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第13部
第三章 神は願う③
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――場所は変わり、市街区の大通り。
クライン工房に向かって帰宅中、ユーリィは背中に悪寒を感じた。
まだ時刻は午後四時を過ぎたぐらいだ。日差しは充分に暖かい。
だというのに、どうしてか、凄い悪寒を感じたのだ。
足取りを止めて、思わず背中に手をやった。
「……ドウカシタノカ? ユーリィ」
と、護衛として同行している九号が尋ねる。
全身に紫色の鎧を纏う小さな騎士。
プラプラ、と左右に揺れる尾が愛らしい自律型鎧機兵であるゴーレムだ。
親愛と友情の証として義妹からユーリィに贈られた彼は、すっかりユーリィの護衛役が板についていた。ユーリィの体調が悪そうだと、こうやって気遣うぐらいだ。
ユーリィは九号に目をやった。
「心配してくれてありがとう。九号さん」
礼を言う。
「少し悪寒を感じたけど、もう大丈夫。多分気のせいだと思う」
特に体調が悪い訳ではない。
きっと、誰かが噂でもしていたのだろう。
「…‥ウム。ソウカ」
がしゅん、がしゅんと足音を鳴らして九号が言う。
ユーリィ達は今、店舗が並ぶ市街区の大通りを歩いていた。
王城での会議を終えた帰りだ。
――結局、あの会議は大いに荒れた。
主題であるサクヤの件は、意外にもあっさりと結論付いた。
――一度逢って、話をしたい。
満場一致で、そう決まったのだ。
だが、その後が荒れた。
急遽、オトハの尋問会が開かれたのである。
長机を全員で端に寄せた後、中央にオトハを座らせ、周囲に円を描いて各自が座る。
『い、いや、そのな……』
中央で座るオトハは完全に縮こまっていた。
両脚はしっかり閉じて拳は膝の上、終始おどおどとしていた。
そこに歴戦の傭兵の面影はない。完全なる乙女だ。
『では、詳細を話してください』
ある程度の事情聴取をすでに終えているミランシャとシャルロットが沈黙していたため、議長はアリシアが務めていた。
そして、オトハは語り出した。
あの夜の詳細を。主にアッシュに口説かれたやり取りをだ。
ミランシャとシャルロットは別として、初めて話を聞くアリシア達は、全員が複雑な心境で耳を傾けていた。
そうして――。
『な、なるほど……』
アリシアが、大きく息を吐き出した。
『やっぱり、オトハさん自身が以前言っていた通り、誰かに奪われそうになるのって劇的に効果があるのね』
『う、うん。そだね』
サーシャが、赤い顔で頷いた。
『けど、それなら私、定評があるよ。だって二回も誘拐されたことがあるし』
『いや。サーシャの場合、肝心の進展がないじゃない』
『う……』
『進展なら、むしろ私の方がある』
その時、ユーリィが口を開いた。ややドヤ顔である。
ミランシャ達も含めて、全員がユーリィに視線を向けた。
『何故なら、こないだアッシュとキスをしたから』
『『『『……………え』』』』
『それも隙を突いて、大人キッスをしてやった』
『『『『えええええええっ!?』』』』
全員が愕然とした表情を見せた。
ユーリィはおもむろに立ち上がり、自分の腰に手を当てた。
慎ましい胸を誇らしげに張る。
『その際に言質も取った。私は十六になったらアッシュに貰われることが確定した』
『『『『――――はあっ!?』』』』
思わず全員が椅子から立ち上がった。
ガタンッ、ガタンッと椅子が次々と倒れる。
『何それっ!? 何があったの!?』
と、アリシアを筆頭に女性陣は一斉にユーリィに詰め寄った。
『うん。それはね……』
そうして、ユーリィは語る。
ボルド=グレッグとの戦いの後のことを。
アリシア達は、ユーリィの策略の妙に舌を巻いた。
『……ユーリィちゃん。やるわね……』
