クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第12部

第四章 訪問者③

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 ――同時刻。王城からの帰り道。
 ユーリィは、クライン工房近くに向かう停留所へと歩いていた。
 隣には、紫色の小さな騎士。
 腰に磁石付きの大きなスパナを装着したゴーレムが付き添ってくれている。
 彼はユーリィの護衛だった。
 ユーリィは《星神》だ。良からぬ輩に狙われることも多い。
 普段はアッシュ、またはオトハが気遣って、どこかに出かける時は付き添ってくれるのだが、それでも付きっ切りというのは難しい。
 それを懸念して、メルティアがゴーレムの一機を譲ってくれたのだ。


「……ウム! ヨロシク! ユーリィ!」


 片手を上げて、そう告げるゴーレムの名前は九号。
 メルティアが、故郷から転移陣で召喚してくれた機体である。
 ある意味、高価すぎる機体だ。
 というより、その価値はもはや計り知れない。
 それでもメルティアは友情の証に、九号を贈ってくれた。


(ありがとう。メルティア)


 本当に、彼女には感謝していた。
 きっと彼女とは、生涯に渡って仲の良いになれることだろう。
 そんなことを考えながら進んでいた時だった。停留所の長椅子に、一人の少年が座っていることに気づいたのだ。
 エリーズ国騎士学校の制服を着た少年だ。


(……コウタ君?)


 未来の弟がそこにいた。何やら項垂れているように見える。
 彼の姿を見ても、もう心はざわつかなかった。
 これもメルティアのおかげである。


(うん。私はもう大丈夫)


 ユーリィは頷く。そして「……コウタ君?」と声を掛ける。


「……え?」


 コウタは顔を上げて、こちらに振り向いた。


「……どうしたの?」


 ユーリィは再度、尋ねる。と、コウタは少し緊張した面持ちを見せて。


「え、えっと……」


 と、呟く。そこから少し間が空いた。
 今までのユーリィの態度で、彼もまた緊張しているのだろう。
 そう思っていると、


「あの、そのゴーレムは?」


 と、彼が尋ねてきた。ユーリィは九号を見やり、


「メルティアがくれたの」

「……え?」


 コウタは目を丸くする。
 ユーリィは少し苦笑しつつ説明した。


「九号さんだって。アイリちゃん同様に、私にも護衛がいた方がいいって。魔窟館? そういうところから転移陣で一機召喚してくれたの。アッシュも忙しいから、いつも付きっ切りなのもしんどいだろうし、だから貰った」

「メルがゴーレムをあげたの!?」


 コウタが驚きの声を上げた。
 対し、九号は、ゴンと自分の胸部装甲を叩いて告げる。


「……オレ。キョウカラ、ユーリィノ、キシ!」

「そ、そうなんだ……」


 どうやら、コウタは相当驚いているようだ。
 メルティアがゴーレムを譲渡するのは、とても珍しいことなのだろう。


(本当にありがとう。メルティア)


 心の中で友達に感謝する。
 それから、改めてコウタに尋ねてみた。


「ところで、どうかしたの?」

「う、うん」と頷くコウタ。それから少し迷いつつ、

「その、人を探しているんだ」

「……人を?」


 コウタは「うん」と再び首肯した。


「この街で再会した子なんだ。とても綺麗な子なんだけど、まるで子猫みたいに自由すぎる性格の子でね……」

「ははっ、子猫ですか。確かにそうですね。彼女は一度見失うと大変でしょう?」

(……え?)


 不意に。
 だが、とても自然に割り込んできたその声にユーリィは困惑する。
 しかし、コウタはまだ気づいてないようで。


「はい。全然見つからなくて。ボクも困っているんです」


 その男と会話を続けている。


「ああ、なるほど。だからクラインさんの所に行くのですね。姫はクラインさんに挨拶がしたいと、ずっとおっしゃってましたから」

「そうですか。それはボクにも言っていました。けど、そのことでも本当に困っているんです。リノのこと、兄さんになんて説明すれば……って、え?」


 そこに至って、コウタはようやくハッとする。
 ユーリィの方は、唖然としてコウタの隣に座る人物を凝視していた。


(ど、どうして、この男が?)


 見覚えのある男だ。
 ユーリィにとっては最も恐れる男だった。
 いつも、いつも自然に傍へと近寄ってくる人物だ。
 まるで不意に訪れる天災のように。


「ボ、ボルド=グレッグ……」


 ユーリィは、茫然とその名を呟いた。
 今更気付いたが、ボルドの隣にはカテリーナ=ハリスの姿まである。


(……ひッ)


 ユーリィは、思わず悲鳴を上げそうになった。
 しかし、その声は唇から漏れることはなかった。
 おもむろにコウタが動いたのだ。
 すっと、片手でユーリィを下がらせる。
 次いで、ボルドの前に立ち、腰の短剣の柄に手を添えた。
 途端、少年の体から一気に圧力が放たれる。
 吹き荒れるような覇気に、ボルドが「ほほう」と小さく呟いた。
 ユーリィも目を丸くする。
 素人のユーリィでも感じ取れるほどの威圧。
 改めて、目の前の少年がアッシュの弟であると実感する。
 一方、コウタは――。


「……あなたは」


 ポツリ、と呟く。彼の表情はとても険しい。


「誰だ? いや、ボルド=グレッグだって? 聞いたことがある。その名前は」


 コウタが、さらに表情を険しくした時。


「……コウタ! キヲツケロ! データニ、アル! ソノハゲ、三十三ゴウヲ、ツレテッタヤツダ!」


 九号が緊迫した様子でそう告げた。
 続けて、ユーリィを守るために、鋼の騎士も腰のスパナを手に取り身構えた。


「……そうか。じゃあ、やっぱりこの男が」


 温厚な少年は、敵意を乗せてボルドを睨みつけた。


「《地妖星》ボルド=グレッグなのか……」


 その呟きに、ユーリィがビクッと肩を震わせた。
 どうやら、コウタも、ボルドのことを知っているようだ。
 緊迫する空気。
 すると、ボルドがゆっくりと立ち上がった。


「お久しぶりです。エマリアさん。そして初めまして。コウタ=ヒラサカ君」


 今までと変わらない。
 親しげな様子で、ボルドは名乗った。


「私の名はボルド=グレッグ。ただのしょぼくれた休暇中のおっさんです」
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