隣人の美少女は、オレの嫌いな俳優だった

百山緑風

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18.熱と熱02

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 確かこういう感じだった。大人の映像と雑誌と、漫画や映画のラブシーンで見た記憶をかき集めながら、康平は遊利の口の中を荒らしていた。特別広くもないソファに横になった遊利へ乗りかかるような体制のまま。
 唇を割って合わせて、並んだ小振りな歯列を舐めれば、合わせた隙間から熱の籠った息が漏れる。やや柔い下唇を食むようにすれば鼻にかかった声が響いて、舌を絡めると互いに腰がぶつかった。
 遊利が上手く受け止めきれなかった唾液は、しみもくすみもない遊利の頬を伝ってソファに零れて染みを作っている。それでも、徐々にそれらしく手荒くなっていくキスの止め方を康平は知らなかった。
「ふッ、ん……あ」
 角度を変えようと康平が口を離すと、離れた口の合間から混ざり合った唾液がまた零れていく。キラキラと光る軌跡を残した唾液が遊利を汚すのが気にかかり、康平は来ていた服の袖で静かに頬を拭った。
 涼し気だった面影のない、潤んだ瞳の遊利はその仕草にも甘えるようの頬を寄せて、康平が何度も吸ったせいですっかり色付いた唇から温かい息を漏らしてくる。すりすりと手に甘えるように頬を擦らせた遊利は、酷く可愛かった。想像の彼女よりも、よっぽど。
 ゆるゆるの半開きになっている遊利の口元へ、気が付けば吸い寄せられる。もう一度軽く空いた口同士を合わせてから、康平は窮屈さを増した腰をもぞもぞと動かした。
「なんか、その。お前、下平気かよ」
 正直に言えば、もう押さえ付けられた股間が痛いくらいだ。ズボンを脱ぐタイミングを計るのは難しかったし、ソファに倒れ込んでからというもの、遊利の足がずっと康平の片脚を挟んで離れてくれない。ぎゅっと挟み込んでは絡みついて、擦りつけてこられていて、前を寛げる余裕も持てないでいた。
「した……下着? 分かんない、だめかも」
「オレも窮屈……脱いでイイか?」
「うん」
 身体を起こして、康平がなんとか自分のズボンのファスナーを下ろすと、下着をハッキリと押し上げた自分の屹立がグレーのパンツに染みを作っているのがよく見えた。むわりと熱を持った雄が、気分以上の興奮を訴えている。
 それは仕方がない。だって、思ってた数倍遊利は甘いし、触れてみるともっと知りたくなったから。切れ長な目が緩んだ姿になるのが見たくなるし、幼げな表情と気配がそのまま色を持ってぐずぐずに溶かしたくなる。こんなに華やかで、涼しい顔立ちなのに、こんなのでいいのかと不安にもなるくらい。
 下着越しに外気に触れる雄は、うっかり触れば暴発でもしてしまいそうだ。自慢じゃないが康平の屹立は、それなりに質量がある。人並みくらいの成績と顔だが、そこだけは平均少し上の自信を持っていた。
「お前も……あー、脱いどく?」
 流石に付き合って初日に挿入はスマートじゃないだろうか。自分の完全に勃ちあがっている雄から意識を逸らしつつ遊利の方を見れば、酔っ払いのような表情だった遊利が、白い顔を真っ赤にしていた。
「……なんでお前がそんな真っ赤になってんだよ、脱いでイイか聞いたじゃねえか」
「うん……えっと、なんか。ちょっと、想像よりあの、刺激があったんだもん」
 急に、セックス手前のことをしている自覚が湧いたのかもしれない。
 キスをしはじめたころに康平が乗り越えた羞恥心に、後から追い付かれたらしい遊利の澄ました顔に、康平はくつくつと悪い笑い声を抑えず漏らした。