ミランシャが、感嘆と畏怖の声を零した。
アッシュの現恋人であるオトハは、何とも言えない表情をしていた。
『クラインの奴は、昔からお前に対してだけは本当に無防備だったからな』
深々と嘆息する。と、
『あの、オトハさん』
その時、これまであまり発言がなかったルカが、オトハの腕を取った。
クイクイと、手を引っ張っている。
『……? 何だ? 王女』
『ルカ、でいいです。それより、その……』
ルカは、澄んだ湖のような眼差しでオトハを見据えた。
『お、教えてください。その、話の続きを。仮面さんとの、夜の事柄を、詳細に』
一拍の間。
『『『『――――ルカっ!?』』』』
アリシア達は、愕然と彼女の名を叫んだ。
『ル、ルカちゃん……?』『ル、ルカさま?』
ミランシャとシャルロットも、茫然としている。
ここまで注目されると、いつもならば『ひ、ひうっ!』と縮こまるルカなのだが、この時だけは耳まで赤くなりつつもはっきりと告げた。
『し、知っておいた方がいい、と思うんです。じ、自分達の時のために』
その台詞に、オトハは言葉を失った。
アリシア達も、目を見開いて沈黙する。
が、ややあって、アリシア達は互いの顔を見合わした。
そして、ユーリィとミランシャ、シャルロットは自分の席に着き、サーシャとアリシアはオトハの両腕を掴んで『え? え?』と困惑する彼女を中央席に座らせた。
最後に、こくんと頷いたルカも含めて、自分達も席に座る。
『そ、それじゃあ、お願い、します』
ルカが代表してオトハにぺこりと頭を下げた。
『いやっ!? なんでだっ!?』
オトハが愕然とした声を上げるが、ルカ達は気にしない。
ただただ無言の圧力を放つ。オトハは口をパクパクと開くだけで、そもそも拒否権などなく、詳細に話させられることになった。
まあ、その結果、ルカ達がどんな表情になったかは語るまでもない。
一度事情聴取したはずのミランシャやシャルロットも含めてだ。
(……頑張らないと……)
オトハから聞かされた内容を思い出して、ユーリィはふうと嘆息する。
顔を赤くしつつも、彼女は決意を改めた。
(特に、私はみんなの中で一番幼いから……)
ユーリィは、キャミソール越しに、自分の胸元に目をやった。
凹凸が全くない訳ではない。昔よりも着実に成長している。
次いで腰に手をやり、続けてお尻に触れる。
腰つきは凄く細いし、お尻にはそこそこの肉つきもある。
一時期は、ずっと幼児体型のままなのかと、かなり不安だったが、最近は少しずつ伸びている身長に合わせて、体の成長具合も感じ取れるようになった。女性らしさは、間違いなく表れ始めている。
とは言え、他の面々――特に、オトハやサーシャ、シャルロットのスタイルには遠く及ばない。年齢差もあるが、アリシアやミランシャにも劣っている。
特に、ほぼ同い年のルカと比べると、嫌でも落ち込んでしまうのが現実だ。
サクヤに至っては、もう比べたくもなかった。
アッシュの好みが性格重視なのは知っているが、やはり相当不利な気がする。
ここは、せめて、知識かテクニックぐらいは備えておくべきか……。
そんなことを考えていた矢先だった。
「…‥ウム。ソウイエバ」
おもむろに、九号が口を開いた。
「……クラインコウボウ、ナノダガ」
「…‥なに?」
ユーリィが九号に目をやった。
「……サッキ、ゴーレム・ネットワーク・サービス……GNSデ、レンラクガアッタ。アニジャガ、キテルソウダ」
「兄者って……零号さんのこと?」
ゴーレムの零号機。メルティアが最初に造ったゴーレムだと聞いている。
ゴーレム達の隊長機でもあり、常にメルティアの傍にいる機体だ。
「じゃあ、メルティアかコウタ君が遊びに来ているの?」
ユーリィがそう尋ねると、九号は首を横に振った。
「……イヤ。アニジャダケダ」
「……零号さんだけ?」
それはまた珍しい。
