クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第12部

第六章 鬼才再び①

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「……え?」


 その時、ルカは目を丸くした。


「今日、ユーリィちゃん、仮面さんとデート、なんですか?」


 そこは王城にあるルカの部屋。
 目の前には、彼女の師であるメルティアがいた。


「はい。今朝がた、九号が来て教えてくれました」


 そう答える彼女は、普段の着装型鎧機兵はまだ着ていなかった。
 その機体は隣にあり、装甲の前面が上に開いている。


「『ラフィルの森』というところで二人きりでピクニックをするそうです。《地妖星》が来ているようですから、ユーリィもお義兄さまに甘えたいのでしょう」


 続けて、メルティアはそう告げた。
 彼女は今、珍しくストレッチしていた。
 前屈みになったり、大きな胸を反らしたりとしている。
 あまり運動をしたがらない彼女にしては、非常に珍しい行為だ。


「あの、お師匠さま?」


 いつにない師匠の様子に、ルカが小首を傾げた。
 まるでこれから徒競走でもしそうな趣である。
 その上、額には白い鉢巻を巻いていた。


「これから、何かあるんですか?」


 率直にそう尋ねると、


「ネコ狩りです」


 メルティアは、そう答えた。


「昨日の昼からコウタが帰ってきていません。もはや確信しました。恐らく《地妖星》のみならず、あの女も来ているでしょう」

「……あの女、ですか?」


 かなり不機嫌そうな口調の師に、ルカはおずおずと尋ねる。
 まるで敵にでも出会ったような感じだ。


「私の敵です」

「て、敵ですか?」


 ルカは目を丸くする。本当に敵だったらしい。
 メルティアは、説明を続けた。


「コウタが何かを隠していることは気付いていました。もしかすると、あの女がいるのではないかと疑ってもいました。そして、九号からあの女に強奪された三十三号と遭遇したという報告がありました。これで確定です。きっと、昨日ぐらいから、あのニセネコ女をどこかに匿っていたのでしょうね」

「……は、はァ」


 いまいち状況が分からず生返事をするルカ。


「……まったく。コウタは」


 しかし、メルティアのご立腹ぶりだけは何となく感じ取れた。
 これは、相当ピリピリしている。


「捕まえて、お仕置きです」


 メルティアが、ポツリと呟く。
 ――と、その時、ノックの音が響いた。
 ルカのメルティアの視線が、ドアに向けられる。
 メルティアは、反射的に着装型鎧機兵の中に退避しようとするが、


「ルカ。メルティア。わたくしです」


 ドアの向こうから、そんな声が聞こえた。
 メルティアが動きを止める。どうやらリーゼのようだ。


「あっ、入って、ください」


 と、ルカが招く。
 リーゼはメルティアにとって親しい友人の一人だ。
 メルティアが、素の姿のままで会える数少ない人物である。


「では、失礼しますわ」


 そんな返答と共に、ドアが開かれる。
 廊下にはリーゼ。そしてアイリの姿があった。
 何故か、彼女達も鉢巻をしている。


「そちらの準備は完了ですの?」

「はい。ゴーレム隊も配置につきましたか?」


 メルティアがそう尋ねると、答えたのはアイリだった。


「……うん。言われた通り、魔窟館から召喚した五十二機。零号達も含めて、五機ずつで編隊を組ませたよ」

「ありがとうございます。アイリ。リーゼ」


 言って、メルティアは着装型鎧機兵に乗り込んだ。


「本当は全機投入したいところなのですが、あまり派手に動くと、ルカに迷惑がかかりますからね。さて。では私達も」


 ――ガシュンッと。
 着装型鎧機兵が胸部装甲を降ろした。
 そして、ズシンと鋼の巨人が動き出す。


『――ネコ狩りです』


 着装型鎧機兵の中から、メルティアが宣言する。


『本来ならば、彼女のことは、お義兄さまにもお伝えすべきことですが、《地妖星》のこともあります。お義兄さまや、お義姉さま方にこれ以上の負担をおかけしたくありません。せめてあのニセネコ女だけは私達が始末――コホン。確保しましょう』

「ええ。そうですわね」


 リーゼが、目が全く笑っていない笑顔を見せる。


「わたくしは一度、彼女とは話をしてみたいと思っていましたわ。この機会にひっ捕らえて――コホン。保護して話を聞きましょう」

「……うん。そうだね」


 アイリも、ギュッと鉢巻を締めなおして言う。


「……完全に油断していたよ。私が義妹ポイントを稼いでいる間に、本丸に攻め入れられていたのは不覚だよ」


 言って、シュッ、シュッと拳を繰り出した。


「……コウタを丸一日も独り占めするなんてズルいよ。ううん、時には独り占めはいいけど、それはちゃんと皆で合議してからだよ。ペナルティものだよ」

『ええ。そうですね』


 メルティアが言う。
 着装型鎧機兵が、ズシン、ズシンと足音を響かせる。


『いよいよ、私の愛機・《フォレス》が真価を発揮する時が来たということです。では、そろそろ行きますか。リーゼ。アイリ』

「ええ」「……うん」


 リーゼとアイリが応える。
 そして、エリーズ国の少女達は只ならぬオーラを放ちつつ、部屋を出て行った。
 一人残されたルカは、しばらく顔を強張らせていたが、


「……それにしても」


 コホン、と喉を鳴らして呟く。


「ユーリィちゃん。仮面さんとデートかあ、いいなあ」
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