王子様エイリアンと天パの私

葉咲透織

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帰りたくない宇宙人

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 代休明けの火曜日、登校すると、空気が少し変わっていた。

 初日と同じように、女子たちがオウジのことを囲む。私は影みたいなものなので引っ込んでいると、千鶴がちょんちょんと服の袖を引っ張ってきた。

「おはよう、七星ちゃん」
「あ、おはよう、千鶴」

 向こうからあいさつをしてくれたのは久しぶりで、「おはよう」が「おあよう」になりそうだったのをごまかして笑う。

「もう体調はいいの?」
「うん。元気だよ~。昨日、病院に行ってきたんだ」
「ああ、運動会のときの?」

 こくりとうなづいて、彼女は家族全員で健康的なダイエットに励むことになったのだと笑った。

「お父さんもお母さんも、昔より十五キロ増えたから、それをゆっくり戻すんだって。私も、中学生になるまでに標準体重まで落とせたら、いいんだって」

 彼女の頬はふっくらと赤みが戻っていて、安心する。

「ところで、この熱烈歓迎っぷりはなにごと?」

 運動会までは無視したり嫌みを言ってきたり、とても好意的ではない対応をしていた女子たちが、オウジにはしゃいで話しかけている。その目には、恋心にも見える情熱を宿している子もいる様子で。

 千鶴は照れたように微笑み、

「それがね……」

 と、話し始めた。

 千鶴をお姫様抱っこしたインパクトは、女子に刺さった。漫画にアニメ、ドラマでしか見たことがなく、実際に同じ小学生男子が照れもなくできるなんて思わなかったのだ。

 加えて、オウジのあの美貌である。金髪碧眼の王子様が、女の子を抱っこしているのは、たいそう絵になった。

 生徒だけではなく、見ていた保護者も「あれは誰?」と、噂で持ちきりだったそうだ。

 無視してきたけれど、みんなの注目の的であるオウジとは、やっぱりつながりを持っておきたい。あわよくば、自分もお姫様抱っこを……ということらしい。

 まあ、理由はなんであれ、オウジが受け入れられて嬉しい。男子はまだ面白くなさそうな顔をしているけれど。

 私はそんな女子の輪に入らずに、ふてくされている琴音をちらっと見た。あれだけ派手な言い合いをしたんだから、謝罪されるまでは当たり前だけど、許せるはずもない。

 それでもオウジのことが気になるのか、ちらちらとうかがっている。

「オウジ。ちょっと」

 私は世話係特権を使って、人だかりからオウジを救出する。そのまま琴音のところに連れて行って、昨日さんざん一緒に考えた言葉を伝えるように、背中を叩いた。

 オウジはゆっくりと頭を下げる。四十五度、一、二、三で止めて、四、五で戻す。お手本みたいなおじぎに、琴音は目を白黒させた。

 彼女が疑問を挟む前に、オウジは言葉を発する。いつも翻訳機が訳す時間のため、また自分の中の言葉を総動員するために、ゆっくりとしゃべる彼が、今日はやや早口だ。

「僕は、コトネの感情が顔に出る素直なところがうらやましいと思っている。おしゃべりが上手なのも、僕とは全然ちがう。どうやったらあんな風におしゃべりができるのか、知りたい」
「でも、この間の言い方は、悪かった。だから謝る。ごめん」

 さっきまできゃあきゃあしていた女子たちも黙って見守っていた。琴音がどんな返事をするのか、これまでどおりに無視を続けるのか。オウジへの仲間はずれを続行するとしたら、自分たちはついていくのかどうか、みんながそれぞれに考えをめぐらせている。

 琴音は、「ふんっ」と鼻息を荒くした。一回で許してもらおうなんて、虫がよすぎるよね。また日を変えてアタックしようと思っていた矢先、彼女は腕を組み、

「仕方ないわね!」

 と、胸を張った。

「S77星人ってみんな、オウジみたいなの? だとしたら、あんたひとりだけおしゃべりになったら、帰ったときに困らない? それでもいいならおしゃべり、いくらでも付き合ってあげる」

