クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
383 / 499
第12部

第八章 小鳥は羽ばたく⑥

しおりを挟む
 パカパカ、と。
 ほぼ同時刻。木々が生い茂る森の中。
 アッシュとユーリィは、ララザに乗って、ある場所に向かっていた。
 元々、この森に来た目的の場所だ。
 森の中を進んでいくララザ。
 すると、不意に視界が大きく開ける。

 日差しが差し込む。
 そこは、大きな広場だった。


「ああ。やっぱここは開発中止になったんだな」


 その場所は、荒れ果てた地だった。
 元々は別荘でも造る予定だったと思うが、現在は明らかに放置されている。
 地面には亀裂が走り、中には巨大なクレーターまである。
 これでは、開発しようもなかったのだろう。


「………」


 ユーリィが、キュッと唇を噛んだ。
 アッシュは、そんなユーリィの頭を撫でた。


「……大丈夫か? ユーリィ」

「……うん」


 ユーリィは頷く。
 ここは、かつて聖骸化したユーリィとアッシュが戦った場所だ。
 彼女にとっては忌まわしい場所である。


(……ユーリィ)


 何故、ユーリィがここに来たがったのか。
 それは、アッシュにも分からなかった。
 ともあれ、アッシュはララザから降りる。
 次いで、ユーリィも降ろした。
 ユーリィは数歩ほど、前に進んだ。
 そして、広場の景観を静かな眼差しで見つめていた。
 アッシュもまた沈黙していた。
 静かにユーリィの背中を見つめている。と、


「……アッシュ」


 おもむろに、ユーリィは振り向いた。
 そこには、柔らかな笑みがある。


「……あのね、伝えたいことがあるの」

「おう。何だ?」


 アッシュが尋ねる。と、ユーリィは笑った。


「……私ね。アッシュのことが好きなの」

「おう。そっか」


 アッシュも笑う。


「俺も好きだぞ」


 それは、家族としての愛だった。
 ユーリィは「違う」とかぶりを振る。


「家族じゃない。私は女の子としてアッシュが好きなの」

「……え」


 アッシュは目を丸くする。
 それは、本当に驚いた表情だった。
 ユーリィは、アッシュの瞳を真っ直ぐ見据えた。


「ずっと、ずっと好きだったの」

「……ユーリィ」


 アッシュは察する。
 ユーリィの言葉が、本気であることを。
 だからこそ、グッと拳を固める。


「……ユーリィ。俺は……」


 これは考えたこともなかった。
 アッシュにとって、ユーリィは最も守るべき者だ。
 妹のように、娘のように想ってきた。
 そんな彼女が、異性として自分に想いを寄せていたとは……。
 だが、その想いに応えることは――。


(……すまねえ)


 アッシュは数秒ほど、瞳を閉じた。
 そして決意し、口を開こうとした時だった。
 おもむろに、ユーリィが片手を前に突き出してきたのだ。
 彼女はかぶりを振った。


「アッシュの困惑は分かっている」

「……え」

「……ホントのところ」


 ユーリィは、微苦笑を浮かべた。


「私にも、よく分からない」

「……分からない?」


 アッシュは眉根を寄せた。
 ユーリィは、視線をクレーターの方に向けた。


「アッシュとは、ずっと家族だったから。だから、私のこの想いが、恋なのか、それとも家族としての愛なのか、まだよく分からない」

「……ユーリィ」

「だから、待って欲しい」


 ユーリィはキャミソールを揺らして、再び視線をアッシュに戻した。


「私が、十六歳になるまで」

「……十六歳だって?」


 眉をひそめるアッシュに、ユーリィは静かに頷いた。


「うん。十六歳。その時にまでに、私のこの想いが本当に恋なのか、家族愛なのか、それをはっきりさせるから。だから、その時に想いに応えて欲しい」

「………ユーリィ」


 アッシュは少し茫然としていた。
 ――が、しばらくして「そっか」と呟く。


「ああ。分かったよ。そん時には答えてやる。ゆっくり考えろよ」


 アッシュは笑う。
 ユーリィは「うん」と頷くが、すぐに、


「それよりも抱っこして」


 そう言って、両手をかざすように前に出した。


「……おいおい」


 アッシュは苦笑する。
 恋なのか、家族愛なのか。
 よく分からないと言った傍から甘えるとは。
 ユーリィは、やはりまだまだ子供だった。


「仕方がねえな」


 アッシュは、ボリボリと頭をかいて歩き出した。
 そしてユーリィの元に行き、彼女の腰を掴もうと前屈みになった時。
 不意に。
 すうっと、ユーリィに両頬を押さえられたのだ。


(……ん?)


