374 / 499
第12部
第六章 鬼才再び③
しおりを挟む
――ガラララッ、と。
クライン工房のシャッターが閉じられる。
閉じたのは、工房の主人であるアッシュ自身だ。
黒いズボン、黒いシャツ。赤いベストという珍しい私服姿の彼は、シャッターに『本日臨時休業』の紙を張った。
パンパン、と手を払うアッシュ。
その時、声を掛けられた。
「そろそろ出かけるのか? クライン」
オトハの声だ。
アッシュは振り向く。そこには片手を腰に当てるオトハの姿があった。
「おう。ユーリィも準備が出来たって話だからな。ララザもいつでも出せる」
「そうか。じゃあ楽しんで来い」
オトハは笑う。
「おう。それとオト」
アッシュは真剣な顔で告げる。
「ボルドの方、頼んだぜ」
「ああ、分かっている」
オトハは頷いた。
「すでにハウルにも、第三騎士団にも協力を申し出ている。見つけ次第、捕らえるか、倒すつもりではいるが……」
そこでオトハは少し眉根を寄せた。
「あの男はお前に固執している。恐らくお前の元に現れる可能性が一番高いと思うぞ」
「そん時はそん時さ」
アッシュは肩を竦めた。
「今度こそぶちのめすだけさ。まあ、俺として気になるのはもう一人」
「……もう一人?」
オトハは眉をひそめた。
「誰のことだ?」
「ん? ああ、そっか。オトは出会ってなかったな」
アッシュは、ポリポリと頬をかいた。
「昨日、コウタと同い年ぐらいの『リノ』って女の子がうちにやって来たんだよ。出会い頭に『コウタの正妻』を名乗る凄げェ子だった」
「……何だ、そのイタイ娘は」
「まあ、発言の方はともかくさ」
アッシュは真剣な声色で続ける。
「立ち姿が、本当に見事なもんだったよ。ありゃあ、コウタやアルフクラスだな。年齢からすると、考えられねえレベルだ」
「……なに」
オトハの顔つきが真剣になる。
あの少年達に並ぶ実力の少女など、聞き捨てならない相手だ。
「正直、真っ当な人間には見えなかった」
アッシュは、言葉を続けた。
「多分、裏の人間なんだろうな。シャルはあの子のことを何か知ってるみてえだったが、コウタに頼まれたのか、あんまり喋りたくねえみたいだしな。それでも出来れば素性ぐらいは確認しておきてえんだが」
「……その娘も捜索しておくか?」
そう提案するオトハに、アッシュは少し考えてからかぶりを振った。
「いや、いいよ」
「……? 何故だ。危険な匂いがする娘なのだろう?」
「いや、なんつうかさ」
アッシュは、苦笑した。
「あの子のことは、コウタがどうにかするような気がすんだよ」
「……コウタ君が?」
「おう」とアッシュは答える。
「俺の直感だと、コウタの本命はメルティア嬢ちゃんだと思うんだが……」
そこで、「う~ん」と唸ってボリボリと頭をかく。
「ともあれ、そのリノって子さ。話したのはほんの少しだけなんだが、マジでコウタが好きなんだなってのは伝わって来たよ。そんで、きっと、コウタもあの子をメルティア嬢ちゃん並みに大切に思っている」
「………」
オトハは無言だ。
「俺達の親父の教えってさ。『大切な人は自分の手で守れ』なんだよ。だから、コウタはきっとあの子を守る。どうにかする。そんな気がするんだ」
そう語るアッシュに、オトハは未だ無言だった。
「まあ、けどよ」
アッシュは皮肉気に笑った。
「自分の女さえ守れなかった俺が、言えるような台詞じゃねえか」
数瞬の静寂。
オトハは、じいっとアッシュを見つめていた。
そして――。
「……クライン」
オトハは、呆れるように笑った。
「お前な」
そして前屈みになって、アッシュに語り掛ける。
「初めて出会った時から、お前は何度私を守った? 何度助けた?」
アッシュはキョトンとする。
「へ? そりゃあ」
「数えきれないだろ? 最近では《ディノ=バロウス教団》からも助けてくれたか」
オトハは、トン、とアッシュの胸板に拳を当てた。
「忘れてないか? 今や私もお前の女なんだぞ」
彼女は、ふふんと鼻を鳴らした。