 こちらは普段から早口なのだが、輪をかけて口が回っている。そっぽを向いて唇をとがらせるその様は、素直ではない。

 思わず笑いそうになったけれど、オウジが謝るべき相手は、もうひとりいる。

 琴音の前からさっとどいた彼は、颯太のもとへ。そしてさっきの再放送のお辞儀。

「な、なんだよ。オレはあいつとはちがうから、許したりなんて……」
「ソウタの身のこなしは、誰よりも素晴らしい。サル、というのは褒め言葉のつもりだったんだ。ごめん。僕は体が硬いから、柔らかくする方法を教えてくれないか」

 謝罪の言葉は、オウジ自身で頭を振り絞って、ああでもないこうでもないと紙に書いて(S77星の文字だったので、私には読めなかった)考えたものだった。

 まあ、「教えてほしい」と下手に出るとガキ大将は弱いってことを教えたのは、私だけどね。

 颯太は案の定、鼻を高くした。

「オレのことを師匠と呼ぶなら、教えてやってもいいぞ」
「シショー」

 男子と女子のリーダーを落としてしまえば、こちらの勝ちだ。教室にやってきた桜井先生が、オウジが来る前の教室の雰囲気にすっかり戻っていることに、目を丸くしている。

「シショー」
「なんだよオウジ」

 王子様に師匠って呼ばれるのは悪くないな、と笑う颯太に、オウジはあくまでも無表情。尊敬の念はまったく込められていないのに、言葉だけでも従わせているのが気持ちいいんだろうなあ。

「シショーもナナセに謝った方がいい」
「は? なんでオレが七星に……」
「あっ、そうだよ! ずーっと七星の髪のこととか、家族と血がつながってないとか、ひどいことばっかり言ってたじゃん!」

 琴音の援護射撃に、私は彼女の顔をじっと見つめた。へへ、と照れ笑いする彼女は、すっかり私の親友に戻っている。

「まぁ! 猿渡くん! 本当にそんなこと言ったの!?」

 先生のいる場所では、せいぜいが天パをからかう程度だったので、拾われっ子だというからかいについては初耳だった桜井先生が、目をつり上げた。

「素直になるのはいいことだぞ。漫画では、この年の男は好きな子に意地悪をするものだとかいてあった」

 お兄ちゃんは星オタクだけど、普通にマンガも好きなオタクだ。オウジにとっては地球人のサンプルになるそうで、昨日は一日中読んでいた。

 オウジは日本語を読む必要があるときは、眼鏡をかける。もちろん、翻訳機能つきだ。すると、口下手が寡黙さにつながって、途端に秀才に見えてくる。

 まぁ読んでいたのがシュールなギャグマンガで、「これはどういう意味だ」と聞かれたのは困った。

 恋愛モノならお母さんの持っているマンガかもしれないけど、オウジ、いつの間に……。
 
「え? マジ? 颯太ってそうなん?」
「ちっげーし!」
「ちがうよ! 颯太はただのお隣さんだし、なんなら最近はほんと、ひどいことばっかり言ってくるから大嫌いだし!」
 おっと、うっかり本音が漏れた。大嫌いはちょっと強すぎたかな。さすがの颯太もショックを受けている。でも、全部悪いのはこいつである。

「謝れば、普通の幼なじみには昇格させてもいいけど」
「ほら、ナナセもこう言っている」

 どちらが師匠なのかわからない態度のオウジに促されて、颯太は渋々私に「ごめん。言い過ぎた」と、謝ってくれた。それを皮切りに、みんなもこれまで無視してきたことについて頭を下げる。

 私とオウジも、頭を下げた。

「私がもっと、オウジのこと、S77のことを知ってたら、こんな風にはならなかったから」

 最終的には先生まで、

「先生も、天ノ川さんに頼りっぱなしでごめんなさい。雰囲気がよくないのもわかっていたのに、何もできなくて……」

 おっとりした先生が泣きながら言うので、クラス全員がちょっとだけ涙目になったのだった。

 オウジは相変わらず、涼しい顔をしていたけれど。




 クラスの雰囲気もよくなってきたし、あとは宇宙船が直るまでの間、仲良くやっていこうという話になった。

 そう、オウジとはずっと一緒にはいられないのだ。

「お父さん」

 日曜日の朝、目が覚めたときにはすでにオウジは出かけていた。昴や北斗兄たちに聞いても、どこに行ったのかは知らないらしい。

 オウジが来てから、あんまりまともにお休みがとれていなかったお父さんは、今日一日は完全な休みだという。ボサボサの頭のまま、ぼんやりしているお父さんに、私はあとどのくらいで修理が終わるのかを聞いた。

