376 / 499
第12部
第七章 憩いの森②
しおりを挟む
ボルドは、静かな面持ちで空を見上げていた。
目の前には森の風景が続けている。「ラフィルの森」というらしい。
穏やかな空気。
普通ならば、心が落ち着くだろう。
しかし、ボルドは嘆息した。
脳裏に浮かぶのは、昨晩のことだ。
正直に言って、やってしまったと思う。
(カテリーナさん。とても優秀な子でした)
自分の右腕とも呼べる秘書。
そんな彼女を昨晩、ボルドは蹂躙した。
――そう。まさしく蹂躙だ。
翌日、ボルドはベッドに眠る彼女の顔をまともに見ることは出来なかった。
あまりにも身勝手なことをしてしまった。
小さく嘆息する。
ボルドは眠る彼女の髪を梳かす。彼女は「……う」と眉を動かした。自分に資格などないのは分かっているが、せめて彼女の心が壊れていないことを祈る。
それから黒いスーツで身を固めて、いくつか持参していた書類の中から『部署移動届』を見つけると、承諾のサインをして、机の上に置いた。
こんな上司とは、顔を合わせるのも嫌だろう。
加え、何の気休めにもならないが、謝罪文も添えた。
その後、ボルドは部屋を後にした。
そうして、今に至るのである。
(一人で行動するなどいつ以来でしょうか)
森の中を一人進むボルド。
ボルドが「ラフィルの森」にいる理由は簡単だ。
昼ほどにクライン工房へ赴いた際に、アッシュ達が出かけるのを見つけて、そのまま後をつけてきたのである。
(まあ、クラインさんは気付いているでしょうがね)
気配は消しているが、恐らく無駄だろう。
アッシュは気付いている。その上であえて誘っている訳だ。
(やはり恐ろしい人ですね。クラインさんは)
森の中を進みながら、ボルドは笑う。
体調は恐ろしく良かった。
まるで全盛期の――二十代の頃に戻ったようだ。
これもカテリーナの最後の仕事のおかげか。彼女の信頼と、彼女自身を失ったことは大きいが、おかげで今の自分は間違いなく強い。
(ですが、いつ声をかけましょうか?)
ボルドは、少し困ってしまう。
ついてきたのはいいが、仕掛けるタイミングが掴みづらい。
アッシュ達は、川辺でレジャーシートを広げていた。
恐らくここで昼食を取るつもりなのだろう。
バスケットの中から、サンドイッチ(?)らしきものを取り出している。
(そういえば、私も食事はまだでしたね)
少し腹が鳴ったような気がした。
と、その時だった。
「おい。出て来いよ」
不意に声を掛けられた。アッシュの声だ。
ボルドは少し目を瞠る。尾行には気付かれているとは思っていたが、まさか、先に声を掛けられるとは思っていなかったのだ。
「……おやおや。やはり気付かれていましたか」
声まで掛けられて無視するのは、流石に間抜けだ。
ボルドは森を出て、川辺へと足を進めた。
微笑んで尋ねる。
「お邪魔でしたか?」
「まあな。ったく。折角の家族の団欒を邪魔しやがって」
そう告げるアッシュに、ボルドは、くつくつと笑う。
「それは申し訳ないことをしてしまいましたね」
「ああ。まったくだ。けど、来ちまったのは仕方がねえ」
アッシュは、ボルドに告げた。
「こっちに来いよ。菓子折りの礼に飯を奢ってやるよ」
ボルドは再び目を瞠る。
まさか、菓子折りの礼とは――。
(やはりクラインさんは面白いですね)
内心で苦笑しつつ、
「そうですか」
ボルドは返答する。
「では、折角ですし、ご相伴にあがりましょうか」
目の前には森の風景が続けている。「ラフィルの森」というらしい。
穏やかな空気。
普通ならば、心が落ち着くだろう。
しかし、ボルドは嘆息した。
脳裏に浮かぶのは、昨晩のことだ。
正直に言って、やってしまったと思う。
(カテリーナさん。とても優秀な子でした)
自分の右腕とも呼べる秘書。
そんな彼女を昨晩、ボルドは蹂躙した。
――そう。まさしく蹂躙だ。
翌日、ボルドはベッドに眠る彼女の顔をまともに見ることは出来なかった。
あまりにも身勝手なことをしてしまった。
小さく嘆息する。
ボルドは眠る彼女の髪を梳かす。彼女は「……う」と眉を動かした。自分に資格などないのは分かっているが、せめて彼女の心が壊れていないことを祈る。
それから黒いスーツで身を固めて、いくつか持参していた書類の中から『部署移動届』を見つけると、承諾のサインをして、机の上に置いた。
こんな上司とは、顔を合わせるのも嫌だろう。
加え、何の気休めにもならないが、謝罪文も添えた。
その後、ボルドは部屋を後にした。
そうして、今に至るのである。
(一人で行動するなどいつ以来でしょうか)
森の中を一人進むボルド。
ボルドが「ラフィルの森」にいる理由は簡単だ。
昼ほどにクライン工房へ赴いた際に、アッシュ達が出かけるのを見つけて、そのまま後をつけてきたのである。
(まあ、クラインさんは気付いているでしょうがね)
気配は消しているが、恐らく無駄だろう。
アッシュは気付いている。その上であえて誘っている訳だ。
(やはり恐ろしい人ですね。クラインさんは)
森の中を進みながら、ボルドは笑う。
体調は恐ろしく良かった。
まるで全盛期の――二十代の頃に戻ったようだ。
これもカテリーナの最後の仕事のおかげか。彼女の信頼と、彼女自身を失ったことは大きいが、おかげで今の自分は間違いなく強い。
(ですが、いつ声をかけましょうか?)
ボルドは、少し困ってしまう。
ついてきたのはいいが、仕掛けるタイミングが掴みづらい。
アッシュ達は、川辺でレジャーシートを広げていた。
恐らくここで昼食を取るつもりなのだろう。
バスケットの中から、サンドイッチ(?)らしきものを取り出している。
(そういえば、私も食事はまだでしたね)
少し腹が鳴ったような気がした。
と、その時だった。
「おい。出て来いよ」
不意に声を掛けられた。アッシュの声だ。
ボルドは少し目を瞠る。尾行には気付かれているとは思っていたが、まさか、先に声を掛けられるとは思っていなかったのだ。
「……おやおや。やはり気付かれていましたか」
声まで掛けられて無視するのは、流石に間抜けだ。
ボルドは森を出て、川辺へと足を進めた。
微笑んで尋ねる。
「お邪魔でしたか?」
「まあな。ったく。折角の家族の団欒を邪魔しやがって」
そう告げるアッシュに、ボルドは、くつくつと笑う。
「それは申し訳ないことをしてしまいましたね」
「ああ。まったくだ。けど、来ちまったのは仕方がねえ」
アッシュは、ボルドに告げた。
「こっちに来いよ。菓子折りの礼に飯を奢ってやるよ」
ボルドは再び目を瞠る。
まさか、菓子折りの礼とは――。
(やはりクラインさんは面白いですね)
内心で苦笑しつつ、
「そうですか」
ボルドは返答する。
「では、折角ですし、ご相伴にあがりましょうか」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜
昼寝部
ファンタジー
2XXX年、X月。
俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。
そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。
その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。
俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。
これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる