白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織

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22 帰還

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 冬の風が吹く。首筋がひやっとして、レイナールはぶるぶると身体を震わせた。短く切りそろえた白金の髪は防寒には頼りなく、カールが差し出したストールを、ぐるぐると巻きつけた。

「まだいらっしゃいませんよ。家の中でゆっくり待てばよいではないですか」

 説得されるが、レイナールは首を横に振った。

 帝国へ向かったジョシュアが、五体満足で帰ってくる。

 その知らせが入ったのは、二週間前だった。皇帝への書状を超特急で届けたヴァンが、その脚でそのままこちらに、ジョシュアの無事を伝えてくれた。

 彼が帰ってくる予定の日が、今日だった。何時、とまでは確約できなかったから、レイナールは朝から、食事の時間などを除いて、ずっと玄関先で待っていた。

「あなたに風邪を引かれたら、叱られるのは我々なんですよ!?」
「うん、ごめんね」

 激怒されるのは確定事項だと、事前に謝罪をするレイナールに、カールは絶句した。そんな彼の肩を、ぽん、と叩いて宥めるのはアンディである。彼は温かい飲み物を淹れて持ってきてくれていた。

「もう諦めろ、カール。俺はとっくに、怒鳴られる覚悟はできているぞ」
「アンディ……いや、そんな覚悟しないでください!」

 男らしく笑うアンディにほだされそうになって、カールは我に返り、キャンキャンと吠え始めた。騒がしい背後を一切気にすることなく、レイナールは淹れてもらった飲み物を啜り、まっすぐに道を見据えた。

 早く会いたい。

 ヴァンから知らせは受け取っていても、この目で彼の姿を確認しなければ、心から安心することはできない。

 昼食を食べた後、レイナールは自分の部屋から鉢を持って、再び外に出た。国から持ってきた元々の花はすでに終わっていたが、ジョンに頼んで鉢を増やした。彼が戻ってきたときに、真っ先に見てもらいたかった。

 冬の太陽は沈むのが早い。おやつの時間だぞ、とアンディが呼びに来たときには高かった日が、その二時間後にはもう落ちていた。

 夕日が地平線に沈み、もうすぐ夜になる。

 本当に、今日帰ってくるのだろうか。まさか、なんらかの予期せぬ出来事によって、帰宅が困難になっているのではないか。

 日が落ちるにつれて、気温も下がっていく。冷え冷えとする空気に、いつしかレイナールの背中は丸まっていく。

 地面に目を落としているときに、遠くから馬の足音が聞こえた気がした。

 ハッとして顔を上げ、鉢は邪魔だと隣に置いた。そして、門扉から飛び出したレイナールを、交代で見守ってくれていたカールが呼び止めようとする。制止されても、止まれなかった。

 音は次第に大きくなってくる。この時間に訪れる客はいない。この家に馬車が来るとすれば、それは。

「ジョシュア様!」

 飛び出しかけたレイナールを、カールがすんでのところで手を引いて止める。危ないでしょう何考えてるんですか、と説教を始めようとしたカールも、動きを止めた。

 馬車から降りてきた影に、レイナールは抱きついた。どんな勢いで突っ込んでいっても、彼だから絶対に受け止めてくれる。

「レイナール……!」

 ようやく近くで見ることができたジョシュアは、急いで帰還したことで顔に疲労感は滲み出ていたが、抱き締めた身体は変わらずに逞しい。

 安堵の溜息をつくレイナールに、ジョシュアもまた、無事に屋敷に帰ってこられたことを喜んでいると思いきや、彼は困惑した声を上げた。

「レイナール。お前、いったいどんな魔法を使ったんだ?」

 死地に赴いたはずが、無事に帰され、それどころかきっと、ジョシュアは皇帝からあれこれと貢ぎ物をもらってきている。一緒に行った兵士がひとり着いてきて、御者と一緒に馬車の中からいくつもの箱を取り出している。

 レイナールは悪戯っぽく微笑んで、ジョシュアの手を取り、屋敷の中へと誘導した。

「その話は、夕食を食べながらにしませんか?」

 息を吐き出したジョシュアは、突如空腹を覚えたかのように押し黙り、「ああ、そうしよう」と、応えた。

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