クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
346 / 499
第11部

第七章 真なる《悪竜》④

しおりを挟む
(本当に強いな)


 オトハは、心から感心していた。
 アッシュの弟。
 コウタ=ヒラサカ。
《九妖星》との戦闘実績を持つという少年。
 並みの実力ではないと思っていたが、これほどとは――。
 あの《悪竜》がごとき機体の性能も合わせて、想像を超えるものだった。


(だがな、コウタ少年)


 オトハは、ふっと笑う。


(私を女にした男は、君の兄の力はその程度ではないぞ)


 この戦闘は、想いを伝える戦いだ。
 あの少年が、今日までずっと培ってきたもの。
 そのすべてを、兄に伝えるための――。


(不器用な兄弟だな)


 オトハは微笑む。
 容姿はあまり似ていないのに、本質はとてもよく似ている。
 何となくだが、あの少年もとんでもなくモテるのだろうな、と思った。


(まあ、それはいいか)


 彼女は、瞳を細める。
 そして――。


「今は存分に戦え。二人とも」


 オトハは、再び微笑んだ。


       ◆


 ――剛拳が唸る。
 悪竜の騎士は咄嗟に処刑刀の腹で受け止めるが、威力を殺せない。
 剣を軋ませて吹き飛び、両足で地面を削った。


『……ぐうッ!』


 零れ落ちる少年の呻き声。
 悪竜の騎士は、すぐさま体勢を整えようとする――が、


『――逃がさねえ!』


 アッシュは、そこまで甘くない。
《朱天》は掌底を繰り出した。
 同時に撃ち出される恒力の塊――《穿風》は、悪竜の騎士の装甲を打ち付けた。
 全身の炎を激しく揺らして、吹き飛ばされる悪竜の騎士。
 この好機に、《朱天》は《雷歩》で加速。
 一瞬で追いつくと、横殴りの拳を繰り出した。
 ――ズドンッ!
 重い拳が直撃。だが、それは処刑刀に、だ。
 悪竜の騎士は吹き飛ばされた不利な体勢であっても、防御を間に合わせてみせたのだ。
 だが、芯をぶち抜く威力は凄まじい。
 今度は横に大きく吹き飛ばされた悪竜の騎士は、どうにか空中で反転、両足で着地すると火線を引き、左手も地に突き立ててようやく威力を抑え込んだ。


『どうした?』


 ――ズシン、と。
《朱天》が、竜尾を揺らして歩み寄ってくる。


『少しバテて来たか?』


 そう告げるアッシュの声には、疲れの色は一切ない。


『……相変わらず』


 一方、若干息を切らせた少年が言う。


『全然バテないんですね。昔から思ってたけど、本当に凄いや』

『まあ、俺も色々あって、今も鍛えてるからな』


 アッシュは、ふっと笑う。
 その台詞にオトハが「いや、少しぐらいはバテろ。体力バカめ」と、少し頬を染めて呟いているが、アッシュにまでは聞こえない。


『そうですか。けど』


 少年は言葉を続ける。


『ボクも、このまま負けるつもりはありませんので』


 そう宣言するなり、悪竜の騎士は地を駆けた!
 ――いや、地を滑走した。
《天架》を使用したのだ。音もなく滑走する悪竜の騎士は、瞬時に《朱天》との間合いを詰めた。が、すでに《朱天》はカウンターの拳を固めている。


『――ふッ!』


 だが、その事自体は、少年も読んでいたのだろう。
 小さな呼気を吐き出すと、悪竜の騎士は地面を強く蹴り付けた。
 途端、雷音が轟く。
 ――《雷歩》を《朱天》の目の前で使用したのである。
 地面がひび割れ、土煙が二機の影を覆い尽くす。簡易の煙幕だ。


(何をする気だ)


 すぐさま体勢を整え直して、アッシュが眼光を鋭くする。
 唐突の煙幕。
 考えられるのは逃走か、不意打ちだ。
 だが、恐らくそんな真似はしない。
 この煙幕は、何かの準備――すなわち、切り札を使うための目眩ましと見た。
 アッシュは最大級の警戒をし、《朱天》の両拳に恒力を収束させた。
 そして――。


『アッシュ=クラインさん』


 土煙が徐々に晴れると共に少年が、告げる。


『これが、今のボクの切り札です』


 ――ズシン、と。
 悪竜の騎士が、姿を現わす。
 その姿を見て、アッシュは目を瞠った。
 悪竜の騎士の全身からは、炎が消えていた。
 ただ、その代わりに。
 竜頭の籠手を持つ右腕が、赤く、赤く染まっていたのだ。
 周辺の景色さえ歪める、その真紅の光は、まさか――。


(――《朱焰》だとッ!?)


 過剰な恒力による機体の高熱化。
 片腕だけという違いはあるが、《朱天》の切り札と同じ発光現象だった。
 悪竜の騎士は、ゆらりと右腕を掲げた。


(――ッ!)


 アッシュの背筋に悪寒が走る。
 主人の危機感に、《朱天》は瞬時に応えた。
 悪竜の騎士に近い左腕を突き出した。
 迎え撃つのは《十盾裂破》。十枚の盾を連続で叩きつける構築系闘技だ。
 その威力は《穿風》の比ではない。
 ひと度放てば、皇国の上級騎士の機体さえ容易く圧壊する威力だ。
 自身の闘技の中でも最強に次ぐ技。それを繰り出した。
 ――だが。



『――《残影虚心・顎門あぎと》』



 技の発動と同時に、少年は、厳かにその闘技の名を呟いた。
 そして、まるで空間を軋ませるような音が響く。
 ――ギイイイイイイイイィッッ!
《朱天》の左腕を中心に、怪音は続く。
 それは五秒か、十秒か。
 ようやく怪音が収まった時、アッシュは愕然とした表情で《朱天》の左腕を見た。
 愛機の左腕は、肘辺りまで無残に切り刻まれていた。
 まるで、魔竜のアギトにでも、食らいつかれたかのような損傷である。
 ――《十盾裂破》を放ったはずの腕が、この姿だ。


『《残影虚心・顎門》』


 少年が再び、闘技の名を告げた。


『二十四回の斬撃を瞬時に繰り出すボクの切り札です。だけど……』


 バキンッ……。
 不意に何かが折れる音。
 そしてズズン、と重い落下音。
 悪竜の騎士の処刑刀が、半ばから折れた音だ。


『《木妖星》の装甲を半分近く食い破った技なのに、剣を折られた上に、完全には腕を落とせないなんて……』


 少年が、無念そうに呟いた。
 アッシュは、改めて目を瞬かせた。
 まさか、《十盾裂破》が破られるとは――。
 と、その時だった。


「ここまでのようだな」


 不意に響く女性の声。
 ゆっくりと二機に近づく、オトハの声だった。


「片方は剣を。片方は左腕を失った。仕合はここまでだな」

『……そうですね』


 全力を出し切った少年が、同意する。
 彼は、まさしくすべてをアッシュに伝えていた。
 もうこれ以上、戦闘を続ける理由がなかった。
 だが、


『いや。待てオト』

「……? どうした? クライン?」


 オトハが小首を傾げる。


『まだだ。まだ決着はついてねえ』

「クライン?」


 オトハは、目を剥いた。
 少年の方も『……え?』と呟いている。


「何を言ってるんだ、クライン」オトハが眉をひそめて告げる。「もう充分だろう。この戦いの趣旨は、お前だって分かっているんだろう?」

『分かってるよ。けど、少し「欲」が出た』

「……『欲』?」


 オトハが眉をひそめる。と、


『見るのは、「今日までのこと」だけのつもりだった。けど、ここまで出来るとは思っていなかった。だから、見てみたくなったんだ』


 アッシュは、悪竜の騎士を――その中にいる弟を幻視した。
 直後、《朱天》のアギトが大きく開いた。
 次いで、四本の紅い角に鬼火が灯る。オトハ達が目を丸くする中、《朱天》の姿は真紅へと変わっていった。

 グウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ――!!

 咆哮を上げる《朱天》。
 過去、《朱天》は、主人であるアッシュの感情に呼応して咆哮を上げた。
 時には怒り。時には憎しみ。時には哀しみもあった。

 だが、今日の咆哮は違った。
 アッシュの胸中にあるのは、強い喜びだ。
 それは、《朱天》にとって、初めてとなる歓喜の咆哮であった。

 ――嗚呼、幼かった弟はここまで強くなった。

 だからこそ、見てみたい。
 弟の未来を。

 純粋に、そう思った。
 オトハも悪竜の騎士も、ただ、呆然と真紅の鬼を見つめていた。


『お前のこれまでのことは充分に見せてもらった。はっきり伝わったよ。本当に、今日までずっと頑張って来たんだな。誇らしく思うぞ。だが』


 目を細める。


『これから試すのはお前の未来だ。お前がどれほどの可能性を秘めているのか。俺にそれを見せてみろ。――そう。今ここで』


 アッシュは、告げる。


『本気の俺を相手に、自分の限界を越えてみせろ』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

処理中です...