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第2章 老婆の呪いと祠の謎
8話 バンダナと鏡の謎(ババアに呪われた件)
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食事を終えた三人はお茶を手にほっと息をついた。
四本ツノの肉は大量に取れ、次々と干されていく。
子どもたちが肉片を運び、老人たちが塩をすり込む。村に久しぶりの活気が戻っていた。
佐藤多喜二は荒れた畑を思い出していた。
四本ツノの肉も所詮は応急措置に過ぎない。安定した食糧供給が必要なことは変わらない。
多喜二は今朝の出来事を二人に報告した。
神官に、枯れた森の木々の中で見た光るものについて尋ねることにした。
ノートを取り出し、簡単な地図を描いて木々の間に光を描き加える。
「何かが光ってた。これ、何?」
絵を示し、身振りを交えて神官に問いかけた。
神官はノートを覗き込み、眉をひそめた。ペンで描かれた線を指でなぞり、突然顔を上げた。その瞳が大きく見開かれ、唇が小刻みに震える。
両手を広げ待つような仕草をした後、祭壇裏の扉へと向かっていった。
「バンダナくん、そういえば……」
マスターが抜け目なく口を開いた。
「さっき、あの子と何か話してたろ? その光るもののところに一緒に行ったんじゃないのか?」
マスターの目がきらりと光る。
「ちが、違いますよ! たまたま一緒に見つけただけで!」
多喜二が慌てた時、
「バンダナっ!」
ぺぺちゃんが手を振りながら現れた。
マスターが視線をマッチョに向けた。マッチョも同じタイミングで顔を向ける。
二人の口角が同時に上がった。
「ほほう」
マスターが腕組みをした。
「なるほどなあ」
マッチョが頷いた。
「違いますよ!」
多喜二の声が裏返った。
諦めたように、多喜二はぺぺちゃんを二人に紹介した。にこりと微笑み、現地語で挨拶するぺぺちゃん。マスターの動きが止まった。
口をぽかんと開いたまま、視線がぺぺちゃんに固定される。
「ぺぺ……たん……」
か細い声が漏れた。頬が緩み、目尻が下がっていく。
多喜二は無言でマスターの頭を叩いた。
「いてっ!」
戻ってきた神官がぺぺちゃんと何事か話し合っている。同意したように手を振ると、ぺぺちゃんは祭壇の裏の扉に消えていった。
神官は分厚い本を両手に抱えていた。
神官は重々しくその本を祭壇に置いた。本と呼ぶよりはむしろ石板に近い、ずっしりとした代物だ。
神官がページをめくると、後ろの方に鏡の絵が現れた。
その鏡には、黒いフードをかぶった老婆が嘲笑を浮かべて描かれていた。下には文字が並んでいたが、もちろん三人には読めない。
「……あっ!」
三人の口から同時に声が漏れた。
「こいつだ」
多喜二が指を突き出す。
「間違いねえ、この顔だ」
マッチョも強く頷く。
「姿形は自分と同じだったけど、顔の表情だけが違ってた」
そうマッチョは付け加えた。
マスターも青ざめた顔で、無言のままうなずいていた。
多喜二はノートに勇剛と鏡の絵を素早く描きつけた。鏡から伸びる腕、勇剛が吸い込まれていく姿、足だけ残して割れる鏡。
神官はそれを確認し、さらに本をめくった。
そこには、多喜二が描いた絵とよく似た図が記されていた。
——神官は勇剛が、鏡の中に連れ去られたことを知っていたのだ。
悲痛な表情の理由は、喰われたからではなく、救世主が「鏡の住人」に奪われたからか……。
実際には新宿に強制帰還されたのだろうが、神官から見れば救世主が連れ去られたと考えてもおかしくはない。
「……結局、鏡に映っているこのババアが諸悪の根源ってとこっすね」
多喜二が推理すると、マスターもマッチョも同意する。
——もし文字が読めれば、もっと手がかりを掴めるはずなのに……
通じぬ言葉にもどかしさを覚えながら、多喜二はページを戻し、老婆の絵を指差す。
「こいつは……、誰だ!」
神官は意味を汲んだのか、静かに首を振った。
「こいつは、どこにいる?」
重ねて問い、神官を見る三人。言葉は通じない。
神官は祭壇に置いてあるビロードの布を取り「ここにいる」というように鏡を見せた。
三人の顔が綺麗な鏡面に映った。
「でも昨日、割れてたよな?」
マスターが古ぼけた鏡の鏡面に手を触れた。
ビクッと手を離し、顔は青ざめさせて両脇の下を押さえる。
「物理的に割れたわけではない?」
多喜二はつぶやくとそれを確認せずにはいられなかった。
「触るな!」
マスターが叫んだ瞬間、視界が暗転した。
暗闇の中、老婆が目の前にいた。
足はなく、漂っている。
伸びてきた手が、次の瞬間、多喜二の右手首をがっしりと掴んだ。
『お前も呪いの元となれ! 己を嘲った愚か者め!』
手首を締め付ける力、指先が痺れ、氷のような冷気と負の感情が流れ込む。
『全てを滅ぼす……そのための力になれ!』
老婆の声が、多喜二の中に侵入してくる。
手首から這い上がる冷気。
視界が暗く染まっていく。
——ミィちゃんの冷たい目。
——教授の乾いた笑い。
——机に積まれた不採用通知。
記憶が勝手に改竄されていく。それらが黒く塗りつぶされ、憎しみに変わっていく。
「やめ……ろ……」
喉から搾り出した声は、かすれて消えた。
その時、腹部に何かが食い込んだ。
「うぐっ……」
息が詰まる。視界が揺れる。急に体が後ろに引っ張られる感覚。
ドサッ!