ユーリィには、素朴な疑問を抱いた。
「どうして、零号さんだけが遊びに来たんだろう?」
クライン工房に向かって帰宅中、ユーリィは背中に悪寒を感じた。
まだ時刻は午後四時を過ぎたぐらいだ。日差しは充分に暖かい。
だというのに、どうしてか、凄い悪寒を感じたのだ。
足取りを止めて、思わず背中に手をやった。
「……ドウカシタノカ? ユーリィ」
と、護衛として同行している九号が尋ねる。
全身に紫色の鎧を纏う小さな騎士。
プラプラ、と左右に揺れる尾が愛らしい自律型鎧機兵であるゴーレムだ。
親愛と友情の証として義妹からユーリィに贈られた彼は、すっかりユーリィの護衛役が板についていた。ユーリィの体調が悪そうだと、こうやって気遣うぐらいだ。
ユーリィは九号に目をやった。
「心配してくれてありがとう。九号さん」
礼を言う。
「少し悪寒を感じたけど、もう大丈夫。多分気のせいだと思う」
特に体調が悪い訳ではない。
きっと、誰かが噂でもしていたのだろう。
「…‥ウム。ソウカ」
がしゅん、がしゅんと足音を鳴らして九号が言う。
ユーリィ達は今、店舗が並ぶ市街区の大通りを歩いていた。
王城での会議を終えた帰りだ。
――結局、あの会議は大いに荒れた。
主題であるサクヤの件は、意外にもあっさりと結論付いた。
――一度逢って、話をしたい。
満場一致で、そう決まったのだ。
だが、その後が荒れた。
急遽、オトハの尋問会が開かれたのである。
長机を全員で端に寄せた後、中央にオトハを座らせ、周囲に円を描いて各自が座る。
『い、いや、そのな……』
中央で座るオトハは完全に縮こまっていた。
両脚はしっかり閉じて拳は膝の上、終始おどおどとしていた。
そこに歴戦の傭兵の面影はない。完全なる乙女だ。
『では、詳細を話してください』
ある程度の事情聴取をすでに終えているミランシャとシャルロットが沈黙していたため、議長はアリシアが務めていた。
そして、オトハは語り出した。
あの夜の詳細を。主にアッシュに口説かれたやり取りをだ。
ミランシャとシャルロットは別として、初めて話を聞くアリシア達は、全員が複雑な心境で耳を傾けていた。
そうして――。
『な、なるほど……』
アリシアが、大きく息を吐き出した。
『やっぱり、オトハさん自身が以前言っていた通り、誰かに奪われそうになるのって劇的に効果があるのね』
『う、うん。そだね』
サーシャが、赤い顔で頷いた。
『けど、それなら私、定評があるよ。だって二回も誘拐されたことがあるし』
『いや。サーシャの場合、肝心の進展がないじゃない』
『う……』
『進展なら、むしろ私の方がある』
その時、ユーリィが口を開いた。ややドヤ顔である。
ミランシャ達も含めて、全員がユーリィに視線を向けた。
『何故なら、こないだアッシュとキスをしたから』
『『『『……………え』』』』
『それも隙を突いて、大人キッスをしてやった』
『『『『えええええええっ!?』』』』
全員が愕然とした表情を見せた。
ユーリィはおもむろに立ち上がり、自分の腰に手を当てた。
慎ましい胸を誇らしげに張る。
『その際に言質も取った。私は十六になったらアッシュに貰われることが確定した』
『『『『――――はあっ!?』』』』
思わず全員が椅子から立ち上がった。
ガタンッ、ガタンッと椅子が次々と倒れる。
『何それっ!? 何があったの!?』
と、アリシアを筆頭に女性陣は一斉にユーリィに詰め寄った。
『うん。それはね……』
そうして、ユーリィは語る。
ボルド=グレッグとの戦いの後のことを。
アリシア達は、ユーリィの策略の妙に舌を巻いた。
『……ユーリィちゃん。やるわね……』
ミランシャが、感嘆と畏怖の声を零した。
アッシュの現恋人であるオトハは、何とも言えない表情をしていた。
『クラインの奴は、昔からお前に対してだけは本当に無防備だったからな』
