クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
353 / 499
第11部

エピローグ

しおりを挟む
 ――港湾区。
 その時、大きな帆船が港に着いた。
 ゆっくりと慎重に着港。
 船が固定されてから木製の桟橋が降りる。
 そうして着港して数分後、ゾロゾロと乗客が降りてきた。

 商人、旅行者、帰国者。
 はしゃぐ子供に、鞄を持つ大人。杖をつく老人まで。

 様々な人達が降りてくる中に、彼女達もいた。
 旅人なのか、肩に小さなサックを掛けた二人である。
 彼女達はしばしの間、人の流れに身を任せていたが、途中で外れ、人が比較的に少ない場所で足を止めた。
 そこには、行き交う人々も、忙しく動く船員もいない。
 蒼い海をゆっくり眺められる場所だった。
 海鳥が空を舞い、潮風が強く吹いた。


「……う~ん、長かったね」


 言って、彼女は両腕を上げて背を伸ばした。
 同時に、大きな胸がたゆんっと揺れる。

 歳の頃は十六、七歳ぐらいか。
 黒曜石のような黒い瞳と、腰まである長い黒髪が印象的な少女だ。
 温和そうな顔立ちは、神秘性を宿すほどに鼻梁が整っており、プロポーションもまた恐ろしく神懸かっている。
 女神もかくや、と言った少女だった。
 服装は、背中や半袖の縁に炎の華の紋が刺繍された白いタイトワンピース。どこか制服に似たコートを思わせるデザインだ。すらりとした足には黒いストッキングと、茶色の長いブーツを身につけていた。


「二週間の船旅は、流石にキツかったね」

「申し訳ありません。姫さま」


 言って、頭を下げるのはもう一人の人物。
 彼女もまた相当な美女だった。
 歳の頃は二十代前半。
 腰には短剣を携え、動きやすそうな冒険服を着ている。
 毛先がやや乱雑な黄色い短髪が印象的な女剣士だ。
 無愛想な表情もあって、中性的な男性のような印象もあるが、顔立ちもプロポーションも中々のものだ。何より髪に触れる仕草など、彼女の動きにはどこか艶やかさがある。
 彼女を男性と間違える者はまずいないだろう。
 彼女の名は、ジェシカと言った。
 黒髪の少女の護衛兼従者であり、友人でもある人物だ。


「鉄甲船が使えれば、良かったのですが」

「それは仕方がないよ」


 黒髪の少女は笑う。


「鉄甲船は今のところ主流じゃないし、高額だしね。貴族御用達だよ」


 そこで、パタパタと手を振る。


「私なんて実際のところ、ただの村娘なんだし」

「姫さま」


 ジェシカが、呆れた表情を見せる。


「もはや、姫さまは村娘などとは呼べないと思うのですが」

「私は村娘だよ」


 黒髪の少女は、言う。


「クライン村のサクヤ。それが私だよ。だから」


 少し苦笑を零す。


「その姫さまもやめてよ。ジェシカ」

「……承知しました。サクヤさま」


 不本意そうだが、了承するジェシカ。
 すると、黒髪の少女――サクヤは、両手で彼女の頬を押さえた。


「そんな顔をしない」


 サクヤは、悪戯っぽく笑う。


「ジェシカは、もっと笑った方がいいよ。折角綺麗なんだから」

「今さら愛想をよくせよと?」


 主君に不敬と思いつつも、ジェシカはしかめっ面を浮かべる。と、


「今さらじゃなくて、今だからだよ」


 サクヤは、言う。


「コウちゃんに好かれたいんでしょう?」

「………う」


 その台詞に、ジェシカの顔は一気に赤くなった。
 無愛想さが消え、少女のように指先を組んで、もじもじとし始める。
 ジェシカはサクヤの義弟と面識がある。
 その際、恋心を……と言うより、もっと強い想いを抱くようになっていた。