「はあっ、はあ……」
荒い息を吐きながら目を開けると、神殿の高い石の天井が見えた。
右手首がズキズキと疼く。袖をまくった多喜二の動きが止まった。
黒い痣。指の形にくっきりと残っている。
——呪いの元? 力になれ? 全てを滅ぼす?
「……何、これ?」
声が震えた。心臓の鼓動が早くなる。
「ちょっ、早くどいてー」
苦しげなマスターの声が体の下から上がった。多喜二の下で、マスターが顔を真っ赤にして潰れている。
マッチョも目を見開いていた。鏡から伸びる枯れた手を見ていたのだ。
「どういうことだ?」
マッチョが言って神官を見る。
多喜二は分厚い本のページをめくった。
——老婆の過去が見えた。
最初の半分のページは文字ばかりで意味が分からない。後半になると挿絵が増えてくる。多喜二の手が止まった。
鏡とその中に描かれていたのは、ギリシャ彫刻のような筋肉質な若い全裸の男だった。
「このマッチョな腕! 間違いない! 勇剛を連れて行った腕だ!!」
マッチョが断言した。
数ページにわたって鏡と鏡の中にいる人物の肖像画が描かれている。
中世ヨーロッパの貴族風の衣装で冷たく笑う子ども、真ん中分けの長い黒髪で額に赤い印を持つインド人風の少女、その他幾人もの肖像画が描かれている。
その中に老婆の姿もあった。
絵の下に書かれた文字が読めないのがもどかしい。
そして佐藤多喜二の手が止まる。
——これだ……
牢獄に繋がれてうなだれている老婆の絵だった。
鏡の肖像画の嘲笑とは対照的に、その表情は絶望そのものだった。
老婆につかまれた右手首の痣が疼いた。
老婆の絵は他にないかとページを操る手がまた止まった。
老婆と子どもが、鏡を見て冷笑している絵だった。
さらに老婆がドラゴンを従えているような場面と続いた。
ページをめくるたび、痣が脈打つ。
禍々しさを感じるとともに、鋭い痛みが右手首を走り、多喜二は顔を歪めた。
神官は首を振り、本を閉じた。
神官が「ぺぺトゥン」と呼んだ。
ぺぺちゃんはゆったりとしたローブから茶色のチュニックと焦茶のズボンに着替えていた。革の胸当てをつけ小さな背嚢を背負っている。
肩には弓をかけ、矢筒を腰に吊っていた。
その後ろに村人が付き従っている。
村人たちの手には、マスターのメイス、マッチョの斧、そして多喜二の槍があった。血はすでに拭われ、どれも丁寧に磨かれている。
斧には新たにホルダーが取り付けられ、メイスの柄には革とリングが巻き足されていた。
村人が、三人に武器を渡す。
そして神官が多喜二のノートを指差し、地図を開いて光っている目印に人差し指を置いた。
物騒なものを持たされた三人は不安そうに互いの顔を見る。
この光る場所に何があるというのか?
※バンダナのメモ
[鏡の謎]
日本とこの世界をつなぐが、鏡はただのポータルではない。
鏡の世界には複数の住人が存在する?
勇剛の帰還後、鏡が割れ天候が変わった。老婆の呪いが弱まった?
割れている間、住人は出てこられない?
物理的に割れたわけではない?翌朝復活。
[鏡の住人]
・老婆・・・呪いの元。ネガティブな精神状態で現れる?過去に牢獄?
