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何度も(2022.3.16)/ホラー
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「ボクを焼いて欲しいっピー!!」
その鳥は、はっきりとそう言った。
(や、焼いて……え?)
タクミは鳥についてそこまで詳しくはないが、インコやオウムなんかが人間の言葉を真似て話せることぐらいは知っている。
だが……
(フクロウって、話せたっけ?)
その鳥はフクロウだ。
今日やっと、初めてあげてもらったタクミの彼女・ユミの家。
この家に鳥がいるとは聞いていた。
別にタクミは鳥が苦手だとか、そういうことはない。
小さい頃、親戚の家に九官鳥がいたし、怖いとかそういうこともない。
むしろ、飼ってみたいと思っていたくらいだ。
しかし、フクロウが喋るだろうか?
それも、ボクを焼いて欲しい————だなんて……
フクロウは、ユミがキッチンでお茶を入れてくれている間に、緊張しながらソファーの上に座っていたタクミの頭の上にとまって
「ボクを焼いて欲しいっピー!!」
と、また同じように何度も繰り返した。
(いや、まて、仮にフクロウが喋るとして、こんな言葉を覚えさせる必要があるのか? 確かに、ユミさんは少し変わっているところがあるけど……)
ユミはタクミの勤める会社の先輩だ。
ユミの明るく、人を惹きつけるような笑顔と少し天然……というか、変わっている部分はあるが仕事はきっちりこなすギャップにやられ、新人のころから、タクミはずっと片思いをしていた。
やっと付き合えることになったが、まさか喋るフクロウを飼っているとは……
「あー……こら! ダメじゃない、焼き鳥! お客さんの頭の上に乗っちゃ! お行儀が悪いぞ!」
ユミがそういうと、タクミの頭の上のフクロウはバサバサと飛んで部屋の隅にあった止まり木の上に戻っていく。
「ごめんね、タクミくん。びっくりしたでしょ?」
「いえ、その……まぁ……」
(え、今焼き鳥って言った?)
「あの子、焼き鳥っていうんだけどね……」
(な、名前だったんだ)
「人懐っこくて可愛いんだけど、誰彼かまわずにいたずらするから、ちょっと困ってるの」
(あ、かわいい……)
困っていると言いながら、ユミは飼い主としてはやはり焼き鳥は可愛いようで、でれっとした笑みを浮かべていた。
タクミにはそれがグッときてしまって、お茶と灰皿を置いて自分の隣に座ったユミとの距離が近いことにドキドキしてしまう。
初めてのお家デートとはいえ、なんだか今日のユミはいつも以上に距離が近い。
触れてはいないが、左肩に体温を感じ、さらにタクミの心臓の音は激しくなる。
(やばいやばい、めっちゃ緊張してきた! ど、どどどどどうしよう! 何か、何か話さなきゃ……!)
「そ、その、可愛いですけど、フクロウが喋るなんて、珍しいですよね」
「え……?」
ユミはタクミの発言に、急に真顔になった。
「俺、初めて見ましたよ。フクロウが喋るところ……インコとかオウムじゃなくて、フクロウが……————」
「え? タクミくん、何言ってるの?」
「え、ですから、フクロウが……焼き鳥が——……」
「いや、だから、何言ってるの? フクロウが喋るなんて、聞いたことないけど」
(え……?)
「え、もしかして、タクミくんってそういう系? 動物の言葉わかる系?」
そんなわけがない。
だが、ユミはそう信じてしまったようだ。
「なんて言ってるの? え? え? 焼き鳥、なんて言ってるの?」
「あ……えーと、その——……」
ユミは嬉しそうだった。
ペットの話している言葉がわかるなんて、飼い主としては嬉しいことのようで……
「教えてよ! 私の悪口とか……じゃないよね?」
「いえ、そんなことは!!」
きゃっきゃと嬉しそうにしているユミに、タクミはそのまま伝える。
「ボクを焼いて欲しい……って、言ってます」
その瞬間、ユミの表情がまた真顔になった。
むしろ、とても不機嫌そうな顔に変わる。
「は?」
(え、な、なんだ? 俺、何かまずいことでも言ったか……!?)
タクミは焦った。
これまでに見たことないユミの表情。
急に空気が張り詰める。
「タクミくん……どうして、知ってるの?」
「え?」
「なんで、その言葉知ってるの?」
「え?」
(なんだ? どういうことだ……?)
「それ、マサヤくんが最後の日に言った言葉なんだけど……」
「ま、マサヤくん?」
マサヤとは、ユミの前の彼氏だ。
ユミとは同期入社で、去年の夏、火事で命を落としている。
もちろんタクミも、そこまで親しかったわけではないが、喫煙所でなんどか話したこともあり知っている。
火事の原因までタクミは知らないが、放火の可能性は低いし事故ということだったが……————
「誰に聞いたの? どうして知ってるの?」
「ゆ、ユミさん? ちょっと落ち着いて——……」
ユミの反応は異常だった。
普段の明るく、少し天然なところが可愛いユミとは全く違う。
必死の形相で、ユミはタクミに迫る。
「私は……私は悪くないのよ、マサヤくんが言ったの。ボクを焼いてくれって。ボクの体に君の手で消えない跡を残してくれって。愛の証を残してくれって、焼き付けてくれって……私は嫌だって言ったのに、なんども何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も」
(まさか……————)
ユミの顔が怖くて動けないタクミの視界に、フクロウが——止まり木の上から、焼き鳥がじっとこちらを見ている。
「だから焼いてあげたの。どうして、タクミくん知ってるの?」
(やめて……放して…………)
馬乗りなったユミに首を締め付けられ、声が出ないタクミの代わりに、焼き鳥が返事をした。
「ボクを焼いて欲しいっピー!!」
終
その鳥は、はっきりとそう言った。
(や、焼いて……え?)
