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第11部
第一章 お持てなしをしよう!①
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週末の《土轟》の日。
騎士学校も、午前中で終わる陽気な昼下がり。
アティス王国・王都ラズンの南端部。
クライン工房の前にて、いま二機の鎧機兵が対峙していた。
だが、対峙すると言っても、二機の立場は対等ではない。
一機は完全武装の騎士型。
長剣に、小さいながらも腕に装着型の丸盾まで備えた機体だ。
機体名を《ホルン》と言った。
純白の装甲が美しい鎧機兵である。
もう一機は、非武装の業務型だった。
武器や防具はもちろん、操手を守る上半身を覆う胸部装甲すらない。
まるでお椀のような体に、両腕、両足。そして太い竜尾が生えた鎧機兵だ。
名を《朱天》と言う。《ホルン》とは反対に、漆黒の機体だった。
実に対照的な二機。当然ながら出力も違った。
戦闘用である《ホルン》の出力――恒力値は三千五百ジン。この国においては、ほぼ平均的な恒力値だ。一方、業務用である《朱天》の恒力値は千ジン程度。両機の間には実に三倍以上の差がある。
しかし、
「ほら。隙があるぞ」
《朱天》が足を出して、軽く《ホルン》の右足を払う。
途端、《ホルン》は重心を崩してしまった。『うわ、うわ!』と少女の声が響く。前のめりに《ホルン》が傾く。
「ほら。動揺ばかりすんな。すぐに立て直さねえと」
優しい声を掛けられるが、それに反して《朱天》は《ホルン》の右腕を掴み、力のかかる向きへと加速させた。純白の機体はその場で反転した。
気付けば《ホルン》は無防備な背中を《朱天》に向けていた。
『せ、先生! 待って!』
と、《ホルン》から少女の声が響くが、《朱天》を操る青年はふっと笑い、
「ダメだ。模擬戦だぞ。敵が待ってくれると思うなよ」
言って、《朱天》がそっと《ホルン》の背中に掌を当てた。
そして――。
『ひやああああああああああああッ!?』
少女の悲鳴が工房前で響くのだった。
数分後。
クライン工房内の一階作業場にて、四人の少年少女達が集まっていた。
全員が、中央に赤の太いラインを引いた橙色の騎士服――アティス王国騎士学校の制服を着ている。十七歳の学生達だ。
彼らは、作業机付近に置いてあったパイプ椅子を各々取り出して座っていた。
「あはは、見事なまでに負けたわね」
そう言って笑うのは、絹糸のような長い栗色の髪を持つ少女。
切れ長の蒼い瞳に、美麗な顔立ち。スレンダーな肢体も相まって研ぎ澄まされた剣のような美しさを持つ、実に綺麗な少女だった。
アリシア=エイシス。
四人のリーダー格である。
「まあ、仕方があるまい」
と、彼女に続くのは両腕を組んだ大柄な少年。
無骨な性格と、短く刈った若草色の髪が特徴的な少年――ロック=ハルトだ。
「相手は師匠だ。力量差を考えれば当然だろう」
「いや、けどよ。師匠は全武装まで剥いでたんだぜ?」
と、ロックにもの申すのは小柄な少年だ。
これまた、ロックとは正反対で、あらゆる意味で軽薄な性格が特徴的な、ブラウンの髪を持つ少年――エドワード=オニキスである。
「いくらなんでも、流石にそれは情けねえだろ」
「……ううゥ」
と、呻くのは残された一人。
先程まで《ホルン》に乗って模擬戦をしていた少女――サーシャ=フラムだ
温和な顔立ちに、優しさを宿す琥珀の瞳。肩まで伸ばした《星神》のハーフの証である綺麗な銀の髪。さらには年齢離れしたプロポーション。