・ギリシャマッチョ・・・ポジティブで帰還を導く?勇剛を送り返した。
・子ども・・・老婆とのつながりは不明。冷笑していた。
四本ツノの肉は大量に取れ、次々と干されていく。
子どもたちが肉片を運び、老人たちが塩をすり込む。村に久しぶりの活気が戻っていた。
佐藤多喜二は荒れた畑を思い出していた。
四本ツノの肉も所詮は応急措置に過ぎない。安定した食糧供給が必要なことは変わらない。
多喜二は今朝の出来事を二人に報告した。
神官に、枯れた森の木々の中で見た光るものについて尋ねることにした。
ノートを取り出し、簡単な地図を描いて木々の間に光を描き加える。
「何かが光ってた。これ、何?」
絵を示し、身振りを交えて神官に問いかけた。
神官はノートを覗き込み、眉をひそめた。ペンで描かれた線を指でなぞり、突然顔を上げた。その瞳が大きく見開かれ、唇が小刻みに震える。
両手を広げ待つような仕草をした後、祭壇裏の扉へと向かっていった。
「バンダナくん、そういえば……」
マスターが抜け目なく口を開いた。
「さっき、あの子と何か話してたろ? その光るもののところに一緒に行ったんじゃないのか?」
マスターの目がきらりと光る。
「ちが、違いますよ! たまたま一緒に見つけただけで!」
多喜二が慌てた時、
「バンダナっ!」
ぺぺちゃんが手を振りながら現れた。
マスターが視線をマッチョに向けた。マッチョも同じタイミングで顔を向ける。
二人の口角が同時に上がった。
「ほほう」
マスターが腕組みをした。
「なるほどなあ」
マッチョが頷いた。
「違いますよ!」
多喜二の声が裏返った。
諦めたように、多喜二はぺぺちゃんを二人に紹介した。にこりと微笑み、現地語で挨拶するぺぺちゃん。マスターの動きが止まった。
口をぽかんと開いたまま、視線がぺぺちゃんに固定される。
「ぺぺ……たん……」
か細い声が漏れた。頬が緩み、目尻が下がっていく。
多喜二は無言でマスターの頭を叩いた。
「いてっ!」
戻ってきた神官がぺぺちゃんと何事か話し合っている。同意したように手を振ると、ぺぺちゃんは祭壇の裏の扉に消えていった。
神官は分厚い本を両手に抱えていた。
神官は重々しくその本を祭壇に置いた。本と呼ぶよりはむしろ石板に近い、ずっしりとした代物だ。
神官がページをめくると、後ろの方に鏡の絵が現れた。
その鏡には、黒いフードをかぶった老婆が嘲笑を浮かべて描かれていた。下には文字が並んでいたが、もちろん三人には読めない。
「……あっ!」
三人の口から同時に声が漏れた。
「こいつだ」
多喜二が指を突き出す。
「間違いねえ、この顔だ」
マッチョも強く頷く。
「姿形は自分と同じだったけど、顔の表情だけが違ってた」
そうマッチョは付け加えた。
マスターも青ざめた顔で、無言のままうなずいていた。
多喜二はノートに勇剛と鏡の絵を素早く描きつけた。鏡から伸びる腕、勇剛が吸い込まれていく姿、足だけ残して割れる鏡。
神官はそれを確認し、さらに本をめくった。
そこには、多喜二が描いた絵とよく似た図が記されていた。
——神官は勇剛が、鏡の中に連れ去られたことを知っていたのだ。
悲痛な表情の理由は、喰われたからではなく、救世主が「鏡の住人」に奪われたからか……。
実際には新宿に強制帰還されたのだろうが、神官から見れば救世主が連れ去られたと考えてもおかしくはない。
「……結局、鏡に映っているこのババアが諸悪の根源ってとこっすね」
多喜二が推理すると、マスターもマッチョも同意する。
——もし文字が読めれば、もっと手がかりを掴めるはずなのに……
通じぬ言葉にもどかしさを覚えながら、多喜二はページを戻し、老婆の絵を指差す。
「こいつは……、誰だ!」
神官は意味を汲んだのか、静かに首を振った。
「こいつは、どこにいる?」
重ねて問い、神官を見る三人。言葉は通じない。
神官は祭壇に置いてあるビロードの布を取り「ここにいる」というように鏡を見せた。
三人の顔が綺麗な鏡面に映った。
「でも昨日、割れてたよな?」
マスターが古ぼけた鏡の鏡面に手を触れた。
ビクッと手を離し、顔は青ざめさせて両脇の下を押さえる。
「物理的に割れたわけではない?」
多喜二はつぶやくとそれを確認せずにはいられなかった。
「触るな!」
マスターが叫んだ瞬間、視界が暗転した。
暗闇の中、老婆が目の前にいた。
足はなく、漂っている。
伸びてきた手が、次の瞬間、多喜二の右手首をがっしりと掴んだ。
『お前も呪いの元となれ! 己を嘲った愚か者め!』
手首を締め付ける力、指先が痺れ、氷のような冷気と負の感情が流れ込む。
『全てを滅ぼす……そのための力になれ!』
老婆の声が、多喜二の中に侵入してくる。
手首から這い上がる冷気。
視界が暗く染まっていく。
——ミィちゃんの冷たい目。
——教授の乾いた笑い。
——机に積まれた不採用通知。
記憶が勝手に改竄されていく。それらが黒く塗りつぶされ、憎しみに変わっていく。
「やめ……ろ……」
喉から搾り出した声は、かすれて消えた。
その時、腹部に何かが食い込んだ。
「うぐっ……」
息が詰まる。視界が揺れる。急に体が後ろに引っ張られる感覚。
ドサッ!
