クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
428 / 499
第14部

第三章 対決③

しおりを挟む
 一方、その頃。
 場所は変わって、王城ラスセーヌ。
 椅子に座ったサクヤは、双眸を細めると、香り立つ紅茶を啜った。
 とても良い味だ。心が落ち着いてくる。

「……いかがですか? サクヤさま」

「……ん。美味しいよ。ありがとうジェシカ」

 サクヤは、紅茶を入れてくれたジェシカに、お礼を言った。
 次いで、紅茶を丸テーブルの上のソーサーに置くと、部屋の一角に目をやって「あなたたちは、いただかないの?」と尋ねる。
 この部屋は、元々はミランシャに割り当てられた部屋だった。
 なので、当然、ここにはミランシャの姿もある。

「結構よ。お茶なら、後でプロのシャルロットに入れてもらうから」

 と、ミランシャが答えた。
 彼女の隣に立つシャルロットが「承知いたしました」と頭を上げた。
 現在、この部屋には五人の姿があった。
 丸テーブルの前に座り、紅茶を楽しむサクヤと、彼女の傍に控えるジェシカ。そして彼女たちに対峙するように立つミランシャ、シャルロット、オトハの三人だ。

「それで私に何か用があるのかな?」

 サクヤは苦笑しながら、そう尋ねた。
 対し、答えたのはオトハだった。

「ああ。そうだな。《ディノ=バロウス》教団の盟主」

 それは、サクヤの持つ今の肩書だった。
 年少組のメンバーには、まだ伝えていない事実である。

「クラインに対しては、お前が私たちと同じ気持ちであることは認める。だが、その肩書に関してだけは別だ」

 オトハは、鋭い眼光でサクヤを見据えた。

「洗いざらい吐いてもらうぞ。盟主。貴様の目的は何だ?」

「……う~ん、そうだね」

 サクヤはそこで立ち上がった。

「オトハさんには、まずは謝っておこうかな」

「……なに?」

 オトハは眉根を寄せる。と、サクヤは深々と頭を下げた。

「以前、私の部下が、あなたを狙って怪我をさせたでしょう? 私としては、あなたが持つ『悪竜の尾』――『屠竜』の奪還だけでよかったんだけど、ギシンさん――私の部下は私の嫉妬とかまで忖度しちゃって、オトハさんを殺そうとまでして……」

「……ああ。あの男か」

 オトハは瞳を細めた。
 かつて、タチバナ家に伝わる御神刀・『屠竜』を奪おうとした教団の一党。
 最後は人間であることを捨ててまで、仲間を逃がした男を思い出す。

「へえ。そんなことがあったんだ」

 ミランシャが、オトハに視線を向けて尋ねる。
 オトハは「まあな」と返した。

「しかし、もしかして、あの時、フラムを巻き込んだのもお前の私情か?」

「……う」

 図星を指されて、サクヤは言葉を詰まらせる。

「うう……サーシャちゃんにも、後で謝っておくわ」

「ふん。そうしろ。だが……」

 オトハは、一拍おいて尋ねた。

「結局、お前の目的は何だったのだ? 《悪竜》の遺産でも集めているのか?」

「う~ん……それは」

 サクヤは困ったように、頬に手を当てた。

「教団の最終的な目的としては、教義にも掲げているように《悪竜》ディノ=バロウスの現世への復活よ。《悪竜》の欠片はそのための触媒なんだけど……」

「……《悪竜》は」

 その時、様子を窺っていたシャルロットが口を開いた。

「かの伝説の魔竜は、本当に実在するのですか?」

「まあ、お伽噺の怪物だものね」

 と、ミランシャも皮肉気な口調で続いた。
 彼女たちの台詞に、一応教団の所属者であるジェシカが表情を険しくする。

「……貴様ら」

 そう呟き、少しだけ前に出ようとするジェシカを、サクヤは片手で止めた。

「まあ、少し待って。ジェシカ」

「ですが、サクヤさま」

「いいから。普通ならそう思うよ。だけど」

 サクヤは、オトハたちを見つめた。
 そして一拍おいた後、はっきりと告げる。

「《悪竜》……ドラゴンさんはいるよ。だって、私がこうやって蘇ったのって、全部ドラゴンさんのおかげだもの」

「――なんだと!?」

 オトハが大きく目を瞠った。シャルロットとミランシャも息を呑む。

「私は《煉獄》でドラゴンさんに出会ったの。そしてドラゴンさんの力によって、このステラクラウンに帰還させてもらったのよ」

「……胡散臭い話だな」

 オトハは、率直に言った。

「だが、貴様が蘇ったのは事実。では《悪竜》の目的とは何だ? わざわざ貴様を蘇らせた理由は何だ? 貴様を盟主に据えて何をする気なのだ?」

 正直に言って、自分でも馬鹿馬鹿しい台詞を吐いていると思う。
 しかし、こうして、死んだはずのサクヤが生きている以上、《悪竜》は実在するものとして考えるべきだった。

 ――創生神話における滅びの魔竜。
 その目的とは一体……。

 と、身構えるオトハだったが、サクヤは、

「え、えっと……」

 何故か、とても困り果てた顔をしていた。
 オトハと、ミランシャたちも訝しげに眉をしかめた。
 サクヤは「う~ん」と唸る。そしてかなり悩んだ後に、ようやく口を開いた。

「その……ね。ドラゴンさんが私を蘇らせた――というより、消えかけていた私を助けた理由って、どうも同情とか親切心からみたいなのよ」

「「「……………は?」」」

 オトハたちは、目を丸くした。
 サクヤの説明はなお続く。

「私を盟主に据えたのだって、別に自分を復活させるための駒とかじゃなくて、私には何の後ろ盾もないから困るだろうって……」

「……おい」

 剣呑な眼差しでオトハは、サクヤを睨み据えた。

「貴様、戯言はやめろ」

「う、うそなんかじゃないよ!」

 サクヤは両手を突き出して、フルフルと揺らした。

「私が、トウヤに再会するかどうかで悩んでいた時、ドラゴンさん、私のことを心配してわざわざお見舞いに来てくれたんだけど……」

「……………おい」

「その時、別に盟主をやめてもいいって。自分は寿退位を認める派だって」

「えっと……」

 ミランシャが、極めて胡散臭そうな顔をして尋ねる。

「それって《悪竜》の話よね? かつて世界を滅ぼそうとした破壊の化身なのよね? というより、そもそも、あなたの話だと《煉獄》にいるはずの滅びの魔竜が、どうやってお見舞いに来るのよ……」

「……さらに胡散臭くなってきましたね」

 シャルロットまで懐疑的だ。いや、彼女が一番信じていないかもしれない。

「えっと、うそなんかじゃないんだけど……」

 全く信じてくれなくて、サクヤは深々と嘆息した。

「そこら辺は色々と裏技があるみたいなの。私としても驚きなんだけど。ただ、根本的にドラゴンさんは《煉獄》で長らく養生している内に、性格が大分丸くなったみたいで、もう復活にもあまり乗り気じゃないみたいなの。それどころか」

 そこで、サクヤは苦笑を零した。
 そして今の彼の姿を思い浮かべつつ、《ディノ=バロウス教団》の盟主は告げた。

「彼は彼で、今は竜生を謳歌しているみたいなのよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

処理中です...