめくように重低音を響かせる。
不気味な冷気が車内に入り込み、暖房の熱と溶け合った。
モーイが詠唱を始めると、手のひらから出た影がエンジンルームに入り込む。
エンジンルームを暖房で強制排気しつつ、モーイの術で冷却水を冷ましていく。
次の瞬間、ジムニーは飛び出した。
窓を全開にしたジムニーの車内に猿の雄叫びが響いてきた時だった。
「掴まってなさい!!」
未来はギアを高速四駆に叩き込むと、アクセルを徐々に踏み込んでいく。
小径の両側は斜面になっていて浅い谷を形成している。
そこにスピードを上げたジムニーで乗り上げていく。
車体が斜めに傾き小径の障害物を回避する。
ヘッドライトが闇を切り裂き、どすんと車体が小径に着地する。
モーイは杖を障害物のない方向へ向けた。
「そっちね!!」
未来がハンドルを切る。
『グアアアアアッ!!』
田崎が後ろを振り返ると、赤い目を光らせた豹猿の群れが追走してくるのが見えた。
『リューシャ!! 豹猿!!』
田崎が現地語で叫んだ。
その時、バックドアのガラスに豹猿が飛びかかった。
衝撃とともにヒビが入っていたガラスが砕け散る。
豹猿はスペアタイヤにしがみつき、その凶悪な顔を覗かせた。
『タサキ!!』
リューシャが叫んで振り向くと、長剣を田崎に手渡した。
リューシャと田崎の目が合う。
田崎は長剣を受け取ると鞘から抜いた。
「うおらああ!!」
窓ガラスを突き破り、太い前脚を車内に入れ込む豹猿の顔に剣を突き刺す。
『ギャンッ!!』
顔を切り裂かれた豹猿は血飛沫を上げ、暗闇へと転がり落ちた。
だが、次の豹猿が飛びかかる。リューシャは揺れる車内で小弓に矢をつがえた。
助手席の窓から身を乗り出し、狙いをつける。
迫り来る赤い目に向けて矢を放つ。
悲鳴が闇に吸い込まれていく。
「ミク!! この先、崖だ!! 飛び越えよう!!」
モーイが前方を杖で指して叫んだ。
「もっとスピード上げて!!」
「わかった!! いけええええ!!」
未来はアクセルを床まで踏み込んだ。
エンジンが爆音を上げる。
スピードメーターの針が頂点を超えて右側へと傾く。
飛び跳ねるようにぐんぐん速度を上げるジムニーは、豹猿の一団を置き去りにした。
『リューシャ!! 掴まって!!』
そして、斜面を一気に駆け上がり——
「ミク!! 飛ぶよ!!」
モーイが叫んで座布団にしがみついた。
ジムニーが宙に浮く。
『きゃああああ!!!』
「うわああああ!!!」
その時、田崎は見た。
ヘッドライトで照らし出された小径は、崖の手前で折れ曲がっていた。
——道から外れた……
ジムニーは、暗闇の空に飛び出した。
闇の森の入り口から少し入ったところ、罠を潜り抜けた鉄騎軍と囮部隊五十騎の交戦が始まっていた。囮部隊は包囲しつつある鉄騎軍に徐々に押されていた。
その鉄騎軍の側面を突くグラン隊副長は静かにナヴィの合図を待っていた。
『今だ! 結界を開く!』
ナヴィの声に合わせるように副長が叫んだ。
『突撃!! 囮部隊を助けろ!!』
副長は槍を構え、結界を抜ける。そこは乱戦だった。
囮部隊は鉄騎軍に追い詰められていた。
そこに側面から切り掛かる。
しかし、それは鉄騎軍の後方部隊にとっては隙だらけだった。
あっという間に闇の森の小径は、敵味方の人馬の死体で埋め尽くされた。
『撤退!! 森に入れ!! 南西に逃げろ!!』
副長が戦場で血に塗れた剣を振り上げ、叫んで回った。
その背中に鉄騎軍の剣が迫る。
そのときだった。
地面が揺れ始めた。
『な、なんだ……?』
鉄騎軍の騎士が馬上で動揺する。地鳴りが近づいてきていた。
『スタンピードがくるぞ!!』
ナヴィが副長の鞍上で叫んだ。
『スタンピードだ!! 全軍、逃げろ!!』
副長は声を限りに叫んだ。振り返りざま鉄騎軍に槍を振り下ろす。
『全力で逃げろ!! バラバラに逃げろ!! 作戦三段階目だ!!』
その声に混乱の中で浮き足立った囮部隊は、森に駆け込むことに成功した。
本隊二百騎が割って入り、鉄騎軍と応戦しながら退却を始める。
その後はハンク隊と合流する予定だった。
森の中でのゲリラ戦を想定していたため、突然の事態に素早く対応できたのだった。
『全員逃げろ!! 早く!!』
副長も馬首を翻し、南西に駆け出す。
そして猿が津波のように押し寄せた。
『グルルルルッ!!!』
赤い狂乱の目を光らせた猿の群れが、グラン隊と鉄騎軍に襲いかかる。
『うわあああ!!』
鉄騎軍の後続部隊が猿の群れに飲まれる。