「ちゃんと守れているじゃないか。確かに昔のお前は弱くて、沢山のものを失ったのだろう。けど、それはもう過去のことだ。今のお前は誰よりも強い」
そう告げるオトハは、どこか誇らしげだった。
そして腰に両手を当て、たゆんっと大きな胸を反らした。
「大切な者をすべて守れるぐらいにな。自信を持て。お前は強いんだ。何せ、お前は私を女にした男なのだからな」
「……オト」
アッシュは少し呆気に取られていた。
が、すぐに苦笑を浮かべて。
「ありがとよ。励ましてくれて。けど、お前が俺の女だって言うんなら、一つ聞きたいことがあるんだが……」
「ん? 何だ?」
オトハが純朴な顔で首を傾げた。
アッシュは少し嘆息しつつ、
「こないだ、シャルから聞いたんだが」
と、前置きしつつ、コホンと喉を鳴らす。
「まあ、その、何だ。『そろそろ本気で行くぞ。いいな』なんて台詞、お前と、サクぐらいにしか言ったことがねえのに、なんでシャルが知ってんだよ?」
……………………………。
………………………。
……十数秒の間。
「――あいつ!? それを喋ったのか!?」
オトハは、愕然とした。
「俺はその台詞をお前に言いたいぞ。はぁ……」
アッシュは、深々と溜息をついた。
ジロリ、と半眼でオトハを見据える。
オトハは、ビクッと震えて「そ、その」と縮こまった。
指先を腰の前で組んで、もじもじと動かしている。
まるで怒られることに怯えている子供のようだ。
アッシュは「やれやれ」と嘆息した。
そして、すっと手を動かして。
「――ひうっ」
息を呑むオトハ。
アッシュの手の平は、オトハの頬に優しく触れていた。
いつもの凛々しさはなく、彼女は微かに震えていた。
アッシュは小さく苦笑して。
「そんな緊張すんなって。そこまでは怒ってねえからさ」
「ほ、本当かっ!」
オトハは、ぱあっと表情を輝かせた。
「そ、そうだなっ! 私は、その、ちょっと女子トークをしただけなんだ!」
次いで、そんなことを宣う。
「……オト」
アッシュは、再び半眼になった。
「な、何だ、クライン?」
おどおどと尋ねるオトハ。
「今回の件、片付けたら、きちんと話をするからな」
「あ、う、うん。そうだな。ゆっくり話し合おう」
オトハは、コクコクと頷いた。
それに対し、アッシュは額に片手を当てた。
「……額面通りに受け取んなよ。今度、休暇の調整をしといてくれ。あと、その日は市街区辺りで宿を取るつもりだからな」
「え? なんで?」
キョトンとしてそう返すオトハに、アッシュは嘆息した。
「……『そろそろ本気で行くぞ。いいな』」
「……え?」
「もう気遣いもなしだ。そんで、その際に今回の件も色々と聞くからな」
言って、アッシュはオトハの頬から手を離した。
オトハは数秒ほど沈黙していたが、すぐに、かあああっと赤くなった。
すると、アッシュは、少しだけ双眸を細めた。
そして――。
「ようやくさ」
ボリボリ、と頭をかく。
「自分の強欲さぶりに、少し気付いてきたよ」
自嘲気味に告げる。
「お前を抱いた夜に思ったんだ。特に大切な者についてはさ。結局、欲しいと思ったら何がなんでも手に入れる。きっと、俺はそういう男なんだよ」
忌まわしいが、あの男の指摘通りなのだろう。
『俺の直感で語るぞ。貴様は誰に対しても本当の顔を隠しているのではないか? その人外の実力に見合うだけの強欲で傲慢な魂の炎を胸に宿しながら、その炎に他者を巻き込んでしまうことを恐れ、無理やり抑え込んでいる印象だ』
恐らく、あの炎の日だ。
すべてを失ってしまったあの日。
あの日に生まれた強欲なる願望と、心のタガ。
それがあの男に指摘され、挑発されたことで強く発露してしまった。
そして、オトハを愛しいと想うあまり、それが外れてしまった。
(……多分、俺は……)
アッシュは、渋面を浮かべた。
自分でも最悪だと思う。
恐らく、今の自分は愛しい者に対しては容赦できない。
――欲しい。
そう思ったら、全く自制が利かなくなってしまう気がする。
オトハしかり。そしてシャルロットに対してもだ。
他のことならば、そんなことはない。
ただ、愛しい者に対してだけは違った。