美しさを挙げれば暇もないほどの美少女だ。しかも今は暑さのため、愛用のブレストプレートもヘルムも脱いでいるため、より色香が滲み出ている。
「まあ、言わないであげてよ。オニキス」
自分には出せない幼馴染の色っぽさに、アリシアは苦笑を浮かべつつ、
「サーシャが、アッシュさんと、あまり模擬戦をしたがらない理由ってそれだし。流石に業務用に一蹴される辛さは分からないわよ」
「……いや、何気に俺もエドも、それを経験したことがあるんだが……」
「……あれは、いま思い出しても青ざめるよな」
と、ロックとエドワードが、ポツポツと呟く。
そこへ、
「ん? どうしたお前ら」
四人の内、三人を落ち込ませる当人が現れた。
歳の頃は二十代前半。細身ながらも鍛え上げた体躯に、毛先のみがわずかに黒い、雪のような真っ白な髪を持つ青年。
アッシュ=クライン。
サーシャの鎧機兵の師であり、クライン工房の主人でもある青年だ。
その証に、彼は職人が愛用する白いつなぎを着ていた。
「ほら。メットさん」
言って、アッシュは手に持っていたボトルを弟子に渡した。
サーシャは両手でそれを受け取る。
「ありがとうございます。先生」
「おう」アッシュも近くのパイプ椅子を手に取って、サーシャの前に座った。「けど、今日の模擬戦は頂けねえな。オトが見てたら激怒するぞ」
「……う」
もう一人の師の名を挙げられ、サーシャは言葉を詰まらせた。
確かにその通りだ。ぐうの音も出ない。それほどまでに、先程の模擬戦は情けないものだった。どんな時でも優しいアッシュと違い、指導に関しては鬼のように厳しい彼女に知られれば問答無用で補習ものである。
「鎧機兵ってのは、思考の兵器なんだ」
アッシュは言う。
「手足の延長じゃねえ。自分の分身だと思うことがコツだ。恒力は血流と思え。人工筋肉の力みと脱力。それらを鮮明に思い浮かべるんだ。自分の体を把握する。それができるから鎧機兵で強えェ奴は対人戦でも強いんだよ」
と、一気呵成に告げてから、
「……とは言ってもなぁ」
あごに手をやった。
「メットさんは対人戦だと意外なぐらい強いからな。けど、オトと違って、自分の動きを完璧に把握しているからって訳じゃなさそうだ。単純に身体能力が凄えんだろうな。だから、それに頼りすぎている感も……うん。そうだな」
アッシュは、サーシャに目をやった。
「せ、先生……?」
愛しい人に間近で見つめられて、サーシャは少しドキドキした。
いつもながら、彼の黒い瞳を見ていると、心が吸い込まれるような気持ちになる。
しかし、アッシュは、そんな少女の心情を知る由もない。
ただ、神妙な顔をして。
「こいつは提案なんだが、どうだ? メットさん。しばらく鎧機兵の指導は止めて、対人戦の指導の方に専念してみねえか?」
「――え?」
パチクリ、と目を瞬かせるサーシャ。
アリシア達も、とても興味深そうに二人のやり取りを見ていた。
アッシュは言葉を続ける。
「思えば、対人戦の指導の方はしてこなかったしな。一度、メットさんの体をじっくり観察してみてえんだ」
「私の体を観察っ!?」
「おう。何か分かるかも知んねえしな。けど、安心してくれ。出来るだけ優しく丁寧に教えるつもりだ。まあ、手取り足取りぐらいにはな」
「て、手取り足取りでありますかっ!」
サーシャの顔が、ボッと赤くなる。
脳裏に浮かぶのは、どこか暗い部屋だ。
そこには、誰もいない。
二人だけの世界だ。
『綺麗だぞ。サーシャ』
ベッドに腰をかける彼が言った。
彼に望まれ、生まれたままの姿となった彼女が恥じらっていると、青年に手を取られた。
ベッドの上に倒れ込む。次の瞬間には、唇に柔らかな感触があった。青年の体重が乗しかかる。長い長い口付け。舌まで絡んできて背筋がゾクゾクする。が、
