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声(2025.9.11)/ホラー
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「15PV……か」
何度更新しても、その数字が増えることはない。
今月から連載を始めたミステリー小説の総PVだ。
ほぼ毎日更新、昨日までに20話まで公開したが、今日はまだ1PVもついていない。
ミステリーはWEB投稿サイトと相性があまり良くない……というより、こういう投稿サイトではどこも異世界ファンタジーが人気で、ミステリーを読みにくる読者の数はとても少ないのだろう。
更新してもすぐに読まれることは滅多になく、この作品をフォローしてくれている人も私を含めて3人しかいないのだ。
自分が読んだ分はカウントされないし、フォローしてくれている1人はフォローだけをして、そのまま放置されているような気がする。
いつ読まれるかも、このまま忘れ去られるかも不明だ。
唯一ちゃんと読んでくれているのは、このサイトで私と同じくミステリーを書いている写築屋キンさんという人だけ。
おそらく男性だと思うが、写築屋キンさんは数話更新されてからまとめて読むタイプの人で、まだ続きを読みにはきていないようだ。
「あんま意味ないけど、宣伝しとこう」
何もしないよりマシだろうと、私はいつものようにSNSで自分の作品を宣伝する投稿をした。
こっちのフォロワーもあまり多くはないけれど、誰か反応してくれるだろうと。
そして、いつものようにミステリーは読まれない悲しみを書いては投稿せずに消すというのを繰り返していた。
すると、ポンと通知が1件入る。
確認してみると、写築屋キンさんからDMが届いていた。
〈このサイト、一昨日から新しくオープンしたんだけど、すごいからこっちでも公開してみて〉
どうやら、新しい小説投稿サイトが出来て、写築屋キンさんが試しに使ってみると、すぐに読まれるし、コメントもつくらしい。
写築屋キンさんは、それが嬉しくて、現在はそちらの活動をメインにしているようだ。
私の作品を読みにきていないのも、そのせいだった。
〈ここはミステリーを書いても読んでもらえる。読者の声が聞こえてすごく嬉しい!〉
写築屋キンさんからこんなDMが来るなんて、珍しいことだった。
つまり、それほどそのサイトがすごいのだろうと、私は早速メッセージにあったURLからサイトに飛んだ。
トップ画面は白い背景に緑や青を使ったおしゃれなデザインをしていて、『読者の声が聞こえる小説投稿サイト』の文字。
登録無料、PV数に応じてリワードが貰えるらしい。
しかも、ランキングを見ると上位作品のほとんどがミステリーかホラーだった。
私は新規ユーザー登録の文字をクリックし、ID、メールアドレス、名前などの情報を入力していく。
リワードをもらうことになる為、本名と電話番号、住所の登録も必要で、全て入力し終わると、登録ボタンを押し、今月から連載を始めた例のミステリー作品をコピペして、第1話を投稿。
「え? もう?」
投稿して1分も経っていないのに、画面を更新すると15PV。
それも、まだたった1話しか公開していないのに。
そして、すぐにコメントが……
〈これはすごい、作者天才だ。1話目から見事な引き!!〉
〈面白い! 早く続きが読みたいです〉
〈次の更新はいつですか?〉
あまりの嬉しさに、私は泣きそうになった。
今までこんな経験をしたのは初めてだった。
こんなにたくさん、私の作品を読んでくれる人がいるなんて……!!
もう一度画面を更新すると、29PV。
コメントも10件来ている。
私は急いで次の第2話も投稿する。
すると、やっぱりその第2話にもすぐにPVがついて、コメントが来た。
嬉しくて、嬉しくて、気づけばその日のうちに20話を全て公開しまう。
ストックはない。
〈つづきは?〉
〈犯人が気になって眠れない!〉
〈早く次を読ませて!〉
今から続きを書くしかない。
嬉しさで興奮しつつ、私は執筆を始めた。
ところが、その直後だった。
————チロリンチロリンチロリン
スマホが鳴る。
なんで間抜けな音を設定しているんだと自分でも思ったが、これが一番電話が鳴っていることに気づきやすいのだから仕方がない。
「今忙しいのに! 誰だよ」
スマホを見てみると、全く知らない番号から電話が来た。
驚いたが、調べてみるとそれはサイトに書かれているお問い合わせ先の電話番号だ。
つまり、この投稿サイトを運営している会社からの電話である。
————チロリンチロリンチロリン
「もしかして、書籍化の打診!? ……いやいや、こんなに早く来るわけないか」
慌てて通話ボタンをタップする。
「も、もしもし?」
聞こえてきたのは、ザーザーという雑音。
それから、カタカタとキーボードを叩いているような音、カチカチというマウスの音。
『続きは?』
「え……? 続き……?」
『続きはまだなの?』
「へ?」
『早くしてよ!』
女性の声……かと思えば、急に低くなって男のような声になった。
怖くなって思わず通話を切ってしまうと、また
————チロリンチロリンチロリン
同じ番号から、電話が鳴った。
「は、はい、あの、どなたですか?」
もう一度出ると、さっきとは違う声。
『続きは? 続きは? いつ書くの?』
『まだ? ねぇ、いつまでまたせるの?』
それも、複数人。
子供の笑い声も混ざっている。
『早く書けよ』
『書け書け書け書け書け書け書け書け書け』
怖くなって、通話を切った。
そしてすぐに着信拒否にする。
これは、悪質な悪戯だ。
サイトに登録したせいで、悪戯電話がかかってきたんだと思った。
個人情報を盗まれたんだ……!
