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第13部
第三章 神は願う④
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「……お茶でも出そうか?」
クライン工房の作業場。
アッシュが、そう尋ねると、
「……イヤ。オカマイナク」
パイプ椅子に乗かった零号が、そう返した。
アッシュは苦笑しつつ、自分もパイプ椅子に座った。
現在、工房には客がいない。受注している仕事も一段落ついたところだ。
だから、この珍客に応答するのも悪くない。
「けど、一機だけで何しに来たんだ?」
「……ウム。ソウダナ」
零号は、アッシュを見つめた。
「……ウムガ、ヘコンデイルト、オモッタカラナ」
「……いや、ヘコむって……」
アッシュは頬をかいた。すると零号は、
「……コウタカラ、乙女ノコトハ、キイタノダロウ?」
そんなことを言い出した。
アッシュは、思わず目を丸くした。
「いや、乙女って、もしかしてサクのことか?」
「……ウム。《悠月ノ乙女》ノコトダ」
零号は頷く。アッシュは眉根を寄せた。
「ゆうづき? 何だそりゃあ?」
聞いたことのない単語に、アッシュが尋ねると、
「……悠久二、寄リソウ、月トイウ意味ダ」
零号は尻尾を、プラプラと揺らして答えた。
「……王二、心カラ望レタ乙女タチ。王ノ愛ニヨッテ、カガヤキ、円環ノ月トナル。カツテハ、九人イテ、《九耀星》トモ、ヨバレテイタガ――」
そこで零号は首を傾げた。
「……今回モ、九人ナノカ?」
「……いや、だから何の話だ? それ?」
ますますもって意味不明なことを言う零号に、アッシュは呆れた。
それに何やら不穏な響きの名称もあったので眉をしかめた。
すると、それに対し、零号は静かな眼差しでアッシュの黒い瞳を見据えた。
まるでアッシュの心の裡でも覗くように……。
「……ウム」
零号は頷いた。
「……《悠月》ガ、八ツ。今回ハ、八人カ。ソレトモ、フエルノカ? トモアレ、ソノ内、フタツガ、特二強ク、カガヤイテイルナ」
「いや、お前、大丈夫か?」
アッシュは少し困った顔をした。
流石に、そろそろ零号の思考回路が不安になってくる。
これはメルティアに伝えておくべきか?
と、考えていたら、零号が親指をグッと立てた。
「……マダ先ハナガイ。アト六人。ガンバレ」
「いや。マジでメルティア嬢ちゃんのところに連れてってやろうか?」
これは相当ヤバいかもしれない。
アッシュは立ち上がって、零号を抱え上げようとした。
が、その前に零号は素早く地面に降りた。
がしゅん、という独特な着地音が響く。
零号は、その勢いのまま背中を向けて走り出した。
「お、おい。ちょっと待てって」
アッシュは零号を後ろから捕まえようとしたが、短い脚の割には足が速い。あっという間に作業場の出口付近に駆け抜ける。
「おいチビ。だから待てって」
アッシュが追いかけながら呼びかける。
すると、零号は振り返った。
そして、
「……マヨウナ。友ヨ」
再び語り出す。
その眼差しは、遥か悠久を見据えているようだった。
機械だと分かっているのに、強い意志を感じて、アッシュは足を止めた。
「……イマノウヌト、カツテノウヌハ、別人ダ。強欲ナチカラナド、イマノウムニハ、不要ナモノダロウ」
零号は、淡々と語り続ける。
と、その時だった。
(………ん?)
アッシュは怪訝そうに眉をひそめた。
不意に、小さな機体の影が、わずかに揺らめいたような気がしたのだ。
室内外の光源のせいか、影が少し大きくなったような気もする。
恐らくは錯覚なのだろうが、それはまるで獣の姿を象っているように見えた。
「……ケレド、彼女タチダケハ、別ダ。友ヨ。彼女タチ二ハ、強欲二ナレ。スベテヲネジフセテデモ、乙女タチヲ、腕二抱クノダ。《悠月ノ乙女》タチハ、必ズ、ウヌヲ幸セニ、ミチビイテクレルハズダカラナ。ワガ《御子》ノ《贄ナル花嫁》タチト同ジヨウニ」
「……お前」
アッシュは双眸を細めた。わずかな疑念が浮かぶ。
とても馬鹿馬鹿しい疑念だ。
――今、自分の目の前にいるのは、本当に鎧機兵なのだろうか。
そんな思いが胸中をよぎった。
「……何モンだ。お前は?」
アッシュは、率直に聞いた。
すると、零号はグッと親指を立てて、
「……メルサマヲマモル、メルティアン魔窟キシ団ノ団長ダ。ソシテ、ウヌノ友ダ」
そう告げた。
どこか自慢げなご様子である。
「いやいや。いつ俺がお前のダチになったんだよ」
アッシュが苦笑する。と、
「…‥ズット前カラダ。トモアレ、今ハ、ホカノ乙女ノ前二」
零号は再び前を向いて、歩き出した。
別れの挨拶のように、右の拳を突き上げながら。
「……マズハ、最初ノ乙女ヲ、スクッテヤレ」
そう告げて、零号は作業場から立ち去って行った。
アッシュは、しばらく零号が立ち去った場所を見つめていた。
が、ややあって、ボリボリと頭をかいた。
終始、訳の分からないことばかり言っていたが、結局、零号が言いたかったのは最後の台詞だけなのだろう。それを告げるために、わざわざ出向いてきたのだ。
恐らくコウタ経由で事情を知っていたのだろうが、何ともお節介な鎧機兵である。