タクミは鳥についてそこまで詳しくはないが、インコやオウムなんかが人間の言葉を真似て話せることぐらいは知っている。
だが……
(フクロウって、話せたっけ?)
その鳥はフクロウだ。
今日やっと、初めてあげてもらったタクミの彼女・ユミの家。
この家に鳥がいるとは聞いていた。
別にタクミは鳥が苦手だとか、そういうことはない。
小さい頃、親戚の家に九官鳥がいたし、怖いとかそういうこともない。
むしろ、飼ってみたいと思っていたくらいだ。
しかし、フクロウが喋るだろうか?
それも、ボクを焼いて欲しい————だなんて……
フクロウは、ユミがキッチンでお茶を入れてくれている間に、緊張しながらソファーの上に座っていたタクミの頭の上にとまって
「ボクを焼いて欲しいっピー!!」
と、また同じように何度も繰り返した。
(いや、まて、仮にフクロウが喋るとして、こんな言葉を覚えさせる必要があるのか? 確かに、ユミさんは少し変わっているところがあるけど……)
ユミはタクミの勤める会社の先輩だ。
ユミの明るく、人を惹きつけるような笑顔と少し天然……というか、変わっている部分はあるが仕事はきっちりこなすギャップにやられ、新人のころから、タクミはずっと片思いをしていた。
やっと付き合えることになったが、まさか喋るフクロウを飼っているとは……
「あー……こら! ダメじゃない、焼き鳥! お客さんの頭の上に乗っちゃ! お行儀が悪いぞ!」
ユミがそういうと、タクミの頭の上のフクロウはバサバサと飛んで部屋の隅にあった止まり木の上に戻っていく。
「ごめんね、タクミくん。びっくりしたでしょ?」
「いえ、その……まぁ……」
(え、今焼き鳥って言った?)
「あの子、焼き鳥っていうんだけどね……」
(な、名前だったんだ)
「人懐っこくて可愛いんだけど、誰彼かまわずにいたずらするから、ちょっと困ってるの」
(あ、かわいい……)
困っていると言いながら、ユミは飼い主としてはやはり焼き鳥は可愛いようで、でれっとした笑みを浮かべていた。
タクミにはそれがグッときてしまって、お茶と灰皿を置いて自分の隣に座ったユミとの距離が近いことにドキドキしてしまう。
初めてのお家デートとはいえ、なんだか今日のユミはいつも以上に距離が近い。
触れてはいないが、左肩に体温を感じ、さらにタクミの心臓の音は激しくなる。
(やばいやばい、めっちゃ緊張してきた! ど、どどどどどうしよう! 何か、何か話さなきゃ……!)
「そ、その、可愛いですけど、フクロウが喋るなんて、珍しいですよね」
「え……?」
ユミはタクミの発言に、急に真顔になった。
「俺、初めて見ましたよ。フクロウが喋るところ……インコとかオウムじゃなくて、フクロウが……————」
「え? タクミくん、何言ってるの?」
「え、ですから、フクロウが……焼き鳥が——……」
「いや、だから、何言ってるの? フクロウが喋るなんて、聞いたことないけど」
(え……?)
「え、もしかして、タクミくんってそういう系? 動物の言葉わかる系?」
そんなわけがない。
だが、ユミはそう信じてしまったようだ。
「なんて言ってるの? え? え? 焼き鳥、なんて言ってるの?」
「あ……えーと、その——……」
ユミは嬉しそうだった。
ペットの話している言葉がわかるなんて、飼い主としては嬉しいことのようで……
「教えてよ! 私の悪口とか……じゃないよね?」
「いえ、そんなことは!!」
きゃっきゃと嬉しそうにしているユミに、タクミはそのまま伝える。
「ボクを焼いて欲しい……って、言ってます」
その瞬間、ユミの表情がまた真顔になった。
むしろ、とても不機嫌そうな顔に変わる。
「は?」
(え、な、なんだ? 俺、何かまずいことでも言ったか……!?)
タクミは焦った。
これまでに見たことないユミの表情。
急に空気が張り詰める。
「タクミくん……どうして、知ってるの?」
「え?」
「なんで、その言葉知ってるの?」
「え?」
(なんだ? どういうことだ……?)
「それ、マサヤくんが最後の日に言った言葉なんだけど……」
「ま、マサヤくん?」
マサヤとは、ユミの前の彼氏だ。
ユミとは同期入社で、去年の夏、火事で命を落としている。
もちろんタクミも、そこまで親しかったわけではないが、喫煙所でなんどか話したこともあり知っている。
火事の原因までタクミは知らないが、放火の可能性は低いし事故ということだったが……————
「誰に聞いたの? どうして知ってるの?」
「ゆ、ユミさん? ちょっと落ち着いて——……」
ユミの反応は異常だった。
普段の明るく、少し天然なところが可愛いユミとは全く違う。
必死の形相で、ユミはタクミに迫る。
「私は……私は悪くないのよ、マサヤくんが言ったの。ボクを焼いてくれって。ボクの体に君の手で消えない跡を残してくれって。愛の証を残してくれって、焼き付けてくれって……私は嫌だって言ったのに、なんども何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も」
(まさか……————)
ユミの顔が怖くて動けないタクミの視界に、フクロウが——止まり木の上から、焼き鳥がじっとこちらを見ている。
「だから焼いてあげたの。どうして、タクミくん知ってるの?」
(やめて……放して…………)
馬乗りなったユミに首を締め付けられ、声が出ないタクミの代わりに、焼き鳥が返事をした。
「ボクを焼いて欲しいっピー!!」
終
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