短編集(2020~2024)

星来香文子

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未来の話(2022.3.18)/SF

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未来みらい、ごめん、俺、移住することになったんだ」
「え……? 移住って、海外? どのあたり? アメリカ……とか?」

 それは突然のこと。
 4年前の春に入社式で出会った彼と、付き合い始めて3周年記念の日の夜。
 私——香月こうづき未来はてっきり、最近なんだか彼がそわそわしているような、こそこそしている感じがして、そろそろプロポーズされるのかも……なんて思っていた。
 お互いの両親も公認の仲だし、同期の誰よりも優秀な彼との仲は社内でも羨ましがられるほどだったし……
 それがまさか、こんなことになるなんて……

「いや、月だ」
「…………は?」

 彼は突然、月に移住すると言い出した。

「月に移住するんだ。実はずっと黙ってたんだけど、月に移住するプロジェクトのメンバーに選ばれていて……————月に土地を持ってるんだよ」

 私は彼が何を言っているのか、さっぱりわからなかった。
 いや、月の土地を買った……的なロマンあふれる話は聞いたことがあるけど、それが本当に住むためのものだなんて、聞いたことがない。
 だって月だよ?
 それに、月に移住なんて、できるわけがないじゃない。
 それはもっともっと、遠い未来の話でしょ?
 もっともっと、宇宙開発が進んでからの話でしょ?

 そんな時代が来た頃には、私はもうすっかりおばあちゃんになってるか、とっくに死んでる遠い先の未来の話でしょ?

「ずっと隠して来てすまない。実は、月の裏側にはすでに人が住めるように都市計画が進んでいるんだ。宇宙エネルギーを使うから、地球と同じように電気も通ってるし、水もある。移動手段だって、地球よりも重力がかからない分、地球に入りより早く移動できる。もちろん、ネット環境もしっかりしているから、通信の面でも困ることは————」
「ちょ、ちょっと待って!」

 ペラペラと月の裏側の都市について語られても困る。
 私が聞きたいのは、そんな話じゃない。

「えーと、それは何? 要するに、月に移住するから私と別れようって話?」

 ごめんって言われたし、そういう……ことなの?
 私と別れて、月の裏側で自由に暮らしたいって、そういうこと?

「まさか、俺が未来と別れようなんて、そんなわけないだろ?」
「え、じゃぁ、なんで謝ったの?」
「いや、それは単純に、黙ってて悪かったなって……月のこと」

 彼は一度咳払いすると、顔を真っ赤にして、ポケットの中から小さな箱を出して私の前に置いた。

「それで、その……」

 箱の中には、指輪。

「一緒に、月に移住しないか? 地球と別れて、月へ行こう。俺と、一緒に……」


 それは確かにプロポーズだった。
 プロポーズの指輪だった。

 まさか、こんなことになるなんて————



 この次の年の春、私と彼は二人で会社を辞めて、結婚し、地球に別れを告げた。
 彼の言う通り、月の裏側には本当に都市が出来上がっていた。
 ここでは、新しいいくつもの出会いが待っている。

「ところで、月でのあなたの仕事は? 何をするの?」
「あぁ、俺、これのパイロットになったんだ」

 大きな大きな2足歩行のロボットが、新居の格納庫に————

「え、ちょ……何これ、宇宙開発って、ここまで進んでいたの!?」
「ああ、極秘プロジェクトだからさ。地球ではまだ発表されてない。誰にも言わないでくれよ?」

 こんなに嬉しそうに、ニコッと笑う夫の笑顔に私は初めて出会った。
 それはまるで太陽のような眩しい笑顔だった。
 人口の太陽なんかより、私にはずっとずっと、眩しい光————


 終



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