こういう場合、多分警察に連絡するのかなと、110番に電話を掛けようとしたけれど……
————チロリンチロリンチロリン
拒否したはずなのに、また同じ番号から電話が来る。
切っても、切っても、何度でもかかってくる。
————チロリンチロリンチロリン
怖くなって電源を落とし、ベッドの上に投げるように置いた。
跳ね返って真っ暗な画面が上を向く。
————チロリンチロリンチロリン
「そんな……なんで……!? 電源きったのに……」
スマホの画面は真っ暗なまま。
布団や枕の下に置いて、音が聞こえないようにしてみても、なんの効果もない。
意味がわからない。
何だこれは……と、部屋中に響き渡っているその音を無視して、パソコンから写築屋キンさんにDMを送った。
私を騙したのか、何でこんなことをしたのか、と。
〈読者の声に耳を傾けるのも、大事な仕事ですから〉
————チロリンチロリンチロリン……ブチッ
返ってきたのは、ただその一行で、急に音が止まる。
『早く続きを書け』
『犯人は二人いる方がいい』
『このセリフは人種差別に当たるから変えた方がいい』
『ご都合主義過ぎてつまんない』
『早く次を書けよ』
『主人公が地味過ぎてつまんねぇ』
『ここで視点変えるなよ、読みづらい』
『説明が長過ぎんだよ、依頼人の髪色なんてどうでもいいだろ。何かの伏線か?』
『続きを書けよ。いつまで待たせんだ』
『刑事が馬鹿すぎる。こんなやつ現実でいたらクビだろ』
私以外誰もいない部屋で、読者の声がした。
耳を塞いでも、爆音の音楽で聞こえなくしようとしても、何をしても読者の声がずっと聞こえてくる。
『これじゃぁミステリーじゃなくて、ホラーだろ』
助けて
《了》
何度更新しても、その数字が増えることはない。
今月から連載を始めたミステリー小説の総PVだ。
ほぼ毎日更新、昨日までに20話まで公開したが、今日はまだ1PVもついていない。
ミステリーはWEB投稿サイトと相性があまり良くない……というより、こういう投稿サイトではどこも異世界ファンタジーが人気で、ミステリーを読みにくる読者の数はとても少ないのだろう。
更新してもすぐに読まれることは滅多になく、この作品をフォローしてくれている人も私を含めて3人しかいないのだ。
自分が読んだ分はカウントされないし、フォローしてくれている1人はフォローだけをして、そのまま放置されているような気がする。
いつ読まれるかも、このまま忘れ去られるかも不明だ。
唯一ちゃんと読んでくれているのは、このサイトで私と同じくミステリーを書いている写築屋キンさんという人だけ。
おそらく男性だと思うが、写築屋キンさんは数話更新されてからまとめて読むタイプの人で、まだ続きを読みにはきていないようだ。
「あんま意味ないけど、宣伝しとこう」
何もしないよりマシだろうと、私はいつものようにSNSで自分の作品を宣伝する投稿をした。
こっちのフォロワーもあまり多くはないけれど、誰か反応してくれるだろうと。
そして、いつものようにミステリーは読まれない悲しみを書いては投稿せずに消すというのを繰り返していた。
すると、ポンと通知が1件入る。
確認してみると、写築屋キンさんからDMが届いていた。
〈このサイト、一昨日から新しくオープンしたんだけど、すごいからこっちでも公開してみて〉
どうやら、新しい小説投稿サイトが出来て、写築屋キンさんが試しに使ってみると、すぐに読まれるし、コメントもつくらしい。
写築屋キンさんは、それが嬉しくて、現在はそちらの活動をメインにしているようだ。
私の作品を読みにきていないのも、そのせいだった。
〈ここはミステリーを書いても読んでもらえる。読者の声が聞こえてすごく嬉しい!〉
写築屋キンさんからこんなDMが来るなんて、珍しいことだった。
つまり、それほどそのサイトがすごいのだろうと、私は早速メッセージにあったURLからサイトに飛んだ。
トップ画面は白い背景に緑や青を使ったおしゃれなデザインをしていて、『読者の声が聞こえる小説投稿サイト』の文字。
登録無料、PV数に応じてリワードが貰えるらしい。
しかも、ランキングを見ると上位作品のほとんどがミステリーかホラーだった。
私は新規ユーザー登録の文字をクリックし、ID、メールアドレス、名前などの情報を入力していく。
リワードをもらうことになる為、本名と電話番号、住所の登録も必要で、全て入力し終わると、登録ボタンを押し、今月から連載を始めた例のミステリー作品をコピペして、第1話を投稿。
「え? もう?」
投稿して1分も経っていないのに、画面を更新すると15PV。
それも、まだたった1話しか公開していないのに。
そして、すぐにコメントが……
〈これはすごい、作者天才だ。1話目から見事な引き!!〉
〈面白い! 早く続きが読みたいです〉
〈次の更新はいつですか?〉
あまりの嬉しさに、私は泣きそうになった。
今までこんな経験をしたのは初めてだった。
こんなにたくさん、私の作品を読んでくれる人がいるなんて……!!
