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箱の中に入るバイト(2024.3.8)/ホラー
しおりを挟む「この間さ、変なバイトしてきたんだよね」
「変なバイト……?」
「そう、ほら、よくテレビとかでやってるじゃん? 箱の中に手を入れて、何か当てるゲームみたいな」
「ああ、中にタコとか、ぬいぐるみとか入ってるやつね。見たことあるわ」
「それのね、箱の中に入るバイト」
「……は?」
高田ちゃんは、アイドルというか、グラビアというか、モデルというか……とにかく自分の容姿を売りに少しだけ芸能界をかじっているような子だった。
はっきり言って、顔はそこそこ。
決してブサイクというわけではないけど、美人でもない。
かと言って、可愛いとかでもない。
どこか応援したくなるような、アイドル特有のものも持ち合わせてはいないけれど、それでも事務所から仕事が回ってくるのは、スタイルがいいからだ。
自称Hカップの大きな胸。
水着の仕事が多いのは、そのためだという自覚は本人にもある。
「箱の中に入ったってこと?」
だから、私はてっきり箱の中に入った水着の高田ちゃんを、芸人さんかなんかが手を入れて触り、当てる企画なのだと思った。
でも……
「そう。私はてっきりその話を聞いた時、よくあるじゃない? 箱の中に実は水着の美女が入っていて————みたいなやつかなって。でも、水着にもならなかったのよね。その代わり、白い着物というか、浴衣というか……そういうの着せられてね」
「着物?」
これはまた一風変わった企画だと思った。
着物なんて着たら、高田ちゃんの1番の売りであるHカップの胸が目立たない。
一体どいうことだろう?
「大きな箱に入れられて……箱の中が暗いからよくわからなかったんだけど、テレビの収録らしいから、危険なことはないって事務所に言われてさ。で、撮影してたスタジオが暗くてよく見えなかったんだけど、とにかく、なんというか、人一人が横になって入れるくらいの大きな箱の中に上を向いて寝させられてね、声が出ちゃったら人が入ってるってすぐにバレちゃうから、とにかくどこを触られても絶対に声を出しちゃダメだっていうわけ。目も開けちゃダメだからって、目隠しもされてさ……」
「何それ、怪しすぎない?」
「でしょ? 私も最初は、一体なんなんだろうって思った。私に箱に入るように指示したおじいさんもちょっと怖かったし。でも、あっという間に収録は終わってね、確かに体とか顔とか触られはしたけど、それだけ」
どこか際どいところを触られたとか、揉まれたとかも特になく、ただ少し脚や肩、顔を撫でられた程度だったらしい。
ところが、これまで受けたどのバイトよりも高額な報酬をもらった。
「拘束時間も二時間くらいしかなかったんだけど、100万だよ? 時給50万。すごくない? しかも、現金当日手渡し」
「……いや、何それ、怪しすぎるでしょ!?」
「だから、変なバイトって言ったじゃない」
確かに変なバイトすぎる。
芸能界のことはわからないが、たったそれだけで100万ももらえるなんて……
「それで、その番組の放送が今夜あるんだけど」
「え……? 今夜?」
「そう。全国放送らしいんだけど……私、初めてテレビに出るからさぁ、一緒に見たいなと思って」
「ああ、そういうこと」
おかしいと思った。
久しぶりに連絡が来たと思ったら、家に来て欲しいだなんて。
それも、テーブルの上にはその報酬で買ったのか、デリバリーのピザや酒、お菓子がずらっと並べられていた。
なんのパーティーが始まるのかと思ったけれど、私以外にも何人か声をかけたが、時間が空いていたのは私だけだったそうだ。
「番組の内容は置いておいても、テレビに出たってすごいことじゃん。お祝いすることなんだから、最初から言ってよ。てっきり、また何か変な生き霊にでも取り憑かれたとかいうんじゃないかと思った」
私の祖母は、近所では有名な霊媒師だった。
信者が何人かいて、教祖様なんて呼ばれていたこともある。
学生時代はそのせいで、同級生からいじめにあったこともあるけれど、高田ちゃんは私の祖母の力を信じていた。
私にそんな力はないが、以前、彼女に取り付いていた生き霊を祖母が祓ったのを手伝ったことがあり、そういう奇妙な現象が起こると、よく私に相談してきたものだ。
祖母は去年亡くなってしまったから、もう相談されてもどうしようもないことだけど……
私は高田ちゃんに、祖母が亡くなったことは話していなかったし、実は少しだけ身構えていた。
「それはないよ! お祖母さんにお守りもらってから、私、変な霊現象とかあってないし!」
「それならいいんだけど」
「あ、そろそろ始まる!」
高田ちゃんはテレビの電源を入れる。
始まったのは午後八時になる数分前だった。
笑い声にあふれたバラエティ番組から、急に画面も暗くなって、はじまったのはまさかの心霊番組。
日本全国にある因習の紹介や視聴者投稿の心霊映像を見たり、都市伝説を怪しさたっぷりに芸人さんが話したりするやつだ。
「ねぇ、高田ちゃん、この番組であってるの? 箱の中身はなんだろな~?なんて、やる雰囲気じゃないんだけど」
「そうだよね? 変だなぁ、この時間であってるはずだけど」
高田ちゃんはスマホを確認する。
「ほら、これ、スタッフの人から送られて来たやつ」
確かに、スマホ画面に映し出されているメッセージで放送時間は今日のこの時間のこのチャンネルだ。
でも、番組の雰囲気と、高田ちゃんがやったバイトの内容が結びつかない。
私たちは首を傾げながら、とにかくその番組を見続けることにした。
『続いては、こちら』
司会者が新たなVTRを紹介する。
それは、とある村で執り行われているという怪しい儀式。
棺桶のような大きな箱の中に生きた人間が入り、僧侶らしきおじいさんたちが周りを取り囲み、念仏か呪文かわからないが、何か唱えている。
「……高田ちゃん、これ————」
箱の中には小型のカメラが取り付けられていて、白い着物を着た女の体を映し出していた。
顔にはモザイクがかかっていたが、これは高田ちゃんだ。
「え、何これ……」
高田ちゃんは、この怪しげな儀式で人柱にされていた。
誰も、箱の中に手を入れていない。
誰も、高田ちゃんの体に触っていない。
けれど、高田ちゃんは確かに触られたと言っていた。
「————私、一体何に触られたの?」
高田ちゃんは震えていた。
映像ではわからなかったが、高田ちゃんは確かにあの箱の中で誰かに触られたと思っているのだから、多分、目には見えない何かに触られたのだ。
私はその儀式を行っていたおじいさんの顔に、どこか見覚えがあったが、怖がっている高田ちゃんを余計に怖がらせてしまうような気がして、言えなかった。
確か、祖母を教祖様と呼んでいた一人だ。
それから三日後、高田ちゃんは行方不明になった。
急に姿を消したのだ。
連絡もつかず、家族でさえどこにいるか知らないらしい。
あれから七年。
今も高田ちゃんは見つかっていない。
《終》
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