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第12部
第七章 憩いの森②
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ボルドは、静かな面持ちで空を見上げていた。
目の前には森の風景が続けている。「ラフィルの森」というらしい。
穏やかな空気。
普通ならば、心が落ち着くだろう。
しかし、ボルドは嘆息した。
脳裏に浮かぶのは、昨晩のことだ。
正直に言って、やってしまったと思う。
(カテリーナさん。とても優秀な子でした)
自分の右腕とも呼べる秘書。
そんな彼女を昨晩、ボルドは蹂躙した。
――そう。まさしく蹂躙だ。
翌日、ボルドはベッドに眠る彼女の顔をまともに見ることは出来なかった。
あまりにも身勝手なことをしてしまった。
小さく嘆息する。
ボルドは眠る彼女の髪を梳かす。彼女は「……う」と眉を動かした。自分に資格などないのは分かっているが、せめて彼女の心が壊れていないことを祈る。
それから黒いスーツで身を固めて、いくつか持参していた書類の中から『部署移動届』を見つけると、承諾のサインをして、机の上に置いた。
こんな上司とは、顔を合わせるのも嫌だろう。
加え、何の気休めにもならないが、謝罪文も添えた。
その後、ボルドは部屋を後にした。
そうして、今に至るのである。
(一人で行動するなどいつ以来でしょうか)
森の中を一人進むボルド。
ボルドが「ラフィルの森」にいる理由は簡単だ。
昼ほどにクライン工房へ赴いた際に、アッシュ達が出かけるのを見つけて、そのまま後をつけてきたのである。
(まあ、クラインさんは気付いているでしょうがね)
気配は消しているが、恐らく無駄だろう。
アッシュは気付いている。その上であえて誘っている訳だ。
(やはり恐ろしい人ですね。クラインさんは)
森の中を進みながら、ボルドは笑う。
体調は恐ろしく良かった。
まるで全盛期の――二十代の頃に戻ったようだ。
これもカテリーナの最後の仕事のおかげか。彼女の信頼と、彼女自身を失ったことは大きいが、おかげで今の自分は間違いなく強い。
(ですが、いつ声をかけましょうか?)
ボルドは、少し困ってしまう。
ついてきたのはいいが、仕掛けるタイミングが掴みづらい。
アッシュ達は、川辺でレジャーシートを広げていた。
恐らくここで昼食を取るつもりなのだろう。
バスケットの中から、サンドイッチ(?)らしきものを取り出している。
(そういえば、私も食事はまだでしたね)
少し腹が鳴ったような気がした。
と、その時だった。
「おい。出て来いよ」
不意に声を掛けられた。アッシュの声だ。
ボルドは少し目を瞠る。尾行には気付かれているとは思っていたが、まさか、先に声を掛けられるとは思っていなかったのだ。
「……おやおや。やはり気付かれていましたか」
声まで掛けられて無視するのは、流石に間抜けだ。
ボルドは森を出て、川辺へと足を進めた。
微笑んで尋ねる。
「お邪魔でしたか?」
「まあな。ったく。折角の家族の団欒を邪魔しやがって」
そう告げるアッシュに、ボルドは、くつくつと笑う。
「それは申し訳ないことをしてしまいましたね」
「ああ。まったくだ。けど、来ちまったのは仕方がねえ」
アッシュは、ボルドに告げた。
「こっちに来いよ。菓子折りの礼に飯を奢ってやるよ」
ボルドは再び目を瞠る。
まさか、菓子折りの礼とは――。
(やはりクラインさんは面白いですね)
内心で苦笑しつつ、
「そうですか」
ボルドは返答する。
「では、折角ですし、ご相伴にあがりましょうか」
目の前には森の風景が続けている。「ラフィルの森」というらしい。
穏やかな空気。
普通ならば、心が落ち着くだろう。
しかし、ボルドは嘆息した。
脳裏に浮かぶのは、昨晩のことだ。
正直に言って、やってしまったと思う。
(カテリーナさん。とても優秀な子でした)
自分の右腕とも呼べる秘書。
そんな彼女を昨晩、ボルドは蹂躙した。
――そう。まさしく蹂躙だ。
翌日、ボルドはベッドに眠る彼女の顔をまともに見ることは出来なかった。
あまりにも身勝手なことをしてしまった。
小さく嘆息する。
ボルドは眠る彼女の髪を梳かす。彼女は「……う」と眉を動かした。自分に資格などないのは分かっているが、せめて彼女の心が壊れていないことを祈る。
それから黒いスーツで身を固めて、いくつか持参していた書類の中から『部署移動届』を見つけると、承諾のサインをして、机の上に置いた。
こんな上司とは、顔を合わせるのも嫌だろう。
加え、何の気休めにもならないが、謝罪文も添えた。
その後、ボルドは部屋を後にした。
そうして、今に至るのである。
(一人で行動するなどいつ以来でしょうか)
森の中を一人進むボルド。
ボルドが「ラフィルの森」にいる理由は簡単だ。
昼ほどにクライン工房へ赴いた際に、アッシュ達が出かけるのを見つけて、そのまま後をつけてきたのである。
(まあ、クラインさんは気付いているでしょうがね)
気配は消しているが、恐らく無駄だろう。
アッシュは気付いている。その上であえて誘っている訳だ。
(やはり恐ろしい人ですね。クラインさんは)
森の中を進みながら、ボルドは笑う。
体調は恐ろしく良かった。
まるで全盛期の――二十代の頃に戻ったようだ。
これもカテリーナの最後の仕事のおかげか。彼女の信頼と、彼女自身を失ったことは大きいが、おかげで今の自分は間違いなく強い。
(ですが、いつ声をかけましょうか?)
ボルドは、少し困ってしまう。
ついてきたのはいいが、仕掛けるタイミングが掴みづらい。
アッシュ達は、川辺でレジャーシートを広げていた。
恐らくここで昼食を取るつもりなのだろう。
バスケットの中から、サンドイッチ(?)らしきものを取り出している。
(そういえば、私も食事はまだでしたね)
少し腹が鳴ったような気がした。
と、その時だった。
「おい。出て来いよ」
不意に声を掛けられた。アッシュの声だ。
ボルドは少し目を瞠る。尾行には気付かれているとは思っていたが、まさか、先に声を掛けられるとは思っていなかったのだ。
「……おやおや。やはり気付かれていましたか」
声まで掛けられて無視するのは、流石に間抜けだ。
ボルドは森を出て、川辺へと足を進めた。
微笑んで尋ねる。
「お邪魔でしたか?」
「まあな。ったく。折角の家族の団欒を邪魔しやがって」
そう告げるアッシュに、ボルドは、くつくつと笑う。
「それは申し訳ないことをしてしまいましたね」
「ああ。まったくだ。けど、来ちまったのは仕方がねえ」
アッシュは、ボルドに告げた。
「こっちに来いよ。菓子折りの礼に飯を奢ってやるよ」
ボルドは再び目を瞠る。
まさか、菓子折りの礼とは――。
(やはりクラインさんは面白いですね)
内心で苦笑しつつ、
「そうですか」
ボルドは返答する。
「では、折角ですし、ご相伴にあがりましょうか」
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