誰にも、奪われたくなかった。
彼女達をこの手で守りたいと強く思った。
だからこそ――……。
「………はァ」
アッシュは、溜息をついた。
「シャルとお前との間で、どんな話があったのかも聞かせてもらうからな。けど、その前に一つだけ宣言させてもらうぞ」
「な、何だ?」
オトハが緊張した様子で尋ねる。
アッシュは、一拍の間を空けて告げた。
「責任は俺にある」
「…………え」
「お前らがどんな密談をしててもな。結局のところ、俺が一番悪いんだよ」
ただ、そん時は、お前らを何がなんでも守るつもりだけどな。
小さな声で、そう続ける。
「……クライン?」
オトハは、訝しげに眉根を寄せた。
一方、アッシュは、ボリボリと頭をかく。
「まあ、未来のことなんてまだ分かんねえよな。一度外れたタガだって、もしかすっと締め直せるかもしんねえし。けど」
アッシュは、そこでオトハのあご先に指を置いた。
「オト」
「……ク、クライン?」
少し潤んだ瞳で、オトハはアッシュを見つめた。
アッシュは彼女の頬へと手を移し、くすぐるように耳に触れる。
そうして、はあっと小さく息を吐いた後に告げる。
「……覚悟しとけよ」
「……え」
「シャルの方はともかく、お前の方はもう俺の女なんだ。そこだけは変わんねえからな。そんで、恥ずかしさで死にたくなるような台詞だが、あえてこれも言っとくぞ」
一拍おいて、
「次は、二度とお前を離さねえぐらいのつもりで行くからな」
「……え」
それだけを告げて、アッシュは歩き出した。
すぐに視線を背けたのは、アッシュも自分の台詞に結構動揺しているからだ。
それを隠すように、今は片手を、プラプラと振っている。
このまま愛馬の元に向かうつもりだった。
オトハはしばし、青年の後ろ姿を見つめていたが、
――かあああっ。
首筋から頭頂部まで。
一気に肌の色が赤く染まっていった。
「ひゃっ」
そして、
「ひゃあああああああああっ!?」
真っ赤な顔を両手で押さえて座り込み、絶叫するオトハであった。
クライン工房のシャッターが閉じられる。
閉じたのは、工房の主人であるアッシュ自身だ。
黒いズボン、黒いシャツ。赤いベストという珍しい私服姿の彼は、シャッターに『本日臨時休業』の紙を張った。
パンパン、と手を払うアッシュ。
その時、声を掛けられた。
「そろそろ出かけるのか? クライン」
オトハの声だ。
アッシュは振り向く。そこには片手を腰に当てるオトハの姿があった。
「おう。ユーリィも準備が出来たって話だからな。ララザもいつでも出せる」
「そうか。じゃあ楽しんで来い」
オトハは笑う。
「おう。それとオト」
アッシュは真剣な顔で告げる。
「ボルドの方、頼んだぜ」
「ああ、分かっている」
オトハは頷いた。
「すでにハウルにも、第三騎士団にも協力を申し出ている。見つけ次第、捕らえるか、倒すつもりではいるが……」
そこでオトハは少し眉根を寄せた。
「あの男はお前に固執している。恐らくお前の元に現れる可能性が一番高いと思うぞ」
「そん時はそん時さ」
アッシュは肩を竦めた。
「今度こそぶちのめすだけさ。まあ、俺として気になるのはもう一人」
「……もう一人?」
オトハは眉をひそめた。
「誰のことだ?」
「ん? ああ、そっか。オトは出会ってなかったな」
アッシュは、ポリポリと頬をかいた。
「昨日、コウタと同い年ぐらいの『リノ』って女の子がうちにやって来たんだよ。出会い頭に『コウタの正妻』を名乗る凄げェ子だった」
「……何だ、そのイタイ娘は」
「まあ、発言の方はともかくさ」
アッシュは真剣な声色で続ける。
「立ち姿が、本当に見事なもんだったよ。ありゃあ、コウタやアルフクラスだな。年齢からすると、考えられねえレベルだ」
「……なに」
オトハの顔つきが真剣になる。
あの少年達に並ぶ実力の少女など、聞き捨てならない相手だ。
「正直、真っ当な人間には見えなかった」
アッシュは、言葉を続けた。
「多分、裏の人間なんだろうな。シャルはあの子のことを何か知ってるみてえだったが、コウタに頼まれたのか、あんまり喋りたくねえみたいだしな。それでも出来れば素性ぐらいは確認しておきてえんだが」