 いつもと違うユーリィの対応に、アッシュが眉根を寄せた。
 その瞬間だった。
 アッシュの唇に、とても柔らかいものが触れる。
 アッシュは両目を見開いた。
 それは、ユーリィの唇だった。
 ユーリィの口付けは、さらに続く。
 頬を押さえる手は緊張でずっと震えている。けれど、拙いながらも必死に相手を求めて舌まで絡めようとするそれは、まごうことなき、愛の証だった。
 アッシュは、ただ茫然として固まってしまった。

 口付けは、およそ十数秒間も続いた。
 そうして――。


「……ん」


 銀色の細い糸を引きつつ、ユーリィは、ようやく唇を離した。
 アッシュは目を見開いたまま、彼女を見つめていた。
 すると、


「……私の想いは、彼女にだって負けない」


 少女は、微笑んで宣言する。



「もう淡い恋なんかじゃない。私もを愛しているから」



「――ッ!?」


 アッシュは唖然とした。


「お、お前、どこでその名前……い、いや」


 アッシュは身を屈めて、自分の口を片手で押さえた。


「お前、なんつうことを……」

「……ふふ」


 ユーリィは、桜色の唇を愛らしく動かして笑う。


「もう遅い。それに言質も取った」

「……は?」


 アッシュは口から手を放して呆気にとられる。

 ユーリィは、とても嬉しそうに語り出した。


「私が十六歳になった時、私が想いをはっきりさせていたら、アッシュは私の想いに応えてくれるって言った」

「い、いや、そりゃあ答えるとは言ったが」


 アッシュが困惑してそう返すと、ユーリィは自分の唇に人差し指を当てた。


「私はと言った。告白の返事が欲しいとは言っていない」


 一拍の間。


「――はァ!? 何だそれ!?」


 愕然とするアッシュの首に、ユーリィはしがみついた。
 そして彼女は告げる。


「これでもう私は確定した。私の気持ちが揺らぐことなんて絶対にないから。十六歳になったらアッシュが私を貰ってくれる」

「お、おい。ユーリィ……」


 アッシュは動揺するが、強かな少女は気にしない。
 再び右手の指先を自分の唇に重ねて。


「けど、もっと早く手を出すのもOK。今の私の体だとまだかなりキツイとは思うけど、頑張って受け入れてみせるから」


 そう告げて、頬を染めつつ、自分の下腹部辺りに両手をそっと添えた。
 その台詞、その仕草が意味するところは明白である。
 流石に、アッシュの鈍感さでも気付く。


「おい!? ユーリィ!?」


 こればかりは叱ろうとするが、ユーリィは最後まで強かだった。


「ん。アッシュ」


 アッシュの名を呼んで近づくと『娘』の親しさでアッシュに頬ずりをする。先ほどまでの過激な宣言とは一転して子供らしい仕草だ。アッシュとしては邪険には出来ない。
 そうして、アッシュが油断したところで、


「……ん」


『女』の強かさを以て、軽めだが、もう一度唇を重ねる。
 またしても、アッシュは固まってしまった。


「ユ、ユーリィ!」


 アッシュが正気に返って、彼女を掴まえようとする前に、その場を離れる。
 ユーリィはそのまま駆け出した。欠伸をしていたララザの元へと。
 そこで、くるりと反転。


「アッシュ。帰ろう」


 微笑みながら、そう告げる。
 アッシュは、その場で茫然としていたが、


(うわあ、やられちまったなあ)


 少女の強かさに、ただただ舌を巻いた。
 ユーリィは、今も微笑んでいる。
 完全に翻弄されてしまった。


『女というのは早熟なんだ。特に心は男よりも成長が早いんだぞ』


 ふと、脳裏にオトハの言葉を浮かぶ。
 まったくだ。
 まったくもって、その通りだった。


(なんか、俺の将来が不安になって来たぞ)


 手招きをするユーリィを一瞥しつつ。
 今はただ、苦笑を浮かべるだけのアッシュであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

処理中です...