グラン隊も無傷というわけにはいかなかった。
東側の部隊も同じく猿の群れに踏み潰されていく。
猿の群れは馬を押し倒し、騎士に飛びかかり地面に押し倒す。
それは次から次へと戦場に現れ、倒れた人馬を地面に沈ませていった。
阿鼻叫喚の地獄絵図が広がる。
『敵に構うな!! 馬を走らせろ!!』
グラン隊は一目散に逃げ出していく。
スタンピードの情報がなかった鉄騎軍は恐慌状態に陥っていた。
グラン隊を追いかける部隊、逃げ帰る部隊、直進する部隊。
それぞれが時間差で現れた猿の群れに蹂躙された。
鉄騎軍千騎は、ほぼ壊滅した。
しかしグラン隊の被害も甚大だった。
その日の午後、ハンク隊と合流できた騎士は百騎に満たなかった。
*
同じ頃、街道上の峡谷。
ヴォルノ隊はグリファス元団長の援軍によって鉄騎軍を退けることに成功した。
グリファスは峡谷の狭隘部に防衛線を新たに引いた。
『グリファス団長……』
ヴォルノは涙をこらえた。
病を得たグリファスの顔は痩せ衰えていた。
かつての豪快な笑顔は影を潜め、頬は痩せこけ、目の下には隈ができている。
それでも、その瞳には強い光があった。
『なあに……』
グリファスは咳き込んだ。
『守備隊にも優秀な指揮官はおる』
また咳き込み、痰を吐く。血が混じっているようだった。
『老骨に鞭打って……馬に乗って来た、だけよ』
『団長……!』
グリファスは南部守備隊の騎兵八百騎を率いていた。
聖都への進軍中にヴォルノ隊の避難誘導部隊の先遣部隊と出会い、封印と錫杖を守るため草原を駆け抜けてきたのだった。
『歩兵、弓兵合わせて五百もこちらに向かっておる』
グリファスはヴォルノの肩に手を置いた。
ヴォルノは満身創痍の体を起こす。
手当てが終わったところだった。
『ヴォルノ団長、よく生きていてくれた……』
ヴォルノの目から涙がこぼれ落ちた。
『ここは南部守備隊が守り抜く』
ヴォルノ隊には無傷の騎士はいなかった。
馬に乗ることのできた騎士は、百五十騎に満たない。
『新しい法王猊下を……』
グリファスは空を見上げた。
『お前の力と騎士たちで必ず守れ……』
『はッ! 必ずや!』
ヴォルノは敬礼で返し、グリファスは苦笑した。
『団長は、お前だ。さあ手当が終わったら、行け。ホーガイ殿とともに小人の結界まで出れば治療ができる』
『グリファス元団長…… 必ず、必ず生きてまたお会いしましょう……』
ヴォルノは再び鎧をつけ、馬上の人となる。
『ヴォルノ隊! 整列!!』
ヴォルノは声を張り上げた。グリファスに向き直る。
『ここはグリファス元団長にお願い致す! 我が隊はホーガイ様の護衛に向かう!』
ヴォルノは手負いの部隊を率い、陽が沈みかかる街道上を西に向かった。
*
陽が西に傾くと闇の森は薄闇に閉ざされていく。
二つの目を光らせ、ジムニーは森を西に向かっていた。
小径は張り出した木の根や岩を乗り越えるために、何度も切り返し、乗り越えなければならなかった。
その度にエンジンをふかし、排気ガスを吐き出す。
「モーイ? その闇の民との合流場所はまだ遠いの?」
未来の声は焦りと苛立ちにまみれていた。
「碧、待ってて……」
未来は歯を食いしばった。
「もう少しなんだけどね……」
「さっきから、そればっかりじゃない!」
また猿の群れがいつ現れるかわからない。
リューシャは助手席で緊張した面持ちで小弓を構え、耳を澄ましていた。
ジムニーは変わらず低速四輪駆動での走行を余儀なくされている。
ハンドルを握る未来は一瞬、水温計の警告表示が出たことに気づいた。
「やば…… 圭一? これ以上、走ると……」
未来はブレーキを踏んで、エンジンを切った。
静寂が車内を包み込む。
「オーバーヒートか……」
止まった車内で重苦しい沈黙が漂った。
そのとき、モーイが顔を上げた。
「オムカから…… 連絡が来た…… 猿が来る……」
その顔が緊張に包まれた。
「……またスタンピードか?」
田崎の顔が青ざめる。イリナはまだ目を覚さない。
「グラン隊と交戦中。暴走じゃない…… 使い手が呼び寄せた猿…… こっちに来る」
「どうするのよ?!」
「逃げないと……」
「だから、これ以上走るとオーバーヒートで車、壊れるの!!」
「オーバーヒートって何?」
未来は頭を掻きむしった。
「エンジンを冷やすための冷却水が熱で沸騰して、エンジンが焼き付くの!!」
「じゃあ、冷やせばいいだけね」
「簡単に言わないで!!」
未来が叫んだ後、何かに気づいたようにモーイに尋ねた。