「……その娘も捜索しておくか?」
そう提案するオトハに、アッシュは少し考えてからかぶりを振った。
「いや、いいよ」
「……? 何故だ。危険な匂いがする娘なのだろう?」
「いや、なんつうかさ」
アッシュは、苦笑した。
「あの子のことは、コウタがどうにかするような気がすんだよ」
「……コウタ君が?」
「おう」とアッシュは答える。
「俺の直感だと、コウタの本命はメルティア嬢ちゃんだと思うんだが……」
そこで、「う~ん」と唸ってボリボリと頭をかく。
「ともあれ、そのリノって子さ。話したのはほんの少しだけなんだが、マジでコウタが好きなんだなってのは伝わって来たよ。そんで、きっと、コウタもあの子をメルティア嬢ちゃん並みに大切に思っている」
「………」
オトハは無言だ。
「俺達の親父の教えってさ。『大切な人は自分の手で守れ』なんだよ。だから、コウタはきっとあの子を守る。どうにかする。そんな気がするんだ」
そう語るアッシュに、オトハは未だ無言だった。
「まあ、けどよ」
アッシュは皮肉気に笑った。
「自分の女さえ守れなかった俺が、言えるような台詞じゃねえか」
数瞬の静寂。
オトハは、じいっとアッシュを見つめていた。
そして――。
「……クライン」
オトハは、呆れるように笑った。
「お前な」
そして前屈みになって、アッシュに語り掛ける。
「初めて出会った時から、お前は何度私を守った? 何度助けた?」
アッシュはキョトンとする。
「へ? そりゃあ」
「数えきれないだろ? 最近では《ディノ=バロウス教団》からも助けてくれたか」
オトハは、トン、とアッシュの胸板に拳を当てた。
「忘れてないか? 今や私もお前の女なんだぞ」
彼女は、ふふんと鼻を鳴らした。
「ちゃんと守れているじゃないか。確かに昔のお前は弱くて、沢山のものを失ったのだろう。けど、それはもう過去のことだ。今のお前は誰よりも強い」
そう告げるオトハは、どこか誇らしげだった。
そして腰に両手を当て、たゆんっと大きな胸を反らした。
「大切な者をすべて守れるぐらいにな。自信を持て。お前は強いんだ。何せ、お前は私を女にした男なのだからな」
「……オト」
アッシュは少し呆気に取られていた。
が、すぐに苦笑を浮かべて。
「ありがとよ。励ましてくれて。けど、お前が俺の女だって言うんなら、一つ聞きたいことがあるんだが……」
「ん? 何だ?」
オトハが純朴な顔で首を傾げた。
アッシュは少し嘆息しつつ、
「こないだ、シャルから聞いたんだが」
と、前置きしつつ、コホンと喉を鳴らす。
「まあ、その、何だ。『そろそろ本気で行くぞ。いいな』なんて台詞、お前と、サクぐらいにしか言ったことがねえのに、なんでシャルが知ってんだよ?」
……………………………。
………………………。
……十数秒の間。
「――あいつ!? それを喋ったのか!?」
オトハは、愕然とした。
「俺はその台詞をお前に言いたいぞ。はぁ……」
アッシュは、深々と溜息をついた。
ジロリ、と半眼でオトハを見据える。
オトハは、ビクッと震えて「そ、その」と縮こまった。
指先を腰の前で組んで、もじもじと動かしている。
まるで怒られることに怯えている子供のようだ。
アッシュは「やれやれ」と嘆息した。
そして、すっと手を動かして。
「――ひうっ」
息を呑むオトハ。
アッシュの手の平は、オトハの頬に優しく触れていた。
いつもの凛々しさはなく、彼女は微かに震えていた。
アッシュは小さく苦笑して。
「そんな緊張すんなって。そこまでは怒ってねえからさ」
「ほ、本当かっ!」
オトハは、ぱあっと表情を輝かせた。
「そ、そうだなっ! 私は、その、ちょっと女子トークをしただけなんだ!」
次いで、そんなことを宣う。
「……オト」
アッシュは、再び半眼になった。
「な、何だ、クライン?」
おどおどと尋ねるオトハ。
「今回の件、片付けたら、きちんと話をするからな」
「あ、う、うん。そうだな。ゆっくり話し合おう」