『……ア、アッシュ』
不意に唇が離れて、サーシャは名残惜しそうに彼の名を呼んだ。すると、青年は彼女の太腿、すなわち両足を手に取ると、ゆっくりと左右に広げて――。
『……サーシャ。覚悟はいいか?』
彼女は恥ずかしさで答えられない。
けれど、口元を押さえて視線を逸らしつつも、こくんと頷いた。
『ん。いい子だ』
そうして二人は――……。
ボンっ、とサーシャの頭が爆発した。
「ひゃっ!? ひゃあああああああああッ!?」
「へ? メ、メットさん!? なんでいきなり叫ぶんだ!?」
弟子の奇行に、流石に腰が引けるアッシュ。
サーシャは、ハッとした様子で正気に返った。
「い、いえ。気にしないでください。その……」
そこで深呼吸。
「そ、そのコースで、お願いします」
「お、おう。いや、コースって何だ?」
アッシュが首を傾げる。と、
「――アッシュさん!」
いきなりアリシアが手を上げて立ち上がった。
あまりの勢いに、パイプ椅子がガシャンと倒れた。
「そ、それ! そのコース! 私もいいですか!」
と、自分の淑やかな胸に、片手を当ててアッシュに詰め寄る。
「ちゃんと授業料も払いますから!」
「お、おう。そんなら別に構わねえが……」
アリシアの勢いにも、アッシュは気圧される。
一方、アリシアは、密かにグッと拳を固めていた。
そして、彼女の脳裏では……。
はあ、はあ、はあ……。
どこか暗い部屋。彼女の荒い息遣いだけが響く。
『どうだ? 少しは慣れてきたか? アリシア』
『は、はい、だけど』
うつ伏せに倒れていた彼女は、彼に手を取られると、上体を起こされた。
しかし、全身には玉のような汗。ぐったりとして力が入らない。
青年は彼女を前から抱きかかえると、長い髪を梳かすように撫でた。
『やっぱ、まだしんどいか? こりゃあ体力面が課題だな。となると……うん。一度お前の体力の限界がどれぐらいなのか試してみっか』
『……え?』
パチクリ、と蒼い瞳を瞬かせるアリシア。
すると、彼はまるで逃がさないように両足を取って固定した。
『――や、ま、待って! アッシュさん!』
『ダメだ。覚悟しろ。加減はしねえ。今日は徹底的にいくからな』
アリシアは、言葉もなかった。
「~~~~~~っっ」
それは、現実世界でも同じだった。
両頬を押さえてくねくねと揺れるアリシア。
「ア、アリシア?」
アッシュとしては、少女の奇行をひたすら心配していたが。
何気に、妄想がサーシャよりも、ちょっと進んでいるアリシアである。
ただ、アリシアにしろ、サーシャにしろ、とある旅行を経た結果、妄想レベルがかなり上がっていた。今までは『流石にこんなことはないか』と控えていたが、この可能性は大いにあり得ると確信してしまったゆえの、妄想力の飛躍である。
ちなみに同じ飛躍は、旅行に参加した女性陣全員に起こっていたりする。
それはともかく。
「へえ。なら俺も――」
「「お前は辞退しろ」」
まったく空気が読まないエドワードを少女達は一蹴する。
ロックは空気を読んで沈黙していた。
空気を詳細に読みすぎて、内心では相当落ち込んでいたが。
と、その時だった。
「アッシュ。みんな」
不意に声が掛けられる。
全員が声の方に注目した。
そこには、一人の少女がいた。
年齢は十四歳。空色の髪と翡翠の瞳。人形を思わせるほどの美麗な顔つきの少女。
華奢な肢体には、アッシュと同じ白いつなぎを纏っている。
ユーリィ=エマリア。
言うまでもない、アッシュの愛娘である。
ユーリィは、告げる。
「オルタナが来たの」
「オルタナが?」
アッシュがユーリィの肩に目をやった。
そこには確かに銀色の鳥。オルタナの姿があった。
ただ、ユーリィの肩に乗るオルタナは、
「……オノオノガタ、シュツジンデ、ゴザル!」
訳の分からない台詞を宣っていたが。
騎士学校も、午前中で終わる陽気な昼下がり。
アティス王国・王都ラズンの南端部。
クライン工房の前にて、いま二機の鎧機兵が対峙していた。
だが、対峙すると言っても、二機の立場は対等ではない。
一機は完全武装の騎士型。
長剣に、小さいながらも腕に装着型の丸盾まで備えた機体だ。
機体名を《ホルン》と言った。
純白の装甲が美しい鎧機兵である。
もう一機は、非武装の業務型だった。
武器や防具はもちろん、操手を守る上半身を覆う胸部装甲すらない。
まるでお椀のような体に、両腕、両足。そして太い竜尾が生えた鎧機兵だ。
名を《朱天》と言う。《ホルン》とは反対に、漆黒の機体だった。
実に対照的な二機。当然ながら出力も違った。
戦闘用である《ホルン》の出力――恒力値は三千五百ジン。この国においては、ほぼ平均的な恒力値だ。一方、業務用である《朱天》の恒力値は千ジン程度。両機の間には実に三倍以上の差がある。
しかし、
「ほら。隙があるぞ」
《朱天》が足を出して、軽く《ホルン》の右足を払う。
途端、《ホルン》は重心を崩してしまった。『うわ、うわ!』と少女の声が響く。前のめりに《ホルン》が傾く。
「ほら。動揺ばかりすんな。すぐに立て直さねえと」
優しい声を掛けられるが、それに反して《朱天》は《ホルン》の右腕を掴み、力のかかる向きへと加速させた。純白の機体はその場で反転した。
気付けば《ホルン》は無防備な背中を《朱天》に向けていた。
『せ、先生! 待って!』
と、《ホルン》から少女の声が響くが、《朱天》を操る青年はふっと笑い、
「ダメだ。模擬戦だぞ。敵が待ってくれると思うなよ」
言って、《朱天》がそっと《ホルン》の背中に掌を当てた。
そして――。
『ひやああああああああああああッ!?』
少女の悲鳴が工房前で響くのだった。
数分後。
クライン工房内の一階作業場にて、四人の少年少女達が集まっていた。
全員が、中央に赤の太いラインを引いた橙色の騎士服――アティス王国騎士学校の制服を着ている。十七歳の学生達だ。
彼らは、作業机付近に置いてあったパイプ椅子を各々取り出して座っていた。
「あはは、見事なまでに負けたわね」
そう言って笑うのは、絹糸のような長い栗色の髪を持つ少女。
切れ長の蒼い瞳に、美麗な顔立ち。スレンダーな肢体も相まって研ぎ澄まされた剣のような美しさを持つ、実に綺麗な少女だった。
アリシア=エイシス。
四人のリーダー格である。
「まあ、仕方があるまい」
と、彼女に続くのは両腕を組んだ大柄な少年。
無骨な性格と、短く刈った若草色の髪が特徴的な少年――ロック=ハルトだ。
「相手は師匠だ。力量差を考えれば当然だろう」
「いや、けどよ。師匠は全武装まで剥いでたんだぜ?」
と、ロックにもの申すのは小柄な少年だ。
これまた、ロックとは正反対で、あらゆる意味で軽薄な性格が特徴的な、ブラウンの髪を持つ少年――エドワード=オニキスである。
「いくらなんでも、流石にそれは情けねえだろ」
「……ううゥ」
と、呻くのは残された一人。
先程まで《ホルン》に乗って模擬戦をしていた少女――サーシャ=フラムだ
温和な顔立ちに、優しさを宿す琥珀の瞳。肩まで伸ばした《星神》のハーフの証である綺麗な銀の髪。さらには年齢離れしたプロポーション。
美しさを挙げれば暇もないほどの美少女だ。しかも今は暑さのため、愛用のブレストプレートもヘルムも脱いでいるため、より色香が滲み出ている。
「まあ、言わないであげてよ。オニキス」
自分には出せない幼馴染の色っぽさに、アリシアは苦笑を浮かべつつ、
「サーシャが、アッシュさんと、あまり模擬戦をしたがらない理由ってそれだし。流石に業務用に一蹴される辛さは分からないわよ」
「……いや、何気に俺もエドも、それを経験したことがあるんだが……」
「……あれは、いま思い出しても青ざめるよな」
と、ロックとエドワードが、ポツポツと呟く。
そこへ、
「ん? どうしたお前ら」
四人の内、三人を落ち込ませる当人が現れた。
歳の頃は二十代前半。細身ながらも鍛え上げた体躯に、毛先のみがわずかに黒い、雪のような真っ白な髪を持つ青年。
アッシュ=クライン。
サーシャの鎧機兵の師であり、クライン工房の主人でもある青年だ。
その証に、彼は職人が愛用する白いつなぎを着ていた。
「ほら。メットさん」
言って、アッシュは手に持っていたボトルを弟子に渡した。
サーシャは両手でそれを受け取る。
「ありがとうございます。先生」
「おう」アッシュも近くのパイプ椅子を手に取って、サーシャの前に座った。「けど、今日の模擬戦は頂けねえな。オトが見てたら激怒するぞ」
「……う」
もう一人の師の名を挙げられ、サーシャは言葉を詰まらせた。
確かにその通りだ。ぐうの音も出ない。それほどまでに、先程の模擬戦は情けないものだった。どんな時でも優しいアッシュと違い、指導に関しては鬼のように厳しい彼女に知られれば問答無用で補習ものである。
「鎧機兵ってのは、思考の兵器なんだ」
アッシュは言う。
「手足の延長じゃねえ。自分の分身だと思うことがコツだ。恒力は血流と思え。人工筋肉の力みと脱力。それらを鮮明に思い浮かべるんだ。自分の体を把握する。それができるから鎧機兵で強えェ奴は対人戦でも強いんだよ」
と、一気呵成に告げてから、
「……とは言ってもなぁ」
あごに手をやった。
「メットさんは対人戦だと意外なぐらい強いからな。けど、オトと違って、自分の動きを完璧に把握しているからって訳じゃなさそうだ。単純に身体能力が凄えんだろうな。だから、それに頼りすぎている感も……うん。そうだな」
アッシュは、サーシャに目をやった。
「せ、先生……?」
愛しい人に間近で見つめられて、サーシャは少しドキドキした。
いつもながら、彼の黒い瞳を見ていると、心が吸い込まれるような気持ちになる。
しかし、アッシュは、そんな少女の心情を知る由もない。
ただ、神妙な顔をして。
「こいつは提案なんだが、どうだ? メットさん。しばらく鎧機兵の指導は止めて、対人戦の指導の方に専念してみねえか?」
「――え?」
パチクリ、と目を瞬かせるサーシャ。
アリシア達も、とても興味深そうに二人のやり取りを見ていた。
アッシュは言葉を続ける。
「思えば、対人戦の指導の方はしてこなかったしな。一度、メットさんの体をじっくり観察してみてえんだ」
「私の体を観察っ!?」
「おう。何か分かるかも知んねえしな。けど、安心してくれ。出来るだけ優しく丁寧に教えるつもりだ。まあ、手取り足取りぐらいにはな」
「て、手取り足取りでありますかっ!」
サーシャの顔が、ボッと赤くなる。
脳裏に浮かぶのは、どこか暗い部屋だ。
そこには、誰もいない。
二人だけの世界だ。
『綺麗だぞ。サーシャ』
ベッドに腰をかける彼が言った。
彼に望まれ、生まれたままの姿となった彼女が恥じらっていると、青年に手を取られた。
ベッドの上に倒れ込む。次の瞬間には、唇に柔らかな感触があった。青年の体重が乗しかかる。長い長い口付け。舌まで絡んできて背筋がゾクゾクする。が、
『……ア、アッシュ』
不意に唇が離れて、サーシャは名残惜しそうに彼の名を呼んだ。すると、青年は彼女の太腿、すなわち両足を手に取ると、ゆっくりと左右に広げて――。