もう一度画面を更新すると、29PV。
コメントも10件来ている。
私は急いで次の第2話も投稿する。
すると、やっぱりその第2話にもすぐにPVがついて、コメントが来た。
嬉しくて、嬉しくて、気づけばその日のうちに20話を全て公開しまう。
ストックはない。
〈つづきは?〉
〈犯人が気になって眠れない!〉
〈早く次を読ませて!〉
今から続きを書くしかない。
嬉しさで興奮しつつ、私は執筆を始めた。
ところが、その直後だった。
————チロリンチロリンチロリン
スマホが鳴る。
なんで間抜けな音を設定しているんだと自分でも思ったが、これが一番電話が鳴っていることに気づきやすいのだから仕方がない。
「今忙しいのに! 誰だよ」
スマホを見てみると、全く知らない番号から電話が来た。
驚いたが、調べてみるとそれはサイトに書かれているお問い合わせ先の電話番号だ。
つまり、この投稿サイトを運営している会社からの電話である。
————チロリンチロリンチロリン
「もしかして、書籍化の打診!? ……いやいや、こんなに早く来るわけないか」
慌てて通話ボタンをタップする。
「も、もしもし?」
聞こえてきたのは、ザーザーという雑音。
それから、カタカタとキーボードを叩いているような音、カチカチというマウスの音。
『続きは?』
「え……? 続き……?」
『続きはまだなの?』
「へ?」
『早くしてよ!』
女性の声……かと思えば、急に低くなって男のような声になった。
怖くなって思わず通話を切ってしまうと、また
————チロリンチロリンチロリン
同じ番号から、電話が鳴った。
「は、はい、あの、どなたですか?」
もう一度出ると、さっきとは違う声。
『続きは? 続きは? いつ書くの?』
『まだ? ねぇ、いつまでまたせるの?』
それも、複数人。
子供の笑い声も混ざっている。
『早く書けよ』
『書け書け書け書け書け書け書け書け書け』
怖くなって、通話を切った。
そしてすぐに着信拒否にする。
これは、悪質な悪戯だ。
サイトに登録したせいで、悪戯電話がかかってきたんだと思った。
個人情報を盗まれたんだ……!
こういう場合、多分警察に連絡するのかなと、110番に電話を掛けようとしたけれど……
————チロリンチロリンチロリン
拒否したはずなのに、また同じ番号から電話が来る。
切っても、切っても、何度でもかかってくる。
————チロリンチロリンチロリン
怖くなって電源を落とし、ベッドの上に投げるように置いた。
跳ね返って真っ暗な画面が上を向く。
————チロリンチロリンチロリン
「そんな……なんで……!? 電源きったのに……」
スマホの画面は真っ暗なまま。
布団や枕の下に置いて、音が聞こえないようにしてみても、なんの効果もない。
意味がわからない。
何だこれは……と、部屋中に響き渡っているその音を無視して、パソコンから写築屋キンさんにDMを送った。
私を騙したのか、何でこんなことをしたのか、と。
〈読者の声に耳を傾けるのも、大事な仕事ですから〉
————チロリンチロリンチロリン……ブチッ
返ってきたのは、ただその一行で、急に音が止まる。
『早く続きを書け』
『犯人は二人いる方がいい』
『このセリフは人種差別に当たるから変えた方がいい』
『ご都合主義過ぎてつまんない』
『早く次を書けよ』
『主人公が地味過ぎてつまんねぇ』
『ここで視点変えるなよ、読みづらい』
『説明が長過ぎんだよ、依頼人の髪色なんてどうでもいいだろ。何かの伏線か?』
『続きを書けよ。いつまで待たせんだ』
『刑事が馬鹿すぎる。こんなやつ現実でいたらクビだろ』
私以外誰もいない部屋で、読者の声がした。
耳を塞いでも、爆音の音楽で聞こえなくしようとしても、何をしても読者の声がずっと聞こえてくる。
『これじゃぁミステリーじゃなくて、ホラーだろ』
助けて
《了》
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