 よく見れば遊利のズボンも皴がすっかり伸びていて、苦しいのは同じだったのだろう。
「もういいだろ、お前も脱いじゃえ」
「ぅ……。あんまり、人の裸って見たこと、ないなって」
「マジか。温泉とか銭湯どうすんだ」
「行ったこと、ない……」
「修学旅行とか」
「行ってない……」
「……じゃあ、たこ焼きの次の予定は銭湯にすっか」
「ええ、怒られないかなあ」
「一緒に怒られてやるって」
「う、ンっ! ぁ、ふあ」
 丸めた腰の中央で膨らんでいる遊利の中心を手で撫でてやると、落ち着いたトーンの声色が急に高くなった。緩んでいた足がまたぎゅうっと閉じて、康平の足を挟む。突き出された腰と、仰け反って晒される喉仏が余りにもオーバーで、康平の雄がまた少し下着の色を濃くした。
「……お前、結構ちんこ弱いな?」
「分かんな、い……」
 きゅっと、まなじりに涙を溜めた遊利が、もどかし気に康平の腰を掴んだ。熱の溜まった目付きの奥で、快楽が出口を探している。
「あんまりしねえの? 自分で」
 ん、と喉を鳴らす音だけで遊利が頷く。脱ごうとしているらしい遊利の片手は、頑張ってズボンのファスナーを探っているが、膨らんだ熱の所為で上手く掴めず下ろせずにいたらしい。ずうっと自分で甘い愛撫を繰り返しているようなものだ。
 黒い瞳は康平に助けを求めているようで、大人びた涼しい顔に浮かぶ稚気がアンバランスすぎて不健全に見えてくる。成人した大人同士で思うことではないというのに。
 ごくりと唾を飲んで、康平はゆっくりと遊利の手からファスナーを奪うと、膨らんだ黒いスラックスを脱がせた。
 シンプルな黒い下着の中で、遊利の雄はもうすっかり硬く膨らんでいて、その熱を吐き出してくれる時を待っていた。先走りが布越しに康平の指へ絡みつく。
「は、はぁ……つめたい」
「先走りめっちゃ出てるからだろ」
「へん?」
「いや、まあ、別に」
 康平だって、人のことはあまり言えない。このまま二人で収まるのを待つのは、あんまり現実的ではないだろう。当然のことだが、そんな気分にはなれない。
 男で挿入するには準備がいるという知識だけはある。インターネットのSNSでそんな風俗があるのを見たことがあるから。でもその具体的な手法は分からない。でも、お互いこの熱を吐き出さないと、朝までキスをしても終わらない気がする。
 なにより、康平は今、遊利の絶頂く顔が見たかった。
「取り合えず、触るぞ」
「え? ひぇっ、あ、ううう……」
 ずるん、と遊利の黒い下着を脱がせると、康平よりも小振りな遊利の雄がまろび出た。少し皮を被ってはいるが、今は先端が大分出ている。ピンと勃った雄は熱を持っていて、康平に見られることにも震えていた。
 同じように自分の下着もずり下ろした康平は、そのままぶるんと出てきた自分の雄で、遊利の雄の先端を撫でた。
 お互いの白い先走りがぬちゅりと淫猥な音を立てて、ずるずると滑る。
「ンッ、うぅあ……ッ」
「サイズ、オレの勝ち」
「あ、康平く、待って、ア、はぁッ、う、ぅン」
 遊利の足が、康平を引き寄せるように力を籠めた。そうなると康平の身体は少し前に倒れ込んで、先端が合わさっただけの二人の雄がぬちゃりと滑る。すりすり、ぬちゃぬちゃと雄の先っぽがまるでキスするように掠めては、幹を触れ合わせるものだから。
 遊利の口からは静止よりも、喘ぎの方が零れた。
「ちんこ同士のキス好きな感じ?」
「や、ちがっ。ふぁ、あ」
 一際熱くなった身体の中心同士が、触れては擦れて離れて、また掠めて近付く。もどかしい熱と熱のぶつかり合いをどうしていいのか分からないのだろう。遊利の腰は、引いてはまた近付いて、康平を誘う。