「ったくよ。そんなこと、分かっているさ」
そう呟いて、苦笑を浮かべるアッシュだった。
クライン工房の作業場。
アッシュが、そう尋ねると、
「……イヤ。オカマイナク」
パイプ椅子に乗かった零号が、そう返した。
アッシュは苦笑しつつ、自分もパイプ椅子に座った。
現在、工房には客がいない。受注している仕事も一段落ついたところだ。
だから、この珍客に応答するのも悪くない。
「けど、一機だけで何しに来たんだ?」
「……ウム。ソウダナ」
零号は、アッシュを見つめた。
「……ウムガ、ヘコンデイルト、オモッタカラナ」
「……いや、ヘコむって……」
アッシュは頬をかいた。すると零号は、
「……コウタカラ、乙女ノコトハ、キイタノダロウ?」
そんなことを言い出した。
アッシュは、思わず目を丸くした。
「いや、乙女って、もしかしてサクのことか?」
「……ウム。《悠月ノ乙女》ノコトダ」
零号は頷く。アッシュは眉根を寄せた。
「ゆうづき? 何だそりゃあ?」
聞いたことのない単語に、アッシュが尋ねると、
「……悠久二、寄リソウ、月トイウ意味ダ」
零号は尻尾を、プラプラと揺らして答えた。
「……王二、心カラ望レタ乙女タチ。王ノ愛ニヨッテ、カガヤキ、円環ノ月トナル。カツテハ、九人イテ、《九耀星》トモ、ヨバレテイタガ――」
そこで零号は首を傾げた。
「……今回モ、九人ナノカ?」
「……いや、だから何の話だ? それ?」
ますますもって意味不明なことを言う零号に、アッシュは呆れた。
それに何やら不穏な響きの名称もあったので眉をしかめた。
すると、それに対し、零号は静かな眼差しでアッシュの黒い瞳を見据えた。
まるでアッシュの心の裡でも覗くように……。
「……ウム」
零号は頷いた。
「……《悠月》ガ、八ツ。今回ハ、八人カ。ソレトモ、フエルノカ? トモアレ、ソノ内、フタツガ、特二強ク、カガヤイテイルナ」
「いや、お前、大丈夫か?」
アッシュは少し困った顔をした。
流石に、そろそろ零号の思考回路が不安になってくる。
これはメルティアに伝えておくべきか?
と、考えていたら、零号が親指をグッと立てた。
「……マダ先ハナガイ。アト六人。ガンバレ」
「いや。マジでメルティア嬢ちゃんのところに連れてってやろうか?」
これは相当ヤバいかもしれない。
アッシュは立ち上がって、零号を抱え上げようとした。
が、その前に零号は素早く地面に降りた。
がしゅん、という独特な着地音が響く。
零号は、その勢いのまま背中を向けて走り出した。
「お、おい。ちょっと待てって」
アッシュは零号を後ろから捕まえようとしたが、短い脚の割には足が速い。あっという間に作業場の出口付近に駆け抜ける。
「おいチビ。だから待てって」
アッシュが追いかけながら呼びかける。
すると、零号は振り返った。
そして、
「……マヨウナ。友ヨ」
再び語り出す。
その眼差しは、遥か悠久を見据えているようだった。
機械だと分かっているのに、強い意志を感じて、アッシュは足を止めた。
「……イマノウヌト、カツテノウヌハ、別人ダ。強欲ナチカラナド、イマノウムニハ、不要ナモノダロウ」
零号は、淡々と語り続ける。
と、その時だった。
(………ん?)
アッシュは怪訝そうに眉をひそめた。
不意に、小さな機体の影が、わずかに揺らめいたような気がしたのだ。
室内外の光源のせいか、影が少し大きくなったような気もする。
恐らくは錯覚なのだろうが、それはまるで獣の姿を象っているように見えた。
「……ケレド、彼女タチダケハ、別ダ。友ヨ。彼女タチ二ハ、強欲二ナレ。スベテヲネジフセテデモ、乙女タチヲ、腕二抱クノダ。《悠月ノ乙女》タチハ、必ズ、ウヌヲ幸セニ、ミチビイテクレルハズダカラナ。ワガ《御子》ノ《贄ナル花嫁》タチト同ジヨウニ」
「……お前」
アッシュは双眸を細めた。わずかな疑念が浮かぶ。
とても馬鹿馬鹿しい疑念だ。
――今、自分の目の前にいるのは、本当に鎧機兵なのだろうか。
そんな思いが胸中をよぎった。
「……何モンだ。お前は?」
アッシュは、率直に聞いた。
すると、零号はグッと親指を立てて、
「……メルサマヲマモル、メルティアン魔窟キシ団ノ団長ダ。ソシテ、ウヌノ友ダ」
そう告げた。
どこか自慢げなご様子である。
「いやいや。いつ俺がお前のダチになったんだよ」
アッシュが苦笑する。と、
「…‥ズット前カラダ。トモアレ、今ハ、ホカノ乙女ノ前二」
零号は再び前を向いて、歩き出した。
別れの挨拶のように、右の拳を突き上げながら。
「……マズハ、最初ノ乙女ヲ、スクッテヤレ」
そう告げて、零号は作業場から立ち去って行った。
アッシュは、しばらく零号が立ち去った場所を見つめていた。
が、ややあって、ボリボリと頭をかいた。
終始、訳の分からないことばかり言っていたが、結局、零号が言いたかったのは最後の台詞だけなのだろう。それを告げるために、わざわざ出向いてきたのだ。
恐らくコウタ経由で事情を知っていたのだろうが、何ともお節介な鎧機兵である。
「ったくよ。そんなこと、分かっているさ」
そう呟いて、苦笑を浮かべるアッシュだった。
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