愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径

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第一章

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「リリィ!」
「─── イリアお義姉ねえ様?」

お父様と二人、前日の婚約破棄の報告のために王城の控えの間で国王陛下との謁見を待っていると、両開きの扉が勢いよく開きました。飛び込んできたのはお兄様の奥様、イリアお義姉様です。アレクシスお兄様ではなく一番上のレヴィアス兄様です。イリアお義姉様に惚れられた兄様は、イリアお義姉様のご実家に住んでいます。婿入りではなくイリアお義姉様のお嫁入り。ですが、お義姉様の家系が特殊なため、兄様は後継者として辣腕をふるっています。
イリアお義姉様曰く、釣り堀に数多いる婚約候補者に辟易してた頃、外洋の荒波を自由に泳いでいたレヴィアス兄様が輝いて見えたそうです。そして遠洋漁業の大きな網に綿ワタをつけて、傷つけないように気を付けながら釣り上げた大物オオモノだそうです。

「リリィちゃん! リリィちゃん! 私のリリィちゃんに何て酷いことをしてくれたのよあの国サンジェルスは! 許せないわ! 今すぐ戦争よ! 私が陣頭指揮を取るわ! 結婚した今でも戦乙女いくさおとめの称号は返上していないわよ‼︎」
「イリア。他の方々が困ってらっしゃるから落ち着きなさい」
「────── レヴィアス兄様」

たぶん、この部屋にいらっしゃられる皆様はいつものことと笑っていらっしゃいます。はい、いつものことなんです。王様への謁見をここで待っている時にイリアお義姉様が飛び込んでくるのも。私に抱きついて離れないのも。そして、レヴィアス兄様がイリアお義姉様と一緒に入って来て、暴走気味のイリアお義姉様を止められるのも。
ひとりっ子だったイリアお義姉様は、レヴィアス兄様との婚約が決まってから結婚式の前日までアーシュレイ領にとどまっていました。その時から、私やアレクシス兄様を弟や妹のように甘やかしまくってくださいます。
ここにいらっしゃる上位貴族の皆さんはそれをご存知だからこそ、私たちがソファーセットへ移動してお喋りしても問題がないのです。

「リリィ。今回は大変だったね」
「レヴィアス兄様」
「安心してね? 誰よりも義父ちち上が激高してるから。それにしても……。ウーレイの娘も、寄子よりこの分際で主家しゅかに盾突くとはいい度胸だな」
「物心ついた時から王都でお過ごしですから、そのような事思いもしなかったのでしょう。それに周りには言っていたそうですよ。『父が世話をしている家』って。それがどこかは知らないみたいですが。そして、その働きが認められて父親は男爵になったって。その『世話をしている家』は没落が確定していて、その家の商売を父親が引き継いで当主になるから、そのための叙爵だと」
ウーレイアレは有能だったから、王都に置いた商家の管理を任せていたが……」
「そう言えば、お父様。あのが開かれていた最中に、ウーレイ男爵と思われる方が騎士団に連れ出されていましたが?」
「ん? ウーレイはリリィが生まれる前に王都に住まいを移したから知らなかったか。アレがウーレイだ。─── そう言えば、年始も領地へは一度も挨拶になんだな」
「お義父様。それがウーレイ親子が増長させたのではありませんか?」
「─── 王都や各領地に置いていた商家もすべて引き上げさせている。改めて経理を調べ直そう」

お父様たちはウーレイ男爵の不正を疑っているようです。

「ウーレイ男爵はこれからどうするのでしょう?」
とは?」
「だって。ウーレイ男爵は拝領のない『一代貴族』ですよ。領地がないから税収はありませんし、唯一の収入だった商家はアーシュレイ領に引き上げますのよ。ウーレイ男爵はともかく、令嬢は言いがかりつけてくるのではありませんか?」
「かまわん。我が寄子だったにも関わらず、相談もなく男爵位を受けた。我が家とこの国を裏切って叙爵を受けた時点で縁は切れている」
「そのウーレイが王太子に商品を融通していた可能性はありませんか? 私はそれが叙爵の理由だと思うのですが」
「そうだな。商品の流通も含めて調べさせよう」

それはいずれ、令嬢とは別にウーレイ男爵自身に『使い込みの返金や横領による慰謝料』が請求されるでしょう。そして犯罪として訴えられることになります。
─── 敵に回してはいけない相手に、親子でケンカを売ったのです。

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