『……サーシャ。覚悟はいいか?』
彼女は恥ずかしさで答えられない。
けれど、口元を押さえて視線を逸らしつつも、こくんと頷いた。
『ん。いい子だ』
そうして二人は――……。
ボンっ、とサーシャの頭が爆発した。
「ひゃっ!? ひゃあああああああああッ!?」
「へ? メ、メットさん!? なんでいきなり叫ぶんだ!?」
弟子の奇行に、流石に腰が引けるアッシュ。
サーシャは、ハッとした様子で正気に返った。
「い、いえ。気にしないでください。その……」
そこで深呼吸。
「そ、そのコースで、お願いします」
「お、おう。いや、コースって何だ?」
アッシュが首を傾げる。と、
「――アッシュさん!」
いきなりアリシアが手を上げて立ち上がった。
あまりの勢いに、パイプ椅子がガシャンと倒れた。
「そ、それ! そのコース! 私もいいですか!」
と、自分の淑やかな胸に、片手を当ててアッシュに詰め寄る。
「ちゃんと授業料も払いますから!」
「お、おう。そんなら別に構わねえが……」
アリシアの勢いにも、アッシュは気圧される。
一方、アリシアは、密かにグッと拳を固めていた。
そして、彼女の脳裏では……。
はあ、はあ、はあ……。
どこか暗い部屋。彼女の荒い息遣いだけが響く。
『どうだ? 少しは慣れてきたか? アリシア』
『は、はい、だけど』
うつ伏せに倒れていた彼女は、彼に手を取られると、上体を起こされた。
しかし、全身には玉のような汗。ぐったりとして力が入らない。
青年は彼女を前から抱きかかえると、長い髪を梳かすように撫でた。
『やっぱ、まだしんどいか? こりゃあ体力面が課題だな。となると……うん。一度お前の体力の限界がどれぐらいなのか試してみっか』
『……え?』
パチクリ、と蒼い瞳を瞬かせるアリシア。
すると、彼はまるで逃がさないように両足を取って固定した。
『――や、ま、待って! アッシュさん!』
『ダメだ。覚悟しろ。加減はしねえ。今日は徹底的にいくからな』
アリシアは、言葉もなかった。
「~~~~~~っっ」
それは、現実世界でも同じだった。
両頬を押さえてくねくねと揺れるアリシア。
「ア、アリシア?」
アッシュとしては、少女の奇行をひたすら心配していたが。
何気に、妄想がサーシャよりも、ちょっと進んでいるアリシアである。
ただ、アリシアにしろ、サーシャにしろ、とある旅行を経た結果、妄想レベルがかなり上がっていた。今までは『流石にこんなことはないか』と控えていたが、この可能性は大いにあり得ると確信してしまったゆえの、妄想力の飛躍である。
ちなみに同じ飛躍は、旅行に参加した女性陣全員に起こっていたりする。
それはともかく。
「へえ。なら俺も――」
「「お前は辞退しろ」」
まったく空気が読まないエドワードを少女達は一蹴する。
ロックは空気を読んで沈黙していた。
空気を詳細に読みすぎて、内心では相当落ち込んでいたが。
と、その時だった。
「アッシュ。みんな」
不意に声が掛けられる。
全員が声の方に注目した。
そこには、一人の少女がいた。
年齢は十四歳。空色の髪と翡翠の瞳。人形を思わせるほどの美麗な顔つきの少女。
華奢な肢体には、アッシュと同じ白いつなぎを纏っている。
ユーリィ=エマリア。
言うまでもない、アッシュの愛娘である。
ユーリィは、告げる。
「オルタナが来たの」
「オルタナが?」
アッシュがユーリィの肩に目をやった。
そこには確かに銀色の鳥。オルタナの姿があった。
ただ、ユーリィの肩に乗るオルタナは、
「……オノオノガタ、シュツジンデ、ゴザル!」
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