オトハは、コクコクと頷いた。
それに対し、アッシュは額に片手を当てた。
「……額面通りに受け取んなよ。今度、休暇の調整をしといてくれ。あと、その日は市街区辺りで宿を取るつもりだからな」
「え? なんで?」
キョトンとしてそう返すオトハに、アッシュは嘆息した。
「……『そろそろ本気で行くぞ。いいな』」
「……え?」
「もう気遣いもなしだ。そんで、その際に今回の件も色々と聞くからな」
言って、アッシュはオトハの頬から手を離した。
オトハは数秒ほど沈黙していたが、すぐに、かあああっと赤くなった。
すると、アッシュは、少しだけ双眸を細めた。
そして――。
「ようやくさ」
ボリボリ、と頭をかく。
「自分の強欲さぶりに、少し気付いてきたよ」
自嘲気味に告げる。
「お前を抱いた夜に思ったんだ。特に大切な者についてはさ。結局、欲しいと思ったら何がなんでも手に入れる。きっと、俺はそういう男なんだよ」
忌まわしいが、あの男の指摘通りなのだろう。
『俺の直感で語るぞ。貴様は誰に対しても本当の顔を隠しているのではないか? その人外の実力に見合うだけの強欲で傲慢な魂の炎を胸に宿しながら、その炎に他者を巻き込んでしまうことを恐れ、無理やり抑え込んでいる印象だ』
恐らく、あの炎の日だ。
すべてを失ってしまったあの日。
あの日に生まれた強欲なる願望と、心のタガ。
それがあの男に指摘され、挑発されたことで強く発露してしまった。
そして、オトハを愛しいと想うあまり、それが外れてしまった。
(……多分、俺は……)
アッシュは、渋面を浮かべた。
自分でも最悪だと思う。
恐らく、今の自分は愛しい者に対しては容赦できない。
――欲しい。
そう思ったら、全く自制が利かなくなってしまう気がする。
オトハしかり。そしてシャルロットに対してもだ。
他のことならば、そんなことはない。
ただ、愛しい者に対してだけは違った。
誰にも、奪われたくなかった。
彼女達をこの手で守りたいと強く思った。
だからこそ――……。
「………はァ」
アッシュは、溜息をついた。
「シャルとお前との間で、どんな話があったのかも聞かせてもらうからな。けど、その前に一つだけ宣言させてもらうぞ」
「な、何だ?」
オトハが緊張した様子で尋ねる。
アッシュは、一拍の間を空けて告げた。
「責任は俺にある」
「…………え」
「お前らがどんな密談をしててもな。結局のところ、俺が一番悪いんだよ」
ただ、そん時は、お前らを何がなんでも守るつもりだけどな。
小さな声で、そう続ける。
「……クライン?」
オトハは、訝しげに眉根を寄せた。
一方、アッシュは、ボリボリと頭をかく。
「まあ、未来のことなんてまだ分かんねえよな。一度外れたタガだって、もしかすっと締め直せるかもしんねえし。けど」
アッシュは、そこでオトハのあご先に指を置いた。
「オト」
「……ク、クライン?」
少し潤んだ瞳で、オトハはアッシュを見つめた。
アッシュは彼女の頬へと手を移し、くすぐるように耳に触れる。
そうして、はあっと小さく息を吐いた後に告げる。
「……覚悟しとけよ」
「……え」
「シャルの方はともかく、お前の方はもう俺の女なんだ。そこだけは変わんねえからな。そんで、恥ずかしさで死にたくなるような台詞だが、あえてこれも言っとくぞ」
一拍おいて、
「次は、二度とお前を離さねえぐらいのつもりで行くからな」
「……え」
それだけを告げて、アッシュは歩き出した。
すぐに視線を背けたのは、アッシュも自分の台詞に結構動揺しているからだ。
それを隠すように、今は片手を、プラプラと振っている。
このまま愛馬の元に向かうつもりだった。
オトハはしばし、青年の後ろ姿を見つめていたが、
――かあああっ。
首筋から頭頂部まで。
一気に肌の色が赤く染まっていった。
「ひゃっ」
そして、
「ひゃあああああああああっ!?」
真っ赤な顔を両手で押さえて座り込み、絶叫するオトハであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる