短編集(2020~2024)

星来香文子

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転生したら推しの〇〇になってた件(2021.3.17)/現代ファンタジー

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 突然で本当に申し訳ないのだが、俺は死んだ。
 どうして死んだのかは覚えていない。

 ただ、気がついたら周りに何にもない、空の上みたいな空間にいて、目の前に真っ裸の少年が立っていた。
 おいおい、いくら子供だとはいえ、丸見えだぞ?
 こんな明るいところで、親は何をしているんだ……

 少年は俺に意識があることを確認すると、にっこりと笑って、そりゃぁもう、天使のような満面の笑顔で言った。

「こんにちは。私が神です」
「は?」
「突然で申し訳ないのですが、今すぐ転生してください。異世界と、現実世界どちらがいいですか?」
「いや、ちょっと待って……!! まずはどうして俺が死んだとかの説明が先じゃないのか!?」

 こういうのって普通、どうして死んだか把握した上で新しい世界に転生して物語が始まるものじゃないのか!?

「そんな説明聞いたところで、なんになるっていうんですか? あなたが生前どういう人間だったかなんて、そんなもの読者は興味ないんですよ。さっさと選んでください。どちらにしますか? 異世界ですか? 現実世界ですか?」

 神と名乗った少年は満面の笑みを崩さずにそう言って、俺に選択を迫る。

「異世界か……現実世界か……?」

 異世界に行ったら、モンスターとかに襲われたり、ヒロイン助けたり色々しなきゃなんねーんだよな、きっと。
 でも、現実世界だったら、この前世の記憶を残したまま上手く行けば、成功して億万長者にだってなれるかもしれないなぁ……

「あーもう、判断が遅すぎます。面倒なので、ルーレットにしましょう」

「えっ!」

「はい、あー……はいはい、こっちね。いってらっしゃーい!!」

「え!? ちょっと待って!!」


 結果を知らされることなく、俺の視界は真っ暗になって、目の前にいた裸の神の姿も見えなくなった————


 そして、しばらく真っ暗な世界を彷徨ったあと、突然、光が差し込む。


「データの移行はしなくていいんですか?」
「大丈夫です。こっちはプライベート用なので」
「そう、気をつけてくださいね。また変なファンにはバレないように」
「はーい。気をつけます!」

 俺の目の前に、信じられない光景が広がった。

 少し垂れ気味の大きな二重の目、小さくて可愛い鼻、広角の上がった唇。
 口元の小さな黒子。

 俺がずっと推しているのアイドル・の顔だ。

 なんだこれは、最高か!?
 最高なのか!?

 毎日毎日SNSを見て、毎日毎日歌を聴き、動画を見て、ライブにも参加して、もちろんファンクラブにも入会している推しの顔が目の前にあるではないか!!

 握手会は抽選漏れで参加できず、ライブでは今まで一番近い席でも、前から10列目以内には入れなかった推しの顔が目の前にある。

 ここは天国なのか!?

「さーて、何から始めようかしらね……」

 さぁちんの人差指が、俺の顔を撫でる。

 はぁ……そんな……!!
 さぁちんが俺にそんな!!

 幸せすぎる。

 もしかして俺は、さぁちんが飼っているペットに転生したのだろうか?
 こんなに撫でられるってことは、小動物か何かか?
 そういえば、さぁちんはハムスターを飼ってるってラジオで言ってたな……

 推しのペットに転生するなんて、嬉しすぎるぞ!!

 これだけ可愛がられているのだから、俺も何かしなくては!!
 動かなければ!!

 とりあえず声を出してみようとしたが、俺はきっと生まれたばかりなのだ、声は出なかった。
 じゃぁ、体を動かそうと、手を動かしてみるが、それもなんだか上手くいかない。

 ただただ、さぁちんに触れられたところに軽い電流が走ったようにビクビク反応してしまうだけだ。
 幸せだけど、幸せなんだけど!!

 俺はどうしたらいいんだ!?

 そう思っていると、さぁちんの唇がどんどん近づいてくる。


「ヘイ、Siri……今日の運勢は?」

 ん?

『今日の運勢は、大吉です』

 俺の体から、無機質な女の声がする。

「やった!! 今夜のデートは上手くいきそうね。ヨシ君の番号だけ先に入力しておこう」

 さぁちんは俺をどこかに置いて、ポケットから白いスマホを取り出すと、先ほど俺に触れたような手つきで、画面に触れて何やら探しているようだ。

「えーと、080の……」

 左手の白いスマホの画面を見ながら、右手で俺の顔に触れる。

 この動きは……まさか————


「おっけー! 早速電話しちゃおう! あ、でも先にこの番号私のだって教えないと出てくれないかもー。スマホ2台持ちって、こういうのちょっと面倒ね」


 目の前に、さぁちんの耳がある。

 ————どうやら俺は、推しのスマホに転生したようだ。


「あ、ヨシ君? 私、沙彩さあやだよ? もう、やだ♡ 誰とかひっどぉい♡ 彼女の声忘れたのぉ?」


 それも、彼氏との連絡用のスマホだった。

 何これ、辛い。



『なんだ、新しく買ったのか? もうあのストーカーは死んだんだから、気にしなくてもよかったのに』
「うん、でも、念のため♡ 本当に、ヨシ君ありがとうね、あのストーカークソキモ男……殺してくれて♡」

 あぁ、そうか————


 俺、このヨシ君って男に、殺されたんだった。


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