不憫すぎる多喜さんの異世界漂流記 ~呪われた最弱パーティが意外と強かった件~

タキ マサト

文字の大きさ
18 / 33
第3章 試練の旅路

18 話 多喜さんと割れた鏡(鏡パクったの)

しおりを挟む
 翌日、一行は赤砂に呑まれた廃村を越え、冷たい井戸水を補充し喉を潤し、ひたすら歩いた。ピレさんに追い立てられるように歩かされる。
 少しでも休むと、杖の先が光るように見えて気が気ではなかった。

 前方では、バンダナとぺぺちゃんがいちゃいちゃしているのが見えた。
 鼻の下がのびているバンダナのニヤけた顔に、殺意に似た感情が芽吹くのを感じる。
 劣等感と呪いに怯え、老婆のささやきに苛まれ、心がドス黒く染まっていく。

 しかし老婆の呪いは現れず、道は不気味なほど平穏だった。
 まるで「早く鏡を持って来い」と急かされているかのようだ。

 三日目の夕方、ようやく街が見えた。

 石畳は割れ、建物の看板は朽ちている。
 道の横には、小川が流れていた。
 小川のせせらぎとほのかに香る煤の匂いに、確かに人の気配が残る街だった。

「水が流れてる!?」
「雪解け水ですね」
「魚もいる!」
 うっすらと白くなっている山脈からの雪解け水なのか、浸した手は凍るように冷たかった。
 空は変わらず、薄紅色と灰色が混じった厚い雲に覆われていた。
 かつては賑わっていただろう大通りには石造りの建物が並んでいた。

 通りには、石畳の紋様で区画が分けられているようだった。
 住宅街を抜け、商業区に入っていく。

 表通りに面した建物には写実的な看板が掲げられていた。
 文字が読めない旅人にも分かるようにという配慮だろう。

 ピレさんはそのうちの一軒の宿に一行を案内した。一階が食堂になっていた。

 水がある。

 水があれば、魚もいれば穀物や野菜も作れる。肉以外のものが食べられると期待する四人。しかし出てきたのは肉と豆のスープだった。

 店の主人の顔色は悪く、苦しげな表情だった。
 パサパサした味気ない肉は鶏肉のような獣肉のような味がした。
 臭みのあるその肉は決して美味しくはなかった。

「これは、もっと塩を効かさないとダメよ」
「シオ? ダメ?」
「そう! 塩!」と言いつつ村から持ってきた岩塩を削り出すスミレ。
 スミレはお玉を振り回して改善点について熱心にぺぺちゃんに語っている。
 大袈裟なジェスチャーと日本語と、くりくりとよく動く顔芸で表現している。
 ぺぺちゃんも笑いながら、相槌をうち現地語で返している。

「それ、伝わってないっす、その顔芸に反応してるだけっす」
 バンダナが冷静に指摘する。
「いいのよ! 心が通じれば! ねー!」
 笑顔で頷きあう二人を見て、何故あれで会話が成り立つのか不思議に思う三人だった。
 
 食事が終わるとピレさんは宿を出て行った。
 ぺぺちゃんとスミレが同じ部屋になった。
 多喜とバンダナとマッチョは一部屋に押し込められた。

 二階の部屋に上がる。木の寝台に薄い毛布が敷かれているだけの質素なものだったが、この世界に来て初めてまともな寝床だった。それぞれ持ってきた毛布をかぶって横になる。 

 バンダナとマッチョが鼾をかき始めた頃、多喜はむくりと身を起こした。

 リュックを開け、鏡を包んだ布に手をかける。
 水を飲む振りをして、二人が起きていないのを確認する。

——やめろ。
 心の中で声がする。
——これはみんなの希望だ。帰るための唯一の手段だ。
 だが、手は止まらない。
 布を開き、破片の一つに触れる。
 月明かりに照らされた破片が、鈍く光っている。
 その表面に、自分の顔が映った。
 醜く歪んだ欲望に満ちた顔。

——俺は……何をしている?

 だが、手は震えながらも動き続けた。
 破片を一つ取り出す。

——本当に力をくれるのだろうか? あの老婆は。

 老婆の声が、脳裏に響く。

——ドラゴンの力……
 それがあれば、俺も……

 明日には割れた鏡を工房に持っていくのだろう。
 今晩が最後の機会だった。 

 破片をリュックの底に隠す。

 息を殺し、二人が起きていないかを確認した。
 鼾は止まる様子はなかった。
 だが、眠れなかった。
 リュックの底に隠した破片が、まるで心臓のように脈打っているような気がした。

 翌朝、ピレさんは街の一角に案内した。
 神官の本に描かれたような工房だった。
 大きな煙突と大きな窯がある。

 鏡を一度溶かして、また形を作るのだろう。
 老練といった風情の職人が、重い腰を上げた。 

 やはり顔色が悪く、苦しそうな表情をしていた。
 ぺぺちゃんが、多喜のリュックを指差した。
 鏡を出せと手を伸ばし顎をしゃくる。

——ドラゴンの力……

 多喜はリュックから布に包まれた鏡を出す。
 手が、震えている。
 ぺぺちゃんは、布から破片を一つだけ取りだしたことに気がつくだろうか。

 もしバレてしまったら……
 そのまま、リュックを探すフリをして差し出せばいい。

——夢の中で老婆は、鏡の破片全部とは言わなかった。

 一個くらいあれば、大丈夫だろうか?

 ドラゴンの力とは言わなくても、四本ツノの力くらいはもらえるんじゃないか?
 俺も力をもらって、みんなを守るんだ……
 そう自分に言い聞かせる。
 どきどきしながら布を渡すと、ぺぺちゃんは疑っていない様子で受け取った。

 ピレさんは職人と何やら話し合っている。鏡の修復の打ち合わせなのだろう。
 
「さあ、これからは我々の仕事だ」
 工房の前の広場で、マッチョが言う。
「グリフォン退治と、神殿の鏡での帰還っすね」
 バンダナが答える。
「マスター、呪いは大丈夫っすか」
 突然聞かれ、多喜は思わず体を強張らせた。
「べ、べ、別に、の、呪いなんて、な、なんにもないよ」
 あやしく答えてしまう。
「本当ですかあ?」
 バンダナが、目を細める。
「また何か変なこと考えてんじゃないでしょうね?」
 その視線が、鋭く突き刺さる。

——バレた?
 いや、大丈夫だ。証拠はない。
「まあまあ、これからグリフォン退治なんだし、緊張も不安もあるってもんよ?」
 マッチョが場を収めようとするが、バンダナは納得してなさそうだった。
 バンダナはメガネを押し上げ、多喜から目を離さなかった。その目は「何か隠している」と静かに語っているようだった。

 リュックに隠された割れた鏡の破片。
 グリフォン、呪いの老婆、帰還、鏡の修復……

 鏡の破片を一つ隠していることが、取り返しのつかない結果になるのではないか?
 急激に、後悔が押し寄せてくる。

——やめておけば……
 今からでも、返せばいいんじゃないか?

 だが、リュックの底の破片は、まるで心臓のように脈打っている気がした。
 老婆の声が、脳裏に響く。

『約束じゃぞ……山の神殿に持ってくるのじゃ……さすれば、力をやろう』
 多喜は自分の手を見た。
 この手に、力が宿るのか?

 それとも……
 不安と期待が、胸の中で渦巻いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...