 普通なら、触ってしごいてそれで良いだろうに。遊利は康平の服の端を掴んで、投げ出した自分のズボンを握ったまま混乱したようにじっと康平の雄を見詰めていた。甘く開いて、掠れた嬌声を零している口からは、短くて真っ赤な舌をちらちらと覗かせている。
「感度はお前の勝ちだわ」
 ぺちり、ぬちりと微かな刺激ばかりを与えられていて、康平ももう限界だった。早く掴んで、しごいて、快楽を追い掛けながら出したくて仕方がない。
 本音を言えば、へこへこと本能のように腰を動かしている遊利の腰を掴んで挿入してもみたい。それは後々の楽しみにしなくては。
 頭の中に浮かぶ欲求を必死に押さえながら、康平はおもむろに、遊利のぴんと勃った控え目な雄に自分の屹立を添えると、二本の竿に絡んだ先走りを交わらせるように擦りつけた。遊利の腰がまた跳ねる。
「ズボン掴んでる手、貸せ」
「はふ、うん……」
 近くにあった遊利の手を膝でつつくと、ズボンをぎゅっと握っていた遊利の長く細い指がほどけた。左手で体重を支えつつ、右手でそれを誘導して、康平は二人の片手ずつで擦り合わせた雄を包んだ。
「オレの手に合わせて、手でも腰でも動かせ」
「ぇ? あ、ンっ、あ! ふぁッあ」
 ぬちゅり、と音を立てながら、康平は右手を動かした。遊利の雄の裏側を撫でながら、自分の幹を擦らせる。皮を押さえて、窪みを押して、遊利の雄の付け根に先端を擦らせて、音を立てた。その動きに合わせようとしているのか、それとも勝手に動くのか、遊利は必死に手を動かして、戸惑う腰を揺らしていた。
 セックスというには物足りないが、不慣れな二人の一歩目には、十分すぎる。
「んっ、ぁ、はぁ……ぁっ、ッん」
「はは、思ってたより気持ち、イイかも」
 くちゅくちゅと音を立て始めた二人の雄をしごきながら、康平はふわふわした目付きのまま喘ぐ遊利をじっと見た。生意気そうで自信のありそうだった目を細めて、康平の動きだけに集中している遊利の顔は、艶っぽい。白い喉を曝け出して、雑誌に写る佐々原遊利の面影を忘れたような遊利のことは、康平しか知らないのだろう。
 普通の恋人。
「ゆうり」
 奇妙な満足感と、倒錯感と、じんわりと胸に湧き上がる愛着に突き動かされて、康平は甘ったるく遊利の名前を呼びながら、開いたままの口をゆっくりと唇で塞いだ。鼻は一瞬だけ掠めて、きちんと、唇同士が隙間を埋めて重なる。
 ぴったりと、隙間なく。
「ン、ぅ……――ッ!!!」
「ゥ、ッ――」
 びくん、と康平を掴む遊利の手が跳ねて、腰が跳ねて、吐き出した熱がお互いの腹へぶちまけられた。それに合わせるように、康平の中に溜まりに溜まった熱も射精ていって、ねっとりとした体液が二人を汚した。
 咥内で、息が混じって、一瞬だけ一つの生き物のように感じられる。無限のようで、一瞬の重なりだった。
 唇を離すのが、寂しい。
 けれど、身体から一度出てしまった熱はどんどんと冷え込んでいくものだから。たっぷりと余韻を感じてから、康平はゆっくりと遊利の上から身体を退けた。
「……だいじょぶ?」
「う、ん……」
 まだどこかぼうっと天井を見詰める遊利の顔を覗き込んでから、康平はちらりと下半身のありさまを見て頭を抱えた。
 ソファもズボンも下着もシャツも、自慢のガラステーブルも酷い有様だ。
「……シャワー先浴びっか」
「動くのやだ……」
 天井から、康平へ視線を戻した遊利が、甘えるように両手で縋り付いてくる。
 どっちが出した精液かも分からない精液に汚れた手は不愉快だったが、康平も動くのが億劫なのは同じだったので。
 はあ、と事後のような熱い息を吐いて、康平はそのまま遊利の身体を抱きしめた。
「諸々、明日でいっか」
 どうせ、明日からも康平は遊利の恋人だから。
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