 お父さんは首を傾げ、指を折り、

「お父さんは専門じゃないからわからないが……東京から来てくれているエンジニアは、順調にいって、あと二週間くらいだと言っていたよ」
「二週間!?」

 思ったよりも早くに修理が終わってしまいそうで、驚きの声をあげた。たまたま麦茶を飲みに自室から出てきた北斗兄が、「そう! 日本の宇宙開発ベンチャーは優秀なんだ!」となぜか自慢してきた。無視した。

 オウジがS77星に帰ってしまったら、もう二度と会えない。転校とはわけがちがう。スマホで連絡を取り合うことも、古風に文通することもできない。何光年も離れた星だ。

「七星」
「はい」

 お父さんのまなざしはあたたかくも真剣だ。寝ぐせがついているのが台無しだけど。

「オウジくんの話を、聞いてあげなさい」
「お父さん」
「あの子はたぶん、私たちには何も話してくれないから」
 
 オウジが家出して、たまたま事故に遭って銀河山に墜落したことを、お父さんも知っている。このまま家に帰しても、また彼は家を飛び出してしまうかもしれない。

 お父さんもお母さんも、四人目の子どもみたいな存在のオウジを、心配している。
 
 私は重大な使命を与えられたのだと、息を飲む。

 でも、

「なにせ、母星での生活や宇宙船での旅やその他もろもろ、オタク丸出しで根掘り葉掘り聞いて、うんざりされているからなあ」

 なんて、明るく言うもんだから、脱力した。

 とにかく、オウジを探しに行くことにして、私は自転車に乗って出かける。

 しかし、オウジがひとりで出かける先なんて、見当もつかなかった。学校と家との往復が主で、外、とりわけ市外に出るのは、宇宙人がここにいるって公開していない以上、許可が出るわけもなく。

「うーん」

 公園や商店街など、事情をある程度知っている人たちがいる場所を見て回るも、オウジの姿はない。顔見知りに尋ねても、みんな首を横に振った。

 途中で琴音に会ったから、オウジがいたら知らせてほしいと頼んだ。別にそこまでは言っていないのに、「任せといてよ。あたしのコネを使えば、あの目立つオウジの行方なんて、一発よ、一発!」と請け負った。

 最終的に帰ってくるのは我が家なんだから、そこまではしなくていい……と言ったが、聞いてもらえなかった。

「七星」

 自転車を押して歩いていると、声をかけられた。振り向くと颯太が、自転車に乗っていた。

「颯太。オウジのこと、見なかった?」
「いや、見てねぇけど……」

 その後の沈黙。琴音ほどじゃないけど、颯太もかなりおしゃべりだ。なのに、今日は黙っている。口をもごもごさせて、何かを言い出したくて言い出せないでいる、そんな感じ。

「あのさ、七星。こないだあいつが言ってたことなんだけど……」
「七星ーっ! オウジがどこ行ったかわかったよー!」

 まごつく颯太よりも大きな声で走ってきた琴音が叫び、遮った。スマホじゃなくて直接伝えにくるとは思っていなかった。なぜかその後ろで、千鶴もぜえはあと肩で息をしながら走っている。どうやらダイエット実践中に、琴音に捕まったらしい。

「銀河山行くの見たって、千鶴が」
「ほんと?」

 千鶴に確認するも、彼女は喋ることができる状況になかった。持っていたペットボトルを渡した。

「ありがとう、琴音、千鶴。それじゃあ私……」
「あたしたちも行く!」

 行ってくるね、にかぶせて琴音は宣言した。しかも、「あたし」じゃなくて「あたしたち」ときたもんだ。

「でも」
「山にはひとりで入っちゃいけないでしょ?」

 中腹の天文台までは、アスファルトで舗装された道である。それでも一応、山には変わらないから、小学生は中学生以上の保護者抜きでの登山を禁止されている。頂上までは、山道らしい道が続いているからだ。

 小学校五年生が団子になったところで、中学生以上にはならない。私はダッシュで自転車を駆り、一度帰宅。

「お兄ちゃん! 山行くからついてきて!」

 と、有無を言わさずに北斗兄を巻き込んだ。

 昼間はインドア派(夜は天体観測のためにアウトドア派)のお兄ちゃんは、すごく嫌そうな顔をしたけれど、「オウジが山にいるらしいから、一緒に探しに行くの!」と小声で言えば、一も二もなくついてきてくれた。

 天文台勤務のお父さんに声をかけなかったのは、お仕事で疲れているのもあったし、ひとりで山に入ったオウジが叱られるから。

 お兄ちゃんと私、琴音と千鶴、それからなぜかそのまま帰ろうとしなかった颯太の総勢五名によるオウジ捜索隊は、銀河山を天文台に向かって上っていく。

 天文台にいなかったらどうしよう。頂上に行くには、この装備だとやや心許ない。虫除けもないし、水分も足りない。ドキドキと心臓が痛いのは、上り坂のせいか、それとも不安のせいか。

「なあ、そういやあいつの宇宙船って、この山ん中にあるんだよな?」

 颯太の言葉にハッとする。

 対外的にはただの隕石ということになっているため、宇宙船を立派な施設に動かして修理することができない。だから、大きなビニールシートでなんとなく隠して、山の中でそのまま機械いじりをしている。

「お兄ちゃん、場所わかるよね?」

 宇宙工学に興味がある兄は、父親が関係者という特権をおおいに利用して、現場を何度も見学していた。

「ああ、こっちだ」

 天文台に続く舗装道路から少し外れて、土の道を歩く。

「天文台からはそんなに離れてないんだ」

 息が上がりつつも、お兄ちゃんは速度をゆるめない。なんとなく嫌な予感がしているのは、一緒に過ごした時間が、琴音たちよりも長いからだろうか。どうしてそんなに慌てているのかわからないという表情だが、彼女らは口を挟まず、ついてきてくれる。

 そして、彼はそこにいた。

「オウジ!」

 大きな石を持って。いや、岩と言ってもいいサイズだ。

「……ナナセ」

 振り向く彼の目は、不安の色でいっぱいだった。少なくとも、私とお兄ちゃんには、そう見えた。

 オウジは、自分の行動を見とがめられてやけになることはなかった。岩から手を離した瞬間、下は地面だというのに、ズドン! という音がしたから、あの馬鹿力でどれだけ重い岩を持ち上げていたのか、と驚く。

 あんな重いものを投げつけたら、いくら高性能なS77製の宇宙船だって、壊れてしまう。

「オウジくん、どうして」
 千鶴の声はショックで震えていた。彼女の目には、オウジは「気は優しくて力持ち」に見えていたのだと思う。倒れたときに、真っ先に駆け寄って助けてくれた人が、ありとあらゆる人の協力で復旧しつつある宇宙船をわざと壊すなど、信じたくなかったのだろう。

 私は、千鶴とはちがってなんとなく理由を察していた。これまでの生活で、一番彼と言葉を交わしてきたのは私だ。

 そこから推測できることは。

「ねぇ、オウジ。帰りたくないの?」

 オウジは無言だった。放った岩をじっと見つめている。こぶしはぎゅっと握られている。その中にあるのは、なんだろう。

 後悔、不安、それから恐怖?

 私は何も言わないのが答えだと勝手に受け取って、話を続ける。

「オウジさ……家出、してきたんだよね?」

 兄以外の全員が振り返った。私の問いかけは、疑問じゃなく、断定だ。

 オウジはいったん目を閉じて、それから観念したように開いた。緑色は山の新緑の色を映して、より深いものになっている。

 オウジは重々しく、口を開いた。

「そうだ。僕は、家出をした」

 その後、彼にしては珍しく、なめらかに話を始めた。ずっと考えていたのだろう。私たちに告白するタイミング、何をどう話せば伝わるのか。

「僕が星では珍しい存在だというのは、話しただろう」
「そりゃあお前みたいなやつが何人もいてたまるかよ」

 ぼそっと茶々を入れた颯太を、無言で琴音が肘鉄で黙らせた。おしゃべりな琴音は、空気はちゃんと読めている。読めない颯太が悪いと、優しい千鶴にすらにらまれていた。

 お兄ちゃんは何も知らない颯太たちに、S77星人の生態について簡単に説明する。光合成で生きているから、髪は植物と同じで緑色をしているのが普通なのだと言うと、「へー」と感心していた。

 「え、でもオウジの髪、緑じゃねぇじゃん」

 兄に補足するかたちで、オウジ自身も自分について語る。

「僕はチキュウでは普通みたいだけど、光合成ができない僕ら変異体は、星では弱い。すぐに寝込むし、ずっと栄養失調状態だ」

 オウジのように、緑の色素を持たないS77星人は一万人にひとりくらいの割合で生まれるらしい。私の天パは遺伝だけど、オウジの金髪ストレートは、突然変異。

 つまり、おじいちゃんおばあちゃん、ずーっとその前を遡って緑の髪じゃない人がいなくても、突然生まれる可能性があるってこと。

「家族には、迷惑をかけている」
 
 光合成ができないということは、栄養を食べ物で摂るしかないってことだ。ほとんどの人が食事を必要としないS77星で、満足いく食事を用意することは、難しい。

 私はオウジが毎日、お母さんのつくる食事をおいしそうに、何度もおかわりをするくらい食べるのを思い出した。

「そんな……だって、体質なんでしょう? オウジくんが悪いんじゃないわ」

 千鶴の優しさに、オウジはちらり、彼女の方を見た。緑色の流し目に、千鶴はぽっと頬を染めて下を向く。颯太がからかいそうなものだが、さすがに一度、琴音に責められているものだから、おとなしく話を聞くに徹していた。

「あの日」

 話は本題に入る。

 宇宙船が墜落した日(と言っていいのかわからない。何せS77星はとっても離れているし、時間の流れが同じなのかどうかも知らない)、オウジは両親が話しているのを聞いてしまった。

『あなた。アレを、早くどうにかしないと』
『ああ、そうだな……何かが起きてからじゃ、遅いからな』

 と。

 日頃から、自分の扱いに苦労しているのを知っていたオウジは思った。

「アレ、というのは僕のことだ。家族は僕のことが邪魔なんだ。だから、捨てるか殺すかして……」
「そんなわけないでしょ!?」

 黙っていられなくなった。

 自分たちとちがうから、捨てる? そんなこと、ありえない。

 オウジは面倒だなって感じることもいまだにあるけれど、早く始末しなくちゃなんて思わせるような危険人物じゃない。

「ナナセ。でも」
「じゃあオウジは、私が天パだからうちの家族から捨てられても当たり前だって思うの?」

 彼はハッとする。そういうことなのだ。彼が家族の中で異質ならば、私だって同じ。でも、お父さんもお母さんも、北斗兄も昴も、私のことを家族として受け止めてくれる。照れずに言うなら、愛してくれている。

「確かに、この日本だって親に愛されない子どもだっているし、いろんなことでこじれている家族はある。でも、オウジの親がそうだとは限らないでしょ? こういうときのために、言葉があるんじゃないの?」

 私とオウジは、翻訳機を通じて話をしている。彼の言葉は率直すぎて、逆に伝わらないことも多い。それでも会話を重ねるうちに、理解することができるようになった。心がつながるようになった。

 同じ言葉を使う家族となら、わかり合うことができるはず。

 いまいち反応が鈍い様子のオウジに、私のイライラも募っていく。ひとまず終止符を打ったのは、北斗兄だった。

「とりあえずみんな、帰ろう。宇宙船の修理が完全に終わるまで、また考えよう。直っても、しばらく理由をつけてうちにいればいいじゃないか」

 と。

「お兄ちゃん。勝手に……」
「父さんなら、そう言うだろ」

 まぁ、それはそう。

 私はオウジに手を差し出した。仲直りの握手のつもりだ。

「帰ろ」
「……ああ」

 ためらいがちに伸ばされた手は、だが、しっかりと力強く、私の手を握りしめた。



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