「はあっ、はあ……」
荒い息を吐きながら目を開けると、神殿の高い石の天井が見えた。
右手首がズキズキと疼く。袖をまくった多喜二の動きが止まった。
黒い痣。指の形にくっきりと残っている。
——呪いの元? 力になれ? 全てを滅ぼす?
「……何、これ?」
声が震えた。心臓の鼓動が早くなる。
「ちょっ、早くどいてー」
苦しげなマスターの声が体の下から上がった。多喜二の下で、マスターが顔を真っ赤にして潰れている。
マッチョも目を見開いていた。鏡から伸びる枯れた手を見ていたのだ。
「どういうことだ?」
マッチョが言って神官を見る。
多喜二は分厚い本のページをめくった。
——老婆の過去が見えた。
最初の半分のページは文字ばかりで意味が分からない。後半になると挿絵が増えてくる。多喜二の手が止まった。
鏡とその中に描かれていたのは、ギリシャ彫刻のような筋肉質な若い全裸の男だった。
「このマッチョな腕! 間違いない! 勇剛を連れて行った腕だ!!」
マッチョが断言した。
数ページにわたって鏡と鏡の中にいる人物の肖像画が描かれている。
中世ヨーロッパの貴族風の衣装で冷たく笑う子ども、真ん中分けの長い黒髪で額に赤い印を持つインド人風の少女、その他幾人もの肖像画が描かれている。
その中に老婆の姿もあった。
絵の下に書かれた文字が読めないのがもどかしい。
そして佐藤多喜二の手が止まる。
——これだ……
牢獄に繋がれてうなだれている老婆の絵だった。
鏡の肖像画の嘲笑とは対照的に、その表情は絶望そのものだった。
老婆につかまれた右手首の痣が疼いた。
老婆の絵は他にないかとページを操る手がまた止まった。
老婆と子どもが、鏡を見て冷笑している絵だった。
さらに老婆がドラゴンを従えているような場面と続いた。
ページをめくるたび、痣が脈打つ。
禍々しさを感じるとともに、鋭い痛みが右手首を走り、多喜二は顔を歪めた。
神官は首を振り、本を閉じた。
神官が「ぺぺトゥン」と呼んだ。
ぺぺちゃんはゆったりとしたローブから茶色のチュニックと焦茶のズボンに着替えていた。革の胸当てをつけ小さな背嚢を背負っている。
肩には弓をかけ、矢筒を腰に吊っていた。
その後ろに村人が付き従っている。
村人たちの手には、マスターのメイス、マッチョの斧、そして多喜二の槍があった。血はすでに拭われ、どれも丁寧に磨かれている。
斧には新たにホルダーが取り付けられ、メイスの柄には革とリングが巻き足されていた。
村人が、三人に武器を渡す。
そして神官が多喜二のノートを指差し、地図を開いて光っている目印に人差し指を置いた。
物騒なものを持たされた三人は不安そうに互いの顔を見る。
この光る場所に何があるというのか?
※バンダナのメモ
[鏡の謎]
日本とこの世界をつなぐが、鏡はただのポータルではない。
鏡の世界には複数の住人が存在する?
勇剛の帰還後、鏡が割れ天候が変わった。老婆の呪いが弱まった?
割れている間、住人は出てこられない?
物理的に割れたわけではない?翌朝復活。
[鏡の住人]
・老婆・・・呪いの元。ネガティブな精神状態で現れる?過去に牢獄?
・ギリシャマッチョ・・・ポジティブで帰還を導く?勇剛を送り返した。
・子ども・・・老婆とのつながりは不明。冷笑していた。
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