「もしかして、何か魔法があるの? 天才小人さん?」
「影で覆ったらキンキンに冷やせるよ、日本の夏は暑いからね…… 東京にいたころは……」
「早く言ってよッ!! それッ!!」
未来が遮って怒声を上げた時、リューシャの耳がぴくりと動いた。
『シッ! ミク殿、来る……』
リューシャが鋭く警告を促す。
イリナに寄り添うリーが唸り声を上げた。
「早く! 冷やしなさい!!」
未来はエンジンキーをひねった。
暖房をマックスに上げ、窓を全開にする。
ジムニーのエンジンが震え、うめくように重低音を響かせる。
不気味な冷気が車内に入り込み、暖房の熱と溶け合った。
モーイが詠唱を始めると、手のひらから出た影がエンジンルームに入り込む。
エンジンルームを暖房で強制排気しつつ、モーイの術で冷却水を冷ましていく。
次の瞬間、ジムニーは飛び出した。
窓を全開にしたジムニーの車内に猿の雄叫びが響いてきた時だった。
「掴まってなさい!!」
未来はギアを高速四駆に叩き込むと、アクセルを徐々に踏み込んでいく。
小径の両側は斜面になっていて浅い谷を形成している。
そこにスピードを上げたジムニーで乗り上げていく。
車体が斜めに傾き小径の障害物を回避する。
ヘッドライトが闇を切り裂き、どすんと車体が小径に着地する。
モーイは杖を障害物のない方向へ向けた。
「そっちね!!」
未来がハンドルを切る。
『グアアアアアッ!!』
田崎が後ろを振り返ると、赤い目を光らせた豹猿の群れが追走してくるのが見えた。
『リューシャ!! 豹猿!!』
田崎が現地語で叫んだ。
その時、バックドアのガラスに豹猿が飛びかかった。
衝撃とともにヒビが入っていたガラスが砕け散る。
豹猿はスペアタイヤにしがみつき、その凶悪な顔を覗かせた。
『タサキ!!』
リューシャが叫んで振り向くと、長剣を田崎に手渡した。
リューシャと田崎の目が合う。
田崎は長剣を受け取ると鞘から抜いた。
「うおらああ!!」
窓ガラスを突き破り、太い前脚を車内に入れ込む豹猿の顔に剣を突き刺す。
『ギャンッ!!』
顔を切り裂かれた豹猿は血飛沫を上げ、暗闇へと転がり落ちた。
だが、次の豹猿が飛びかかる。リューシャは揺れる車内で小弓に矢をつがえた。
助手席の窓から身を乗り出し、狙いをつける。
迫り来る赤い目に向けて矢を放つ。
悲鳴が闇に吸い込まれていく。
「ミク!! この先、崖だ!! 飛び越えよう!!」
モーイが前方を杖で指して叫んだ。
「もっとスピード上げて!!」
「わかった!! いけええええ!!」
未来はアクセルを床まで踏み込んだ。
エンジンが爆音を上げる。
スピードメーターの針が頂点を超えて右側へと傾く。
飛び跳ねるようにぐんぐん速度を上げるジムニーは、豹猿の一団を置き去りにした。
『リューシャ!! 掴まって!!』
そして、斜面を一気に駆け上がり——
「ミク!! 飛ぶよ!!」
モーイが叫んで座布団にしがみついた。
ジムニーが宙に浮く。
『きゃああああ!!!』
「うわああああ!!!」
その時、田崎は見た。
ヘッドライトで照らし出された小径は、崖の手前で折れ曲がっていた。
——道から外れた……
ジムニーは、暗闇の空に飛び出した。
0
あなたにおすすめの小説
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
『三度目の滅びを阻止せよ ―サラリーマン係長の異世界再建記―』
KAORUwithAI
ファンタジー
45歳、胃薬が手放せない大手総合商社営業部係長・佐藤悠真。
ある日、横断歩道で子供を助け、トラックに轢かれて死んでしまう。
目を覚ますと、目の前に現れたのは“おじさんっぽい神”。
「この世界を何とかしてほしい」と頼まれるが、悠真は「ただのサラリーマンに何ができる」と拒否。
しかし神は、「ならこの世界は三度目の滅びで終わりだな」と冷徹に突き放す。
結局、悠真は渋々承諾。
与えられたのは“現実知識”と“ワールドサーチ”――地球の知識すら検索できる探索魔法。
さらに肉体は20歳に若返り、滅びかけの異世界に送り込まれた。
衛生観念もなく、食糧も乏しく、二度の滅びで人々は絶望の淵にある。
だが、係長として培った経験と知識を武器に、悠真は人々をまとめ、再び世界を立て直そうと奮闘する。
――これは、“三度目の滅び”を阻止するために挑む、ひとりの中年係長の異世界再建記である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる