クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第11部

幕間二 兄と弟

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 ――メキッと。
 嫌な音が響いた。


「に、兄さん……」


 七歳になる弟は、恐る恐る兄の方に振り向いた。
 そこには、八歳年上の少年がいた。
 少年は、ボリボリと頭をかいている。


「やっちまったな。ボロい機体だかんな。筋を痛めたか」

「こ、壊れたかな?」


 弟が不安そうに尋ねる。
 兄は弟が扱う胸部装甲のない農作業用の鎧機兵に近づき、目をやった。
 年季の入った機体。鍬を持つ右腕が少し脱力している。


「少し右腕の位置が不自然だな。けど、骨格まで異常はねえだろ」


 兄はあごに手をやった。


「タツ爺に頼めば直してくれるさ」

「そ、そっかあ……」


 弟は、ホッとした表情を見せた。
 村にある鎧機兵の修理を一手に引き受けてくれるタツ爺なら、きっと大丈夫だ。


「うん。後で頼みに行くよ」


 弟が言う。
 いま二人は、家の近くで鎧機兵の訓練をしていた。
 とは言え、戦闘訓練ではない。鍬を振る動作を憶える訓練だ。
 弟も七歳。体力的はまだ農作業はキツいが、鎧機兵を扱うことなら、そろそろ憶えてもいい年齢だった。子供も貴重な労働力なのは、どの農村でも変わらなかった。


「けど、これで三度目だな」

「……う」


 兄の呟きに、弟は呻いた。


「どうもお前は、鍬を振る動作が早すぎんだよ。まるで剣でも振ってるみてえだ」

「……だって」弟は気まずげに呟いた。「チャンバラ好きだし」

「……ははっ」


 自身も経験のある台詞に、兄は苦笑した。


「そりゃあ仕方がねえか。けど、罰は罰だ」

「……う」


 再び呻く弟。


「今日の晩飯はシチューだったよな。今日は人参食えよな」

「うう……人参は苦手だよ」


 弟は、肩を落として三度呻いた。
 甘すぎる感じがしてどうにも苦手なのだ。


「今日はいつもみてえに代わりに食ってやらねえからな。頑張れよ」

「ううゥ……兄さァん」


 人参相手に絶望感さえ漂わせる弟に、兄は肩を竦めた。


「ダメだ。これを機会にいい加減克服しろ。とは言え……」


 兄は、幼い弟を機体から降ろした。
 そして、弟の頭をガシガシとかきむしる。


「鎧機兵の扱い方は大分上手くなってきたぞ。あと一歩ぐらいだな」

「……うん。ありがとう兄さん」


 弟は、素直に頷いた。


「今日の訓練は終わりだ。迎えが来てんぞ。早く行ってやれ」


 言って、兄は家の方に親指を向けた。
 そこには、彼らの家に隠れるように三人の少女がいた。
 弟の幼馴染達だ。


「あ、来てたんだ」


 弟は早足で駆け出す。が、一旦振り返り、


「行ってきます! トウヤ兄さん!」

「おう。あんま遅くなるなよ。コウタ」


 兄――トウヤが手を振ると、弟――コウタは手を振り替えし、少女達の元へ行った。
 四人は仲良く並んで歩き出す。
 本当に楽しげな雰囲気だ。
 トウヤは、そんな弟の背中を見つめて。


「いやあ、それにしてもあいつ、凄えェモテてんなァ……」

「……何を言っているの? あなたは?」


 トウヤの呟きに、ツッコミを入れる者がいた。
 トウヤの婚約者にして、幼馴染でもあるサクヤだ。
 彼女もまた、家の近くでコウタの訓練が終わるのを待っていたようだ。
 ただし、待っていたのは、コウタではなくトウヤの方だが。
 サクヤはトウヤの傍に近付くと、ジト目で告げた。


「トウヤがそれを言うの?」

「ん? 何でだ? なんで俺が言っちゃいけないんだ?」


 トウヤは、首を傾げた。
 まるで自分のことを分かっていない。
 サクヤとしては、溜息しか出てこなかった。


「まあ、いいけど。だけどコウちゃんって……」


 サクヤは、トウヤに腕を絡めつつ呟いた。


「本当に凄いよね。鎧機兵は思考による道具だけど、機体が壊れるってコウちゃんの思考に機体がついて行けてないんでしょう?」

「ああ、その通りだ」


 トウヤは、頷く。
 機体が、操手の思考速度に追いつけない。
 いくら古い機体だからといっても、これは凄いことだった。


「兄バカかも知んねえが、あいつには凄え才能があるよ。もしかすっと、村を飛び出して皇都辺りで騎士になるかもな」


 何も、生涯をこの小さな村で暮らさなくてもいい。
 コウタには自由な道を歩んで欲しい。トウヤはそう思っていた。
 騎士に憧れるのならそれもいい。
 広い世界で、自分の才覚を色々と試すのも自由だ。
 きっと、どの道を選んでも、コウタを大きく成長させてくれる。


「そんなあいつが、どんな嫁さんを連れてくるのかは興味深いが……」


 トウヤは、目を細くした。
 そして二カッと笑う。


「それ以上に、あいつがどんな男に成長するのかは、本当に楽しみだよ」


 遙か遠い未来。
 それを思い描いて、今は楽しげに微笑むトウヤであった。
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