深々と嘆息する。と、
『あの、オトハさん』
その時、これまであまり発言がなかったルカが、オトハの腕を取った。
クイクイと、手を引っ張っている。
『……? 何だ? 王女』
『ルカ、でいいです。それより、その……』
ルカは、澄んだ湖のような眼差しでオトハを見据えた。
『お、教えてください。その、話の続きを。仮面さんとの、夜の事柄を、詳細に』
一拍の間。
『『『『――――ルカっ!?』』』』
アリシア達は、愕然と彼女の名を叫んだ。
『ル、ルカちゃん……?』『ル、ルカさま?』
ミランシャとシャルロットも、茫然としている。
ここまで注目されると、いつもならば『ひ、ひうっ!』と縮こまるルカなのだが、この時だけは耳まで赤くなりつつもはっきりと告げた。
『し、知っておいた方がいい、と思うんです。じ、自分達の時のために』
その台詞に、オトハは言葉を失った。
アリシア達も、目を見開いて沈黙する。
が、ややあって、アリシア達は互いの顔を見合わした。
そして、ユーリィとミランシャ、シャルロットは自分の席に着き、サーシャとアリシアはオトハの両腕を掴んで『え? え?』と困惑する彼女を中央席に座らせた。
最後に、こくんと頷いたルカも含めて、自分達も席に座る。
『そ、それじゃあ、お願い、します』
ルカが代表してオトハにぺこりと頭を下げた。
『いやっ!? なんでだっ!?』
オトハが愕然とした声を上げるが、ルカ達は気にしない。
ただただ無言の圧力を放つ。オトハは口をパクパクと開くだけで、そもそも拒否権などなく、詳細に話させられることになった。
まあ、その結果、ルカ達がどんな表情になったかは語るまでもない。
一度事情聴取したはずのミランシャやシャルロットも含めてだ。
(……頑張らないと……)
オトハから聞かされた内容を思い出して、ユーリィはふうと嘆息する。
顔を赤くしつつも、彼女は決意を改めた。
(特に、私はみんなの中で一番幼いから……)
ユーリィは、キャミソール越しに、自分の胸元に目をやった。
凹凸が全くない訳ではない。昔よりも着実に成長している。
次いで腰に手をやり、続けてお尻に触れる。
腰つきは凄く細いし、お尻にはそこそこの肉つきもある。
一時期は、ずっと幼児体型のままなのかと、かなり不安だったが、最近は少しずつ伸びている身長に合わせて、体の成長具合も感じ取れるようになった。女性らしさは、間違いなく表れ始めている。
とは言え、他の面々――特に、オトハやサーシャ、シャルロットのスタイルには遠く及ばない。年齢差もあるが、アリシアやミランシャにも劣っている。
特に、ほぼ同い年のルカと比べると、嫌でも落ち込んでしまうのが現実だ。
サクヤに至っては、もう比べたくもなかった。
アッシュの好みが性格重視なのは知っているが、やはり相当不利な気がする。
ここは、せめて、知識かテクニックぐらいは備えておくべきか……。
そんなことを考えていた矢先だった。
「…‥ウム。ソウイエバ」
おもむろに、九号が口を開いた。
「……クラインコウボウ、ナノダガ」
「…‥なに?」
ユーリィが九号に目をやった。
「……サッキ、ゴーレム・ネットワーク・サービス……GNSデ、レンラクガアッタ。アニジャガ、キテルソウダ」
「兄者って……零号さんのこと?」
ゴーレムの零号機。メルティアが最初に造ったゴーレムだと聞いている。
ゴーレム達の隊長機でもあり、常にメルティアの傍にいる機体だ。
「じゃあ、メルティアかコウタ君が遊びに来ているの?」
ユーリィがそう尋ねると、九号は首を横に振った。
「……イヤ。アニジャダケダ」
「……零号さんだけ?」
それはまた珍しい。
ユーリィには、素朴な疑問を抱いた。
「どうして、零号さんだけが遊びに来たんだろう?」
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