軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜

タキ マサト

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第六章 集結   

49話 暗黒

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 巌窟寺院のドームを竜猿の咆哮と地響きが揺らす中——

 碧の光が、イリナの覚醒を促していた。

「……イリナ」

 モーイがダッシュボードの上にしゃがみ込んでいる。
 モーイの左手の紋様が冷たく、脈動していた。

 そこに刻まれている紋様の意味を即座に理解する。

——恐怖…… の紋様……

 モーイの顔がさっと青ざめた。

「くうん」
 リーが心配そうにイリナの頬を舐めた。

「リー……?」
 イリナがゆっくりと目を開け、リーの頭をなでる。
 その瞳に光が戻る。

「これは、”希望”…… アオ?」
 イリナが顔を上げる。車内を満たしていた碧の光は収束に向かっていた。

「巌窟寺院だ、イリナ…… 使い手がいる……」
「……巌窟 ……寺院」

 イリナが視線を前に向ける。

 ジムニーのヘッドライトの先に、小さな人影の集団が浮かび上がっていた。

 その前に、巨大な鬼猿たちが影をまとい立ち上がった。


「パパ…… 来るよ……」
「未来と碧は早く車に……」

 田崎は長剣を握り直した。
 その手がわずかに震える。

「パパ、やだよ……」
「碧、行くよ」
「大丈夫、パパは昔、あれを二匹倒したことがある……」
 震える声を必死に押し殺し、田崎は鬼猿を睨みつけた。

 田崎は未来と碧を庇うように、ジムニーのドアまで誘導する。

「イリナ……」
 後部座席に座っているイリナと目が合った。

 イリナは小さくうなずいた。

 そして、短く聖戒の言霊を唱える。

 ジムニー全体に火が灯ったように、淡い光の膜が輝き出した。

「頼む、モーイ、イリナ。ここで待っててくれ」
 三人に声をかけて、田崎は振り返った。

「リューシャ! ケイ!」
 リューシャが小弓を構えている。ケイは小刀を逆手に持ち、低い姿勢をとった。




   *




 外では、グランとハンクは、死兵の群れを蹴散らしていた。

 巌窟寺院の入り口に向けて、馬を走らせる。

『しっつこいわよ!!』
 ハンクの鉄槌が唸りを上げ、鉄騎軍の兜ごと頭を粉砕する。
 グランの剣が閃き、首をはね飛ばす。
 その首が黒い影を引きながら地面に転がった。

『完全に息の根を止めないと駄目だ』
 腕のない死兵が馬の前に飛び出す。
 倒しても倒しても、影に囚われた死兵は人形のように立ち上がってくる。

 鉄騎軍は入り口を守るように集まり、壁となって二人の馬の前に立ち塞がった。

 そのとき、上空から金色に光る竜猿が巌窟寺院の門に飛び込んだ。

 直後、巨大な影が太陽を遮る。

『グワアアアアッ!!』
 石畳を凄まじい衝撃波が襲う。

『竜猿だあああ!!』
 馬が本能的な恐怖に駆られていななき、跳ね回った。

『どうどうどう!!』
『落ち着きなさい!!』

 グランとハンクが暴れる馬を制御したそのとき——

 地響きと土煙とともに古竜猿が石畳に降り立った。
 
 竜猿は鉄騎軍の集団にその太い腕を伸ばすと、掴み上げ、次から次へと大口に放り込んでいく。

『?! 影だ! 影を喰ってる?』

 古竜猿は巌窟寺院の前に居座るように、影に囚われた鉄騎軍を貪り喰っていく。
 死兵にまとわりついた濃厚な影が、古竜猿の飢餓感を刺激し、惹きつけているようだった。

 まるで地獄絵図のような光景に、グランは戦慄した。

『一旦、退避ー!!』

 グランとハンクは距離を空けざるを得ない。

『どうする?』

 二人が顔を見合わせた時、巌窟寺院から、何かが弾丸のように飛び出した。

 金色の竜猿だった。

 黒い影を撒き散らしながら、古竜猿の顔面に向かって一直線に飛んでいく。

『ハネピー!! 突っ込め!!』
 オムカが杖をその顔面に向けて叫んだ。

 オムカの杖の先から光が放たれていた。

 それは羽ピーの体内に蓄積された影を、強制的に放出させていた。

 黒い影の尾を引き、羽ピーが古竜猿の鼻先をかすめて飛び抜けた。

『グワアアアァァ!!』
『逃げろ!! 羽ピー!!』

 羽ピーはそのまま垂直に急上昇していく。

 古竜猿が”絶望”の濃厚な影の匂いを嗅ぎつけ、天を仰いだ。

 次の瞬間、古竜猿が翼を広げる。

『グアッ! グアッ!』
『小回りと素早さじゃ、負けない!!』

 だが、古竜猿は羽ピーの背後に一瞬で追いついた。

『って、早すぎ!!』
 古竜猿の鉤爪が羽ピーにつかみかかり、空を切った。

『グワアアアア!!』
『羽ピー!! あっち!!』
 オムカは羽ピーの長い首を移動し、頭のツノにしがみつくと杖を下方に向けた。

『グアッ!』
『グワアアアァァ!!』

『イリナ! 早く、封印の影を払って、こいつ! 封印して!』
 オムカの悲痛な叫びが、森の奥へと吸い込まれていく。

 羽ピーは囮となり、古竜猿を引き連れて闇の森の中へと消えていった。



   *



『ハンク! 今だ!』

 古竜猿が去り、鉄騎軍の陣形が崩れた一瞬の隙を突き、グランたちは巌窟寺院の門へと馬を踊らせた。

 なおも手を伸ばす死兵を馬の前脚で蹴散らすと、ドームの中に駆け込んでいく。


 ドーム内では五匹の鬼猿に、田崎たちは絶体絶命の戦いを繰り広げていた。

『タサキ!』

 鬼猿の丸太のような棍棒が、田崎の脇腹を捉えた。
 激痛が右腹部を貫く。
 体が宙に浮き、床に叩きつけられる。

 リューシャは弓をつがえる間もなく、手にした矢をそのままその鬼猿の首筋に突き刺した。
 矢が折れる。
 首に矢を突き刺されたまま、鬼猿は返す棍棒で薙ぎ払った。
 リューシャが紙切れのように、吹き飛ばされる。

「リューシャ…… くそ」
 脇腹を押さえた左手の紋様が、焼けるような熱を帯びる。
 吐き気をこらえながら倒れたリューシャを目で追うことしかできない。

「……ケイは?」

 ケイもすばしっこく動くが、短い短剣では鬼猿の皮膚を浅く切り裂くだけだった。
 肉にも届かず、骨にも達しない。

 二匹の鬼猿に追い詰められていた。

「圭一!!」
「パパッ!!」
 車内からの未来と碧の悲鳴。
 田崎の目の前に、とどめの鬼猿の棍棒が迫った。

 その時、馬蹄の音が響いた。

『させんわああッ!!』
 馬に乗ったまま突撃してきたハンクの鉄槌が、鬼猿の横面を粉砕した。

『タサキ!!』
『わたしたちに任せて!!』
 グランがリューシャに向かった鬼猿に突進していく。

「グラン! ハンク!」
 目の前に、頼もしい男たちの姿が現れた。

『ウオオオ!!』
 グランの剣が閃き、鬼猿の体を深く切り裂く。
 反対側からハンクの鉄槌が鬼猿を吹き飛ばした。
 血飛沫と怒号がドームに飛び交う。

『イリナ様はッ?』
『鉄の車…… 無事』
 リューシャがふらつきながら床から起き上がる。

 田崎も激痛に耐え、体を起こした。

「くそっ!!」
 田崎の紋様が、ドクンと脈打つ。

 激しい怒りが沸き起こる。

 何もできない自分、助けられない自分に腹が立つ。

 未来、碧、リューシャ、ケイ……

 そして、ドームの中央に立つ黒い人影——

「ケイッ!」

 痛みが純粋な怒りへと変換されていく。
 剣を握り直す手に力がみなぎる。

 二匹の鬼猿に囲まれたケイの一匹に駆け寄ると、渾身の力で剣を叩きつけた。

 重たい反動が両腕を襲い、手が痺れる。

「このやろう!」

 振り返った鬼猿と目があった。
 さらに剣を振りかぶり、叩きつける。

「なんで! 切れない!」
 
 怒りで頭に血が上り、視界が赤く染まる。

 かつてこの場所でスコップで鬼猿を殴り殺した記憶。

 あの時の狂気じみた興奮、力の昂揚。

——忘れていた……

 理性で蓋をし、葬り去ろうとしていた過去のその昂揚感、万能感が体中を駆け巡った。
 
——飲まれたら駄目だ……

 理性が警告する。
 だが、直後「それでも構わない」という甘美な声が、胸の奥で囁いた。

「うおおお!!」
 
 紋様がうずく、もう何も考えられなかった。

——憤怒

 目の前が、怒りだけを残して、真っ暗になっていく。

 田崎の心は、深い暗黒へと染まっていった。
 

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