「や、やはり……」


 ジェシカは、ボソリと尋ねた。


「コウタさんは――《悪竜の御子》さまは、愛想のよい女が好みなのでしょうか……」

「う~ん、愛想はよい方がいいとは思うけど」


 サクヤはジェシカの頬を離し、自分のあごに指先を当てた。


「アイリちゃんとかは、あまり愛想がいい方でもないし……」


 義弟に想いを寄せる異性は様々だ。タイプも似ているようでかなり違う。ジェシカも含めれば、本当に癖の強い異性が多い。
 なにせ、高貴な血筋から小さなメイド。果ては《妖星》までいるのだ。
 まあ、聖女と呼ばれる少女から《星神》のハーフ。王女さままでいる兄も大概か。


(まったく。あの兄弟は)


 サクヤは心底疲れた表情をする。と、


「……いえ。愚問でした」


 何も答えない内に、ジェシカが自分の答えに至った。


「私は《悪竜の御子》さまの刃。やはり愛想など不要です」


 凜とした、それこそ刃のように鋭い眼差しで宣言する。
 それは、まるで王に仕える女性騎士のような面持ちであった。
 ただ、英雄譚における、そういった役柄の女性は――。


「それでも『王の寵愛』は受けたいんでしょう?」

「――はうっ!」


 ジェシカは、再び顔を赤くして硬直した。


「義姉の私が言うと、生々しく感じて嫌なんだけど、ベッドの上でコウちゃんに『君はボクのものだ』って言って欲しいんでしょう?」


 かつて、ジェシカはそんなことを言っていた。
 若干苦笑を浮かべつつサクヤがそれを告げると、ジェシカはますます赤くなった。


「そ、それは……」


 激しく動揺するジェシカ。
 サクヤもまた、顔を赤くした。


「うわあ、なんか本当に恥ずかしい」

「そう思っているのでしたら、わざわざ言わないでください!」


 ジェシカが、涙目でそう告げる。
 サクヤは、少し驚いて目を瞬かせる。
 そこそこ長い付き合いだが、涙目の彼女は初めて見た気がする。


「ごめん、ごめん」


 サクヤが、クスクスと笑う。


「私も何だかんだで緊張しているの」

「……サクヤさま」


 ジェシカが眉根を寄せた。


「ん。そろそろ宿を探そうか」


 言って、サクヤは歩き出した。
 コツコツ、と足音が響く。
 ジェシカも「はい」と応えて、主君の後に続いた。
 静かな移動の中、サクヤはポツリと呟いた。


「本当に緊張しているのよ」


 一拍おいて、


「なにせ、愛しい人に逢いに行くのは私も同じだからね」

「……サクヤさま」


 ジェシカが、神妙な声で主君の名を呟く。
 天真爛漫な主君が実のところ、とても緊張していることは、背中を見れば分かる。
 しばらく二人は無言のまま、港湾区を歩いた。
 街並みは徐々に移りゆく。
 潮の香りが少しずつ薄れ、港から人が住む街へと光景は変わっていく。
 店舗や露店が多く並ぶ大通り。
 人も多く、とても賑やかだ。
 そこは、すでに市街区の一角だった。


(ここがアティス王国)


 ――彼が住む街。
 ここまで来るのに、本当に長かった。
 躊躇い、戸惑い、道にも迷った。
 醜い嫉妬も、抱いたこともあった。
 一歩も前に進めない日々だった。
 どうしても、再び、彼に逢う勇気が持てなかった。
 けれど、ようやくこの地に立てた。
 ――義弟と、彼に逢うために。


「……サクヤさま」


 大通りで立ち止まるサクヤに、ジェシカが声をかける。
 すると、サクヤは振り返り、


「さあ、行きましょう。ジェシカ」


 ジェシカに手を差し伸べる。
 そうして彼女は、笑顔と共に告げるのだった。


「私達の、それぞれの愛しい人に逢いに」





第11部〈了〉
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

処理中です...