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序章
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八月某日、陽光が傾き日没が尾を引く、夏の名残りが潮の匂いを運んでくる時刻。
全身をびしょ濡れにした人影がひとつ、古びた海道の陽炎を背に歩いてくる。
蒸せる気圧が膨らみ、ぬめりつく手足が雫を垂らす。顔の見えない黒い影は進んでいった。
壁周りを補修したばかりの警察署、その一室で武藤巡査は出頭した男と対面していた。
「…で、君は渡舟島(とぶねじま)から何キロも泳いで渡り、ここまで歩いてきたというわけですか。」
巡査の目の前に座る少年はTシャツに作業ズボンという肉体労働の作業員の格好をしていた。
沈めた顔を見る限りでは、歳は十代半ばほどであろうか。
この少年はおよそ人が遠泳できるとは思えない内海の孤島から身一つで渡ってきたというのだ。
武藤巡査は顔に浮かんだ露のような汗をハンカチで拭った。彼の供述は感情的に怒鳴るでもなく、また悲壮感に訴えるでもない。ただ無表情に淡々と事の顛末を話すのみだった。
「君が言っていることが本当だとすると、それは大変な事件なんですよ。」
少年の態度からは真実味が感じられなかった。しかし彼の話はいたずらでは片付けられない事件性を含んでいる。武藤巡査はその相反する思いから感情的に問いかけた。
「あなたは島で起きた事件を告発するためにここまで来たんでしょう。よければ最初から詳しく聞かせてもらえませんか?」
張り付いたように一点を見つめていた少年の目がピクッと動いた。夢から覚めたように少年の表情に意志が戻ってくる。やがて彼は詳細に話し始めた。後悔の嗚咽を喉から絞り出すように。
それは治外法権と化した陸の孤島で催される、欲望と悪徳の宴であった。話は二か月前、夏の初めに遡る。
全身をびしょ濡れにした人影がひとつ、古びた海道の陽炎を背に歩いてくる。
蒸せる気圧が膨らみ、ぬめりつく手足が雫を垂らす。顔の見えない黒い影は進んでいった。
壁周りを補修したばかりの警察署、その一室で武藤巡査は出頭した男と対面していた。
「…で、君は渡舟島(とぶねじま)から何キロも泳いで渡り、ここまで歩いてきたというわけですか。」
巡査の目の前に座る少年はTシャツに作業ズボンという肉体労働の作業員の格好をしていた。
沈めた顔を見る限りでは、歳は十代半ばほどであろうか。
この少年はおよそ人が遠泳できるとは思えない内海の孤島から身一つで渡ってきたというのだ。
武藤巡査は顔に浮かんだ露のような汗をハンカチで拭った。彼の供述は感情的に怒鳴るでもなく、また悲壮感に訴えるでもない。ただ無表情に淡々と事の顛末を話すのみだった。
「君が言っていることが本当だとすると、それは大変な事件なんですよ。」
少年の態度からは真実味が感じられなかった。しかし彼の話はいたずらでは片付けられない事件性を含んでいる。武藤巡査はその相反する思いから感情的に問いかけた。
「あなたは島で起きた事件を告発するためにここまで来たんでしょう。よければ最初から詳しく聞かせてもらえませんか?」
張り付いたように一点を見つめていた少年の目がピクッと動いた。夢から覚めたように少年の表情に意志が戻ってくる。やがて彼は詳細に話し始めた。後悔の嗚咽を喉から絞り出すように。
それは治外法権と化した陸の孤島で催される、欲望と悪徳の宴であった。話は二か月前、夏の初めに遡る。
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